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アリアナ・グランデ(Ariana Grande)がニューシングルを発表した。マックス・マーティンとイリヤ・サルマンザデが共作・共同プロデュースしたこの曲は、2020年の『Positions』以来となるシンガーのソロ曲となる。この曲のミュージック・ビデオは、本日中に初公開される予定。試聴は以下から。


『Positions』をリリースして以来、グランデは2021年にキッド・クーディとのコラボレーション曲「Just Look Up」を発表し、ミュージカル『Wicked-ウィキッド』の映画化作品の撮影に追われている。

 

「yes,and?」

 

ブルックリンを拠点に活動する注目のR&Bアーティスト、Yaya Bey(ヤヤ・ベイ)が2曲の新曲 「crying through my teeth」と 「the evidence」をBig Dadaから発売した。2024年に登場するベイのニュー・アルバムの最初のテイスト。

 

ミュージック・ビデオは、さまざまな世代の黒人女性とその日常生活の些細なことに焦点を当て、ポートレートと夢のようなダンスの両方のシークエンスのバランスをとっている。ベイがシャシディ・デイヴィッドと共同監督を務め、アレクサンドリア・ジョンソンと振付を担当している。


ヤヤ・ベイはこの曲について、「昨年の冬、これまで経験したことのないような困難な方法で悲しみを経験し、自分自身を励ます必要があったときに、『the evidence』を書きました」と語った。




 Sampha 『Lahai』

 

 

Label: Young

Release: 2023/10/20



Review

 

アルバムの終盤部に収録されている「Time Piece」のフランス語のリリック、スポークンワードは、今作の持つ意味をよりグローバルな内容にし、そして映画のサウンドトラックのような意味合いを付与している。

 

2017年のマーキュリー賞受賞作「Process」から6年が経ち、サンファは、他分野でにその活動の幅を広げている。ケンドリック・ラマー、ストームジー、ドレイク、ソランジュ、フランク・オーシャン、アリシア・キーズ、そしてアンダーグラウンドのトップ・アーティストたちとの共演。ファッションデザイナーのグレース・ウェールズ・ボナーや映画監督のカーリル・ジョセフらとクリエイティブなパートナーシップなどはその一例に過ぎない。

 

『Lahai』は、ネオソウル、ラップ、エレクトロニックを網羅するアルバムとなっている。特に、ミニマル・ミュージックへの傾倒を伺うことが出来る。

 

それは#3「Dancing Circle」に現れ、ピアノの断片を反復し、ビート化し、その上にピアノの主旋律を交え、多重的な構造性を生み出している。しかし、やはりというべきか、その上に歌われるサンファのボーカルは、さらりとした質感を持つネオソウルの範疇にある。ヒップホップの要素がないとは言いがたい。しかし、ボーカルとスポークンワードのスタイルを変幻自在に駆使する歌声は、それほど大げさな抑揚のあるものではないにも関わらず、ほんのりとしたペーソスや哀愁を誘う瞬間がある。

 

内的な感情性を顕にせず、考え方によってはフラットな感覚を元にしたリリックやスポークワードは、意外にも多くの音楽ファンの心に響く可能性がある。他にもオープニングを飾る「Stereo Colour Cloud(Shaman's Dream)」でもミニマリズムの要素がイントロに、かなりはっきりとした形で見えている。


イントロのシンセの細かなアルペジエーターは、ドラムン・ベースのビートを背後にして、サンファのスポークンワードに導かれるように、グルーヴィーな展開性を帯びる。効果的なのは、それをドリルンベース的なコアなアプローチへと転化させている点にある。それ以前のベースメントのクラブ音楽を飲み込んだUKのドリルを要素をちりばめ、ケンドリックの「United In Grief」のように、ドライブ感のある展開へと持ち込もうとするのだ。

 

このアルバムに満ちる、ある種のオーガニックな爽やかさは、ネオソウルファンにとどまらず、これからUKのポピュラー・ミュージックに親しもうというリスナーにもとっつきやすさをもたらすに違いない。


#2「Spirit 2.0」では、やはりサンファのボーカルはネオソウル風となっているが、 エレクトロニックの要素を部分的に配することで、ボーカルのフレーズとの間に絶妙なコントラストを設けている。

 

ミニマリズムという要素は、#3と同様ではあるが、ドラムンベースやベースラインの複合的なリズムラインを織り交ぜることで、ビートそのものに複雑性をもたらす。それがサンファのしなやかなリリックと組み合わされると、稀に化学反応が起こる。ビートの一端に強いインコペーションの効果と、リズムにおけるジャンプの箇所を生み出すのだ。これがサンファの楽曲をシンプルに乗りやすく、そして聴きやすくしている要因である。

 

アルバムの冒頭はこんなふうにして始まるが、それ移行は落ち着いたモダン・クラシカルや、エレクトロニック、ネオソウルという3つの語法を駆使し、やはりしなやかな楽曲が続いている。本作のハイライトであり、SSWとしての成長を示した#4「Suspended」は、イントロのネオソウルのアプローチからダイナミックなエクスペリメンタルポップへと移行する。これらの作曲における展開力は、しかし、グリッチの要素を加えながらミニマルなトラックメイクを施すことで、無限に拡散し、散漫になりそうな曲のベクトルを中心点に集めることに成功している。


これまで多数のミュージシャンとの共同制作の経験を経たことで、曲を書く上で何が最も必要なのかを熟知しているからこそ、こういった核心を突いたソングライティングを行うことが出来るのである。サンファの曲には、実際に、誇張表現はおろか、無駄な脚色、脚注は一切存在しない。まるで、同心円を描いた上で、たえずその中心点に向かい、曲がランタイム毎に進行していく。その過程をリスナーは見届けることが出来るのだ。

 

実際的な音楽の高水準のソングライティング技術に加えて、もうひとつ注目しておきたいのは、本作の全般に感じられる映画的な雰囲気、そして、ファッション的なおしゃれさという伏在的な要素である。


「Satellite Business」では、ジャズ・ピアノを基礎に、ヒップホップのリリックとエレクトロニックの要素を付加し、真夜中の哀愁のようなアンニュイな感覚を織り交ぜる。孤独であるこを自らに許し、自らの魂と対話を重ねる瞬間は、アウトプットされるスタイルこそ違えど、往年のソウルミュージックの名曲にも匹敵する深みがある。それはまたソングライターとしての大きなステップアップを意味し、人間的な深化がトラックに反映された証でもある。イントロから中盤まではジャズの性質が色濃いが、コーラスワークが加わると、ヒップホップに変化する。

 

とくに面白いと思うのは、リリックの組み合わせにより良いウェイブを生み出そうとしていることである。そしてヒップホップの表向きの印象はモダンソウルへと転化していく。さらにそれらのシネマティックな印象性は、#6「Jonathan L. Seagull」にも見出すことが出来る。

 

ここでは、複数の人物の声を反映させ、ゴスペル的な形で、多様性を表現しようとしている。UKラップのヒーロー、Stormzyは言った。「多様性が重要である」と。そして、声はひとりひとり違う性質を持つ、醜いものもあり、美しいものもある。低いものも、高いもの。しわがれたものも、透き通るようなものも。しかし、それらの多彩さが組み合わせることで、はじめて美が生み出される。これらのゴスペル的な曲の展開は、ピアノの古典的な伴奏を背後に、シンプルなバラードソングのような普遍性を併せ持ち、開放的な雰囲気に満ちている。

 

これらの曲の展開になかにあるまったりとして落ち着いた雰囲気は、その後、より深い感情性に支えられて完成へと向かっていく。「Inclination Compass」では、モダンクラシカルとネオソウルを組み合わせ、和らいだ感覚を表現しようと努めている。サンファが心情を込めてビブラートを伸ばすと、それはそのまま温かな感覚に変わり、同じように受け手側の心を癒やす。

 

そして、ここでも、前曲と同じようにボーカルのコーラスをコラージュ的に配し、別の形の多様性を表現している。多様性というのは感情における色彩性を表す。その点を見事にシンガーは熟知し、シンセの土台となるスケールの進行がサンファ、及び、正体不明なボーカルに色彩性を与えている。同じ音階やフレーズを歌おうとも、その土台となるベースが変化すると、全く別の表現に変わる。

 

しっとりとしたネオソウルのトラック「Only」はシンプルな魅力がある。続く、「Time Piece」ではフランス語のスポークンワードが展開される。

 

ここでは多様性の先にあるグローバルな感覚を表現しようとしている。しかし、サンファの表現にある程度の共感を覚える理由があるとするなら、それはシンプルにそしてわかりやすく内側にある考えをつかみ取り、それをスポークワードという形に昇華しているからなのだろう。フランス語のスポークワードは耳に涼しく、20世紀のパリの映画文化を思わせるものがある。この曲を起点あるいは楔として、アルバムはかなりスムースに終盤の展開へと続いていく。 


「Can't Go Back」では再度、オーガニックな味わいのあるネオソウルとヒップホップの中間にある音楽性で聞き手の心を穏やかにさせる。そしてこの曲でも、ネオソウル風のソングライティングにスポークンワードを効果的に組み合わせようとするサンファの試行錯誤の跡を捉えることが出来る。

 

「Evidence」では、現代のポピュラー音楽の範疇にあるR&Bの理想的な形を見出すことが出来る。親しみやすく、聴きやすく、乗りやすい。こういった一貫した音楽のアプローチは、アルバムの終盤においても持続される。


「Wave Therapy」では、シンセのストリングスのダイナミックな展開力を呼び覚まし、「What If You Hypnotise Me?」では驚くべきことに、和風の旋律をピアノで表現しながら、アルバムに内包される和らいだ世界、穏やかな世界を完成させる。


「Rose Tit」では、ソウル/ラップというより、ポピュラーアーティストとしての傑出した才質の片鱗を見せる。ジャズ・ピアノの演奏の華やかな印象はアルバムのエンディングにふさわしい。

 

 

85/100



Pool Side © Ninja Tune


サンゼルスを拠点に活動するプロデューサー、ソングライター、マルチ・インストゥルメンタリスト、ジェフリー・パラダイスのレコーディング・プロジェクト、プールサイドがスタジオ・アルバム『Blame It All On Love』(Ninja Tuneのサブレーベル、Counter Records)のリリースする。このレトロなローファイ・トラックは、プールサイドがミネソタ州のオルタナティヴ/インディー・ドリーム・ポップ・アクト、ヴァンシアと組んで制作された。


「Float Away」は、VansireのJosh Augustinをボーカルに迎えたドリーミーなサウンドスケープ。古典的なポップ・ソングライティングの構成、フック、グルーヴは、プールサイドが最も得意とする古典的な「デイタイム・ディスコ」サウンドに適している。


「僕は15年間、"ルールなんてクソ食らえ "という感じで過ごしてきた。だからこのアルバムにとても興奮しているよ」 プールサイドの4枚目のスタジオ・アルバム『Blame It All On Love』で、パラダイスは浅瀬を離れ、彼自身の創造的な声の深みに入った。その11曲はファンキーでソウルフル、レイドバックしたフックに溢れ、プールサイドのサウンドを痛烈なポップへと昇華させている。


エレクトロニックな筋肉を鍛えるのではなく、彼のライブ・ミュージックのルーツに立ち返ったプロダクションは、シンプルで輝きのあるサウンドのレイヤーに安らぎを見出し、夢が叶うという複雑な現実に直面する。


この曲は、彼がこれまで歩んできた場所と、戦うことも証明することも何もないこの瞬間にたどり着くまでの曲がりくねった旅路の産物であり、以前リリースされた、メイジーをフィーチャーしたシングル "Each Night "やパナマとのシングル "Back To Life "で聴けるような完璧なグルーヴだけがある。


この "Float Away "は、"Each Night "のビデオを手がけ、レミ・ウルフ、ジャクソン・ワン、Surf Curseなどの作品を手がける新鋭アーティスト、ネイサン・キャスティエル(nathancastiel.com)が監督を務めた、ダークでコミカルなエッジを効かせた爽やかでチャーミングなパフォーマンス・ビデオとともにリリースされる。


マリブの丘にあるサイケデリックな家で撮影されたParadiseは、VansireのJosh AugustinとSam Winemiller、PoolsideのギタリストAlton Allen、アーティストのTaylor Olinと共に、Poolsideが率いるカルト集団のメンバーを演じている。ストーリーはゆるやかで、家のさまざまな場所でカルト的なニュアンスをほのめかす小話を見せながら、風変わりで、楽しく、ゆるやかな雰囲気を保っている。


『Float Away』は、プールサイドのヨット・ロックへのラブレター。このジャンルは、長い間とてもクールではなかったが、今では正当な評価を得ている。いつもこのサウンドに足を踏み入れていたが、「Float Away」で完全に飛び込み、このジャンルのあらゆる決まり文句を受け入れることにした。


この曲は、(自分で言うのもなんだけど)信じられないほど巧みなプロダクション、ヴァンサイアの提供による大量のヴォーカル・ハーモニー、スティーヴ・シルツの提供によるアフロ・ハーモナイズド・ギターで構成されている。

 

この曲は、もっとストレートなアコースティック・ソングとして始まったんだけど、ヴァンザイアが彼らのパートを送ってくれた途端にガラッと変わったんだ。彼らはフック・マシーンで、マキシマリストのヨット・ロック・ソングを作ろうとするときにまさに必要なんだ! 

 

彼らが送ってくれたヴォーカル・パートには、彼らの様々なパートを入れるスペースを作るために、曲を完全にアレンジし直さなければならないほど、たくさんの要素が含まれていた。プールサイドの曲の中で一番好きかもしれないね。


ジェフリーが送ってきたオリジナルのデモは "yacht luv "という曲だったので、海のイメージにこだわって、自分の人生の選択を後悔し、ボートに取り残された裕福なバツイチのイメージで書いて歌いました。


ヴァンサイアのジョシュ・オーガスティンは語っている。

 

ヴォーカルは、ニューヨークにスタジオを構える前に、自分のアパートの小さな奥の部屋でレコーディングしたんだけど、なぜか借りたギター・マイクと短いXLRコードしかなくて、歌うときはかなり前傾姿勢にならざるを得なかった。そのような環境から、マリブで撮影した素敵なミュージックビデオになるなんて、ちょっと愉快だ!!



Poolside 『Blame It All On Love』 Ninja Tune / Counter Records

 

 


サンゼルスのジェフリー・パラダイスは、Poolside名義のバンドとしても活動しているが、地元のロサンゼルスでは名の通ったソロ・プロデューサーとして知られている。今年、地元のフェスティバル、”Outside Lands”に出演し、Lil Yachtyの前に出演した。また、アーティストは、同じイベントに出演したコンプトンのメガスター、ケンドリック・ラマーのステージを見たかったというが、出演時間の関係でその念願が叶わなかったという。ジェフリーによるバンド、Poolsideというのは、文字通り、庭のプールサイドでのパーティーやささやかな楽しみのために結成されたジャム・セッションの延長線上にある遊び心満載のライブ・バンド。2010年代初頭からアルバムを発表し、Miami Horrorと同じようにヨット・ロック、ディスコ、ローファイを融合させ、 地元ロサンゼルスのローファイ・シーンに根ざしたインディーロックを制作している。

 

アーティストの音楽のルーツを辿ると、オールドスクールのヒップホップがその根底にあり、De La Soulを始めとするサンプリング/チョップの技術をDJとして吸収しながら音楽観を形成していった。しかし、ジェフリーの音楽のキャリアは意外にも、ギタリストとして始まった。最初はボブ・ディランの曲を聴いて「音楽は音楽以上の意味を持つ」ことを悟る。これが、イビサ島のバレアリックのダンスビートの中に、 Bee Geesの系譜にあるウェスト・コーストサウンドを見出せる理由だ。もちろん、ヨット・ロックのレイド・バックな感覚にも溢れている。Poolsideのサウンドはビーチサイドのトロピカルな感覚に彩られ、ルヴァン・ニールソン率いるUnknown Mortal Orchestraにも近いローファイの影響下にある和らいだロックソングが生み出された。

 

ジェフリー・パラダイスは、近年、カルフォルニアの海沿いの高級住宅街にあるマリブへと転居した。ビーチにほど近い丘。つまり、Poolsideは自然で素朴な環境にあって、ギターを取り上げて、曲を書き始めた。そして、友達と人生を謳歌しながら今作の制作に取り掛かった。従来は、ソングライターとして曲を書いてきたというが、今回だけは、ちょっとだけ趣旨が異なるようだ。たくさんのアイディアが彼の頭脳には溢れ、サンフランシスコ州立大学の寮で出会ったドラマー、ヴィトを中心にライブセッションの性質が色濃く反映された11曲が制作された。このアルバムにはマリブの海岸への慈しみの眼差しを浮かべるアーティストの姿が目に浮かぶようだ。また、ジェフリーはダンストラックではなく明確な歌ものを作り上げようとした。「すべての曲は、愛、ロマンチック、その他の不合理な選択について書かれた」とUCLA Radioに語っている。このアルバムの音楽から立ち上る温かみは、他の何者にも例えがたいものがある。

 

ルバムの冒頭「Ride With You』から、Bee Geesやヨット・ロック、ディスコ・サウンドをクロスオーバーした爽快なトラックで、リスナーをトロピカルな境地へと導く。バレアリックのベタなダンスビートを背後に、バンド及び、Ben Browingのグルーヴィーなロックが繰り広げられる。ヨット・ロックを基調としたサウンドは、確かに時代の最先端を行くものではないかもしれないが、現代のシリアスなロックサウンドの渦中にあって、驚くほど爽やかな気風に彩られている。これらのスタイリッシュな感覚は、ジェフリーがファッションデザイナーを昔目指していたことによるものなのか。それは定かではないが、アルバム全編を通じてタイトなロックサウンドが展開される。レイド・バックに次ぐレイド・バックの応酬。そのサウンドを波乗りのように、スイスイと掻き分けていくと、やはりそこにはレイド・バックが存在する。柔らかいクッションみたいに柔らかいシンセはAORやニューロマンティック以上にチープだが、その安っぽさにやられてしまう。ここにはどのような険しい表情もほころばせてしまう何かがある。

 

続いて、Poolsideは「Float Away」を通じて、ヨット・ロックへの弛まぬ愛の賛歌を捧げる。暫定のタイトルを見ても、Lil Yachtyへのリスペクトが捧げられた一曲なのだろうか。この曲ではJack Jacksonさながらに安らいだフォークとトロピカル・サウンドの融合し、魅惑的なサウンドを生み出す。バンドアンサンブルの軽やかなカッティング・ギターを織り交ぜたAOR/ソフト・ロックサウンドは、この曲にロマンティックでスタイリッシュな感覚を及ぼす。ボーカルトラックには、イタロのバレアリック・サウンドに象徴されるボコーダーのようなエフェクトを加え、レイドバックの感覚を入念に引き出そうとしている。こういった軽やかなディスコサウンドとヨットロックの中間にある音楽性がこのアルバムの序盤のリゾート感覚をリードしている。

 

フレーズのボーカルの逆再生で始まる三曲目の「Back To Life」は、イントロから中盤にかけてミラーボール・ディスコを反映させたアンセミックな曲調に変遷を辿っていく。ソフトなボーカルとバンドセッションは、Bee GeesーMiami Horrowのサウンドの間を変幻自在に行き来する。ビートは波のような畝りの中を揺らめきながら、徹底して心地良さを重視したライブ・サウンドが展開される。ここには、彼らが呼び習わす「Daytime Disco」の真骨頂が現れ、昼のプールサイドのパーティーで流すのに最適なパブリーなサウンドの妙味が生み出されている。ただ、パブリーさやキャッチーさばかりが売りというわけではない。ジェフリーによる内省的な感覚が、これらの外交的なダンスビートの中に漂い、このトラックの骨格を強固なものとしている。 

 

 「Back To Life」

 

 

 

アルバムの序盤は、一貫してパブリーな感覚に浸されているが、大きな音楽性の変更を経ずに、Poolsideは、徐々に音楽に内包される世界観を様変わりさせていく。「Moonlight」はイントロのテクノ/ハウスを足掛かりにした後、 メインストリームのディスコ・ロックへと移行する。 

 

サウンドの中には、Jackson 5、ダイアナ・ロス以降の70年代のカルチャー、及び、その後の80年代の商業主義的なMTVのディスコ・ロックの系譜をなぞらえる感覚もある。デトロイト・テクノを踏襲した原始的な4つ打ちのビートが曲の中核を担うが、シンコペーションを多用したファンク色の強いバンドサウンドがトラックに強烈なフックとグルーブ感をもたらしている。パーラメント/ファンカデリックのファンクロックほどにはアクが強くないが、むしろそれを希釈したかのようなサウンドが昔日への哀愁と懐古感を漂わせている。歌ものとしても楽しめるし、コーラスワークにはアルバムの重要なコンセプトであるロマンチックな感覚が漂う。


Poolsideのディスコ/ヨットロックの音の方向性にバリエーションをもたらしているのが、女性ボーカルのゲスト参加。その一曲目「Where Is The Thunder?」では、ループサウンドを元にしてAOR、果ては現代のディスコ・ポップにも近いトラックに昇華している。スペインのエレクトロ・トリオ、Ora The Moleculeのゲスト参加は、爽やかな雰囲気を与え、曲自体を聞きやすくしている。例えば、Wet Legのデビュー・アルバムの収録曲にようにメインストリームに対するアンチテーゼをこの曲に見出したとしても不思議ではない。トロピカルな音楽性とリゾート的な安らぎが反映され、「レイド・バック・ロック」と称すべきソフト・ロックの進化系が生み出されている。


続いて、逆再生のループをベースにした「Each Night」は、リゾート的な感覚を超越し、天国的な雰囲気を感じさせる。イタロ・ディスコのバレアリック・サウンドを基調としながらも、それをソフト・ロックとしての語法に組み換えて、フレーズの節々に切ない感覚を織り交ぜる。この曲には、ジェフリー・パラダイスのソングライティングの才覚が鮮烈にほとばしる瞬間を見いだせる。サウンドスケープとしての効果もあり、マリブの海岸線がロマンティックに夕景の中に沈みゆく情景を思い浮かべることも、それほど困難なことではない。また、表向きなトラックとしてアウトプットされる形こそ違えど、旋律の運びにはニール・ヤングやBeach Boysのブライアン・ウィルソンのような伝説的なソングライターへの敬意も感じ取ることが出来る。

 

 

 「Each Night」

 

 

 

アルバムの終盤の最初のトラック「We Could Be Falling In Love」では、DJとしてのジェフリー・パラダイスの矜持をうかがい知ることが出来る。トロピカル・サウンドのフレーズとアッパーなディスコサウンドの融合は、カルフォルニアの2020年代の象徴的なサウンドが作り出された証ともなる。80年代のミラーボール・ディスコの軽快なコーラスワークを織り交ぜながら、コーチェラを始めとする大舞台でDJとして鳴らしたコアなループサウンド、及びコラージュ的なサウンドの混在は、ケンドリック・ラマーの最新アルバムのラップとは異なる、レイドバック感満載のクラブミュージックなるスタイルを継承している。そして、この曲に渋さを与えているのが、裏拍を強調したしなやかなドラム、ギター、ベースの三位一体のバンドサウンド。ここにはジェフリー・パラダイスのこよなく愛するカーティス・メイフィールド、ウィリアム・コリンズから受け継いだレトロなファンク、Pファンクの影響を捉えられなくもない。

 

 

アーシー・ソウルの影響を感じさせる「Ventura Highway Blues」 も今作の象徴的なトラックと言えるのでは。1970年代に活躍した同名のバンドにリスペクトを捧げたこの曲は懐古的な気分に浸らせるとともに、現代的なネオソウルの語法を受け継いで、ロンドンのJUNGLEのようなコアなダンス・ソウルとして楽しめる。しかし、そこにはカルフォルニアらしい開けた感覚が満ちていて、「Each Night」と同じように、夕暮れ時の淡いエモーションを漂わせている。アーティストは犬と散歩したり、食事を作ったりするのが何よりも好きだというが、そういったリラックスした感覚に浸されている。さらに、オールドスクール・ヒップホップのチョップ/サンプリングの技法が組み合わされ、ミドルテンポのチルウェイブに近い佳曲が生み出されている。

 

続く、「Hold On You」でもディスコ・ソウルをポップにした軽快なサウンドで前の曲の雰囲気を高めている。ここでも、バレアリックサウンドの軽快なビートを取り入れつつ、ソウルとしての落とし所を探っている。


ゲストとして参加したslenderboiedは、コロンビアのKali Uchisのように南米的な気風を与えている。曲の終盤では、二つの音楽性が化学反応を起こし、アンセミックな瞬間を生み出している。驚くべきは、音楽性に若干の変化が訪れようとも、海岸のリゾート気分やレイドバック感は途切れることはない。終盤に至ってもなお安らいだ心地良い、ふかふかな感覚に満たされている。これらのアルバムのテーマである、ロマンティックな感覚が通奏低音のように響きわたる。

 

AOR/ニューロマンティックの象徴的なグループ、Human Leagueを思わせるチープなシンセ・ポップ・ソング「Sea Of Dreams」は、人生には、辛さやほろ苦さとともに、それらを痛快に笑い飛ばす軽やかさと爽やかさが必要になってくることを教えてくれる。そして、その軽やかさと爽やかさは、人生を生きる上で欠かさざるロマンティックと愛という概念を体現している。アルバムのクロージング・トラック「Lonely Night」は、MUNYAがゲストで参加し、一連のヨットロック、AOR/ソフト・ロック、ディスコ・ソウルの世界から離れ、名残り惜しく別れを告げる。

 

MUNYAの”やくしまるえつこ”を彷彿とさせるボーカルについては、説明を控えておきたい。しかし、なぜか、アルバムの最後の曲に行き着いた時、ある意味では、これらの収録曲に飽食気味に陥りながらも、ウェストコースト・サウンドを反映させたこのアルバムを聴き終えたくない、という感覚に浸される。サマー・バケーションで、海外の見知らぬ土地へ旅した滞在最終日のような感じで、この安らいだ場所から離れたくない。そんな不思議な余韻をもたらすのだ。

 

 

 

85/100 

 

 

 

Weekend Featured Track- 「Lonely Night」

 Jamila Woods 『Water Made Us』


 

Label: Jagujaguwar

Release: 2023/10/13


Review


シカゴの詩人、R&Bシンガーとして活躍するジャミーラ・ウッズの最新作は、モダンなネオ・ソウルからモータウン・サウンドに象徴される往年のサザン・ソウル、そしてスポークンワードと3つの様式を主軸に、聞きやすく、乗りやすいサウンドが構築されている。注目は、同地のシンガーソングライター/ピアニストであるGia Margaretがスポークンワードを基調とする「I Miss All My Eyes」で参加している。そのほか、モータウン・サウンドを現代的なハウス・ミュージックと融合させた「Themmostat」にはPetter Cottontaleが参加している。全体的にBGMのようなノリで聞き流すことも出来、ブラック・ミュージックらしい哀愁も堪能出来る。本作にはUKのジェシー・ウェアのソウルとは異なるブルースの影響が感じられることも特記すべきだろう。

 


アルバムの収録曲の大半は、Covid−19のロックダウンの後に書かれたという。その中で、文学的な才覚を持つウッズは、この期間の間に学んだ感覚的なものの数々、愛、人間関係、その中での厳しい教訓を元にリリックを組み立てている。アルバムの制作の最初期に書かれたというオープナー「Bugs」では、それらのテーマが絡み合い、ソウルフルな世界を構築し、ディストーションを掛けたローズ・ピアノ(エレクトリック・ピアノ)というソウル・ミュージックの基本的な演奏を元に、メロウな楽曲を書き上げた。ウッズの歌は、たしかにその中に個人的な思索を含む場合もあるが、それほど堅苦しい内容ではない。いくらかくつろいだ感じのオープンハートなメロディー、そしてリリック、フレージングが絶妙な均衡を保ち、洗練されたソウルミュージックという形でアウトプットされている。さらに、彼女自身によるコーラスワークも秀逸であり、ハートウォーミングな空気感を生み出す。この曲はアルバムのオープニングとして最適なばかりか、ジャミーラ・ウッズの代名詞的なトラックと称せるのではないだろうか。


 

 

こういった明快なネオソウルも主な特徴ではありながら、しっとりとしたソウルも本作のひとつの魅力を形づくっている。ハウス・ミュージックをもとにした「Tiny Garden」はオーガニックな感覚を持つソウルと融合させ、軽快なナンバーを作り出している。現行のネオソウルのトレンドの中核にあるサウンドを抽出し、それをスモーキーな味わいのあるナンバーに昇華している。次いで、この曲では、クイーンズのシンガー、duenditaがゲストボーカルとして参加している。コラボレーターは、この曲にコーラスを通じて華やかな印象をひかえめに添えている。さらに、曲の終盤では、両者のシンガーソングライターによる遊び心満載のボーカルの掛け合いがユニークな印象を与えてくれる。ネオソウルとしては聞きやすく、安定感のある一曲である。

 

ダンサンブルなビートを打ち出した「Practice」もアルバムのハイライトのひとつに数えられるだろう。曲調としては、ハウスとソウルの融合に焦点が絞られ、一定のビートの中に軽快なウッズのしなやかなボーカルが乗せられる。 しかし、このステレオタイプのソウルに大きな意外性と変化を与えているのが、シカゴのラッパー、Sabaである。彼がボーカルで参加したとたん、曲の雰囲気は一変し、ヒップホップとソウルの中間域にある刺激的なナンバーへと変遷していく。ラップに関しては、それほどメロディーが含まれてはいないが、現代のシカゴのラッパーの多くがそうであるように、バックトラックの旋律を取り巻くように軽妙かつしなやかなリリックを披露することにより、メロウな空気感を曲のスポットに生み出しているのが見事だ。


 

 

アルバムの世界観の中核を担うのはスポークワードのインタリュードであり、その文脈については不明であるが、作品全体としてみたとき、ある種のナラティヴな要素を与えていることは確かである。「let the cards fall」では最初のボーカルのサンプリングが登場する。特にモノローグではなく、複数の人物が登場しているのが重要であり、ここには人物的な背景を一般的な曲の中に導入し、演劇や映画のワンシーンのような象徴的な印象性を組み上げようとしている。




アルバムの序盤では、いくらか大人びた印象のあるR&Bが主体となっているが、続く中盤部では、むしろそれとは正反対に感情性を顕にしたソウルへと移行している。「Send A Dove」では、センチメンタルな感覚を包み隠さず、それを丁寧な表現性としてリリックや歌に取り入れている。グリッチやシカゴ・ドリルのようなリズムを交えたナンバーではあるが、それほど先鋭的な曲とはならず、どちらかと言えば、ベッドルーム・ポップのような感覚を擁する一曲として楽しめる。そして実際に、オートチューンを掛けたモダンなポップスの様式と掛け合わされ、イントロのソウルやヒップホップから、精彩感のあるインディーポップへとその印象性を様変わりさせていく。これらの純粋な感じのあるポップスに注文をつける余地はないはず。一転して、「Wrecage Room」では懐かしのモータウン・ソウル(サザン・ソウル)の影響を元にして、本格派のソウルシンガーとしての存在感を示している。ジャズ風のメロウな音楽性を反映させた渋い感じのイントロから、ウッズの歌の印象は徐々に変化していき、アレサ・フランクリンやヘレン・メリルとそのイメージを変え、最終的には慈しみのあるゴスペルミュージックへと変化していく。ブラックカルチャーに対するアーティストの最大限のリスペクトを感じる。

 

同じように、「Thermostat」では、 イントロにスポークンワードを配した後、やはりアレサ・フランクリンを思わせるサザン・ソウルを基調とした渋い三拍子のリズムを取り入れ、懐古的なソウルへの傾倒をみせる。ただ、それに相対するリリックに関してはラップに近い感覚を擁しているため、旧さというよりも新しさを感じさせる。ソウルのように歌ってはいるが、節回しがフロウという前衛的なボーカルの手法を、ジャミーラ・ウッズはこの曲の中で提示している。そして、手法的には、ブラック・ミュージックが商業性の中に取り込まれ、その表現性を失った80年代よりも前の70年代のソウルの遺伝子のようなものが引き継がれているという印象がある。 その後の「out of the doldrums」では、年老いた男の声がサンプリングとして取り入れられているが、これはUKのソウルシンガー、Jayda Gの祖父の時代の物語を音楽の中に反映させようという意図と同じものを感じとることが出来る。そのスポークンワードの背後には、ニューオリンズかどこかのジャズの演奏をわずかに聴き取ることが出来る。それもラジオを通じたメタ構造(入れ子構造)のようなアヴァンギャルドな手法が示されているのもかなり面白い。

 



アルバムは一枚目とも称するべき段階において、ソウルとハウス、ラップ、ジャズのクロスオーバーを示しているが、徐々に、その音楽性が中盤から終盤にかけて再び別のものに移ろい変わる。続く「Wolfsheep」では、ジョニ・ミッチェルを思わせる温和なフォーク・ミュージックをポップスの中に昇華している。この曲は、アルバムの骨休めのような感覚で楽しめると思う。

 

その後の「I Miss All My Eyes」には、ポスト・クラシカル調の楽曲を得意とするGia Margaretの参加が、ジャズではなくオーケストラルの印象へと近づいていく。薄く重ねられるフェーダーのギターとユニークなシンセサイザーのラインが組み合わされる中で、ウッズはスポークンワードを散りばめる。一見、アンビバレントに思える手法もウッズのリリックが入ると、クールな印象を受ける。音と言葉をかけあわせたアンビエント風のトラックは、和らいだ感じ、寛いだ感じ、そして平らかな感じ、そういった気持ちを安らがせる全てを兼ね備えている。言葉は、先鋭的な感覚を生み出すことも可能だが、他方では、安らいだ感覚を生み出すことも出来ることを示唆している。もちろん、この曲でのジャミーラ・ウッズの音楽性は後者に属している。

 

同じように、意外性を前面に打ち出した曲が続く。 「Backnumber」ではインディーロック調のイントロから始まるが、ウッズのボーカルは現代的なネオソウルのフレージングへと変化する。さらに中盤でもパーカッシヴな強調を交えて、当初の落ち着いた印象はよりライブサウンドを反映させたアグレッシヴなサウンドへと変化していく。曲の終盤に訪れるコーラスワークも秀逸であり、聞き逃せない。メインボーカルを取り巻くようにして、メロウなハーモニーとグルーヴ感を生み出している。「libra Intuition」では、再度、スポークンワードの形式が出現する。しかし、一曲目、二曲目の雰囲気とは異なり、過ぎ去った時代のイメージを擁するスニペットは温和な言葉や笑いによって以前とは別の明るく朗らかなインタリュードへと変化する。



 

アルバムの終盤に至ると、軽快なネオソウルサウンドが続く、Pinkpantheressを思わせるダンスビートを反映させた「Boomerang」は、ポップ性も相まってか、このアルバムのリスニングの難易度を下げ、比較的とっつきやすい印象を与える。ダンサンブルな印象は、アーティストがその地点を未来へと走り抜けていくような感じをもたらす。その後、Nilfur Yanyaを思わせるインディーポップとダンスビートの融合もまたアルバムの終盤に一つのハイライトを設けている。


再びスポークワードの込めた「the best thing」を挟んだ後、「Good News」では、まったりとしたトロピカル・サウンドを基調とするファンク/ソウルでも集中性を維持している。クロージング・トラック「Head First」では、オープニングと呼応する軽快なネオソウルサウンドでこのアルバムは締めくくられる。


17曲とかなりのボリュームの作品ではあるけれども、各々のトラックが丁寧に作られているため、じっくり聴ける内容となっている。もちろん、ウッズのR&Bシンガーとしての本領もいくつかのトラックで顕著に反映されている。今年のネオソウルの作品として、かなりグッドな部類に入りそうだ。

 

 

85/100



©︎Elizabeth De La Piedra

シカゴのR&Bシンガー、ジャミーラ・ウッズが、今週金曜日(10月13日)にリリースされるニュー・アルバム『Water Made Us』のラスト・シングルを発表した。「Practice」はシカゴのラッパー、Sabaをフィーチャーし、プロデュースは、McClenneyが手がけている。サプライズのリリースを除けば、2023年度後半の話題作となる可能性が大きいでしょう。要チェックのアルバムです。


「"Practice "は、人間関係において自分自身にかかるプレッシャーを解放することについて、マクレニーと一緒に作った曲だ。その瞬間に自分がどう感じるかよりも、長続きする可能性で人間関係を評価することが多いことを変えようとした。この曲は、"すべてを正しく "あるいは "すべてを一緒に "する必要なく、ただ自分自身を楽しみ、誰かと一緒にいることを学ぶ方法について歌っています」


「友人のカルロス・ロペス・エストラーダは、官能的であると同時に愚かな方法で、身体を使って顔を作るというこのコンセプトを思いついた。全工程はとても遊び心があり実験的で、この曲にぴったりだ」


この曲のミュージック・ビデオは以下からご覧ください。『Water Made Us』には、デュエンディータをフィーチャーした 「Tiny Garden」、「Boomerang」、「Good News 」が収録されます。


 

©Stella Gigliotti


デビー・フライデーが新曲「let u in」を発表した。このシングルは、先日ポラリス音楽賞を受賞した彼女のデビュー・アルバム『GOOD LUCK』に続くものだ。フライデーは、オーストラリアのエレクトロニック・プロデューサーでヴォーカリストのダーシー・ベイリスとこの曲を共同プロデュースした。試聴は以下から。


 

©Jesse Crankson


ロンドンのシンガーソングライター、Sampha(サンファ)が『Lahai』のリリースを発表した。新作は10月20日にYoungから発売される。2017年の『Process』に続くアルバムには、最近のシングル「Spirit 2.0」と新曲「Only」が収録される。

 

この発表と同時に、デクスター・ネイヴィーとのコラボレーションでサンファが監督したビデオも公開されている。


Samphaの父方の祖父にちなんで名付けられたLahaiには、Yaeji、Léa Sen、ココロコのSheila Maurice-Grey、Ibeyi、ブラック・ミディのMorgan Simpson、Yussef Dayes、Laura Groves、El Guincho、Kwake Bassらが参加している。10月にロンドンでSatellite Businessのライブを行った後、Samphaは新作アルバムの宣伝を兼ねたツアーを敢行する予定。

 


「Only」




Sampha 『Lahai』

Label: Young

Release: 2023/10/20

 

 Tracklist:


1. Stereo Colour Cloud (shaman’s dream)

2. Spirit 2.0

3. Dancing Circles

4. Suspended

5. Satellite Business

6. Jonathan L. Seagull

7. Inclination Compass (Tenderness)

8. Only

9. Time Piece

10. Can’t Go Back

11. Evidence

12. Wave Therapy

13. What If You Hypnotise Me?

14. Rose Tint

 

©Nik Pate


アイルランドのシンガーソングライター、Róisín Murphy(ロイシン・マーフィー)は、『Hit Parade』から三作目のシングルをリリースした。この曲のタイトルは「You Knew」と銘打たれ、PAYFONEとEli Escobarによるリミックスが併録されている。以下よりチェックすべし。


「”You Knew”は私の人生の物語。私はオープンな人間で、自分をさらけ出し、自分の動機を明らかにする。何度も勇敢に愛し、その代償として愛されなかったこともある。それらはすべて、この "You Knew "というフレーズに集約されています」


Róisín Murphy{ロイシン・マーフィー)の新作アルバム『Hit Parade』はNinja Tuneより9月8日発売予定だ。「The Universe」「Fader」、「CooCool」が先行シングルとして公開されている。

 

 

「You Knew」

©︎Elizabeth De La Piedra


Jamila Woods(ジャミーラ・ウッズ)は、10月13日にJagjaguwarからリリースされるニューアルバム『Water Made Us』をリリースする。リード・シングルの "Tiny Garden "とそのビデオが公開されている。


『Water Made Us』のタイトルは、かつて "すべての水は完璧な記憶を持っていて、永遠に元の場所に戻ろうとしている "と語ったトニ・モリソンを引用している。このアルバムは、ウッズのブラック・フェミニズムへの関心を維持しているが、隔離された中で書かれた結果、彼女の過去の作品よりも内省的である。


「『Water Made Us』は、私がこれまで作った作品の中で最も個人的で傷つきやすい作品のように感じる。題材に深く潜り込み、発見したことから推測して創作するのが好きなんです」とウッズは声明で語っている。

 

「私たちは2年間この家にいて、私自身が素材になった。セラピスト、占星術師、話を聞いてくれた家族や友人たち、日記に書いた私の考えや疑問を処理し、この作品へと変化させる手助けをしてくれた人たちに感謝したい。あなたの心がどのような段階にあるにせよ、恋愛のライフサイクルを通してあなたを運んでくれるプレイリストのように感じられることを願っています」

 

「Tiny Garden」


デュエンディータをフィーチャーした "Tiny Garden "で、ウッズは彼女が愛を示す方法について考察している。このシングルは、「私の心の動き方、私が愛するゆっくりと着実な方法についての歌です」と作家は説明している。


ジャミーラ・ウッズが自ら監督した付属のビデオについては次のように説明している。「人間関係で私がよく感じることを映像で表現したかった。ビデオは、冬の終わりのシェアアパートの現実と、すべてが緑豊かな想像上の "ハートスペース"という2つの風景が舞台になっている。振付は、友人でありよくコラボレートしてくれるポー・チョップと一緒にやった。私が踊れば、どこでも何かが成長する "というように、動きがこの2つの世界を融合させる鍵になるようにした」


「Boomerang」

 

ジャミーラ・ウッズ(Jamila Woods)が、近日発売予定の3rdアルバム『Water Made Us』からセカンド・シングル「Boomerang」を発表した。

 

リード・カット「Tiny Garden」(duenditaをフィーチャリング)に続くこの曲は、ジョーダン・フェルプスとヴィンセント・マーテルが監督したビデオ付き。以下よりチェックしてみましょう。


「この曲は、去年のロンドンのある日、Nao、GRADES、George Mooreと一緒に書いたんです。ナオと一緒に仕事をし、彼女のコラボレーターに会い、彼らの相乗効果を感じることができたのは素晴らしかったよ。この曲は、あなたの人生を通して、何度も繰り返し現れるような関係、あなたが誰かに抱く磁気的な愛着、そして "私たちはそうなるのか、ならないのか?"と考えることから来る興奮と不安について歌った曲なんです」


Jamila Woodsのニューアルバム『Water Made Us』は、10月13日にJajaguwarからリリース予定です。

 

「Boomerang」

 


「Good News」


シカゴのシンガーソングライター/詩人、Jamila Woods(ジャミーラ・ウッズ)のニュー・アルバム『Water Made Us』のリリースまで残すところ1ヶ月となった。ジャミーラ・ウッズは「Tiny Garden」「Boomerang」に加えて、もうひとつの先行シングルを「Good News」を初公開した。この曲は、"The good news is we were happy once"(良い知らせは私たちはかつて幸せになったということだ)という意味が込められているとのこと。ニューシングルの試聴は以下から。


ジェミーラ・ウッズが説明するように、「このアルバムのタイトルは、歌詞の中にある "The good news is we were happy once / The good news is water always runs back where it came from / The good news is water made us "に由来している。「私にとっては、この曲は降伏の教訓であり、何度も何度も水から学ぶ教訓なのです」また、ジャミーラ・ウッズの現代詩は、どのような人生にも欠かさざる水をメタファーに配し、抽象的な概念を複数の視点から解きほぐそうとしている。

 

ウッズが現代詩の中で探求する概念は、人それぞれ定義付けが異なるからこそ、また、人それぞれ感じ方や受け取るものが異なるからこそ、自らの力によって何かを探求していくことに大きな意義があることを教唆してくれる。つまり、それぞれの人にとって、幸福という概念という形は異なるため、だからこそ、自分なりの答えを探していくべきなのだ。究極的に言えば、他者と同じものを求めて、たとえそれを全部手に入れたとしても、仕合せになることはできない。その反面、他者から見たものと己から見たものは全然異なるため、ガラクタに見えることもある。

 

 

「Good News」


「Practice」


シカゴのR&Bシンガー、ジャミーラ・ウッズが、今週金曜日(10月13日)にリリースされるニュー・アルバム『Water Made Us』のラスト・シングルを発表した。「Practice」はシカゴのラッパー、Sabaをフィーチャーし、プロデュースは、McClenneyが手がけている。サプライズのリリースを除けば、2023年度後半の話題作となる可能性が大きいでしょう。要チェックのアルバムです。


「"Practice "は、人間関係において自分自身にかかるプレッシャーを解放することについて、マクレニーと一緒に作った曲だ。その瞬間に自分がどう感じるかよりも、長続きする可能性で人間関係を評価することが多いことを変えようとした。この曲は、"すべてを正しく "あるいは "すべてを一緒に "する必要なく、ただ自分自身を楽しみ、誰かと一緒にいることを学ぶ方法について歌っています」


「友人のカルロス・ロペス・エストラーダは、官能的であると同時に愚かな方法で、身体を使って顔を作るというこのコンセプトを思いついた。全工程はとても遊び心があり実験的で、この曲にぴったり」



 

 

Jamila Woods 『Water Made Us』
 
 
Label: jagujaguwar
 
Release: 2023/10/13



Tracklist:
 
 
1.Bugs
2.Tiny Garden (feat. duendita)
3.Practice (feat. Saba)
4.Let the cards fall
5.Send A Dove
6.Wreckage Room
7.Thermostat (feat. Peter CottonTale)
8.Out of the doldrums
9.Wolfsheep
10.I Miss All My Exes
11.Backburner
12.libra intuition
13.Boomerang
14.Still
15.the best thing
16.Good News
 17.Headfirst



グラミー賞にノミネートされたスウェーデン/ヨーテボリの人気バンド、Little Dragon(リトル・ドラゴン)がニューアルバム「Slugs Of Love」をNinja Tuneからリリースする。

 

この発表と同時にリリースされたニュー・シングル「Kenneth」は、ソウルフルでローファイな、幼なじみへのトリビュートだ。「この曲は友情と愛について歌っている」とバンドは説明する。バンドは、Khruangbin、Leon Bridges、Tevaなどを手がけてきたUnlimited Time Onlyと再びタッグを組み、この曲に合わせた素晴らしく遊び心のあるビデオを制作した。


学生時代の友人であるErik Bodin(ドラムとパーカッション)、Fredrik Wallin(ベース)、Håkan Wirenstarnd(キーボード)、Yukimi Nagano(ヴォーカル)で構成されるこのバンドは、ここ最近で最も一貫性があり、敬愛され、誰からも親しまれるバンドのひとつとなった。「Slugs Of Love」では、リード・シンガーであるユキミの一目でそれとわかるヴォーカルに支えられた、ソウルフルなポップ、エレクトロニクス、R&Bの独特なブレンドが前面に押し出されている。


このアルバムの制作過程について、彼らは次のように語っている。「パターンを解消し、新しいパターンを作る。キーボードを好奇心旺盛に押したり、時には激しく、時にはやさしく叩いたり、弦をかき鳴らしたり、音を録音したり、音の微調整の限界を調べたり......前へ、後ろへ、横へ、あらゆる方向へ進化してきたこの音楽を、一緒に開発し、再生し、踊り、泣いたり笑ったりしてきた。とても誇りに思っています」


このアルバムには、先にリリースされたシングル表題曲「Slugs Of Love」も収録されている。バンド曰く、この陽気でアップビートなトラックは、「様々なキラキラした色のゴム長靴を履いた若者たちによって演奏される」ことを想像させるもので、同じくアンリミテッド・タイム・オンリーが監督し、バンド自身が出演した公式ビデオとともに到着した。この曲は、「この瞬間、この人生に乾杯」し、「一呼吸一呼吸を謳歌しよう、あっという間に過ぎ去ってしまうのだから」とリスナーに呼びかける。そして、「お金では買えない豊かさについての考察」である「Gold」は、90年代と00年代のポップ・ヒット曲を屈折させたもので、シンセの重く緩慢なグルーヴの上に、ホイットニー・ヒューストンを思わせるコーラスのリフレインが乗っている。


前作「New Me, Same Us」は2020年にNinja Tuneからリリースされ、ニューヨーク・タイムズ、NPR、ピッチフォーク、ザ・ガーディアン、ミックスマグ、クラック・マガジンなど多くのメディアから賞賛を受けた。バンドはNPRミュージックに参加し、スウェーデンのヨーテボリにある長期的な自作スタジオで撮影された親密なタイニー・デスク(ホーム)・コンサートを行った。

 

スウェーデンのパイオニア的存在である彼らのスタジオでレコーディングされた『Slugs Of Love』は、ビルボードの集計するトップ・ダンス/エレクトロニック・アルバム・チャートで5位を獲得し、ミックス・マグ誌は「みずみずしいテクスチャーが炸裂し、リード・シンガーのユキミ・ナガノの崇高なヴォーカルによって昇華された未来的なレコード」と評し、ガーディアン紙は彼らを「美味しくソウルフルなフォーム」と評した。

 

彼らはこのリリースに続き、Midland、Octo Octa、Georgia Anne Muldrow、Ela Minusなどをフィーチャーした "New Me, Same Us Remix EP "をリリースした。


 

Little Dragon  『Slugs Of Love』 Ninja Tune




今年初めの同レーベルより発売されたスコットランドのYoung Fathersに続く話題作が、スウェーデンのリトル・ドラゴンの『Signs Of Love』となる。日系スウェーデン人、ユキミ・ナガノをフロントパーソンに擁する四人組グループは、この4thアルバムを最高傑作と自認しており、リリースするに際して大きな手応えを感じているようです。2020年のグラミー・ノミネートから3年、リトル・ドラゴンの四人は大きく成長し、さらに個性的な音楽を生み出すことを恐れなかった。これまで、リトル・ドラゴンは、ダンス・ポップ、R&Bをメインテーマに置き、それらをクラブ・ミュージックとして、どのように昇華するのかを模索してきた。3作目の『New Me, Some Us』では、商業的なクラブミュージックの決定盤を完成させたが、ヨーテボリのグループの音楽的な探究心は止まることを知らない。4作目では、よりベースメントのクラブ・ミュージックの影響を交え、ネオ・ソウル/エレクトロニックの決定盤を完成させたと言える。

 

2ndアルバムに比べると、UKのベースメントのクラブ・ミュージックの影響が色濃くなったように思える。その中には、ベースライン、UKガラージ、トリップ・ホップ、 ディープ・ハウスの要素が複雑に絡み合い、リトル・ドラゴンがキャリア全般を通じて提示してきたネオソウルやゴスペル、ダンス・ポップやディスコポップに影響を及ぼしている。捉えようによってはこの三作目で唯一無二のクラブ・ミュージックが誕生したと考えても、それほど違和感はないだろう。


アルバムのオープナー「Amoban」のイントロでは、アシッド・ハウス/アシッド・ジャズの中間点にあるバックトラックに、トリップ・ホップに近いアンニュイなユキミ・ナガノのボーカルがふわりと乗せられ、何が次に起こるのかと期待させるものがある。もちろん、リトル・ドラゴンはその期待を裏切ることはないのだ。そのミクスチャーとしての要素は、落ち着いてしっとりとしたネオソウルへと展開していく。方法論として述べると複雑ではあるが、リトル・ドラゴンは感覚的なものを失っておらず、これらのソウルフルなエレクトロの音楽性を淡い情感が包み込む。ロンドンのJames Blake(ジェイムス・ブレイク)が最初期に挙げたような「温かみのあるソウル」という要素がモダンなエレクトロニックと分かちがたく結びついている。また、バック・ビートはナガノの歌の情感を引き立てることはあっても損ねることはない。イントロはメロウな雰囲気が醸し出されるが、途中から口笛とドラムンベース風のパーカッションにより、ドライブ感のある展開に繋がる。圧縮した管楽器の断片的なサンプルの導入に加え、薄く重ねられるギターラインは、このオープニング・トラック全体にディープなグルーブ感を与えている。

 

特に、UKベースメントのクラブ・ミュージックの影響が色濃く反映されているのが二曲目の「Frisco」となる。これらの90年代から00年代のUKのクラブ・シーンには無数の魅力的なダンス・ミュージックが存在して来た。そして、それは今も、Overmonoのようなプロデューサーに強い影響を及ぼしつづけているが、それはスウェーデンのリトル・ドラゴンについてもまったく同じことが言える。ダブ・ステップが有名になる以前に隆盛をきわめたベースラインのハードコアなリズムに支えられ、また、このジャンルの特徴的なシーケンサーのセンス抜群の飾り付けにより、この曲は進行していくが、ときに、パーカションのトーン(打楽器に音階がないと考えるのは誤謬だ)の微細な変化により、コードやスケールのアシッド・ハウスのような畝りをもたらす。トラックメイクはかなり手が込んでおり、複雑であるにも関わらず、曲自体はマニアックな印象を与えない。それはボーカルが徹底して軽快な感じで、さらりと歌われるからなのだ。つまり、曲の上澄みでは王道のポピュラー・ミュージックが響いている一方で、その最下部ではUKのベースメントのクラブミュージックがタフに鳴り響いているという有様なのである。

 

「Slugs Of Love」

 

 

アルバムは、これらのメジャーさとマニアックさを兼ね備えた2つの曲で始まるが、タイトル曲でもある3曲目の「Slugs of Love」は、ダンス・ポップ/ディスコポップの軽快なナンバーで聞き手を魅了することだろう。そして、3rdアルバムにはなかったファニーな要素が加わり、摩訶不思議なエレクトロサウンドへと昇華されている。ホイットニー・ヒューストンの時代のダンス・ミュージックを踏襲し、それを歌モノとして昇華するのではなく、ドライブ感のあるクラブビートへと変容させるのが見事だ。80年代のディスコ・ポップ全盛期のレトロなモジュラーシンセのフレーズを交え、Kraftwerkを彷彿とさせるテクノへと展開していく。これは、リトル・ドラゴンのFredrik Wallin(ベース)、Håkan Wirenstarnd(キーボード)というメンバーが70年代のレトロなテクノに深い理解を持っているからなのだろう。しかし、それは70年代のニューウェイブを意識したナガノのボーカルによって、Sci-fi、スチームパンクの要素、そして、ジャズのホーンのフレーズが加わると、Krafrwerkとは別の何かに変化する。この変身ぶりというか、変化の多彩さには驚愕を覚える。この曲はテクノであるとともにニューウェイヴでもあるのだ。


 

前曲と同じように、4曲目もアルバムにまつわる茫漠としたイメージを強化する力を備えている。前曲と地続きにある感じの「Disco Dangerous」は、ディスコ音楽に対する親和性とそれとは相反するアンチテーゼと両方の意味が込められている。彼らは、旧来のミラーボールのディスコ時代を肯定するとともに、それを痛快に否定する。新しいものを生み出すために、である。Fredrik Wallinのファンクとベースラインを下地にしたベースの演奏は、Squarepusherのように巧みで聴き逃がせないが、それらのコアなファンクのアプローチとは正反対に、ナガノのボーカルはUKソウルのトレンドであるJUNGLEのように、現代的なソウルのニュートレンドを開拓している。ある意味で、アース・ウインド&ファイアーのレコードへの肯定と否定がネオソウルというジャンルを生み出したと仮定づけるなら、JUNGLEが巻き起こしたUKソウルの旋風にリトル・ドラゴンも乗り、「Disco Dangerous」を介して、その恩恵にあやかろうというのだ。そしてJUNGLEがそうであるように、リトル・ドラゴンもフロアのサブベースのラウドな音響性を意識したソウルの最深部の領域へとしたたかに歩みを進め、ターンテーブルの転調の手法を踏襲することによって、ラップとソウルの中間点を探る。結果として、それは”エンターテイメントとしてのソウルの真骨頂”をアルバムの中盤において形づくることに成功しているのである。

 

アルバムの中盤部においてシネマティック/シアトリカルな要素を具える「Lily's Call」も面白い一曲で、作品全体に何らかのストーリー性をもたらしている。それほど映画には詳しくないが、何らかの印象的なシーンの導入部として取り入れられてもおかしくはないこの曲は、シンセストリングス/シンセパッドのゴージャスな響きと、水の泡を想起させるブクブクという音により、聞き手の想像力をかきたてずにはいられない。更に続いて、アルバムの前半部とは異なるアヴァン・ポップがナガノのボーカルによって始まるが、ソウルをはっきりと意識していたアルバムの前半部とはまったく異なる印象を与える。今年度のポピュラー・ミュージックの女性シンガーの最高峰と称しても違和感がないバルセロナのキャロライン・ポラチェクのようなモダンポップをこの曲で楽しむことが出来る。しかし、このトラックには、近年のトレンドであるラテンやアーバン・フラメンコの影響は全くなく、それとは対極にあるアイスランドのエレクトロニックのような、神話的でファンタジックな性質を付加したアヴァン・ポップが展開される。これはファンタジック・ポップとも形容してもおかしくない奇妙な曲のひとつなのだ。

 

刮目すべきは、「ラップはないの!?」という例の要求の多いファンの期待に答えようというのが続く「Stay」だ。この曲では、アトランタのタンクトップとゴールドのチェーンがユニークなラッパー/JIDがフィーチャーされ、彼のまったりとしたボーカルとフロウが十分堪能出来る。しかも、ラップとネオソウル、エレクトロニックを融合させたトラックとJIDのボーカルは相性抜群であり、彼のラップとは別のソウルのバックグラウンドの一端に触れることが出来る。ユキミ・ナガノの清涼感のあるボーカルと、渋さのあるJIDのボーカルの合致も良い雰囲気を醸し出されている。アルバムの中では最もエンターテイメント性の魅力に迫った一曲として楽しめるはずだ。

 

続く「Gold」 は、金銭的な幸福とは別の仕合わせがこの世に存在するのか、というテーマに根ざして制作された。この曲では、アルバムの冒頭のUKガラージやベースライン、あるいはディープ・ハウス/アシッド・ハウスのコアなクラブミュージックへと舞い戻るが、一曲目や二曲目よりもはるかにナガノのボーカルはソウルフルでスモーキーな雰囲気を帯びている。ユキミ・ナガノが「Like Million Dollars……」というフレーズに抑揚を込めて歌う瞬間は、ディープハウスとネオソウルの中間にあるこの曲に強いアクセントをもたらし、また、ディープなグルーブ感を及ぼしている。加えて、ブリストルのトリップポップを意識した曲調は、リトルドラゴンの明るい側面とは別の暗鬱とした瞬間を捉えている。そして当然のことながら、Portisheadほどではないものの、ヒップホップのビートを加味したトラックにはアンニュイな雰囲気も込められている。このあたりのマニアックなポピュラー音楽へのアプローチについては大きく意見が分かれそうだ。しかし、少なくとも、これらの哀愁を交えたソウルの要素は、アルバム全体に聴きごたえと、上記のようなテーマについて熟考させるような機会をリスナーもたらすはずだ。

 

 

先行シングルとして公開された「Kenneth」は、Aphex Twinのようなノイズを下地にしたコアなエレクトロニックのイントロが印象的だ。その後はレゲエやダブといったジャマイカ音楽をこのエレクトロの中に(忍者の如く)忍ばせている。この曲もまた、アルバム冒頭の主要曲と同様に、上辺の部分と下部では鳴り響く音楽が異なり、「ミルフィーユ構造」とも称すべき奇妙な音楽性が貫かれている。 しかしながら、その後も一定のジャンルに規定されず、曲の流れの中で印象はランタイムとともに劇的に変遷を辿り、アイスランドのエレクトロニカのファンタジックな要素を加味することにより、ビョークの音楽性を思わせるアヴァン・ポップの最北へと落着する。ユキミ・ナガノのボーカルは相変わらずネオソウルの範疇にあるのだが、結果的にクレスタのような音色を配したトラック全体との兼ね合いにより、mumのフォークトロニカにも近い性質を帯びるようになる。しかし、この曲はテクノなのではない、レゲエやダブの強いグルーブが背後からファンタジックな音色とボーカルを支え、旧来にない摩訶不思議なダンス・ポップが生み出されている。それは「Fossora」においてビョークが探求したオーケストラ・ポップの音楽性とも異なり、リトル・ドラゴンにしか生み出し得ないスペシャル・ワンでもある。

 

Blurのデーモン・アルバーンが参加した「Glow」も奇妙な一曲だ。手法論としてはブリストルのトリップ・ホップや、かつてのUnderworldが制作したようなメインストリームのエレクトロの範疇にあるトラックではありながら、ここには暗澹たる雰囲気もなければ、雨模様を思わせるアンニュイな雰囲気もない。いや、どころか、この曲はアルバムの中で最も清々しさと清涼感が感じられる。しかも、それも月並みな感覚ではない。内側の暗がりからふと一筋の不可解なエナジーが放射され、その対面にある壁全体をそれらのエナジーでひたひたと満たしていくかのような抽象性の高いイメージにより彩られている。また、言い換えれば、真夜中の海の水面の上にふっと得難いものが浮かびあがるような神秘的な瞬間が、このアヴァン・ポップの象徴的なトラックに見出せる。デーモン・アルバーンのボーカルについては、これらのマニアックな要素にどっしりとした安定感を与え、また、それは同時に聴いていて安堵感を覚えさせるものもある。

 

10曲目まで一曲も捨て曲がないことを見ると、力作以上の評価がつけられなければ不自然である。アルバム発売のために仕方なく収録した曲が存在しないことに驚かずにはいられない。老舗レーベル”Ninja Tune”の真骨頂ともいえるこれらの高水準にある楽曲は、その後の2曲でもそのクオリティーは維持される。 「Tumbling Dice」はキュートな雰囲気を感じさせるネオソウル/エレクトロニックで、温和な雰囲気が漂わせる。ソウルとディープハウスの融合という彼らの主要な印象をわかりやすい形でとどめ、心をほんのり和ませてくれる。エンディング曲「Easy Falling」では、ニューヨークのソウル・シーンの新星、マディソン・マクファーリンのクラシカルなソウルとジャズ、リトル・ドラゴンの代名詞のエレクトロ・サウンドを融合させている。

 

これらの曲は、マニアックであるだけではなくメジャーである。言い換えれば、亜流でありながら王道を行く。それがスウェーデン・ヨーテボリのリトル・ドラゴンの頼もしいところだ!! いかにもNinja Tuneらしい作品で、旧来のレーベルのファンはリトル・ドラゴンの新作をマストアイテムとして必携することになろう。アーティスト自ら最高傑作と位置づける『Slugs Of Love』が、どれほどの商業的な効果を及ぼすのかは想像も出来ないが、前作に続き、グラミー賞にノミネートされたとしても、(あるいは受賞したとしても)それほど大きな驚きはない。”スウェーデンにはリトル・ドラゴンあり”ということを証明付ける画期的な一作である。

 

 

92/100

 


Little Dragonのニューアルバム『 Slugs Of Love』は Ninja Tuneより発売中です。オフィシャルショップでのご購入/ストリーミングはこちらから。

 

 

 Weekend Featured Track-「Easy Falling」


 

©David Needleman

 

R&B界の若きスター、Jon Batiste(ジョン・バティステ)がニューアルバム『World Music Radio』を発表しました。2022年のグラミー賞アルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞した2021年の『We Are』に続くこのアルバムは、Verve/Interscopeから8月18日にリリースされます。

 

プロデューサーのジョン・ベリオンとともにレコーディングされた本作には、ラナ・デル・レイ、リル・ウェイン、ケニー・G、J.I.D、ニュージーンズ、ファイヤーボーイDML、カミロ、リタ・ペイェスらが参加している。ファースト・シングル「Calling Your Name」のミュージックビデオも公開されています。


「ワールド・ミュージック・ラジオ』は、宇宙の星間領域を舞台にしたコンセプト・アルバムだ。「リスナーは、ビリー・ボブ・ボー・ボブという名の星間を旅するグリオに導かれ、光の速さで世界中を音で駆け巡る。このアルバムは、自分の人生における解放感と、これまで感じたことのないような、自分の人間性、技術、そして自分を取り巻く世界に対する新たな探求心を持って制作した」


「Calling Your Name」

 

 

 

Jon Batiste 『World Music Radio』

Label: Verve/Interscope

Release: 2023/ 8/18

 

Tracklist:

 
1. Hello, Billy Bob


2. Raindance [feat. Native Soul]


3. Be Who You Are [feat. JID, NewJeans and Camilo]


4. Worship


5. My Heart [feat. Rita Payés]


6. Drink Water [feat. Jon Bellion and Fireboy DML]


7. Calling Your Name


8. Clair de Lune [feat. Kenny G]


9. Butterfly


10. 17th Ward Prelude


11. Uneasy [feat. Lil Wayne]


12. Call Now (504-305-8269) [feat. Michael Batiste]


13. Chassol


14. Boom for Real


15. Movement 18′ (Heroes)


16. Master Power


17. Running Away [feat. Leigh-Anne]


18. Goodbye, Billy Bob


19. White Space


20. Wherever You Are


21. Life Lesson [feat. Lana Del Rey]


 

©Vivian Wang


Norah Jones(ノラ・ジョーンズ)がニューシングル「Can You Believe」を発表した。この曲はJonesとLeon Michelsの共作で、Leon Michelsはこの曲のプロデュースも担当しています。この久しぶりのジョーンズの新曲は、アカペラ風のコーラスを交えたスモーキーなR&Bナンバーです。今週最後のHot New Singlesとして読者の皆様にご紹介いたします。以下よりご視聴下さい。


プレスリリースによると、ノラ・ジョーンズはスタジオに戻り、9枚目のアルバムに取り組んでいる最中であるという。新作アルバム「Can You Believe」は、7月5日にキックオフされる彼女のヨーロッパ・ツアーに先駆けて到着する。アルバム発売後の公演にも期待したいところです。


「Can You Believe」

 


ロンドンを拠点に活動するシンガーArlo Parks(アーロ・パークス)は、今週金曜日に発売されるニューアルバム『My Soft Machine』の5thシングル「Devotion」を公開しました。ソウルに加え、ソングライターのオルタナティヴへのこだわりが感じられる一曲です。

 

Arlo Parksはプレスリリースで、この曲について次のように語っています。「私にとっての "Devotion"は、引き裂かれそうなほどの愛を感じる曲で、激しさ、荒々しさ、優しさがあります。Deftones、Yo La Tengo、Smashing Pumpkins、My Bloody Valentineなど、私を音楽に夢中にさせたバンドから引用しているんだ」

 

ビデオについて、Arlo Parksはこう付け加えています。 「"Devotion”のミュージックビデオは、汗臭くてノスタルジックでルーズな感じが必要だった。シュールな青みがかった色合い、パフォーマンスにおける野生の喜びの感覚、ぼかしとバンド-90年代のロックミュージックと、自分を破壊しそうになるほど激しく愛するという概念に敬意を表したかった」

 

『My Soft Machine』は、2021年1月にTransgressiveからリリースされる。高い評価を得たパークスのデビューアルバム『Collapsed in Sunbeams』に続く。アルバムは、その年の最優秀英国アルバムに贈られるマーキュリー賞を受賞しています。

 

ニューアルバムとそのタイトルについて、パークスは以前のプレスリリースでこのように語っています。

 

「世界や私たちの視野は、私たちが経験する最大のもの、つまり私たちのトラウマや生い立ち、脆弱性によって、まるで視覚的な雪のように彩られる。


20代半ばの不安、周囲の友人の薬物乱用、初めて恋をしたときの内臓、PTSDや悲しみ、自己破壊や喜び、驚きと感受性で世界を移動すること、この特別な体に閉じ込められることがどんなことなのか、私のレンズを通して、私の体を通して人生を描いたのがこのレコードです。


ティルダ・スウィントンが出演したA24の半自伝的映画で、若い映画学生が年上のカリスマ的な男性と恋に落ち、彼の中毒に引き込まれていく様子を描いたものです。そう、これが私のソフトマシーンなのです」

 


「Devotion」

Weekly Music Feature

 

Madison McFerrin


 

 

ソウルミュージックの潮流を変える画期的なデビューアルバム

 

 

2016年12月、ブルックリンを拠点とするシンガーソングライターは、ソロデビューEPの「Founding Foundations(ファウンディング・ファウンデーションズ):Vol.1」で、魂のこもったアカペラを世界にむけて発信した。

 

すると、批評家やファンがすぐに彼女に注目するようになった。ニューヨーク・タイムズ紙は先陣を切るようにして、チケットの売り切れ続出となった、Joe’s Pub(ジョーズ・パブ:ニューヨークの高級パブ)での彼女の公演に着目し、彼女のサウンドについて、「驚くべき歌唱力の器用性、緩急のあるはっきりと発音されたスタッカートから、ひらひらとはためくフリーフォームなメリズマへと変幻自在である」と評したのだった。


流行仕掛け人であるDJのGilles Peterson(ジャイルス・ピーターソン)は、彼女の曲を聴くや否や、彼のアルバムBrownswood Bubblers(ブラウンズウッド・バブラーズ)の編集曲に加えるために彼女の傑出したトラック「No Time to Lose,(ノー・タイム・トゥ・ルーズ)」をすぐに選曲した。

 

彼女はこの流れに続き、2018年2月、「Finding Foundations(ファウンディング・ファウンデーションズ):Vol.2」のリリースを発表すると、ファンから大好評を得ると同時に、多くの批評家から賞賛を得た。Pitchfork(ピッチフォーク)の人気急上昇中アーティストのプロフィールでは、「生命力溢れる声とその歌唱力の器用性には注目せずにはいられない」と評された。


マディソン・マクファーリンは、デビューアルバム「I Hope You Can Forgive Me」を発表した際、新曲「(Please Don't) Leave Me Now」とミュージックビデオを公開した。"(Please Don't) Leave Me Now "は、2021年に彼女がパートナーと共に経験したトラウマ的な出来事を掘り下げた、鮮やかで別世界のようなミュージックビデオとともに到着した。

 

アンドリュー・ラピンがプロデュースしたこの曲は、激しい交通事故に耐えて、自分の人生を奪うか、永遠に変えてしまうかもしれないような瀬戸際を生き延びたことを振り返った後に書かれた。ジャジーなパーカッション、ファンクとネオ・ソウルのヒント、そして力強いメッセージが込められた「(Please Don't) Leave Me Now」は、さらなる時間を求め、恐怖と複雑さに縛られた感謝の気持ちを表現している。


マディソンは、「(Please Don't) Leave Me Now」とそれに付随するミュージックビデオについて次のように考えている。


臨死体験から身体的危害を受けずに立ち去ることができたことは、私がこの人生で受けた最大の恩恵のひとつです。アーティストとしての目的も再確認できた。Please Don't Leave Me Now』を書くことは、信じられないほどの治療とカタルシスの体験になった。楽しい環境を作りながら、そのような恐怖を表現できることが、この曲を作る上での鍵だった。


このビデオ制作の過程で、死はさまざまな形で現れました。撮影までの数週間、制作サイドの複数の家族が突然亡くなり、計画がストップしてしまった。このビデオの運命は流動的でした。しかし、チームの粘り強い努力のおかげで、遅ればせながら体制を立て直し、前に進むことができました。


ビデオでは、「死ぬ覚悟がない」という感覚を表現したかった。墓の上と中の両方にいる自分に語りかけ、自分が何者であったか、そして何者であるべきかを悲しむのです。1日に何時間も墓の中にいることが私に影響を与えるとは思っていませんでしたが、臨死体験を処理する旅に貢献したことは間違いありません。この曲とビデオは、ミュージシャンとしてだけでなく、人間としての私自身の成長の現れなのです。


マディソンのデビュー作「I Hope You Can Forgive Me」は、変化し続ける世界的な流行病の中で、即興演奏やセルフプロデュースの方法を見つけ、彼女のキャリアの進化を表している。初期のファンを魅了したアカペラ・プロジェクト(Finding Foundations Vol.IとII)に続き、兄のテイラー・マクフェリンとコラボレーションしたEP『You + I』では、初めて楽器を使ったプロジェクトとなった。


『I Hope You Can Forgive Me』は、愛、自己保存、恐怖、呪術といったテーマを探求しながら、サウンド的に次のステップを構築している。大半の曲はマディソンがプロデュースしており、パンデミック時に磨きをかけた新しいスキルである。プロデューサー、アレンジャーとしてだけでなく、ベース、シンセを演奏し、いくつかの曲でバックグラウンドボーカルを担当するなど、楽器奏者としても活躍している。アルバムには、彼女の父親のボビー・マクフェリンが参加しています。


昨年末、マディソンはグルーヴィーでソウルフルなシングル「Stay Away (From Me)」を鮮やかなビジュアルとともに発表し、催眠的でダンサブルなインストゥルメンタルと現代の不確実性や不安との闘いに取り組む歌詞を芸術的に並列させた。シンガーソングライター・プロデューサーは、「(Please Don't) Leave Me Now」でも、幽玄なボーカルと美しいメロディ、エレクトロニック、ポップ、ジャズ、ソウルを融合させ、確かなテクニックと表現力の深さを表現し続けている。


3枚のEPと複数のコラボレーションに及ぶインディーズキャリアを通して、マディソンはニューヨークタイムズ、NPR、The FADER、Pitchforkから賞賛を受け、2018年の”Rising Artist”に選出された。


彼女の芸術性は、クエストラブが彼女の初期のサウンドを "Soul-Apella "と呼ぶに至った。有名なCOLORS Studioのプラットフォームでの心揺さぶるパフォーマンスに加え、マディソンはリンカーン・センター、セントラルパークのSummerStage、BRIC Celebrate Brooklynでパフォーマンスを行い、デ・ラ・ソウル、ギャラント、ザ・ルーツといったアーティストとステージを共有している。


2021年にはBRICジャズフェスティバルのプログラムを共同企画し、2022年にはブルックリンブリッジパーク・コンサーバンシーとイニシアチブを組み、パンデミックのトラウマを癒すために必要なスペースを提供した。

 

また、昨年秋のEUツアーでは、ロンドンとパリでのソールドアウト公演で多くの観客を魅了し、ステファン・コルベアの#LATESHOWMEMUSICシリーズでライブ演奏した「Stay Away (From Me) 」をリリースし、コロナキャピタルフェスティバルにデビューした。さらに、2023年の新曲リリースに先駆けて、ニューヨークとLAでソールドアウトしたライブで観客を圧倒した。



『I Hope You Can Forgive Me』

 

 

 

最近のヒップホップについても同様ではあるが、ソウルミュージックもまた一つの時代の中にある重要な分岐点を迎えつつある。イギリスのロンドンもネオ・ソウルを始め、多様なジャンルのクロスオーバーやハイブリッドが常識となりつつある現代のブラックカルチャーにおいて、ブルックリンのマディソン・マクファーリンほど現代のミュージック・シーンを象徴づけるアーティストは他に見当たらない。マクファーリンは、既に現地のパーティーでは著名なアーティストになりつつあり、ニューヨークの耳の肥えた音楽ファンを惹きつけてやまない。近頃開催されたライブでは、ステージの目の前までファンが詰めかけるようになっているという。現地の音楽メディアにとどまらず、一般的な音楽ファンの心を捉えつつあるようだ。

 

そもそも、 R&B自体のルーツがそうであるように、マディソン・マクファーリンはみずからをブラックカルチャーの継承者として位置づけているようである。そして”Soul-Apella”という一般的にあまり聞き慣れない新しいジャンルの呼称は、歌手のスタンスの一片を物語るに過ぎない。New York TImes、Pitchforkを筆頭に、現地の耳の肥えた音楽メディアを納得させた二作のEPに続いて発表されたデビュー・アルバムは、このシンガーソングライターの知名度を世界的なものとする可能性を秘めている。その実際のメロウな音楽性や鋭いグルーブ感は予想以上に多くのファンを魅了するであろうし、もちろん、旧来のBlue Noteの音楽ファンのようなソウル・ジャズの音楽ファンをも熱狂の中に取り込む可能性を多分に秘めているということなのだ。 

 

上述したように、マディソン・マクファーリンは、ソウルミュージックの新進シンガーを目ざとく発見するジャイルズ・ピーターソンが太鼓判を押すという点では、ロンドンのR&Bシンガー、Yazmin Laceyを思い起こさせる。そして、歌に留まらず、ベースやシンセを始めとする楽器演奏者であることも、(プリンス・ロジャーズ・ネルソンのように)彼女のスター性を物語るものとなるかもしれない。そして、彼女の歌声はモダンな雰囲気も漂うが、他方、クラシカルなソウルのスタイルをはっきりと踏襲している。ヘレン・メリルのメロウさ、フィッツジェラルドの渋み、ジョニ・ミッチェルの深み、そして、現代のクラブ・ミュージックに根ざした心地よいグルーブ感、アカペラの音楽を始めとするブラック・ミュージックの系譜が複雑に絡み合うことにより、聞き手の琴線に触れ、その感性の奥深くに訴えかけるものとなっているのだ。

 

そもそも、マディソン・マクファーリンの曲作りは歌詞から始まるわけではなく、まず最初にグルーブ、そして、ビート、コードがあり、その次にメロディーがあり、最後に歌詞がある。しかし、デビュー作『I Hope You Can Forgive Me』を聴いてわかることは、ソウル・ミュージックを構成する複数の要素はどれひとつとして蔑ろにされることなく、音楽を構成する小さなマテリアルが緻密な合致を果たし、Yaya Beyにも比する隙きのないスタイリッシュなソウルが組み上げられる。その結果として、聞きやすく、乗りやすく、親しみやすい、メロウでムードたっぷりのブラック・ミュージックが生み出されている。この鮮烈なデビューアルバムをお聞きになると分かるように、音、リズム、歌詞の細部のニュアンスに到るまで都会的に研ぎ澄まされ、レコーディングを通じて、いかにもニューヨークらしい洗練された雰囲気が滲み出ている。実際の歌の情感は、聞き手の心の奥深くに強固な印象を与え、アルバムを聞き終えた頃にはマディソン・マクファーリンという名が受け手の脳裏にしかと刻み込まれることになるのだ。


えてして、傑出したアーティストやシンガーは時に不幸な出来事に見舞われる場合がある。デビュー直前に声帯を痛めたシンディー・ローパーは言わずもがな、マディソン・ マクファーリンも交通事故に遭った後に、歌手としての道に返り咲いた。しかし、言っておきたいのは、この出来事は、ゴシップとして取り上げようというわけではない。これは歌手の重要なテーマである内面の葛藤、自己肯定感についての探究と結びついて、アルバムの欠かさざる重要な音楽性ともなっている。つまり、歌手が語るように、「自分の素晴らしさを受け入れ、ただそれに向かって進んでいき、導入された他の構造が自分よりも優れているなどと考えることはやめてほしい。それがあなたがするべきことなのです」というメッセージ代わりともなっているのである。

 

これらのマクファーリンが実際に体験した出来事やアイデンティティーの探究という二つの重要なテーマやコンセプトはアルバムの音楽の中に目に見えるような形で反映されていることに気がつく。

 

オープニングを飾る「Deep Sea」は、アルバムのイントロダクションのような役割を持ち、アンビエント風のバックトラックと彼女自身のコーラスワークにより、ダークでミステリアスな感慨が増幅され、聞き手に次に何が来るのかという期待感を持たせる。その次にイントロの導入部を受け、グルーヴィーなソウルミュージックが展開される。2曲目の「Fleeting Melodies」は、ニューヨークのインディーフォークの影響化にあり、マクファーリンは現代的なソウルを要素を絡め、新旧のポピュラー・ミュージックの魅力を引き出すことに成功している。ムーディーでメロウなボーカルと心地よいバックトラックの合致は快い気持ちを授けてくれるはずである

 

そして、マディソン・マクファーリンは最近の流行りのネオ・ソウルの一派とみずからの音楽が無関係ではないことを、3曲目の「Testify」で示している。ここでは、UKソウルやクラブミュージックの一貫にあるベースラインやダブステップの変則的なリズムの要素を交え、前の2曲と同じように、メロウで伸びやかなボーカルで曲の雰囲気を盛り上げている。多幸感がないというわけではないが、この曲は、部分的にストリングスがアレンジで導入されるのを見ても分かるように、踊るための音楽にとどまらず、静かに聞き入らせるIDMの要素を兼ね備えている。これが聞き手の心をこのアルバムに内包される世界の中に留めておく要因ともなろう。そして、伸びやかなボーカルとコーラスがコアなグルーブと合致し、色鮮やかな印象をもたらす。 曲の最後に歌われる、ありがとうというシンプルな言葉はアーティストの生きていることへの感謝を表しいている。しかし、その簡素なフレーズは他のどの言葉よりも胸を打つのである。

 

続く、「Run」は、彼女の父親であるボビー・マクファーリン氏が参加した一曲である。アカペラ風の歌唱で始まるこの曲は、現代のネオソウルのボーカルスタイルと結びつき、そして先鋭的なエレクトロニカのバックトラックと重なりあいながら、イントロからは想像しがたい独創的なトラックへと昇華される。ときおり、ボーカルサンプリングとして導入される彼女の父親、ボビーのボーカルは抑揚のあるマディソンとのボーカルと溶け合い、甘美なアトモスフェールを生み出している。続く「God Herself」は、アカペラを踏襲した気品のあるソウルミュージックとして始まるが、これは神なるものへの接近を示すと共に、マクファーリンが自分に自信を持つことの重要性を示しているのではないだろうか。生者としての喜びと生存することにおける大いなる存在への感謝が、この完結なビネットには収められているというわけなのだ。

 

その後、「OMW」では、エレクトロニカの要素を交えたモダンソウルが続くが、浮足立った雰囲気を避け、しっとりとしたバラードに近い、落ち着いた曲調へ移行していく。しかしソングライターが志向するリズム/グルーブの要素が、流動的な生命感を与え、序盤と同様に、聴かせると共にリズムに合わせて踊る事もできるハイブリッドな音楽として昇華されている。また、言ってみれば、色彩的なメロディーやコードの進行により、表向きの音楽世界よりも一歩踏み込んだ幽玄な領域へと聞き手を引き込む力を持ち合わせている。これらの中盤の展開を通じて、マディソン・マクファーリンは、彼女自身の歌声によって傑出した才質を示しているのである。 

 


「(Please Don't) Leave Me Now」

 

 

先行シングルとして公開された「(Please Don't) Leave Me Now」は、今作の最大のハイライトとなり、また歌手が持つ才覚を最大限に発揮したトラックである。おそらく、彼女の今後のライブで重要なレパートリーとなっても不思議ではない。この曲では、現代的なネオソウルのビート、及び、7.80年代のミラーボール・ディスコの陶酔感を融合させ、裏拍の強いグルーヴィーなポップソングとして仕上げている。サビの最後で繰り返される「Leave Me Now」というフレーズは、バックトラックのグルーブ感を引き立て、このアルバムを通じて繰り広げられる臨死体験のテーマを集約させている。曲の途中に導入されるミステリアスなストリングスから最初のイントロのフレーズへの移行は、捉え方によっては、オープニング曲「Deep Sea」と同じく、アーティストが体験した生存が危ぶまれた出来事を別のスタイルで表現したとも解釈できる。

 

その後の「Stay Away」は、アルバムの中で、最もグルーヴィーな一曲として楽しむことができる。ブラジル音楽の軽妙なリズムを取り入れて、フュージョン・ジャズ、アフロ・ビートとして昇華し、新鮮なソウルミュージックを提示している。マディソン・マクファーリンはなるべく重いテーマを避け、軽妙なビートとグルーブ感を押し出し、ライブへの期待感を盛り上げまくっている。更に続く、「Utah」では、現在のミュージック・シーンのトレンドを踏まえ、オーバーグラウンドのソウルアーティストへの深い共感や親和性を示し、それに加え、アフロビート風の民族音楽のリズムを取り入れることで清新な作風を提示していることに注目しておきたい。

 

最後に収録されている「Goodnight」は、デビュー作としてきわめて鮮烈な印象を残す。一曲目「Deep Sea」のスピリチュアルな雰囲気と連続しているこのクローズ曲は、リスナーを神秘的な瞬間へと導く。


マディソン・マクファーリンは、Blue Noteの系譜にあるジャズ・ソウルと旧来のブラック・ミュージックのバラードが刺激的に合致したこの曲で、ハスキーなビブラートとミステリアスな雰囲気を合致させ、「ニューヨークのため息」とも称される同地のジャズ・シンガー、Helen Merrill(ヘレン・メリル)の「Don’t Explain」に比する傑出した才覚を発揮したとも言えるのではないか。いずれにせよ、彼女の歌声は近年のソウルアーティストの中でも異質で、聞き手を陶然とした境地に導く力を持ち合わせている。マディソン・マクファーリンは2020年代のソウル・ミュージックシーンの中で最重要視すべきシンガーであることは確かなのである。

 

 

95/100

 

 

Weekend Featured Track「Goodnight」

 

 

『I Hope You Can Forgive Me』はMadmacferrin Musicより発売中です。


 


Arlo Parksは、新曲「Pegasus」で何度も何度も"I think it's special / 'Cause you told me"と歌っている。この曲は、パークスの待望の2ndアルバム『My Soft Machine』からの4枚目のシングルとなる。

 

この曲の中でハーモニーを奏でるもう一組のヴォーカルに見覚えがあるかもしれません。Parksは、親友のPhoebe Bridgersを起用し、これまでで最も至福に満ちた優しい楽曲を作り上げました。


グラミー賞にノミネートされたデビューアルバム『Collapsed in Sunbeams』をリリースした彼女は、インディー、ヒップホップ、エレクトロ、R&Bのクロスオーバーの力を発揮し続けています。Pegasus」では、Bridgersがメロディーをサポートしているが、主役はParksである。今月末にリリースされる『My Soft Machine』が、彼女の芸術性において特別な指標となることは明らかです。


「Pegasus」の試聴は以下から。『My Soft Machine』は5月26日にTransgressive Recordsからリリースされます。

 

 「Pegasus」

Jessie Ware 『That! Feels Good!』

 


Label: EMI

Release: 2023/4/28



Review


このアルバムは、2020年にリリースされたジェシー・ウェア(ワイヤーとも)の4枚目のスタジオアルバム『What's Your Pleasure?"』のリリースから3年後の2023年4月28日にリリースされることが予め決定していた。


前作は、その「ディスコ風」サウンドで広く批評家の賞賛を受けた。Pitchforkはニューアルバムを「2023年の最も期待される34のアルバム」のリストに入れ、Marc Hoganは、2022年7月19日にリリースされたシングル「Free Yourself」をアルバムへのテイスターとしてリリースした後、ウェアは、「その『セックスとダンス』のスイートスポットにうまくとどまった」と述べている。


ウェアは、この10年の初めに、ソウルフルで告白的なラブソングの制作から、きらびやかなパーティー・ミュージックへと焦点を変えて以来、ダンスミュージックの名手となった。


彼女の4枚目のアルバム『What's Your Pleasure? (2020)』は、デュア・リパや彼女のヒーローであるカイリー・ミノーグやロイシン・マーフィーと並んで、初期のパンデミック・ディスコ・リバイバルの作品であり、夜遊びの幸福感と官能性を伝える1枚となっている。その結果、全英チャートで最高位を記録し、BRIT賞で初めてアルバム・オブ・ザ・イヤーにノミネートされ、ハリー・スタイルズの前座としてツアーに参加するなど、彼女のキャリア史上、最大の成功を収めたのだった。


最新作となる『That!Feels Good!』のために、ウェアは同じ類のアルバムを2度作ることを要求されなかったという。しかし彼女は付け加えている。「私はバカじゃない。何がうまくいくかはわかっている」と。問題は、どうすればその道を踏み外すことなく正しいルートを辿れるか。ウェアは、プレジャーのエンディング曲 "Remember Where You Are "にその答えを見いだした。この曲は、夜明けの太陽の光のようなストリングスとクワイアの入った、揺れ動くミッドテンポのアンセムである。


ジェシー・ウェアはプリンス、トーキング・ヘッズ、フェラ・クティからインスピレーションを受け、『プレジャー』の洗練されたエレクトロニック・スタジオの輝きを捨て、ステージ用の新しいダンス・ソングを構想した。彼女はマドンナ、ミノーグ、ペット・ショップ・ボーイズと仕事をしてきたダンスミュージックの王者スチュアート・プライスを共同プロデュースに迎えている。


ジェシー・ウェアはこのアルバムの構想の中で、リスナーに難しく考えずに踊ることを促している。そのコンセプチュアルな概念はマイケル・ジャクソンやプリンスといったディスコサウンドの気風を受けたタイトル曲にわかりやすい形で反映されている。80年代以前のファンクサウンドのコアなグルーブを交えたディスコサウンドは楽しげで、リスナーの心に爽快な気持ちをもたらす。その他にも、ウェアのR&Bサウンドの影響はきわめて幅広い。同じく先行シングルとして公開された「Pearls」では、懐かしのアース・ウィンド・アンド・ファイアーのディスコサウンドを反映し、ユニークなループサウンドを確立している。そして跳ねるような強拍の上に乗せられるジェシー・ウェアの歌声は、近年になく迫力に充ちたものとなっていることに驚く。

 

もちろん、これらのディスコサウンドは必ずしもアナクロリズムに陥っているわけではない。ジェシー・ウェアの音楽性は、昨今のトレンドであるネオ・ソウルと結び付けられ、「Beautiful People」において華やかなサウンドとして昇華されている。アンセミックなフレーズと、それと対象的なそっと語りかけるようなウェアのボーカルは、外交的なサウンドを表向きのイメージの魅力にとどまらず、静かに聴き入らせる説得力を彼女が持ち合わせていることの証立てともなっているのではないか。

 

これらのディープなディスコファンクを中心とするサウンドは、ナイジェリアの伝説的な歌手フェラ・クティに代表されるアフロ・フューチャーリズムの神秘性と結びつき、多彩で新鮮味のあるR&Bサウンドとして提示されている。また、アルバムの終盤に収録されている「Freak Me Now」では、70年代のディスコファンク、MTVの80年代の華やかなサウンドを抽出している。


さらにネオ・ソウルの新境地を開拓した「Lightinig」、及び、アルバム全体にクールダウンの効果をもたらす「These Lips」は、歌手としての進歩を証しづけている。そしてやはり、このクローズ曲でも、ジェシー・ウェアは、アース・ウィンド・アンド・ファイアーやファンカデリックの往年のディスコサウンドやファンクに対するリスペクトを欠かすことはないのである。


80/100


 


6月9日にNinja Tuneからリリースされるニューアルバム『Guy』に先駆けて、Jayda Gが最新シングル「Blue Lights」を公開しました。このアルバムはレーベルの次なる大作になる可能性が極めて高い。

 

次作アルバム『Guy』の中において、Jayda Gは父親のルーツについて、ラップやソウルという観点から解きほぐそうとしている。


1968年のワシントン人種暴動に巻き込まれた「父の非常識な話」にインスパイアされたJayda Gは、過去から現代に通じる普遍的な考えを学び取っている。「父にとって、とても大きな転機だったと思うんです。当時は誰にとってもターニングポイントだったと思います」と彼女は述べている。

 

ベトナム戦争があって、人々はなぜ、そこに人を送るのかさえわからず、国内では黒人のコミュニティ内で恐ろしいことが起こり、人々はそれにうんざりしていたのです。黒人であること、男性であること、貧困であること、人種差別への対応、警察への対応、警察の横暴など、この社会が抱える問題を改めて考えさせられたよ。


「Blue Lights」

 

©︎Sterling Smith

Hannah Jadaguがデビューアルバム『Aperture』からの最新シングル「Warning Sign」を公開しました。この曲は、前作「Say It Now」と「What You Did」に続く先行シングル。この曲のリリックビデオは以下よりご覧ください。


"「Warning Sign」は、実質的にマックス(共同プロデューサー)と私がアルバムのために録音した最後の曲だった "とJadaguは声明で説明しています。


ほとんどただの短い間奏曲だったんだけど、オリジナルのデモで妹が歌ったメロディに触発されて、マックスとわたしはスタジオで残りのサウンドをまとめられるようになったんだ。


『Aperture』は5月19日にSub Popから発売されます。


 Weekly Recommendation


Yazmin Lacey 『Voice Notes』 

 



Label: Own Your Own/Believe

Release Date: 2023年3月3日

 

  

 

 「決して遅くはないが、今やっているという観点では遅い」と語るように、ヤスミン・レイシーは遅咲きのミュージシャンで、さらに音楽活動を開始するのも人よりも遅かったという。


 彼女は音楽シーンに身を置いている間ーー自分の人生の部分のスナップショットのような瞬間ーーをとらえ、歌にするための練習として音楽を制作してきました。


 デビューアルバム『Voice Notes』もまた、ヤスミン・レイシーの人生の瞬間をとらえた重要な記録となる。Black Moon(2017年)、When The Sun Dips 90 Degrees(2018年)、Morning Matters(2020年)という3枚の素晴らしいEPに続く本作は3部作の一つに位置づけられますが、それらが書かれたテーマに沿ってタイトルが付けられたという。


 『Voice Notes』は、アルバムが誕生するきっかけとなったあるツールからインスピレーションを受けている。音楽制作の長年のツールであり、コラボレーターとメロディーを共有する方法であるボイスノートは、彼女にとって特別なコミュニケーションの方法なのです。  


「私にとってボイスノートは、何かに対する即座の反応を表しています」と彼女は語っています。「濾過されていない、生の音を聞くことができるのです」


 Craigie Dodds、JD.REID、Melo-Zed、エグゼクティブプロデューサーのDave Okumuといったコラボレーターとともに、スタジオでのジャムセッションから生まれたこの作品は、"不完全さの美しさ"を意図的に捉えた録音になっています。レイシーは、洗練されたサウンドを出来るだけ避け、生々しさ、つまり、アルバムタイトルにもなっているように「誰かの間や立ち止まり、声のひび割れを聞く」チャンスを与えることを選んだのです。


 サウンド面でも、彼女はカテゴリーにとらわれず、様々なスタイルや影響を受けており、「自分自身を表現するさまざまな方法という点で、そこにはたくさんの異なるフレーバーがある」とレイシーは話しています。「私が聴いているもの、大好きな音楽、それを特定するのは難しいかもしれない。それはある意味、ソウルと呼べるかもしれない。なぜなら、それは私自身の魂から生まれたものだからです」


 ヤスミン・レイシーは、Evening Standard、The Guardian、BBC Radio 6 Musicから支持を獲得したにとどまらず、Questloveのようなファンを持ち、特に2020年のCOLORSに”On Your Own”という曲で出演しています。しかし、幅広い賞賛の他に、『Voice Notes』の主要なストーリーとなるのは人生の細かな目に見えない部分であり、レイシーがリスナーと共有することを選択した個人的な観察となっているのです。

 

 「私にとっては、自分の経験に対する反応なのです」とヤスミン・レイシーは語っています。「三作のEPを作ることは、音楽的にも人生的にも学んだことの次の章を形作ることになりました。そして、ここ数年で起こった多くのことを手放したかったんです。別れ、引っ越し、再出発、失敗、自分を見失うこと、自分を見つけること、大切なものをより広い視野でとらえることができるようになる・・・。そういった瞬間をとらえた経験こそが、不完全であっても前面に出てくるのです」   


 ヤスミン・レイシーは、人気DJ/Gilles Peterson(ジャイルズ・ピーターソン)が称賛するというネオ・ソウルシンガーで、最も注目しておきたいシンガーソングライターの一人です。


 イギリス国内でも今後、大きな人気を獲得しても不思議ではない実力派のシンガーです。『Voices Notes」は文字通り、アーティストが自分の声をメモとしてレコーディングし、それを綿密なR&Bとして再構築したデビュー作となる。ロンドンで生まれ、現在はノッティンガムに拠点をおいて活動を行うシンガーソングライターは三作のミニアルバムをリリースしていますが、今作ではその密度が全然異なることに多くのリスナーはお気づきになられるかもしれません。

 

 一般的に、R&Bシンガーは、これまでのブラックミュージックの歴史を見ても、同じようなタイプのシンガーを集めたグループか、もしくはソロアーティストとして活躍する事例が多かった。それはモータウンレコードや、サザン・ソウル、その後の時代のクインシー・ジョーンズなどディスコに近い時代、それ以後のビヨンセの時代も同様でしょう。しかし、ヤスミン・レイシーはソロアーティスト名義ではありながら、コラボレーターと協力し、新鮮なソウルミュージックを生み出しています。


 また、今作はソウルミュージックとして渋さを持ち合わせているだけでなく、そしてレイシーの音楽的なバックグランドの広範性を伺わせる内容となっています。表向きには、近年のエレクトロとR&B、そして現代のヒップホップを融合させた流行りのネオ・ソウル、そして、ジャズとエレクトロを融合させたニュー・ジャズの中間にある音楽性を多くのリスナーは捉えるかもしれません。しかし、このデビュー作を聞き進めるうち、それより古いモータウンサウンドや、サザン・ソウル、そして何と言っても、イギリスのクラブ・ミュージックの文化に根ざしたノーザン・ソウルの影響が色濃いことに気づく。これらの要素に加え、評論筋から”Warm& Fuzzy”と称される、深みがあり、メロウで温かいレイシーのボーカルが、奥深い豊潤なソウル・ミュージックの果てなき世界を秀逸なコラボレーターとともに綿密に構築していくわけです。

 

 近年のネオソウルのムーブメントのせいか、私自身はソウルミュージックの定義について揺らぐようなこともありました。本来のソウルの要素が薄れ、エレクトロやジャズやヒップホップの要素を根底に置くミュージシャンが最近増えてきて、厳密にはソウルとは言い難いアーティストもソウルとして言われるようになってきているからです。しかし、ヤスミン・レイシーの音楽的な背景にあるのは古き良き時代のソウルであり、それらの音楽性を支えるバックバンドがローファイやニュージャズの要素を加えて作品の持つ迫力を引き上げているのです。


 アルバムの全14曲は、非常にボリューミーであり、近年のソウルミュージックにはなかった濃密なR&Bの香りが漂う。それは最初のヒップホップを基調にした楽曲「Flyo Tweet」で始まり、現代社会の感覚とアルバムのテーマであるボイスメモという2つの概念をかけ合わせたクールな雰囲気を擁している。そして、続く、二曲目の「Bad Company」では、自分の中にいる悪魔と対峙し、レイシーはローファイ・ヒップホップと古典的なR&B、普遍的なポピュラー・ミュージックの中間点を探ろうとしています。コーラスワークについては理解しやすいですが、曲全体に漂うエレクトリック・ピアノを用いたメロウさは、アンニュイなボーカル、まさに「Warm & Fuzzy」によって引き立てられていきます。さらに、「Late Night People」では、ノーザン・ソウルのクラブ・ミュージックの文化性を根底に置き、新境地を開拓する。この曲はテクノ性の根底にある内省的なビートを通じ、ヤスミン・レイシーの温かな雰囲気を持つコーラスワークが掛け合わさり、渋さと甘美さを兼ね備えたファジーな一曲が生み出されています。


「Bad Company」


 更に続く、「Fools Gold」はフュージョン・ジャズのシャッフル・ビートを駆使し、チルアウトの雰囲気を持つリラックスした楽曲でやすらぎを与えてくれます。アルバムの序盤から続き、レイシーのハスキーなボーカルはメロウさを持ち合わせており、ポンゴのリズムが軽妙なグルーブをもたらしています。時に、レイシーはラップのフロウのような手法を用いながらジャジーな雰囲気を盛り上げる。アウトロにかけてのフェードアウトは余韻たっぷりとなっている。


 それに続く「Where Did You Go?」では、古典的なレゲエでは、お馴染みの一拍目のドラムのスネアを通じて導かれていきますが、アーティストはダビングの手法を巧みに用い、ネオ・ソウルの豊潤な魅力を示してみせています。この曲でも、レイシーはファンク、ジャズ、ソウルを自由に往来しながら、傑出したボーカルを披露します。微細なトーンの変化のニュアンスは、楽曲に揺らぎをもたらし、そして、メロウさとアンニュイさを与えている。またファンクを下地にしたヒップホップ調の連続的なビートは、聞き手を高揚した気分に誘うことでしょう。

 

 中盤においても、ヤスミン・レイシーとバックバンドはテンションを緩めずに、濃密なソウルミュージックを提示しています。真夜中の雰囲気に充ちた「Sign And Signal」は、イギリスの都会の生活の様子が実際の音楽を通じて伝わって来る。続く、古典的なレゲエとダブの中間にある「From A Lover」は、ボブ・マーリーのTrojanの所属時代の懐かしいエレクトーンのフレーズ、ギターのカッティング、そして、レゲエの根源でもある裏拍を強調したドラムのビートの巧みさ、ヤスミン・レイシーの長所である温かなボーカルの魅力に触れることが出来るでしょう。アウトロにかけてのメロウなボーカルも哀愁に溢れていて、なぜか切ない気持ちになるはずです。

 

 レゲエ/ダブの音楽性を下地においたレイシーのファジーなソウル・ミュージックが「Eyes To Eyes」の後も引き継がれていきます。メロウさと微細なトーンの変化に重点を置いたレイシーのボーカルは、自由なエレクトリック・ピアノと、ディレイを交えたスネアの軽妙さとマッチし、渋く深い音楽性として昇華される。時に、そのアンサンブルの中に導入されるジャズギターも自由なフレーズを駆使し、絶えず甘美な空間を彷徨う。バンドの音の結晶に優しく語りかけるようなレイシーのボーカルは圧巻で、ほとんど筆舌に尽くしがたいものがある。

 

 さらに、アルバムのハイライトとなる「Pieces」は成熟した魂を持つアーティストとして、ポピュラー・ミュージックの持つ意義を次の時代に進めてみせています。 ここでは、自分や聞き手に一定の受容をもたらしつつ、ジャズの要素を交えて、ゴージャスなポピュラーミュージックの特異点へと落着していきます。前時代のブリストル発のトリップ・ホップの影響を交え、サックスのメロウな響きを強調し、アーティスト特有の独特なR&Bの世界へと聞き手をいざなっていく。甘く美麗なコーラスは優れた造形芸術のように強固であり、内実を伴う存在感を兼ね備えており、途中からはダンサンブルなビートを交え、聞き手を陶酔した境地へ導いていくのです。


 この曲以降の楽曲は、ある意味では、クラブ・ミュージックの熱狂後のクールダウンの効果、つまりチルアウトの性質が強く、聞き手を緩やかな気分にさせてくれますが、しかし、それは緊張感の乏しい楽曲というわけではありません。これまでの音楽的なバックグランドをフルに活用し、クラブミュージックを基調にするノーザン・ソウルの伝統性を受け継いだ「Pass Is Back」、レゲエをダンサンブルな楽曲として見事に昇華した「Tomorrow's Child」 、ドラムのフュージョン性にネオ・ソウルの渋さを添えた「Match in my Pocket」、そして、アフロ・ソウル/ヒップホップの本質を捉え、それらをアンサンブルとして緻密に再構築した「Legacy」、さらに映画のサウンドトラックのような深みを持つ「Sea Glass」まで、聴き応えたっぷりの楽曲がアルバムの最後まで途切れることはありません。


 アルバムとして聴き応え十分で、収録曲は倍以上のボリュームがあるようにも感じられる。そして、本作に現代の流行の作品より奥行きが感じられる理由は、レイシーが育ったロンドンとノッティンガムの文化性、そして、彼女の人生の中で出会った沢山の人々への変わらざる愛情が流動的に体現されているからなのです。ヤスミン・レイシーというシンガーソングライターにとって、33年という歳月は何を意味したのか? その答えがこの14曲にきわめて端的に示されています。


 

95/100


 


Weekend Featured Track #9「Pieces」