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Laffey

 

 

アンドリュー・ラフェイは、カナダ、トロントを拠点に活動するローファイ・ヒップホップミュージシャン。 音楽制作者で有るとともにサウンドエンジニアを務めているアーティストです。


ギター、ピアノ、トラックメイクまで一人でこなすマルチインストゥルメンタリストでもあります。ローファイビートを打ち出したアンビエント寄りのゆったりとしたアプローチがラフェイの音楽の特性でしょう。

 

ラフェイというミュージシャンは、海外、殊に日本ではそれほど知名度のあるミュージシャンではないはずですが、地元トロントのミュージックシーンでは非常に著名なアーティストで、特にフロアシーンにおいて、プロデューサーとしての評価が高く、周りのミュージシャンもラフェイを慕う人が多く、Xft、JDSYN、They,J-Soul,Laisといったアーティストが、アンドリュー・ラフェイに対するリスペクトを示しています。

 

アンドリュー・ラフェイは、十代の頃から、地元トロントでトラック制作を行っていたアーティストで、2018年にソロ名義で「Lafffey」を、自主レーベル”Laffey Records"からリリースしています。数カ月後に、ダドリー・ムーア監督の映画に因んだ作品「Ten」を発表。その後、サウンドプロデューサーとしての仕事をトロントのフロアシーンで行う傍ら、インディーアーティストらしい作品製作を続け、2021年までに8作のアルバムをリリースしています。

 

これまでに発表された作品全てを自主レーベルなラフェイレコードからリリースを行っていて、ヒップホップのミックステープ文化に根ざした活動を根幹に置き、テープ形式での作品発表を行っていることにも注目。

 

また、ラフェイのアルバムアートワーク、及び、MVには徹底してアニメーション作品が使用され、アニメーションとローファイ・ホップという2つのメディアミックスを行うアーティストでもあります。ラフェイのサウンドの特徴は、アニメーションの映像作品のサウンドトラックに見受けられるようなノスタルジアが漂い、日本的な上品で淡い郷愁もほのかに感じさせてくれるものがあるはず。

 

 

 

アンドリュー・ラフェイは、自身の生み出す音楽について、以下のように述べています。 

 


音楽は私の人生の重要な側面でもあります。また、 Lo-fi製作を行う事自体も、私の精神に治癒を与えてくれます。私の生み出した音楽が、人々を癒やし、そして平和を見つけ、人生に落ち着きを与えるのに役立つのなら、これ以上の仕合わせはありません。

 

 

音楽そのものには治癒的な部分があるんだと思います。 人々は、日常からの脱出に耳を傾けることにより、忙しい生活の中に、大きな平和と慰めを見つけるはずです。

 

 

 

 


さて、今週の一枚として紹介させていただくのは、カナダ、トロントを拠点に活躍するローファイ・ヒップホップ、アンビエントアーティスト、アンドリュー・ラフェイの11月24日にリリースされた新作シングルとなります。


これまでの作品と同様、アンドリュー・ラフェイは今作品のアルバムアートワークにしても、また、ミュージックビデオについてもアニメーションの作品のニュアンスを取り入れています。

 

今週のリリースされた作品に比べ、話題性に乏しいというのはあるかもしれませんが、他の作品にはない深い音楽の魅力がこの作品には宿っています。そもそも、ローファイ・ヒップホップというのは、チルアルトに近い雰囲気を持った音楽で、フロアを沸かすためとは正反対に、フロアに鎮静を与えるために生み出された、と言えるでしょう。このシングル作に収録されている三曲は、おしなべてこのカナダ・トロントの秀逸なサウンドデザイナーが真心を込めて生み出した正真正銘のハンドクラフトの音楽であり、アルバムの冗長さとは対極にある旨味を感じていただけるはず。

 

例えば、ジブリ映画のような「アニメーションにおける郷愁」といった叙情性が満載の作品であり、落ち着いて家の中でまったり聴くことはもちろんのこと、忙しい日常の歩みをふと止め、目の前にある見過ごしていた美しい情景を直覚させてくれる音楽。これはラフェイという方が流行やトレンドに流されない精神の核のようなものを持っているからこそ、このような普遍性のある音楽が生み出されるともいえるでしょうか。少なくとも、このシングルに収録されている三曲全てがアンドリュー・ラフェイ自身が語るように、多忙極まる心に大きな「治癒」だとか「平安」を与えてくれるのです。


より踏み込んでアンドリュー・ラフェイの音楽性について詳述するなら、HeliosとNujabesの中間を行くかのような通好みといえるサウンドであり、アンビエントに近い空間的なシークエンスのアプローチに加え、サウンドエンジニア、トラックメイカーとしての才覚も遺憾なく発揮された作品。

 

 チルアウトに近いシンセサイザーのフレージング、そして、リズムトラックはそれと対比的にヒップホップのトラックメイクが見事に融合していて、長くたのしむことのできる音楽といえるでしょう。ローファイヒップホップとしては一級品。また、アニメーションに見いだされるようなノスタルジアを感じさせるという点では、日本のアーティストにも近い性格を持った楽曲群です。

 

もし今週にリリースされた他の作品と明かに異なる魅力があるとするなら、この作品が聞き手を無理くりに前に進ませるものではなく、その場に立ち止まらせて、あらためて、じぶんの内面に目をむけさせてくれる哲学的な音楽であって、聞き手に、鎮静、深い叙情性、大きな安らぎを与えてくれる音楽であるということでしょう。

 

今、目まぐるしく変わる刻々と移ろう世の中だからこそ、アンドリュー・ラフェイの生み出す音楽は美しく聴こえ、日々の変化の中に埋もれかけている普遍性に思い至らせてくれ、聞き手の人生に異なる奥行きをもたらしてくれるとても貴重な音楽なのです。

 

Beach Fossils

 

 

ビーチ・フォッシルズは、ダスティン・ペイザーを中心に2009年にニューヨークのブルックリンで結成。

 

2010年代からブルックリンを中心に発生したインディー・ロックリバイバルムーブメントをCaptured Tracksに所属する、Wild Nothing、DIIV,Mac De Marcoと牽引してきたニューヨークの最重要バンドです。

 

元々、このバンドの発起人、ダスティンペイザーはノースカロライナ州のコミュニティ・カレッジで短期間を過ごした後、ニューヨークに移住し、ソロ活動の延長線上でこのビーチ・フォッシルズを2009年に結成しています。

 

同年、ベーシストのジョン・ペーニャ、ギタリストのクリストファー・パーク、次いで、ドラムのザカリー・コール・スミス(後に脱退し、DIIVを結成)が加入し、はじめてバンドとしての体制が整います。


 同年、ニューヨークのインディーレーベル”Captured Tracks"と契約、シングル「Daydream/Desert Sand」、デビュー・アルバム「 Beach Fossils」をリリース。サーフロックをローファイの風味を交え再現させたようなサウンドでインディーシーンで若者を中心に好評を博し、Wild Nothingと共に、シューゲイズ・リバイバルバンドの旗手として、2010年代のニューヨークのインディーシーンの代名詞的存在となります。翌年、ミニアルバム形式の「What A Pleasure」を発表。今作品の多くの楽曲は、ダスティン・ペイザーの長年の盟友、Wild Nothingのジャック・テイタムとの深夜のセッションから生み出されています。


2010年から、ビーチ・フォッシルズは、ニューヨークでのライブ活動に加え、アメリカでのツアーを行うようになりますが、この時期、メンバーチェンジを頻繁に繰り返しており、12回のドラマーの変更、ギタリストも三度変更を繰り返し、バンドサウンドについて様々な試行錯誤を重ね、バンド活動としては流動的な時期を過ごしています。最終的には、トミー・デビッドソン、トミー・ガードナーがバンドに加わり、ビーチ・フォッシルズの大凡の体制が整うことになります。


2013年、ビーチ・フォッシルズは「Clash The Truth」をリリース。Wild Nothingのジャック・テイタムがレコーディングに参加したほか、ニューヨークのインディーシーンで著名なロックバンド、Blonde Redheadの牧野カズが「In Vertigo」でゲストヴォーカルをつとめたことでも大きな話題を呼び、パンク・ロックサウンドとドリーム・ポップサウンドを融合させたサウンドで、日本においても、このロックバンドの名がコアな音楽ファンの間で知られていくようになりました。

 

2015年、ビーチフォッシルズは、これまで全ての作品をリリースしてきた”Captured Tracks”を離れ、ダスティン・ペイザーの妻、ケイティ・ガルシアが新たに設立したインディーズレーベル”Bayonet  Records”に移籍しています。

 

Forbes誌のインタビューにおいて、どのようにダスティン・ペイザーと出会ったのか、及び、新しいレコード・レーベルの設立の経緯について尋ねられた”Bayonet  Records”のオーナー、ケイティ・ガルシアは、「キャプチャード・トラックスで自身がインターンに来てていたときに、ダスティン・ペイザーがビーチ・フォッシルズの7インチレコードを探しに来ていた際、社屋で出会ってから、数日後のデートで四年早送りして結婚したこと、また、その延長線上にインディーレーベルの設立があった」。


さらに、バヨネットレコードの掲げる理念については、「Stones Throw、ROUGH TRADEといった歴史のあるインディペンデント・レーベルの運営に触発されている」とインタビューで語っています。(後に、これまでのCaptured Trackesからリリースされたビーチ・フォッシルズのカタログのライセンスは、ケイティ・ガルシアの主宰するバヨネットレコードに移っている)

 

2016年、ビーチ・フォッシルズは、Fooxygenのフロントマン、ジョナサン・ラドをプロデューサーとして迎え入れ、作品「Somersault」のレコーディング作業に入りました。これまでのスタジオアルバムの楽曲を手掛けてきたダスティン・ペイザーは、このレコーディングに際し、初めて他のバンドメンバーにソングライティングを委ねています。主にベーシストのジャック・ドイルスミス、初期からのギタリストとして参加してきたトミー・デイビッドソンがアルバム製作に大きな影響を及ぼした作品。

 

表題曲「Somersault」を始め、これまでにはなかった、ピアノ、チェンバロ、フルート、サックスといった楽器が取り入れられ、クラブミュージック、ジャズ、クラシックをクロスオーバーした新境地を「Somersault」でビーチ・フォッシルズは開拓しています。

 

 

 

 

「The Other Side Of Life:Piano Ballad」 2021  Bayonet Records

 



 

 

 

 Tracklisting

 

1.This Year(Piano)

2.May 1st(Piano)

3.Sleep (Piano)

4.What a Plaesure(Piano)

5.Adversity(Piano)

6.Down The Line(Piano)

7.Youth(Piano)

8.That's All For Now(Piano)

 

 

 

「This Year」

Listen on:Youtube

 

 

https://youtu.be/od79W1xkNfE 




 

 

今週のおすすめの一枚として紹介させていただくのは、昨日、11月19日にリリースされたばかりの作品。ビーチ・フォッシルズのこれまでの楽曲のセルフアレンジカバー「The Other Side Of Life:Piano Ballad」となります。

 

これらのジャズアレンジカバーは、このバンドのフロントマン、ダスティン・ペイザーと元はドラマーとして、2011年から2016年にかけて、ビーチ・フォッシルズのバンドサウンドのダイナミクス性をもたらしていたトミー・ガードナー(現在は中国に移住)によって、二人三脚で真摯に取り組まれたジャズアレンジ作品です。

 

アルバムタイトルの「The Other Side Of Life」は、前作「Somersault」に収録されている名曲「This Year」に因んでいます。


この作品は、2020年のNYのロックダウンの最中にレコーディングが開始されました。フロントマンのダスティン・ペイザーがかつてのバンドメンバーのトミー・ガードナーに連絡を取り、ペイザーがガードナーの演奏を聴いたとき、彼はこの親友の持つジャズの類まれな才覚に驚き、すぐさま「What A Presure」「Clash The Truth」「Somersault」というこれまでのビーチ・フォッシルズのスタジオアルバムなから曲を選び、ジャズアレンジメントにとりかかることになりました。

 

この作品「The Other Side Of Life」が時代性とはまったく距離を置いており、マイルス、コルトレーンがコロンビアのレコーディングスタジオで伝説的な録音を行った時代に立ち返ったようなサウンドの雰囲気を感じるのは、他でもなく、ビーチ・フォッシルズの二人の盟友がNYという都市の持つ文化性に対する深い愛着をもち、その誇りを現代人として後に引き継ぐ考えがあったからと思われます。


また、この時代において時代性を感じさせない音楽が生まれていることについては、日常の異常な出来事の連続に対する戸惑い、また、次の作品が出せるかどうかもわからない状況において、こういった時間という概念を失ったかのような、例えるなら、時空をあてどなく彷徨うかのような雰囲気を持った独特な作品が生みだされた理由であるように思えます。

 

フロントマンのダスティン・ペイザーは、この作品をトミー・ガードナーと取り組むに当たって、旧友のジャズのアレンジメントを尊重しつつ「これまでのビーチ・フォッシルズのヴォーカリストとしての歌い方、音楽性のスタイルを変えるつもりはなかった」と語っています。


推測するに、ダスティン・ペイザーがこのようなことを語ったのは他でもなく、人生の異なる側面と題された作品を、旧時代に立ち返ったかのようなニューヨークジャズとして捉えつつ、そこに現代人としてのプライドのようなものを、前の時代のニューヨークの文化性に加えて伝えたかった。今、自分たちが現在に生きていることの証しを音楽という表現を介して伝えたかったのだろうと思われます。

 

もちろん、ひとつの作品として聴いた上では、ジャズとして極上の逸品がこの作品には幾つか見られます。トミー・ガードナーのジュリアード音楽院の卒業生というキャリアによる多才な才覚が遺憾なく発揮されており、ピアノ、サックス、ベースの美麗な演奏により、ダスティン・ペイザーのアンニュイなヴォーカルをこの上なくゴージャズに引き立て、既存の発表曲にジャズという新鮮な息吹を吹き込んでみせた傑作といえるでしょう。


勿論、そういった表面上におけるジャズの楽曲としての完成度の高さもさることながら、この作品を聴いて感じるのは、表向きの曲の印象を遥かに上回る二人の製作者の深い人間味あふれる高い感慨が込められていることもまた事実といえるでしょう。

 

それは、どんなものかを端的に述べるのはとても難しいようです。しかし、それは音楽という得難い表現芸術の一番の魅力でもあるはず。例えば、ドビュッシーは、「言葉が尽きたときに音楽がはじまる」という、エスプリの効いたおしゃれな名言を残していますが、その言葉はこの作品にも充分適用出来るはず。かつて、共に、ビーチ・フォッシルズのバンドメンバーとして活動してきた二人の温かな時空を越えた友情と喩えるべきもの。それが音楽という淡い感情表現として克明に描かれていることが、今作の素晴らしさといえそうです。


しかし、否定しておきたいのは、これは美談などではなく、時空を越えた、眼前の困難をもろともしない何かがこの世には実在するということ。それは、何らかの目に映る現象よりもはるかに美しくて、なおかつとても力強いものだということ、そのことを、ビーチ・フォッシルズの秀逸なジャズアレンジを聴くにつけはっきりと感じていただけるはずです。

 


 Apifera

 

アピフェラは、イスラエル出身のYuvai Havkin、Nitaii Hershkovis、Amir Bresler、Yonatan Albarakの四人によって結成されたジャズ・カルテット。音楽性は、電子音楽、ジャズ、民族音楽、また、オリジナルダブのような様々な音楽のクロスオーバーしたものであるといえるでしょう。

 

テルアビブに活動拠点を置くアピフェラは、2020年、LAの比較的知名度のあるインディペンデントレーベル”Stone Throw Records”と契約を結び、七作のシングル盤、一作のスタジオアルバム「Overstand」をリリースしています。活動のキャリアは二年とフレッシュなグループではありますが、それぞれ四人のメンバーは既にソロアーティストとしてアピフェラの活動以前に地位を確立しています。


彼ら四人の生み出す音楽性には、イスラエルという土地に根ざした概念性が宿り、西欧とも東洋とも相容れない独特な文化性によって培われたアート性が込められています。それはこの四人の音楽のバックグラウンドの多彩さにあり、イスラエルのフォーク・ミュージック、フランス近代の印象派の音楽家、モーリス・ラヴェル、エリック・サティ、スーダンとガーナの民族音楽、サン・ラのようなアヴァンギャルドジャズ、スピリチュアルミュージックまで及びます。従来の音楽スタイルを好んで聴いてきたリスナーにとっては、初めて、ポストロック界隈の音楽、あるいはまた、シカゴ音響派の音楽に接したときのようなミステリアスかつ魅惑的な音楽に聴こえるかもしれません。

 

イスラエル出身のアピフェラの音楽は、グループ名の由来である「蘭に群がるミツバチ」に象徴されるように、色彩豊かなサイケデリアのニュアンスも存分に感じられるはず。しかし、それは例えば、アメリカのサンフランシスコの1970年代に生み出されたサイケデリアとは異なり、アフリカの儀式音楽に根ざしたサイケデリア、西洋側の観念から見ると、相容れないような幻想性が描き出されているのが面白い。そのサイケデリア性は、全然けばけばしくもなく、どきつくもない、上品な雰囲気も滲んでいるのを、実際の彼らの音楽に耳を傾ければ、気づいていただけるでしょう。そのニュアンスは、これまで彼らがリリースしてきた作品のアルバム・ジャケットを見ての通り、ミステリアスでありながら、心休まるようなエモーションによって彩られているのです。

 

アピフェラの音楽は、即興演奏によって生み出される場合が多く、それがこのカルテットの音楽を生彩味あふれるものとしている。実際の作曲面においては、音の広がり、テクスチャー、音の温度差、といった要素に重点が置かれ、この3つの要素が、シンセリード、ギター、ベース、ドラム、電子音と楽器のアンサンブルの融合によって立体的に組み上げられていく。

 

また、オーバーダビングの手法を多用するあたりには、故リー・スクラッチ・ペリーのようなダブアーティストとの共通点も見いだされる。それから、ハウスのブレイクビーツのリズム性を取り入れたり、ジャーマンテクノのような旋律を取り入れたり、また、アバンギャルド・ジャズの領域に恐れ知らずに踏み入れていく場合もある。総じて、イスラエル、テルアビブ出身の四人組、アピフェラのサウンドは前衛的でありながら、懐かしいようなノスタルジアも併せ持っており、それは、このジャズカルテットの中心人物、Nitai Herdhkovisが語るように、「現実よりも明晰夢のような」サウンド、色彩的なサイケデリアが楽器のアンサンブルによって表現されています。

 

 

 

・「6 Visits」 EP   Stone Throw Records

 

 

 さて、今週の一枚として紹介させていただくのは、11月10日にLAのStone Throw Recordsからリリースされたばかりのイスラエル出身のアピフェラのミニアルバム「6 Visits」となります。

 

 




Tracklisting 


1.Beyond The Sunrays

2.Half The Fan

3.Psyche

4.Visions Fugitives-Commodo

5.L.O.V.E

6.Plaistow Flew Out


 

 

「Beyond The  Sunrays」 Listen on youtube:

 

https://www.youtube.com/watch?v=YQwpdB4VkPA 

 

 


Listen on Apple Music

 

 

他にも今週はブルーノ・マーズ擁するsilksonicの「An Evening At Silksonic」」が発表されたり、また、ジミー・イート・ワールドの「Futures」のライブ音源、また、KISSのデモ音源のリイシュー盤だったりと、比較的、話題作に事欠かない、今週の音楽のリリース状況ではありますが、今回、イスラエル出身のApiferaの新譜を紹介しておきたいのは、「6Visits」がミニアルバム形式でありながら、既存のヨーロッパやアジアの音楽シーンにはあまり存在しなかった前衛的作品であり、聞きやすく、スタイリッシュな格好良さもある。つまり、この作品「6 Visits」が多くのコアな音楽ファンにとって、長く聴くにたるような作品になりえるという理由です。

 

既に、前作のスタジオ・アルバム「Ovestand」において、異質なサイケデリックテクノ、プログレッシブテクノの一つの未来形を示してみせたテルアビブの四人組は、このEP「6 Visit」においてさらなる未知の領域を開拓しています。

 

このミニアルバムは、多くがインストゥルメンタル曲で占められていますが、ここに表現されているニュアンスは多彩性があり、このイスラエル、テルアビブ出身の四人組のカルテットの演奏に触れた聞き手は不思議な神秘性を感じるであろうとともに、バンド名「Apifera」に象徴づけられるように、さながら、蘭の花からはなたれる芳香に群がるミツバチのようにその音の蠱惑性にいざなわれていくことでしょう。ミステリアスな雰囲気は往年のプログレを思わせ、アバンギャルドジャズ的でもあり、ダブ的でもありと、音楽通をニンマリさせること請け合いの作品。

 

そこには、往年のジャーマンテクノ、また、YESのようなプログレッシブ・ロックのようなシンセサイザー音楽のコアな雰囲気が漂い、そして、ハウスのブレイクビーツを実際のドラムにより生み出すという点では、現代のイギリスあたりのフロアシーンの音楽にも通じるものがあるようです。

 

一曲目「Beyond The Sunrays」は、流行り廃りと関係のない電子音楽が展開されています。その他、オリジナルダブの原点に立ち戻った「Half The Fan」も、懐かしさとともに渋い魅力を兼ね備えています。

 

今作品に収録されているのはインストゥルメンタル曲だけではありません、三曲目「Phyche」は、ヴォーカルトラックとしてのエレクトロミュージックが展開され、ニュー・オーダーの音楽性にも近いクールさが込められているように思えます。

 

さらに、イスラエルの伝統的なフォーク音楽を、電子音楽の要素を交えて組み上げた「Visions Fugitives-Commodo」も、エレクトロニカをより平面的なテクスチャーとして捉え直した実験的な楽曲。また、アフリカ民族音楽を電子音楽という観点から再解釈した「Plaistow Flew Out」も、イギリスの最新のフロアシーンにも引けを取らないアヴァンギャルド性を感じていただけることでしょう。

 

表向きにはアバンギャルド性が強い作品ですけれど、作曲と演奏の意図は飽くまでリスナーの心地よさ、楽しませるために置かれ、もちろん、フロアで聴いて踊ってもよし、また、家でゆったり聴いても良しと、幅広い選択を聞き手に与えてくれる。全体的に見ると、新しいダンスミュージックの潮流、IDMという音楽の次なる未来形は、このアピフェラのEP作品を聴くにつけ、このあたりのイスラエル、テルアビブ周辺から出てくるのではないかと思うような次第です。

 

総じて、サイケデリアに彩られながらも知性溢れる作品であり、静かに聴いていると、音の持つミステリアスな精神世界の中に底知れず入り込んでいくかのような、深みと円熟味を持ち合わせた音源です。それほどイスラエルというのは多くの人にとってはまだ馴染みのない地域の音楽であるように思われますけれど、これから面白いアーティストが続々と出て来るような気配もあります。イスラエルのフロアミュージックシーンきっての最注目の作品としてご紹介致します。

 

 

・Apiferaの作品リリースの詳細情報につきましては、以下、Stone  Throw Recordsの公式サイトを御参照下さい。

 

  

Stone Throw Records Offical Site 

 

 https://www.stonesthrow.com/

 

 

 

 

 

 

 Snail Mail

  

 

スネイル・メイルは、NYを拠点に活動するシンガーソングライター兼ギタリスト、リンジー・ジョーダンによるソロプロジェクト。

 

2015年、リンジー・ジョーダンはバンド形態で活動をはじめ、同年にEP「Sticki」をリリースし、ライブを行うようになります。その後、ベーシストのライアン・ビレイラ、ドラムのショーン・ダーラムが加入。2016年には、バンド形態で自主ツアーを敢行した後、最初の公式リリースとなるEP「Habit」をSister Polygon Recordsからリリース。


この作品「Habit」は、アメリカの幾つかの著名音楽メディアで取り上げられ、これを機に、Ground Control Touringと契約を結ぶ。この際、Pitchforkは「Thinking」が名物コーナー”Best New Track”として特集されている。


その後、2017年に、スネイル・メイルは、北米ツアーを敢行し、プリースト、ガールプール、ワクサハッチーを回り、NYのビーチ・フォッシルズのサポートアクトを務める。翌年、リンジー・ジョーダンは十代の若さで、NY名門レーベル(かつてはコーネリアスも所属)Matadorと契約を結び、アルバム「Lush」をリリース。カート・コバーンの元妻、コットニー・ラブにも楽曲を提供している。


スネイルメイルの音楽性は、インディーロック、フォークの王道を行くものであり、女性版カート・コバーンの再来といっても過言ではないはず。凄まじい風格を持ったインディー・ロック・クイーンの誕生を予感させる。今月の下旬から、故郷のバルティモアをはじめ、大規模ツアーを控えているスネイル・メイルことリンジー・ジョーダン。これから日本でもブレイクは間近と思われる再注目のクールなアーティストのひとり。

 

 

 

「Valentine」Matador Records

 




Tracklisting

 

1.Valentine

2.Ben Frankilin

3.Headlock

4.Light Blue

5.Forever(Sailing)

6.Madonna

7.c.et.al.

8.Glory

9.Automate

10.Mia



 
 
Featured Track Snail Mail「Mia」Official PV
Listen On Youtube : 
 

https://youtu.be/Zx4vvTgsbuI 

 

 

さて、今週のオススメの一枚として取り上げさせていただくのは、11月5日にリリースされたスネイル・メイルの最新アルバム「Valentine」となります。

 

先々月からシングル盤「Valentine」が先行リリースされており、アメリカのメディアにとどまらず、イギリスの音楽誌等においても、大掛かりな特集が組まれていました。そして、今週に入り、スネイル・メイルは、このアルバムに収録されている「Madonna」のNYでのライブヴァージョンを発表。この瞬間、ローリングストーン、NMEをはじめとする音楽メディアがかなり色めきだっていました。今となっては、これらの音楽誌の記者は、既にアルバムのサンプルを聴いていたのか、「2021年代を代表する相当な傑作が出た!?」という確信の下、幾つかの記事を大々的に掲載したのかもしれません。そして、実際、この新作アルバムを聴いて思ったのは、その予想を遥かに上回る凄まじいクオリティの作品が発表された、というのが正直な感慨です。


先行リリースされたシングル作を聴くかぎりでは、もう少しアップテンポの曲が多いのを予想していましたが、インディー・フォークの王道を行く楽曲、また、しっとりとしたバラードも収録されており、一つの作品として絶妙なバランスが取れた傑作に仕上がったという印象を受けます。もちろん、これまでのリンジー・ジョーダンの作品のローファイ寄りのポップス性というのは、歴代の作品に比べてさらに磨きがかけられ、どのトラックも宝玉のような眩いばかりの輝きを放っています。特に、デビュー当時からの資質に加え、SSWとしての凄まじい覇気のようなものが、今作全トラックに宿っています。曲自体の完成度が高いだけにとどまらず、インディーロックアーティストとしての何らかの主張性がこの作品全体には通奏低音のように響いています。

 

また、特筆すべきなのは、このスネイル・メイルのスタジオアルバムの最も心惹かれる表題曲「Valentine」においては、レズビアンのままならない恋愛について、もしくは、現代の監視社会に対する提言といった、若い年代のアーティストにしかなしえない社会に対する主張性を込めた歌詞が熱烈に歌われているのも魅力です。それに加え、インディーフォークアーティストとして天才性が発揮された#3「Headlock」#4「Light Blue」といった楽曲も、このスタジオアルバム作品に、淑やかな華を添えています。

 

特に、本作の有終の美を飾る#10「Mia」は、これまでのスネイル・メイル、リンジー・ジョーダンが書いてこなかったタイプのストリングスのアレンジをフューチャーした少しだけジャズの領域に踏み入れた直情的な名バラードとして聞き逃せません。クリーントーンのギターに弾き語りという形の楽曲であり、今年、聴いた中では、ノラ・ジョーンズのクリスマスソングと共に最も美しい曲のひとつに挙げられます。

 

今年のインディー・シーンの女性アーティストの作品の中では、ラナ・デル・レイのアルバムが最も際立っていると考えておりましたが、それを遥かに上回る大傑作の誕生の瞬間です。2020年代のインディー・ロックの最良の名盤として次世代に語り継がれる作品がリリースされたことに際し、ひとりの熱烈な音楽ファンとして本当に喜ばしく思い、また、ちょっとだけ、ホロリと感動。文句の付け所のない完璧な大傑作の登場です!! 

 

 
Snail Mailの「Valentine」のリリースの詳細情報については、Matador Records公式サイトを御覧下さい。
 
 

Matador Records Official Site


https://www.matadorrecords.com/
 

 

  

 

 

 

 Vanishing Twin


バニシング・ツインは、英イーストロンドンを拠点に活動する話題沸騰中のサイケデリックポップバンドです。

 

バンドの作曲を担当し、マルチインストゥルメント奏者、ボーカルも兼ねるキャシー・ルーカス、ドラムのバレンティーナ・マガレッティ、ベースの向井進(ソンガミン)、ギターのフィル・MFU、映画製作者、ヴィジュアルアーティストとしても活躍するフルート奏者、エリオット・アーントの五人で2015年に結成。現在、バニシング・ツインは、カルテットとして活動しています。

 

バンド名のあまり聞き慣れない”バニシングツイン症候群”は、多胎の片方の成長が停止し、ひとりだけ出産、発育する非常に珍しい症例。


これについては、このバンドのフロントマンでヴォーカリストを務めているキャシー・ルーカスの妊娠中における奇妙な体験に因んでいるようです。

 

このカルテットは、ベルギー人、日本人、イタリア人、フランス人、と、イギリスへ移民をしたメンバーによって構成されている国際色豊かなグループ。このカルテットの音楽は独特なバックグラウンドがあり、哲学や宗教や政治、ポピュリズムやレイシズムに対する反駁を音楽の中に込めています。サイケデリック色を打ち出した独特な音楽性で国内外のインディーシーンでセンセーショナルな話題を呼んでいるグループです。

 

ヴァニシング・ツインは、2016年、英国のSoundway Recordsから「Choose Your Own Adventure」でデビュー。その後、2018年に「Magic&Machines」、2019年には「The Age Of Immunology」の二作のスタジオアルバムを発表しています。


二作目の「免疫学の時代」という題されたタイトルは、人類学者A.デビットネイピアの著書に因み名付けられ、「非自己を排除することにのみ生き残る事ができる」という人類学の理論について書かれているらしいですが、この命題は、バニシング・ツインというフロントマンのキャシー・ルーカス自身の出産の際の症例に非常に近似した考えが見いだされるように思えます。

 

バニシング・ツインは、これまで、多国籍からなる音楽的な幅広いルーツを活かし、イギリスのミュージックシーンに新たな革新をもたらしています。もちろん、この四人組のサウンドは、現代の英国のサウスロンドンのリバイバル・シーンのロックバンドと同じように、サブスクリプション時代の音楽史を自在に横断出来る利点を活かし、比較的古い1960年代や1970年代の音楽、ELOやPファンクサウンドをバンドサウンドの主要なコンセプトにしています。アフロ・ファンク、ジャズ、アヴァンギャルド性を色濃く打ち出し、そこに、サンラ、アリス・コルトレーン,マーティン・デニー、モリコーネ、フリーデザイン、CANのホルガー・シューカイ、インドネシアのガムラン音楽、六十年代後半から七十年代初頭のライブラリ音楽に深い影響を受けながら、それを別次元の新鮮味のあるニューミュージックとして完成させています。

 

また、海外音楽批評では、ヴァニシング・ツインのサウンドはStereolab,AFX,CANとの比較がよくなされており、どうやら、評論家達は常に比較分類学としてこのカルテットの音楽を捉えずにはいられないようです。さて、この四人組のサウンドは、サイケデリアの向う側に見えるネオサイケデリアという見方がされているかと思いますが、「心霊学」という奇妙な驚くような呼称も与えられています。それは、このカルテットのサウンドが異質なこの世のものではない幽界の領域で聴こえるような、異質で危うい雰囲気も併せ持つからなのでしょう。

 

それは冗談だとしても、ベルギー、フランス、日本、イタリア人と複数の国家、あるいはその土地の風土からもたらされる音楽性をルーツに持つ芸術家により構成されるバニシング・ツインの特異なサウンドは、そういった批評性を度外視したとしても、充分に楽しめるものであることも事実です。性別、国籍、人種、こういった人間の生み出した固定観念からかけ離れた自由でのびのびとした気風に満ちており、そしてまた、これまで、リリースされた作品においてバニシング・ツインは、おしゃれでスタイリッシュな創造性の高い音楽性を生み出してきており、これからの2020年代からの未来の音楽の潮流を決定づけてもおかしくない先進的な作風と言えそうです。

 

まだまだ、実際の音楽性にとどまらず、プロフィールについても多くの謎に包まれており、新たな音楽シーンの幕開けを予感させるような新奇性あふれるイギリスの前衛芸術集団として注目しておきたいところです。



「Ookiii Gekkou」 2021 Fire Records

 




TrackListing

 

1,Big Moonlight(Ookii Gekkou)

2,Phase One Million

3,Zuum

4,The Organism

5,In Cucina

6,Wider Than Itself

7,Light Vessel

8,Tub Erupt

9,The Lift

 

 

FeaturedTrack 「Big Moonlight (Ookii Gekkou)」

 Listen on youtube:

https://www.youtube.com/watch?v=-0cE92oSi7E 

 

 

さて、今週の一枚として、ご紹介させていただくのは、英国のラフ・トレード周辺のインディーシーンを賑わせているバニシング・ツインの最新作「Ookii Gekoou」となります。

 

前作「免疫学の時代」は、ラフ・トレードが年間最優秀アルバムに選出しており、メジャーシーンから距離を置いたインディーアーティストらしい活動初期からの気骨ある作風を貫いています。そして、10月下旬、Firerecordsからリリースされたこの作品は、海外のレビューにおいて「大きい月光」という日本語が奇妙なインパクトを与え、センテンスの意味を説明していますが、ここでは、この日本語について「Big Moonlight」の意味であると説明する必要がなさそうなのでいくらかホッとしています。


もちろん、バニシング・ツインの最新作もまた前作「免疫学の時代」と同じように、一般的なリスナー向けの作品ではないですし、バニシング・ツインのメンバー、特にこのカルテットの主要な音楽性を生み出しているフロントマンのキャシー・ルーカスも売れ線や一般受けを狙って作製した音源ではないことは、実際のこの音楽を聞いていただければ理解してもらえるかと思います。

 

幾つかの海外の主要な音楽サイトのレビューにおいても、まだ、この海のものとも山のものともつかないサウンド「大きい月光」については、様々に意見が分かれていて、というか、誰一人として、明確に、このバニシング・ツインのサウンドが説明できないため、最終的には、奇妙な「心霊学」「鏡の向こう側にある世界の音」と、少し笑ってしまうような強引な結論が導き出されています。しかし、こういった新しい音楽をこねくりまわしてしまうのが悪癖であり、純粋に、音としてたのしんでみたさいには、それほど難解でなくて、ラウンジ・ジャズのような爽やかさのあるBGMのような音楽として、または、カフェでゆったり寛ぎながら聴くような音楽として、聴くことが一番なのかなあという気がします。

 

もちろん、そういった完成度が高いサイケデリックポップ音楽、このカルテットの演奏力が並外れているからこそ生み出し得るもの。特に、この異形ともいえるサイケデリックサウンドの骨格、音楽観を形作しているのは、キャシー・ルーカスの爽やかでありながら神秘的なヴォーカル、そしてマガレッティの生み出す癖になるファンクビート、フィル・MNUの、フランジャー、ワウ等のエフェクターを噛ませたPファンクのようなギターリフの反復性、それからなんといっても、日本人ベーシストの向井進のジャズから色濃い影響を受けた対旋律的フレーズが生み出す多彩さにより、唯一無二の摩訶不思議なアフロファンクが生み出されています。そして、音を純粋に聴いてみると、この多彩性溢れる音楽こそが、レイシズム、ポピュリズム、国家主義、全体主義という大きな概念を打ち倒すためのアンチテーゼともなっているのかもしれません。

 

言葉がないゆえに、もしくは、言葉があるゆえに、ときに、人間というのは音楽という概念を大きく勘違いしてしまうわけですが、このバニシング・ツインはきわめて強固な幾つかのこの世に蔓延する固定観念、常識、また奇妙な全体主義を、多人種により構成された世界基準の音楽によって打ち崩してみせようとしているのかもしれません。それらの概念がおしゃれな音楽的アプローチにより展開されていくのが痛快といえ、ときに、アフロファンク、サイケ、また、ときには、デュッセルドルフの電子音楽のように、多角的な視点から実験音楽が生み出されているのです。

 

そもそも、中世の時代から、音楽というのは、一地域固有の性格、ある地域だけの持つ気風を有してきました。それは、トラディショナル、クラシック音楽の時代から、ブラック・ミュージック、ジャズ、ロック、ラップ、その後の時代も、ある地域を中心に発展していくのが音楽だったんですけれども、このバニシング・ツインはその一地域に限定された音楽を越えて、世界音楽とも呼ぶべき領域に踏み入れていると言えるかもしれません。現代の大きな壁が建設されようとしている時代にその壁に対して一石を投ずるべく登場したアート集団として、この大きな「人類の分離」、それにまつわる「人種の排斥」という分厚い壁を音楽という概念によって打ち砕こうと試みているのです。

 

既に、2020年代の音楽、ひいては芸術作品は、一つの国家の所有物ではなくなりつつあり、世界じゅうの多くの人々によって、性別、人種、貧富の差、条件に関係なく、ひとつに集約されるべきものとなった。そんな、今後、2020年代以降の音楽の中心テーマになりえる強固な概念を、2020年のロックダウン最中にレコーディングが行われたきわめて前衛性の高いスタジオ・アルバム「大きい月光」という作品中に見出すことは、それほど難しい話ではないはずです。

 


Vanishing Twin Official HP


https://www.vanishingtwin.co.uk/



Norah Jones 


ノラ・ジョーンズはニューヨーク州ブルックリンを拠点に活動するピアノ弾き語りのジャズシンガーです。


ジャズを中心とし、ソウル、カントリー、フォーク、と間口の広い音楽性をポップスに込め、世界中の多くの聴衆を虜にしてきました。ハイスクール時代から、最優秀ジャズ優秀賞を受賞。その後、ジャズ北テキサス大在学中にジャズ・ピアノを専攻しつつ、ラズロというジャズ・ロックバンドで活動しています。


大学三年生の時、友人に誘われ、ニューヨークのマンハッタンに旅行をする。テキサスからニューヨークへの長い旅において、ノラ・ジョーンズはマンハッタンに居を構える多くのソングライターたちに大いに触発を受け、それ以後、ウェイトレスとして働きながら、ソングライティングを始める。この頃から、ジェシー・ハリス、リー・アレクサンダー、ドン・リーザーと一緒にバンド活動に専念するようになります。


大歌手ノラ・ジョーンズとしての人生の分岐は、2000年に訪れました。本場ニューヨークのブルーノートで、バンドのデモ曲を2000年10月にレコーディング。


これは「ファーストセッションズ」という形式でリリースされましたが、現在は廃盤となっています。


しかし、この録音の際に、ブルーノートのブルース・ランドヴェルが彼女の類まれなる才覚を見抜いており、それから見事、その後、ジョーンズは晴れて、翌年の2011年の1月、ブルーノートとの契約に漕ぎ着けました。


2001年5月には、グレイグ・ストリートをプロデューサーに迎え入れ、デビュー作「Come Away With Me」のレコーディングを開始。


同年8月には、アリフ・マーディンをエンジニアに招き、この作品は、翌年の2月になってようやくリリースされることになる。「Come Away With Me」がリリースされる間もなく、このデビューアルバムの評判はあっという間に広がり、各国のチャートで一位を独占。「Don't Know Why」を始め、親しみやすく、ジャズ風のアレンジメントを加えたポップ・ソングは、多くの人々を魅了し、世界で大ヒットを記録しました。



デビューアルバム「Come Away With Me」で、ノラ・ジョーンズは、2003年のグラミーを総なめ。スタジオ・アルバムとして、最優秀賞、最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞、最優秀録音賞)三冠に輝く。またシングル・カットされた大ヒット曲「Dont't Know Why」は、優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀女性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス賞の三冠に輝いています。


しかし、ノラ・ジョーンズ本人は、レコーディングの最中から、グラミー獲得の期間まで、アリフ・マーディンという著名なエンジニアとのやり取りというのも恐れ多いという感じであったといい、また、このデビュー作で得ることになる世界的な成功については完全な想定外であったと回想しています。


その後、2004年、2ndアルバム「Feels Like Home」をリリース、アルバムチャートで4週連続一位を獲得、累計4000万枚のセールスを記録。そして、見事、翌年のグラミー賞三部門の栄冠に輝いています。しかし、この後ノラ・ジョーンズは、過分な注目を受けたことに戸惑いを感じ、2005年の春、コンサートとレコーディングを取りやめ、三年余り活動を休止することになります。


2007年にノラ・ジョーンズは、ついに三年間の沈黙を破り、サード・アルバム「Not Too Late」を発表を行う。デビュー以来初めてノラ・ジョーンズ自身が作詞、作曲を担当している作品で、レコード会社の方もこのリリースについては何も知らされていなかった。つまり、世界的なインディー作品といえます。


また、2009年から、ノラ・ジョーンズはコンスタントに作品を発表しており、「The Fall」「Covers」「Little Broken hearts」「Day Breaks」「Begin Up Me」と、以前ほどの注目こそ集めていないものの、聞きやすくて、親しみやすいジャズ・ポップをリリースして活発な創作意欲を見せています。


昨年、2020年には力作「Pick me Up Off The Floor」を発表し、実力派のSSWとしての底力を発揮しており、いまだ才気煥発なポップシンガーとしての進化を見せています。


ノラ・ジョーンズの最初のグラミー賞でのビッグサクセスは寧ろ序章、これから本章がやってくる女性シンガーとして、あらためて注目したいポップシンガーの一人でしょう。


Norah Jones「I Dream Of Christmas」2021 Blue Note

 

さて、今週の一枚としてご紹介させていただくのは、前週のスペシャルズのプロテスト・ソングに続いて、クリスマスソングカバー「I Dream Of Christmas」となります。おなじみのブルーノートからのリリースで、ノラ・ジョーンズの初めてのホリデイ・ソング集のリリースとなります。


 

 


TrackLisiting


1.Chrismas Calling(Norah Jones)

2.Christmas Don't Be Late(Ross Bagdasarian,Sr.)

3.Christmas Glow(Norah Jones)

4.White Christmas(Irving Berlin)

5.Christmastime(Norah Jones&Leon Michesls)

6.Blue Christmas(Billy Hayes & Jay W.Johnson)

7.It's Only ChristmasOnce A Year(Norah Jones)

8.You're Not Alone(Norah Jones & Leon Michels)

9.Winter Wonderland(Richard B.Smith & Felix Bernard)

10.A Holiday With You(Norah Jones)

11.Run Rudolph Run (Johnny Marks & Marvin Brodie)

12.Christmas Time Is Here(Lee Mendelson & Vince Guaraldi)

13.What Are You Doing New Year's Eve?(Frank Loesser)


 

※ボーナス・バージョンは、14曲目に、Oh Holy Night(Traditional arranged by Norah Jones & Leon Michesls)が追加収録されています。

 

六曲のオリジナルソングに加え、往年のクリスマソングの名曲をバランス良く収録した傑作で、「White Christmas」「Winter Wonderland」を始め、聴くと聞き覚えのある永遠のクリスマスソングがずらりと並び、ゴージャスなラインナップとなっています。もちろん、少し早いクリスマスソングとして聞きつつ、来月にやってくるであろうファンタスティックなクリスマスを待ちわびるという楽しみ方もありでしょう。


しかしこのアルバムは、凡百のカバーアルバムのように、ただのカバー作品として評価するのは礼に失する創意工夫がこらされた作品であり、ジョーンズ自身の愛するクリスマスソングを収録したカバーアルバムであるとともに、オリジナルの新作として聴く事も出来なくはない聴き応えのある豪華なクリスマス作品で、ジョーンズが新たな音楽性でまだ見ぬ境地を切り開いたということが理解してもらえると思います。


この新作のクリスマス・カバーアルバム「I Dream Of Christmas」を聴いてあらためて思ったのは、このノラ・ジョーンズというシンガーの本領がいかに素晴らしいものであるのかということです。今作品を聴いていると、かのエタ・ジェイムズが、もしくは、かのアレサ・フランクリンが現代に蘇ったのではないかと聴き紛うほどの奇妙な歌手としてのオーラの大きさが感じられます。


今作では、デビュー当時、いや、それを上回るような水準においてのノラ・ジョーンズの本格派のジャズシンガーとしての本領が存分に発揮され、ここには心を震わさせる「魂」が込められており、また、以前よりも自信を持って歌っているような雰囲気があって、往年のファンとしては何かしら頼もしさすら感じます。


デビュー当時の存外のビックサクセスにおいて、ノラ・ジョーンズが歌手であることに対する戸惑いを乗り越えた先に見出した「本物の歌手」としての凄まじい底意地が感じられます。


そして、このレコーディングの風景を実際に見たわけでもないにもかかわらず、異質な迫力、往年の名シンガーの祖霊が宿ったかのような雰囲気が漂い、例えば、エタ・ジェイムスに比する凄まじいシンガーとしてのオーラを感じる作品に仕上がっています。


10月14日にリリースされたばかりのこのクリスマスソング集「I Dream Of Christmas」には、制作秘話があり、ノラ・ジョーンズは、昨年のパンデミックの厳しい状況下で毎週の日曜日にクリスマスソングを聴きながら厳しい状況下において大きな慰みを見出し、人生の活力を保ち続けていたようです。


ジョーンズは、ある日には、ジェームス・ブラウンの「ファンキークリスマス」を聴き、また、次の週にはエルヴィス・プレスリーの「クリスマス・アルバム」を聴いていたようです。これらの素敵なクリスマスソングが、彼女に歌手として、リスナーに音楽という希望=ギフトを与えるという動機を与えたことは間違いありません。その人生経験を元に、ジョーンズは今回のカバーアルバムの構想を入念に組み上げていきました。


ノラ・ジョーンズは、プレスリリースの会見時には、「2021年1月、私は自分のクリスマス・アルバムを制作することを思いついたんです。それは、私に大きな楽しみをあたえてくれました」と語っています。


オリジナルアルバムの一曲目「Christmas Calling(Jolly Jones)」は、ジョリー・ジョーンズというウィットが効いたユニークさが感じられる(Jolly jonesはHappyの意)新曲で、「Christmas Grow」をはじめとするオリジナルソングと共にこの偉大なシンガーソングライターの新たな代名詞、次なるライブレパートリーともなりえる素晴らしさ。


また、きわめつけは、リードトラック「「Christmas Calling(Jolly Jones)では、このように、楽しげに、来月にやってくる仕合わせなクリスマスに対する大きな期待と希望が子供のような無邪気さで歌われています。


”音楽の演奏を聴きたい

踊り、笑い、揺れたい、

クリスマスの幸せな休日を過ごしたい”

 

 

Featured Track「Chrismas Calling(Jolly Jones) 

Norah Jones Official Visualizer
Listen On youtube:

 https://m.youtube.com/watch?v=0iFK2NiyvDg&feature=emb_imp_woyt


 

Norah Jones Offical HP

https://www.norahjones.com/



The Specials 

 

ザ・スペシャルズは1977年に英、コヴェントリーにてジェリー・ダマーズとテリー・ホールを中心に結成されたスカバンド。

 

白人と黒人の混合編成で不平等や差別についての主張を交えた作品を数多く残しています。

 

結成当初はコントヴェリー・オートマティックスの名で活動していたが、ザ・クラッシュの英ツアーのサポート・アクトをつとめてから、「ザ・スペシャルズ」に改名。その後、中心人物ジェリー・ダマーズは2toneレコードを設立、自身のスペシャルズをはじめ、Madness,The Beat等のスカバンドの作品をリリースし、イギリスのニューウェイヴパンクシーン最盛期に*スカムーブメントを巻き起こした。

 

デビューシングル「Gangsters」は、イギリスの十位内にチャートインし大健闘を見せ、スカバンドとして一役有名となる。1stアルバム「The Specials」は、かのエルヴィス・コステロがプロデュースした作品で、オーセンティックスカの次世代のリバイバル・スカの代名詞として知られています。

 

その後、スペシャルズは、1980年にスタジオアルバム「More Specials」をリリースした後にあっけなく解散。

 

解散後、主要メンバーのジェリー・ダマーズは、Special A.K.A,を結成、テリー・ホールはファン・ボーイ・スリム、カラーフィールドとして活動。その後、1994年になってダマーズ、ホールを除い他メンバーでスペシャルズは再結成し、五年後に再び解散。2009年に再再結成、この時、オリジナルメンバーのテリー・ホールが一度スペシャルズに復帰したが、2toneレコードの設立者であり、スペシャルズの発起人でもあるダマーズは、このバンドに未だ正式復帰していません。

 

ジェリー・ダマーズ本人は「スペシャルズへの復帰の可能性は充分ある」と、数年前にインタビューで語ってますが、現在もザ・スペシャルズはオリジナルメンバーとしては再結成が果たされておらず、トリオ編成として活動中。スカムーブメントの立役者として今後の動向が気になるバンドです。

 

 

 「Protest Songs 1924-2012」Deluxe

 

 

 

Disc 1

 

1.Freedom Highway(The Staple Singers)

2.Everybody Knows (Leonard Cohen)

3.I Don't Mind Failing In This World(Malvina Reynolds)

4.Black,Brown And White (Big Bill Broonzy)

5.Ain't Gonna Let Nobody Turn Us Around(traditional)

6.Fuck All The Perfect People (Chip Taylor & The New Ukrainians)

7.My Next Door Neighbor

8.Trouble Every Day(Frank Zappa & Mothers of Invention)

9.Listening Wind (Talking Heads)

10.I LIve In A City(Rod McKuen)

11.Soldiers Who Want To Be A Heroes(Malvina Reynolds)

12.Get Up,Stand Up(Bob Marley)


Disc2

 

1.The Lunatincs Live At The Coventry Cathedral July 2019

2.We Sell Hope Live At The Coventry Cathedral July 2019



The Specials Protest Songs 1924-2012 Official Trailer

 

Listen On youtube: 


https://www.youtube.com/watch?v=yt-wCdOxon0

 

今週の一枚としてご紹介させていただくのは、2021年9月24日にリリースされた約百年間のプロテスト・ソングをカバーした「Protest Song 1924-2012」に二曲のオリジナルソングのコヴェントリー大聖堂でのライブを追加収録した10月1日に発売されたデラックス盤。カバーの原曲もレゲエの神様ボブ・マーリーからトーキング・ヘッズ、フランク・ザッパと個性派の面々が勢揃い。

 

このオリジナル・アルバム制作には秘話があり、スペシャルズの三人は、2020年にスタジオ入りし、レゲエのレコードを作ろうと目策していたようなんですが、コロナウイルスのパンデミックにより制作を一度中断。

 

しかし、その後、世界的な問題となった黒人ジョージ・フロイド事件(2020年5月25日、ミネアポリスにて発生した黒人男性ジョージ・フロイドを不当に拘束し死に至らしめたという事件、これは人種差別的な社会問題として大きく各国のメディアにて報じられたことは記憶に新しい)にスペシャルズの面々は触発を受け、今作「Protest Song 1924-2012」の重要なテーマとなるプロテスト・ソングのカバーに取り組み、ロックミュージシャンとして「世界の問題点を直視し、どうすれば世界がよりよくなるのかを提案したい」というメッセージが込められているようです。

 


George Floyd Street Art
ミネアポリス、ジョージ・フロイドの死にちなんだストリートアート

 

プロテスト・ソングというのは、1960年代に発生した音楽の概念です。

 

ここ日本でも学生運動などにおける文化の浸透の過程において、この日本版プロテスト・ソング、フォーク・ロックが流行った時期があったらしいですが、プロテストソングというのは、もともと、ウディー・ガスリーらのフォークに影響を受けた、ボブ・ディラン、ジョーン・バエズ、ピーター&ポールマリーらの公民権運動、ベトナム戦争の反戦歌として歌われた音楽ジャンルで、反骨精神に満ちあふれた主張性の強いフォーク・ロックとしてのルーツがあるようです。

 

元をたどれば、ザ・スペシャルズもまた、白人と黒人との混合のロックバンドの先駆者としてニューウェイブシーンの最盛期のロンドンシーンに華々しく登場し、ミック・ジャガーも彼等の音楽に注目していて、事実、ライブを一度見に来たといいますが、スペシャルズの活動初期には、不平等、人種差別といった、社会問題に対する抗議声明やアンチテーゼをスカという音楽として表現してきたロックバンドでもあります。そして、メッセージ性を失った瞬間にあっけなく解散した経緯があるためなのか、今回、スペシャルズがセレクトしたカバーの選曲を見ると、ロック、フォーク、レゲエ、と、年代やジャンルを一切問わず、社会に蔓延る不義に対する怒りや抵抗を示す、カウンターカルチャーを象徴するような楽曲が念入りに絞りこまれています。

 

表向きには、これらのカバーアレンジにはスペシャルズのオリジナルの要素、オーセンティックスカの音楽性には乏しいように思われるものの、中心メンバーのジョリー・ダマーズは、かつて「レゲエはスタジオ音楽であり、スカはライヴリー・エキサイティング・ダンス音楽である」と語っているとおり(MUSIC MAGAZINE 増刊 パンク・ロック。スピリット ザ・スペシャルズ 小野島大)、ライブ感のある音楽という面で、原曲よりも、聞き手を踊らせるダンス・ミュージックとしての要素が追求されているカバー集。1970年代にパンク・ロック、そして、ジャマイカ発祥のスカ・リバイバルの申し子としてコヴェントリーにて結成されたスペシャルズ。

 

今回リリースされたプロテストソング集に伺える彼等スペシャルズの社会、ひいては世界全体に対する痛烈なアンチテーゼや強度のパンクロック精神は、最初期のデビューアルバム「The Specials」よりも遥かに濃密になり、さらに、過激な抵抗、プロテストのための音楽としても抜群の完成度を誇ってます。

 

これは、四曲目のカバーとして選ばれている「Black,Brown And White」(Big Bill Broonzy) を見ても分かる通り、米、ミネソタのジョージ・フロイド事件に端を発するスペシャルズの三人の音楽での人種差別に対する抗議声明であり、ここには私憤を大いに越えた義憤、社会的な激しい怒りがこれらのカバーソング12曲に(三倍)濃縮されています。

 

さらに、それに加え、2019年のロンドン近郊のコヴェントリー大聖堂でのスペシャルズのオリジナルソングの二曲をボーナスとして収録した豪華デラックス版となれば、往年のファンは黙っちゃいられません。百年のプロテストソングの歴史を網羅するカバーアルバムの傑作の誕生。もちろん、パンク・ロックファン、ディラン、マーリーの熱狂的なファンは、要チェックの作品となります。



 

 

References 



Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%82%BA

 

discunion.net

https://diskunion.net/punk/ct/detail/1008359372

 

 Sam Fender

 

 

サム・フェンダーは、英国ノース・シールズ出身のシンガーソングライター。

 

幼少期から音楽一家に育ち、父や兄と共にドラムやピアノの演奏に親しむ。特筆すべきなのは、2011年、英国のドラマシリーズ「Vera Season 1」に出演するなどテレビ業界で活躍しています。

 

2010年にパブでの演奏中にベン・ハワードのマネージャーにスカウトされ、フェンダーのプロミュージシャンとしての歩みは始まりました。

 

2017年には、ユニヴァーサル・ミュージックからリリースされた「Play God」で華々しいデビュー。本格派のシンガーソングライターとしてイギリスのポップス/ロック界で注目を浴びる。2018年にはBBC Sound Of 2018年に選出。

 

さらに、その翌年の2019年には見事ブリット・アワードの批評家賞を受賞。また、サム・フェンダーのデビューシングル「Play God」は、サッカーゲームFIFA19において使用されています。

 

2019年にはイギリスの最大級の音楽フェスティバル、グランストンベリーへの出演が決定していましたが、声帯の不調のため大事をとり出演を断念する。

 

しかし、その後のハイドパークの公演でボブ・ディラン、ニール・ヤングのサポート・アクトを務めています。同年には、東京、大阪のサマーソニックに出演していることも付記すべきでしょう。

 

サム・フェンダーは、非常に伸びやかで清涼感あふれる声質のシンガーで、U2のボノの声質を彷彿とさせます。

 

これまで四年という短いキャリアにおいて、玄人好みの作曲を行い、どことなくAOR周辺のアーティスト、特にポリスの全盛期の音楽性を現代に引き継いだかのような素晴らしい楽曲をこれまでに残しています。作曲においても深みと渋みを持ち合わせ、若々しさと老獪さを同時に持ち合わせたアーティスト。フェンダーの生み出す音楽性は、聞く人を選ばない王道のポップス/ロックと言えるでしょう。

サム・フェンダーの音楽の題材としての興味は、他のイギリスのスターのように、個人的な問題でなく、世界に向けて注がれています

 

U2やトム・ヨークの次世代を担う「新たな2020年代のイギリスのスターの誕生の瞬間」と銘打っておきたい現在のイギリスのミュージックシーンで注目すべきアーティストです。


 

 

「Seventeen Going Under」2021 

 



 

Tracklist

1.Seventeen Going Under

2.Getting Started

3.Aye

4.Get You Down

5.Long Way Off

6.Spit Of You

7.Last To Make It Home

8.The Leveller

9.Mantra

10.Paradigms

11.The Dying Light

12.Better Of Me

13.Pretending That You're Dead

14.Angel In Lothian

15.Good Company

16.Poltergeists

  

Seventeen Going Under  Sam Fender Offical 
Listen on YouTube:

https://m.youtube.com/watch?v=WAifgn2Cvo8

 

 

今週の一枚として御紹介させていただくのは、サム・フェンダーの10月8日にリリースされたばかりの通算二作目となるスタジオ・アルバム。

サム・フェンダーは、イギリス国外ではまだそれほど知名度を獲得していないアーティストですが、彼の新作は勢いと瑞々しさの感じられる傑作、この作品リリースによって多くのリスナー、及び音楽シーンからの大きな注目が注がれることが予想されます。

このスタジオ・アルバムは、16曲収録、ランタイムが一時間二分というように近年類をみないほどのボリューム感で構成されています。さらに、アップテンポのロックナンバーとバラードソングがバランスよく配置されており、一時間という長さではありながら、全体の構成が引き締まっているため、聴いていてそれほどストレスを感じることは少ないでしょう。

 

サム・フェンダーは、基本的にインディー・ロックのアーティストとしてカテゴライズされています。まだ二十代と若いアーティストですが、このシンガーの才覚が並外れているため、インディーと称するのは礼に失するかもしれません。それほどまでに、伸びやかで、はつらつとした力強さ、メジャーアーティスト特有の大きな目のくらむほどのオーラの感じられるヴォーカリストです。

 

リードトラック「Seventeen Going Under」から清涼感のあるナンバーであり、再生するまもなくサム・フェンダーの生み出す独特な世界観の中にリスナーは惹き込まれていく。デビュー時の「Play God」に比べると、フェンダースのヴォーカルの存在感がましているようにも思え、抑えがたいほどのパワフルさが録音から如実に伝わってきます。

 

フェンダースの声は、バックトラックに埋もれるどころか、歌ひとつの迫力で曲全体をぐいぐい引っ張っていく。これほどの力強さは近年のアーティストにはなかったもので、大きな「何か」を感じます。

 

続いての二曲目「Getting Started」も同じように、サム・フェンダーのヴォーカルの清涼感と力強さが際立った快作。アルバムの初めから展開されるのは非の打ち所のない痛快なポップス/ロックの王道中の王道。

 

ドン・ヘンリーの時代のAORを彷彿とさせるサックスのアレンジメントを施した清々しく爽やかなポップス/ロックですが、特に、このシンガーのボーカルのビブラート伸びというのは凄まじく、全身の骨格全体を使って歌っているのを感じる。

 

歌手として並々ならぬ才覚が作品全体に迸っており、初めてこのフェンダースの最新作を聴いて思わずにはいられなかったのは、U2、ポリスのUK黄金時代の艶やかさ、華やかさ、ガツンとやられるようなインパクトが今作には宿っているということ。

 

他にも、 古き良き時代のブリット・ポップの黎明期、U2、The Wedding Presentsの楽曲性を彷彿とさせる四曲目「Get You Down」は、インディー・ロックとしてコアな雰囲気を持ち併せつつ、2020年代の”Modern Brit Pop”の隆盛を告げ知らせる華やいだ名曲として聞き逃がせません。

 

コードは、一曲を通して大きく変化しないにも関わらず、変化に富んで聴こえるのは、このシンガーの歌が奥行きがあるからでしょう。聴いてると、俄然パワーがみなぎってくる不思議な魅力を持った楽曲。これはソングライティング、フェンダーの歌が異質なエネルギーを発しているからでしょう。

 

これらのアップテンポなロック曲の他に、絶妙な配置でまったりとしたバラードが収録されており、「Mantra」「Last To Make It Home」は、作品全体としての均衡を絶妙に保っており、アルバムの序盤で高ぶった精神を落ち着かせてくれる秀逸なバラード、アルバム後半部への流れを形作っていきます。

 

アルバムの後半部は、前半のアップテンポなロックソングを中心とした構成とは打ってかわって、落ち着いた雰囲気が漂っています。特に、作品としての最高潮を迎えるのが、十一曲目の「The Dying Light」、ここでは古典的バラードソングの醍醐味が伸びやかなサム・フェンダースの美麗で力強いヴォーカルと共に堪能することが出来ます。特に、この楽曲の後半部は感動ものです。

 

アルバムの最後を飾るピアノの弾き語りの「Poltergeist」は、このSSWの真骨頂ともいえる楽曲。ポップスとして何らひねりのない素直な感慨がシンプルなピアノ演奏と共にソウルフルに歌いこまれています。名シンガー、ビリー・ジョエルの作風を彷彿とさせる雰囲気がある渋い一曲で、なんらのごまかしのないフェンダー自身の歌を直情的に表現した名バラードといえそうです。

 

 

 Olafur Arnolds


 

オーラヴル・アルナルズは、アイスランド、レイキャビク出身のアーティスト。盟友ニルス・フラームと共にヨーロッパのポスト・クラシカルシーンの代表的なアーティストです。

 

昨年にはコロナパンデミック禍において、傑作「Some Kind Of Pierce」をリリースし、名実共にアイスランドを代表するミュージシャン。これまで、オーラブル・アルナルズは、ピアノの小曲を中心とした古典音楽の雰囲気のある楽曲に真摯に取りくんできたという印象を受けます。

 

2007年、10月に「Eulogy for Evolution」をErased Tapesから発表し、デビューを飾っています。

 

翌年、同レーベルからEP「Valiation of Static」を発表した後、ポストロックの大御所シガー・ロスのツアーに同行。

 

最初期は、エレクトロニカの寄りのサウンドでしたが、繊細で美麗なピアノ曲へとシフトチェンジを図るようになっている印象。

 

コラボ作品も多くリリースしており、ドイツのポスト・クラシカルアーティスト、ニルス・フラームとの共作「Trance Friendz」を始め、舞踏家ウェイン・マクレガーに楽曲を提供し、それらの楽曲は「Dyad 1909」として発売されています。

 

オーラヴル・アルナルズは、ヨーロッパのポスト・クラシカルシーンでの活躍の傍ら、サイドプロジェクトとしてアイスランドの電子音楽ユニット、Kiasmosとしての活動も有名で、「Blurred」「Kiasmos」といったクールなスタジオ・アルバムをリリースし、幅広い音楽のジャンルで活躍しているアーティスト。今後のヨーロッパの音楽シーンのおいて、ニルス・フラームと共に再注目するべきセンス抜群のミュージシャンです。

 


「Partisans」 2021

 



 

 TrackListing 


1.Patisans
2.Epilogue


 

Bonoboをゲストとして迎え入れたことでも大きな話題を呼んだ前作のスタジオアルバム「Some Kind of Piece」2020の「We Contain Remains」は、個人的にもとても好きな楽曲で、オーラブル・アルナルズの最良の作品と言っても差し支えない作品でしょう。この作品を聴いてとても感動したのは、この薄暗いコロナ禍の時代において、このような美麗な明るさを持った楽曲を生み出してくれる素晴らしいアーティストが世界にひとりでもいたという事実に対する感謝、この感情に尽きるように思えます。 

 

 

そして、この素晴らしい流れを引き継いでのシングル「Partisans」は、十年前に録音しておいた未発表の作品を収録した来月発売のEP「The Invisible」からのシングルカットで、先行リリースという形となります。

 

前作「We Contain Remains」と同じく、英、ロンドンの電子音楽を専門に扱うインディーレーベル”Mercury KX"から10月1日にリリースされたばかりのシングル盤です。

 

なぜ、今までこれらの楽曲がリリースされなかったのかと思うほどクオリティの高いポスト・クラシカルの王道を行く二曲が収録。二曲ともに映画音楽のようなピクチャレスクな叙情性に彩られ、音楽に耳を傾けているだけで、美しい風景を瞼の裏に呼び起こすかのような雰囲気をもった楽曲です。 

 

特に、弦楽のハーモニクスが上質な響きを演出する一曲目の「Patisans」は沈思的なトラックで、内省的な色彩感のあるハーモニクスにより華麗に彩られています。また、二曲目の「Epilogue」は、「Some Kind of Piece」の流れを汲んだ美麗なピアノの小曲。終盤部の弦楽器のハーモニクスの盛り上がりは聞き逃せません。

 

これまで発表されなかったという事実が本当に信じられないほどの完成度の高い傑作です。

 

清冽な水のような澄明な輝きをもった素晴らしい楽曲で、オーラブル・アルナルズの十四年というキャリアの中で最良のトラックに数えられ、ポスト・クラシカルの代表的作品として、十二曲入りのアルバムのようなボリューム感のある傑作。

 

今作を聴いていると、来月リリース予定のEP「The Invisible」(Mercury kx)の発売が待ち遠しくなり、その出来栄えに大きな期待を抱かずにはいられません。

 

 

 

楽曲のご視聴は以下MERCURY KX 公式HPにて

https://www.mercurykx.com/ 



References 

Wikipedia -Olafur Arnolds

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B4%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%82%BA 


 UQIYO

 

UQIYOは、2010年から日本、東京を中心に活動する”Yuqi Kato”の音楽プロジェクト。以前はユニットとして活動していたようですが、現在はソロ・プロジェクトになっているようです。Yuqiはこのプロジェクトの作曲、演奏、マスタリングまで手掛け、ライプパフォーマンスでは、アコースティックギターの他に、キーボードも演奏してしまうというマルチタレントのアーティストです。

これまで、久保田リョウヘイ、元ちとせ、Monkey Majikをはじめとする日本の著名なアーティストとの共同制作を行っています。2020年から、日本国内のみの活動だけではなく、アジア圏まで音楽活動の幅を広げ、シンガポールのインディーレーベル「Umami Records」から作品をリリース。また、シンガポールのアーティスト”マリセル”とのデュエット曲「lo V er」を発表している。もう一つ、特筆すべきは、台湾のドリーム・ポップバンド”I Mean Us”とのデュエット曲「6000℃」で、現地台湾のインディーミュージックアワード「金音創作奨」の受賞者に輝いている。近年、国内にとどまらず、アジア全体に活躍の幅を広げつつあるインディーズアーティストです。

UQIYOの音楽性としては、バックグラウンドの広さを伺わせており、流麗なアコースティックギターの演奏がこのミュージシャンの最も秀でた点といえ、しかし、それほどひとつのジャンルに拘泥することもなく、柔軟性を持ちつつ、これまでの作品で幅広い音楽に取り組んでいるアーティストです。基本的には、インディー・フォークのジャンルに該当、アメリカン・フォークに対する「アジアン・フォーク」と称するべき独特な音楽性です。キーボードを駆使して実験的な音楽性に取り組むという点では、エレクトロ、クラブ・ミュージック寄りのアプローチを図る場合もあり。ということで、エレクトロ・ポップに近い楽曲もこれまでリリースしています。UQIYOの楽曲自体は親しみやすく、 アコースティックギターをフーチャーした穏やかなスタンダードなJ-Pop、あるいは、またインディーフォークとして聴くことも出来るかもしれません。

 

 

「蘇州夜曲」

 

今月の英詞のインディー・フォーク曲「ソンバー」においては、日本人らしからぬ堪能な英語曲を披露しているUQIYOこと、Yuqi Kato。そして特に、同時期にリリースされたこの昭和の名歌謡曲、「蘇州夜曲」の新たな2021年のシングルは、楽曲自体の切なく甘いメロディーが引き出された名曲のカバーということで、今週の一枚として、なんとしても、オススメしておきたいと思います。 

 

 


TrackListing

 

1.蘇州夜曲

 

もちろん、既にご存知の方も多いかもしれませんが、「蘇州夜曲」は、昭和の戦後の時代に置いて、日中間の国際的問題にまで発展した音楽史の曰くつきの名曲です。原曲は、戦時中の日本の国策映画「支那の月」という作品の挿入歌として使用されています。日本語バージョンと中国語バージョンの二パターンが現存している。これまで、日本歌謡界の歴代のスーパースター、李香蘭、美空ひばり、アン・サリー、夏川りみ、と錚々たる女性の名歌手がカバーしてきた日本歌謡曲の中でも屈指の名曲。

日中戦争時代、李香蘭がこの曲を歌い、当時の流行歌となる。そして、この曲については、素晴らしい名曲であったのにもかかわらず、むつかしい政治的問題が絡んだということで、非常に長い間、中国では政治的にご法度の曲とみなされてきた経緯があり、中国では嫌悪の対象となる楽曲だったようです。しかし、現在では、中国国内においてもこの曲に対する見方が変わって来て、現地のレコード会社からこの楽曲がリリースされたり、この曲を中国語で歌ったりする人もいるそう。

そして、今回、なぜ、このようなエピソードを長々と記述したのかというと、この新しい日本のアーティスト、UQIYOさんのカバーは、李香蘭に近いアプローチを忠実に選びとっているからです。特に、この楽曲を聞くかぎりでは、戦争の「せ」の字も出てこないのに驚く。どちらかというなら、奥深い中国大陸への日本人の慕情、恋情を和歌として歌いこんだだけの素晴らしい非の打ち所のない名曲です。しかし、あまりに歌の出来が良すぎたためか、国策映画の挿入歌として使用され、また、当世の流行歌となってしまったのでしょうか? 夏川りみさんの豪華なストリングス、ホーンセクションのカバー曲ももちろん素晴らしいですが、UQIYOのカバーで聴くことが出来るギターと歌、二胡という中国の伝統楽器の生み出す絶妙な空気感、簡素、質朴、朴訥、幽玄、とも称するべき水墨画に近い雰囲気のある「蘇州夜曲」こそ、この曲の伝統的な解釈であるように思えます。今回のリリースでは、情感たっぷりに、Yuqi Katoさんは、日本歌謡を深い慕情をいだき、現代のアーティストとしてカバーに真摯に取り組んでいるあたりが聞き所です。

この楽曲「蘇州夜曲」は、元が大名曲であるだけに、実際、カバーをする際、ミュージシャンとしての覚悟が試されるという気もする。しかし、今回のカバーにおいて、UQIYOさんは、そういった高い壁をもろともせず、原曲に対する敬意を持ち、謙遜した演奏、一歩引いた謙虚な歌を丹念に紡ぐことにより、原曲「蘇州夜曲」のメロディーの本来の魅力を引き出し、本来の雰囲気を損なわず、さらに、そこにまた、この曲の新鮮味を新たに提示している点については素晴らしいとしか言いようがありません。

そして、カバーという音楽史に引き継がれている伝統ある形式。これについて、あらためて再考してみると、先人たちの精神を敬意を持って現代に継承し、次の未来、また、次の世代に生きる人達に「文化」として繋げていくという役割が込められていることに、「蘇州夜曲」のUQIYOさんのカバーを聴くにつけ何かしら考えさせられるものがありました。それからもう一つ、なんとなく感じいらずにはいられなかったのは、李香蘭という歌い手にまつわる問題、また「音楽に罪があるのか?」というよく近年取り沙汰される問題についてです。これは例えば、現在でも、ポーランドの放送局では、カラヤン指揮のワーグナーの音源を流すことが困難という問題にも非常によく似た事象です。

もちろん、音楽と政治というのは常に抜き差しならない問題を抱える一方、また音楽というのは、人々の心にわだかまる歴史的な負の感情を取り払い、大きな癒やしを与えることも出来るはずですから、UQIYOさんの今回のカバーのように、現代のアーティストが歴史的な感情を取り払うために新たな挑戦を試みること、アートを観念から救い出し、観念から離れた広い領域に解き放ってみせること(沖縄出身の夏川りみさんの「蘇州夜曲」のカバーには重要な意義があった)これら二つの挑戦はとても頼もしいことでしょうし、文化史として見ても大いなる意味が込められているはずです。

少なくとも、「蘇州夜曲」という曲は、今、聴いても、なんとなく、切なさの感じられる味わい深い恋歌です。海を越えた大陸にたいする深い慕情を感じさせる日本歌謡の最高峰の一曲で、ピクチャレスクな雰囲気に満ちています。最後に、この楽曲のきわめて感慨深い日本語詞を引用しておきます。

 

 

髪に飾ろか 接吻しよか

君が手折りし 桃の花

涙ぐむよな おぼろの月に

鐘は鳴ります 寒山寺

                        「蘇州夜曲」の歌詞より”

 

 

・UQIYO公式


https://uqiyo.lnk.to/Soshuyakyoku

 


Horsey


サウスロンドンのヒップホップ、そして、クラブ・ミュージックを紹介した流れに則り、今度は、この地域の魅力的なロックバンド、Horseyを取り上げてみようと思います。

 

Horseyは、サウスロンドンの拠点に活動するロックバンドです。King Kruleの弟、Jack Marchallを中心に、Theo Macabe、Jacob Read,George Bassにより結成された四人組。

 

このロックバンドでGtを担当するヤコブ・リードは、Jercurbというプロジェクトとしても活躍中。このサウスロンドンには、2000年代から魅力的なクラブミュージックシーンが形成されてきたことは既に述べましたが、この若い四人組のロックバンド、Hoseyも非常に個性的で他とは異なる魅力を持ったアーティストです。


Hoseyは、2017年に「Everyone's Tongue」を”United Recs”からリリースしデビューを飾る。その後、「Park Outside Your Mother's House」「Bread&Butter」「Sippy Cup」「Seahorse」「Lagon」と六作のシングル盤を発表してます。特に、このロックバンドのフロントマン、Jack Marchallの兄、キング・クルールをプロデューサとして迎えた「Seahorse」は2020年代の新たなロックの誕生を予感させるような清新な話題作として挙げられるでしょう。


Hoseyは、アートポップ、ニューウェイブ、ポスト・パンクといった一つの音楽ジャンルにとらわれない幅広いアプローチをこれまでの作品において魅せています。エレクトリック・ピアノ、オルガンと、かなりソウルアーティストが頻繁に使用する楽器を取り入れており、苛烈でエネルギッシュなロックナンバーから、それとは対極にある、ホロリとさせるような情感にあふれた壮大なバラードまで何でもこなしてしまうあたりは、音楽性において間口の広さが感じられます。

 

デビュー作「Everyone's Tongue」は、サウスロンドンの土地柄というべきか、ダブ、そして、ソウルやジャズをごった煮にしたような何でも有りなサウンドを引っさげて、ロンドンのインディーシーン華々しく登場。

 

また二作目のシングル「Park Outside Your Mother's House」の表題曲では、かのクイーンとは又一味違うロックオペラ風の音楽性に挑戦している。これは往年のイギリスロックバンドの伝統性を引き継いでいるように思えます。その一方で、既存のイギリスのロックバンドと一味違った妖しげでダンディな雰囲気が漂い、ロックンロールに音楽の主体性を置き、いかにもサウスロンドンのクラブミュージックのコアなジャンル、ガラージやディープ・ソウルと言ったこの地域の音楽の影響に影響を受けていそうなのは、ジェイムス・ブレイクあたりと同じくといえるでしょう。

 

とにかく、何でもカッコいいものは取り入れてやれというような雑食性、彼等のこれまでの作品を聞くかぎりでは、デヴィッド・ボウイのような渋いアダルティさ、クールな雰囲気を醸し出されています。また、ザ・クラッシュのジョー・ストラマーのニヒリズムも影響を及ぼしているようにも思えなくもなく、もし、現在、ストラマーが生きていたなら、こんな音楽に挑戦していたかもしれないと思わせ、パンク音楽ファンとしてのロマンチズムを感じさせてくれる良質なロックバンドです。

 

Hoseyの初期のシングル二作品、特に、「Park Outside Your Mother's House」は秀作で、初期の彼等Horseyの音楽性は、アメリカのインディーロックとは異なるデヴィッド・ボウイの音楽性に近いオールドイングリッシュな空気感がほんのり滲んでいます。そして、また、ミュージカル、ジャズのビッグバンドにも親しい要素も感じさせるエンターテイメント性の高い音楽性。デビューして、まだ四年と、これからが楽しみなサウスロンドンのフレッシュな五人組です!!

 

 

「Debonair」2021


そして、「今週の一枚」として御紹介させていだだくのが、Hoseyの1stアルバム作品となる「Debonair」。この作品は、なーんとなく秋の夜長に聴き耽りたいユニークさあふれるロックサウンドです。

 




TrackListing 

 

1.Sippy Cup

2.Arm And Legs

3.Undergroung

4.Everyone's Tongue

5.  Wharf   (ⅰ)

6. Wharf(ⅱ)

7. Lagoon

8. 1070

9. Clown

10. Leaving Song

11. Seahorse



これまでのシングル作「Everyone's Tongue」や「Seahorse」をはじめとするリテイクに新曲を加えたこれまでのホーセイとしてのキャリアを総ざらいするような豪華なアルバムです。何かこの作品は、個人的にクイーンの音楽性が現代に復刻されたというような期待感をおぼえさせる佳曲がずらりと揃う。

 

往年のビートルズ、デビッド・ボウイ時代のブリティッシュ・ロックの王道を行くようなナンバーから、バラード、ジャズ、そしてミュージカルの雰囲気を感じさせる楽曲まで何でも有りといった感じです。

 

ヴォーカルのジャック・マーシャルの声質は、デビッド・ボウイ、フレディー・マーキュリーのような美声とは対照的ではあるものの、エンターテイナーとしての才覚は全く譲らない雰囲気が有り。年齢不相応の渋み、ダンディさがあり、自分の歌に対する深いナルシシズムに聞き手に独特な陶酔感を覚えさせてくれるはず。また、Hoseyの音楽性には、コミカルな滑稽味も漂っています。

 

このアルバムで、最も楽しい雰囲気のある楽曲をあげるとするなら、2020年にシングル盤としてリリースされている「Slippy Cup」です。

 

ここでは、ひねりの効いた変拍子もさりげなく披露しつつ、大迫力の痛快なロックサウンドの魅力が引き出されています。ミュージカル風の大げさなジャック・マーシャルのヴォーカルというのもエネルギッシュで、聴いていると無性に明るい気持ちが湧いてくるでしょう。これまでありそうでなかったイギリスらしい渋いロックサウンドが、このトラックで見事に展開されています。

 

また、ちょっと風変わりな楽曲が#2「Underground」。アルバムジャケットワークに描かれているようなコミカルな雰囲気を感じさせる楽曲。何十年前も前のジャズバンドの時代、はたまたニューヨークのブロードウェイ・ミュージカルの立ち上がった時代に立ち返ったような懐古的なサウンドを再現しています。ヴィブラフォンやクロタルの音色が耳に癒やしをもたらし、ティンパニーの堂々たる響きもあり、疲れて居るときなどに聴くのには持ってこいのバラードソング。

 

このスタジオ・アルバムの中で、興味深いのが、#10「 Leaving Song」で、この曲はアメリカの音楽とは雰囲気の異なる内向的なイギリスのインディー・フォークが味わえる。ギターとピアノをインディーフォークとして体現させ、曲の中盤からは癒やしのある落ち着いた展開へ様変わりしていきます。

 

キング・クルールがプロデューサーとして参加した#11「Seahorse」も聞き逃がせない佳曲です。ここでは独特なアートポップを展開、アシッド・ハウスのアンニュイな雰囲気も漂った独特なトラックです。独特なクールな佇まいが感じられるのは、サウスロンドンという土地柄ならではかもしれません。

 

ギターのアナログディレイを駆使したサウンド、本作の他の収録曲とは異なるコアなクラブミュージック寄りのアプローチが取られているのも良い。この楽曲の最終盤のジャック・マーシャルの叫ぶような激烈エモーションは圧巻。レコーディングスタジオの熱気がむんと伝わってくる怪作。いや、快作です!! 

 今回、ご紹介させていただくのは、スフィアン・スティーヴンスとアンジェロ・デ・オーガスティンの共作となる9月末リリースされるアルバム「Beginner’s Mind」の三つの先行シングル作品となります。三つのシングル作品は、アルバムリリースに先駆ける形でAthmatic Recordsから発表されています。

 

7月7日「Reach Out/Olympus」、8月10日「Back To Oz/Fictional California」、9月8日「Cimmerian Shade/You Give Death A Bad Name」がリリースされています。この三部作ともいいえるシングル作は、音源制作の背景に興味深いエピソードが見いだされる作品。

 

音楽性としては、サイモン&ガーファンクルの活躍した時代の往年のフォーク性を引き継ぎ、穏やかな自然味にあふれたナチュラル感のある雰囲気が漂っており、このシングル三部作、そして、続いて9月末リリースされるこのシングル曲を含め、十四曲が収録されたアルバム形式の作品「Begginer’s Mind」は、2020年代のアメリカのフォーク・ブームのリバイバルの到来を予感させるような期待感溢れる傑作と言えそうです。

 

さて、この三つのシングル作の紹介に移る前に、日本ではそれほど馴染みのないこの二人のSSWのごく簡単なバイオグラフィーを紹介しておきましょう!!


 

 Surfjan Stevens&Angelo De Augustine


スフィアン・スティーヴンスの方は、ミシガン州デトロイト出身のインディーフォークシーンではベテランアーティスト。

1999年、義父と設立したレーベルAthmatic Recordsから「A Sun Came」でデビューを飾り、その後、自主レーベルから「Enjoy Your Rabbit」「Michigan」「Seven Swans」「lllinois」「The Avalanche」を一年のサイクルでリリースしてきています。それから、目立ったブランクもなく、派手な宣伝活動を行わないで、作品リリースを続ける傍ら、米インディーシーンで着実にリスナーの人気を獲得していったアーティスト。2021年までに二十作品以上のアルバムをリリースしている創作意欲活発の多作なSSWです。

既に、アメリカ国内では、大きな功績を上げている。2005年リリースされたスタジオ・アルバム「lllinois」は、ビルボードのトップ・ヒートシーカーズ・チャートで一位を獲得しています。また、映画「Call Me By Your Name」では、サウンドトラックとして提供した「Mistery of Love」でアカデミー賞、オリジナルソング部門にノミネート。また同作品で、グラミーのビジュアル・メディア・ライティング・ソング部門にノミネート、授賞式で楽曲を披露しています。2010年のスタジオ・アルバム「The Age Of Adz」は、米ビルボードで7位を記録、2015年「Carrie&Lowell」では全米7位を記録。今や、アメリカ国内では押しも押されぬ人気を誇るアーティストといえそうです。

スフィアン・スティーヴンスの音楽性は、基本的に、アメリカの古典的なギターフォークを主要なバックボーンとしつつ、その中にも、ピアノ、バンジョーといった楽器も作曲の中に織り交ぜているのが特徴です。また、スティーブンスのソングライティングには、独特な古いルーツを持つ民謡的な音楽が取り入れられており、作品自体にストーリーテリング的な要素、物語の要素、文学性が込められてます。それは、ときに、フォークロアにおける神話のごとき神秘的な音の世界が繰り広げられており、アイスランドのエクトロニカ、トイトロニカ勢とは又異なる幻想的な雰囲気を併せもっています。

 

一方、アンジェロ・デ・オーガスティンは、インディー・フォーク、オルタナティヴ、ローファイの分野で活躍するアメリカのアーティストであり、カルフォルニアのサウザンドオークスを拠点に活動するSSWです。2014年、自主制作盤「Spiral of Silence」をスフィアン・スティーブンスが義父と設立したレーベル「Athmatic Records」からリリースしてデビューを飾る。続いて、二作目となるスタジオ・アルバム「Swim Inside the Moon」、また、三作目のスタジオ・アルバム「Tomb」を同レーベルから2019年にリリースしています。上記のスティーヴンスほどの知名度はまだないものの、これまで、彼の作品は、National PublicやIrish Timesによって称賛されています。

アンジェロ・デ・オーガスティンの音楽性としては、爽やかで涼し気な雰囲気のあるインディーフォーク。聴いていると、心が清涼感に満ち溢れるような穏やかなフォーク音楽。それは、往年のサイモン&ガーファンクルのような古典的なフォークに、電子音楽の手法を付加したような印象です。古典的でありながら現代的なサウンドを特徴としています。 そして特にこのオーガスティンの歌声というのは、非常にやさしげで、琴線に触れる温かみがあります。また、スタジオアルバム「Tomb」での成功により、近年、インディー・フォーク界で知名度を上げつつある再注目のアーティストです。

  

 「Reach Out/Olympus」

  

 

 

TrackListing

 

1.Reach Out

2.Olympus

 

「Back To Oz/Foctional California」

  


 


TrackListing

 

1.Back to Oz

2.Fictional California

 

「Cimmerian Shade/You Give Death A Bad Name」

 



TrackListing

 

1.Cimmerian Shade

2.You Give Death A Bad Name

 

先行リリースされたシングルの三作品は、2020年代のアメリカで最もコアなインディー・フォークの誕生の瞬間を告げています。音楽性についても考えさせられるところがあり、「Athmatic Records」のレーベルメイト、スフィアン・スティーヴンスの物語性、そして、アンジェロ・デ・アウグスティンの良質なメロディーメイカーとしての才覚が見事な融合を果たし、両者のエナジーが上手く昇華された作品といえそうです。

この一連のアルバム作品としての制作リリースの際のエピソードには興味深い物語性が見いだされます。

そもそもこの作品は、コロナウイルス禍という時代における人間の生き方に重点的なテーマが置かれており、「壊れた時代に人間として生きること」という哲学的な二人のミュージシャンらしい疑問が掲げられています。作品制作の出発点も、初めてコラボレートしたこの二人のSSWは、約一ヶ月間の休暇をとり、ニューヨーク州北部の知り合いの山小屋を借りて、全ての音楽をその山小屋で短期集中して制作されました。つまり、現代版「ウォールデン 森の生活」のような大自然に包まれながら作製された作品という点で、自然の癒やしの恩恵を最大限に受け、ナチュラルな雰囲気を活かし、現代社会の暮らしの多忙さ、無数の情報とは一定の距離をとり、作られた音源です。

このアルバム制作に際して、スフィアン・スティーヴンスとアンジェロ・デ・オーガスティンは、様々な実験性を音楽制作の中に取り入れています。またなおかつ、他のメディア媒体からのインスピレーションを創作の根源としました。つまり、毎晩毎夜、様々な映画を見、翌朝、山小屋で起きた際、メロディーやコーラスを相携えて制作に励みました。つまり、映画という藝術媒体を、固定観念のない子供のような純粋な眼差しで捉えることで、その映像からもたらされる断片的印象を音として丹念に組み上げていったのです。

彼等二人が共に鑑賞した映画には、様々なジャンルがあり、 中でも、ゾンビ映画やホラー映画が多く、このあたりは、三部作のシングル、そして「Begginer's Mind」のユニークなホラーテイストのアートワークにかなり大きな影響を及ぼしているようです。彼等が一ヶ月間の山小屋生活の中で鑑賞した映画というのは、個性的な作品が多く、ナイト・オブ・ザ・リング、羊たちの沈黙、ポイント・ブレイク、イヴの総て、等。これらの作品のインスピレーションを元にして、フォーク音楽の骨格が何度も入念な手直しが加えられながら、シングル、アルバム制作は完成へ導かれていったようです。また、ジョン・カーペンターのザ・シング、次いで、なんと言っても、ドイツの巨匠監督、ヴィム・ヴェンダースの「欲望の翼」が列挙されているあたりは、この二人が相当な映画フリークらしい様子が伺えます。スティーヴンスとオーガスティンは、毎晩毎夜、これらの名画をニューヨーク北部の山小屋で真摯に鑑賞を繰り返し、その映像からもたらされるインスピレーションを翌朝に持ち越し、さらにそれを概念というフィルターを通して、最終的に「音楽」として見事に作り上げていきました。

また、この制作のプロセスにおいては、中国の古典「易経」やブライアン・イーノの考案した作曲法「Oblique Strategies」が取り入れられているのも興味深い点でしょう。つまり、作曲の過程での気の迷いが生じた際、易経にある占いによる偶然性の概念、あるいはイーノの考えの方向性を示したカードを導入し、それらの道具を活用しながら、またそこにある概念を借り受けながら見事な作品として仕上げていったというわけです。音楽性としては、すごく聞きやすいナチュラルなフォークであるものの、そこには映画音楽のサントラのようなドラマティックなストリングスアレンジメントが施されていたり、また、物語性により、奥行きのあるシークエンスが取り入れられていたりと、少なからずの実験性、しかも前衛的な概念がこの作品には感じられます。

さらに、アルバムアートワークについても面白いエピソードがあります。この三つの作品、そして、次にリリースされる予定のアルバムの総てのアートワークを手掛けているのは、ガーナのアーティスト、ダニエル・アナム・ジェスパーというアーティスト。

八十年代から九十年代にかけて、ガーナでは、ハリウッド映画をピックアップトラックの荷台で上映する「モバイルシネマ」という独自の文化が流行していた。そしてまた、実際のポスターを作製する場合、少ない情報による漠然としたイマジネーションからポスターを作製するという独特の文化が存在した。そのポスター作製時にもプリンターの輸入が禁止されていたため、小麦袋に直接ポスターを描いていたのだとか。もちろん、それらは殆ど実際の映画を見る前にほとんどデザイン作製者の想像によって描かれていたのだそうです。今回、スティーヴンスが、このガーナのモバイルシネマ文化の第一人者であるダニエル・アナム・ジェスパー氏に、自作品のアルバムアートワークの作製を依頼したゆえんは、今回の自作品の映画との深い関わり方、そして、映画に対する深い愛情によるものでしょう。また、実際、アルバムアートワークというのは、音楽を聞きながら、そのインスピレーションによりデザインを決定する場合が多いですが、この三つのシングル、アルバムではその常識が完全に覆されています。

今回は、スティーブンス側からは、明確なイメージはほとんど伝えられず、デザインを手掛けたダニエル・アナム・ジェスパーの特性を尊重し、彼が自由自在にデザインを行えるよう配慮したそうです。唯一、二人の製作者側からは、神話の神々、怪物、ゾンビ、スカイダイバー、アメリカの映画監督のジョナサン・アデミという人物だけがイメージとして、ダニエル・アナム・ジェスパーに伝えられました。こういった一見、ちぐはぐにも思える断片的なイメージを元に、ダニエル・アナム・ジェスパーはアートワークを自身の「モバイルシネマ」というアート性を介して、アルバムアートワークを手掛けていきました。その結果、この三作品のシングル盤、そして、アルバム「Beginner's Mind」のアルバムジャケットには、ガーナのモバイルシネマ時代のポスターに象徴されるポップアート性が遺憾なく表現されています。神話的、アニメ的、そして、イラスト的、これらの要素が見事に融合したアートワークを完成させたのです。

総じて、フォーク音楽としての秀逸さというのも一つの魅力でありながら、その背後にあるストーリー性、哲学性、またアート性という面でも尋常でない深みが感じられるこの三つのシングル。フォーク音楽としてはニューヨーク北部の山小屋で制作されたというエピソードを見ても分かる通り、商業大量生産から距離を取り、長くじっくり聴くためのアートのしてのアメリカンインディーフォークがここに誕生したといえるでしょう。全体的には、この作品が西洋思想、神話性だけでなく、東洋思想、易及び禅の思想と直結しているため、西洋の幻想性にとどまらず、東洋藝術の源流にある思想が貫流しています。

三つのシングルが東洋絵画でいう三輻画のような役割を果たし、「物語」としての一連の「コンセプト・シングル」という見方も出来るでしょう。しかも、この三つのシングルは、楽曲の奥行きが感じられ、よく聴き比べてみると、一つの流れのようなものが形成されているようなのが理解できます。ただ、単に聞き流すという音楽ではなく、音楽を聴いた上で、これまでにない観念を立ちのぼらせる契機を与えてくれる珍しい音楽です。

たとえば、ウォールデンの森の生活を音楽で表したら、どのような音楽になるのか?という実験の答えがまさにこの三つの作品には示されているように思え、それは単なる往年のサンフランシスコのヒッピー思考ではなく、往年の「羊たちの沈黙」をはじめ思索性のある名画の創作性と密接に結びついて、哲学的な思考により彩られています。

 

 

 

References 

 

 

Wikipedia 

 

 

Sufjan Stevens

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%83%B3%E3%82%B9 

 

 

Angelo de Augustine

https://en.wikipedia.org/wiki/Angelo_De_Augustine 



Indie native  

https://www.indienative.com/2021/07/a-beginners-mind

 

 

Wrszw.net

https://wrszw.net/albums/sufjan-stevens-angelo-de-augustine-a-beginners-mind/ 


 Jungle 

Jungleは、ジョッシュロイド・ワトソンとトム・マクファーランドによって2013年に結成されたソウル、R&B,ファンクユニットで、イギリスを拠点に活動している。母国ではかなり人気の高いアーティストでもあります。

このワトソンとマクファーランドは子供の頃、ロンドンのシェパーズブッシュで隣に住んでいたといい、その頃からの幼馴染であったといいます。また、2人は共に、ハマースミスの私立学校ラティマー高等学校に通っていました。学校を卒業した後、つまり、2013年にワトソンとマクファーランドは、このクラブミュージックユニット、Jungleを結成します。彼らの言葉によれば、このユニットは「真の友情の繋がりへの欲求」から結成された音楽デュオでもあるといいます。

Jungleの音楽性は、1960年代後半に盛んであったファンク、ソウルに触発を受けたディスコサウンドで、ファンカデリック、スライ・ザ・ファミリーストーン、また、ウィリアム・ブーツイー・コリンズといったアーティストからの影響が色濃いブラックミュージック。これまでの音楽シーンにおいて、ローリング・ストーンズやエリック・クラプトンがそうであったように、多くの白人アーティストはロックミュージックを介し、黒人音楽に対する接近を試みてきましたが、近年のロンドン周辺のクラブシーンにおいては、電子音楽、ダンスミュージックを介してブラックミュージックへ接近を図るアーティストが増えてきているという印象を受けます。

勿論、Jungleも、年代に関わらず、ブラックミュージックに対して敬意を持ち、それらの音楽性の核心を現代に引き継ぎ、リテイクしていくという点では同じであるように思えます。まだまだ60.70年代に一世を風靡したソウル、ファンク、ディスコ、これらのブラックミュージックには開拓の余地が残されているということを、現代のクラブシーンのアーティストは証明しようとしているように思える。そのあたりのクラブシーンの活気に後押しされ、これらの60.70年代のブラックミュージックのリバイバルの動きの延長線上に、ディスコサウンドの立役者「ABBA」の復活の理由があるのかもしれません。

これらの音楽、つまり、懐古サウンドといわれていたブラックミュージックは、2020年代には再び脚光を浴びる可能性が高くなっている。このイギリスのユニット、デュオ、Jungleについていうなら、近年のアーティストらしく、ラップ寄りのサンプリングといった技法も取り入れられているのがクールで、現代のユーロ圏のクラブシーンにおいて人気を博している理由でしょう。

2013年10月、シングル盤「This Heat」をチェスクラブレコードからリリース。この楽曲の発表後、BBCの"Sound of 2014"にノミネート、大きな話題を呼ぶ。また、翌年7月リリースされたデビューアルバム「Jungle」は、国内のクラブシーンで好意的に迎えられ、2014年のイギリスのマーキュリー賞の最終候補に選出されています。このBPIによりゴールドディスク認定を受けたデビュー作は、商業的にも大成功を収め、イギリスチャートにおいて、最高7位を獲得、鮮烈なデビューを飾る。とりわけ、イギリス国内とベルギーといったユーロ圏の国において根強い人気を獲得している。それからもJungleの快進撃は留まることを知らず、2018年に発表されたセカンド・アルバム「For Ever」も内外のチャートで健闘を見せ、イギリスチャートでは最高10位、ベルギーチャートで13位を獲得、ユーロ圏で安定した人気を見せているアーティストです。


Jungleの楽曲は、主にCMやゲームに頻繁に使用されていることでも有名。AppleやO2、スターバックス、トヨタ・ヤリスのCM、EAスポーツ、FIFA15.19でもJungleの楽曲が使用されています。つまり、単なるクラブ音楽としての踊れるという要素だけにとどまらず、バックグラウンドミュージックとしての重要な要素、聞き流す事のできる陽気な音楽としても適しています。

また、Jungleは、ミュージックビデオ制作にも力が入れており、専門の監督、振り付け師、ダンサーを器用する。映像作品を音楽から独立したアート作品というように捉えているアーティストです。

既に、イギリスの著名な音楽フェスティヴァル、グラストンベリー、レディングへの出演を果たしており、ライブパフォーマンスでは、サポートメンバーを追加し、六、七人編成まで膨らんで、ファンカデリックやスライ・ザ・ファミリーストーンのようなソウルフルなロックバンドへの様変わりを果たす。楽曲の制作自体は、ジョッシュロイド・ワトソンとトム・マクファーランドの2人で行われていますが、実際の活動としては流動的な形態を持つアーティストです。

  

 「Loving in Stereo」 2021

 

今回ご紹介するJungleの2021年の8月13日に、自主レーベル、Caiola Recordsからリリースされた「Loving in Stereo」は、発表時に予告編のミュージックビデオが話題を呼んだ作品。 
 
 
 
 

 TrackListing

 
 
1.Dry Your Tears
2.Keep Moving
3.All Of the Time
4.Romeo
5.Lifting You
6.Bonnie Hill
7.Fire
8.Talk About It
9.No Rules
10.Truth
11.What D'you Know About Me?
12.Just Fly,Don't Worry
13.Goodbye My Love
14.Can't Stop The Stars
 

 
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前々からのミュージックビデオでも登場していた"ビネット"というダンサーを起用し、廃墟となった複合施設、刑務所で映像が撮影されています。また、ゲストとしてラッパーのBas,そしてスイスのTamilミュージシャンPriya Raguを起用している辺りも見過ごせない点といえるかもしれない。
  
このアルバムの実際の音楽性としては、これまでの方向性を引き継いだ往年の60.70年代のディスコサウンド、あるいはファンク、ソウルの王道を行くもので、大きな捻りはなし。ソウル、ファンクの核をこれでもかというくらいに突き詰めたサウンド。白人としての黒人音楽への憧憬というのは、イギリスの近代大衆音楽の重要なイデアとも呼べそう。このブラックミュージックの音楽を知る人なら、音楽性の真正直さに面食うはず。それでも、懐古感、アナクロニズムという要素はとことんまで突き詰めていくと、新しい質感をもたらすことの証明でもある。
 
アースウインドアンドファイヤー等のディスコサウンド全盛期の時代の熱狂性を現代のロンドンのアーティストとして受け継ぎ、その旨みをギュウギュウに凝縮したサウンドとしか伝えようがなし。もちろん、リアルタイムでのリスナーだけでなく、後追い世代のリスナーもこのJungleの生み出す真正直なディスコサウンドを聴けば、妙なノスタルジックさに囚われ、さながら自分がこれらのディスコサウンド時代のダンスフロアに飛び込んでいくような錯覚を覚えるはず。

しかし、現代の他のファンクサウンドを追求するアーティストにも通じることだけれども、もちろん懐古主義一辺倒ではないことは、Jungleがユーロ圏で大きな人気を獲得している事実からも伺えます。

一曲目のトラック「Dry Your Tears」はアルバムの序章といわんばかりに、ストリングスを用いたボーカル曲としてのドラマティックなオーケストラレーションで壮大な幕開け。そして、そこからは、いかにもJungleらしい怒涛のソウルサウンドラッシュに悶絶するよりほかなし。
 
特に、#2「Keep Moving」から#3「All Of Time」のディスコサウンド風のノスタルジーにはもんどり打つほどの熱狂性を感じざるをえない。ダンスフロアのミラーボールが失われた時代に、Jungleは、ミラーボールを掲げ、現代の痛快なソウル、ファンクを展開する。この力強さにリスナーは手を引かれていけば「Love in Stereo」の持つ独自の世界から抜けで出ることは叶わなくなるでしょう。
 
 
音自体のノスタルジーさもありながら、サンプリングをはじめとするラップ色もにじむクールなトラックの連続。これには、目眩を覚えるほどの凄みを感じるはず。この土道のR&Bラッシュは、アルバム作品として中だるみを見せず、#8「Talk About It」で最高潮を見せる。ここでも、往年のディスコサウンドファンを唸らせるような通好みのコアなファンクサウンドが爽快なまでに展開される。また、#12「Just Fly,Dont't Warry」というタイトルには笑いを禁じ得ませんが、ここではブーツイー・コリンズ並のコアなファンクサウンドを体感することが出来るはず。


そして、Jungleのアルバムとしての熱狂性は、中盤で最高潮を迎えた後、徐々にしっとりとしたソウルバラードにより徐々に転じていく。特に、アルバム終盤に収録されている「Goodbye My Love」は聞き逃すことなかれ、実に、秀逸なR&Bバラードであり、チルアルト的な安らいだ雰囲気を持ったトラック。
 
 
もちろん、アルバムトラックの最後でリスナーの気分を盛り上げずにはいられないのがJungleのサービス精神旺盛たるゆえんなのでしょう。彼らは、このアルバム制作について

「私達が音楽を書くときには希望がある、私達は人々に影響を与えるような何かを作るでしょう。あなた方の気持ちを持ち上げるに足る作品を作れる事ができれば一番素晴らしい」と語る。
 
 
そして、それは彼等2人の9歳の頃からの友情により培われたソウルでもある。彼等の言葉のとおりで、作品の幕引きを飾る「Cant’ Stop The Stars」は、ソウルサウンドによって、リスナーの気持ちを引き上げていく力強さに満ちあふれている。シンセサイザーのアレンジメントも、往年のブラックミュージックファンも舌を巻かずにはいられない素晴らしさ。現代的な洗練性、そして、往年のノスタルジーを見事にかけ合わせ、ブレンドしてみせた、この素晴らしきネオ・ソウルサウンドをぜひ、一度ご堪能あれ!!
 



References


 
Wikipedia 


 



 Lucinda Chua

 

 2021年、イギリスのインディーレーベル「4AD」と契約して話題を呼んだルシンダ・チュアは、英ロンドンを拠点に活動するアーティスト。シンガーソングライターでもあり、チェロ奏者でもあります。

 

 

 ポストロック界のカリスマ、Slint、あるいは、Christina Vanzouとの共同制作で知られるアンビエント界の著名アーティスト、Stars Of The Lidとのツアーも行っており、特に、Stars Of The Lidとのツアーでは、ルシンダ・チュアは、チェロ奏者として同行しています。Lucinda Chuaとしてソロ活動する以前、FKA twigsにバンドメンバーとしての参加、チャンバーポップシーンで活躍するFelixというデュオへの参加等、彼女はこれまでソロ活動以前にポストロック、アンビエント、アートポップといったシーンで活躍するアーティストの演奏や制作に携わっています。

 

 

 ルシンダ・チュアは、音楽家として2019年に「Antidotes1」としてデビューを飾る。まだデビューして二年でありながら、名門4ADの契約を漕ぎ着けた事に、ルシンダ・チュアは、この上ない喜びを感じているようです。この「4AD」というインディペンデントレーベルは、英国のロック音楽という側面においてラフ・トレードと共に近代文化を支えてきた歴史を持ち、特に、イギリスのアーティストにとってはこのレーベルとの契約することは少なからずの意味がありそうです。

 

 「Antidotes」と名付けられたルシンダ・チュアの最初の作品は、Stars Of The Lidのようなモジュラーシンセを主体としたアンビエント寄りのトラックメイキングに、正統派のボーカルがゆったり乗せられるというスタイルをとっています。もちろん、そこには、彼女自身のチェロの演奏がほんのりと優雅に付け加えられる。

 

 楽曲のトラックメイキングの手法自体は、アンビエントへの傾倒が強いけれども、反面、ボーカルは、R&Bのような渋い雰囲気を感じる。そして、全体的な楽曲の雰囲気というのは、一貫して落ち着いていて静けさに満ち、深い思索性も感じられる。「Antidotes」という表題に見えるとおり、聞き手の心の毒素をすべて音のシャワーによりきれいさっぱり洗い流すかのような「癒やしの質感」を持っているのが、このルシンダ・チュアというSSW(シンガーソングライター)の楽曲の特長です。

 

 

 彼女は、音楽家として、2019年に活動を始めるまで、写真家、フォトグラファーとして芸術活動を行っていました。 主題としては、女性をモチーフとして取り扱った作品が多く、グランドピアノを見つめる女の子、膝をついて本を探す女、等、カメラのクローズアップ的な手法を被写体として捉えた独特な主題を持つフォトグラフィーの作品を残しています。

 

 

ルシンダ・チュア自身の言葉に拠れば、「写真というのはそもそも、ストーリの一部分、あるいは感情の一部分を伝えるもので、物語の断片しか表現出来ない」。そして、ルシンダ・チュアが、写真ではなく音楽の道に歩みを進めつつあるのは、写真での表現法に限界を感じ、より多彩な表現方法を追求していきたいという思いがあったかもしれません。そして、これまでのように撮影者でありつづけたなら見えなかった自身の才質、被写体としての表現の延長線上に、写真のモデルとしての表現力が並外れて優れているという事実に気がついたのかもしれません。

 

 もちろん、写真家からの音楽家への転向は、元来チェロの演奏が巧緻であるという理由があっただけにとどまらず、音楽上での幅広い表現を追求するという動機を重視した。つまり、写真という実存の背後にある物語性を、彼女の歌声や作曲によって、より広く、豊かな感情をまじえて表現していきたいという意図が感じられます。つまり、写真という感情の表現方法よりも大空への自由な羽ばたきのような表現を求めた先に、音楽で自身の全身を使い表現する喜びを見出したというように言えるかもしれない。それは、楽曲制作、歌、チェロ、また、アルバムジャケットにおける被写体と、ほとんど数え切れないほどの多岐にわたるアートとしての表現法、これまで知り得なかった彼女の魅力が音楽活動を行っていく過程で見いだされたと言えそうです。

 

 音楽作品については、これまでの二年間、EP作品、「Antidotes1」「Antidotes 2」、シングル作品「Until I Fall」「Torch Song」がリリースされています。現在のイギリスの音楽シーンで際立った存在感を見せているアーティストです。




「Antidotes 2」2021

 

 

 

 4ADに移籍しての第一作となる「Antidotes 2」は、表題を見ても分かる通り、ルシンダ・チュアのEPの一作目の表現性をアルバムアートワークにしても、また、実際の楽曲にしても前作EPの表現性を引き継いだ形で制作された作品です。四曲収録ではあるものの、丹念な音の作りこみがなされているからか、アルバムのようなボリューム感があります。また、一作目と同じように、アートワークも秀逸であり、芸術としてのフォトグラフィ作品として楽しめますし、何となく同じ4ADであるためか、Pixiesの「Surfer Rosa」のアートワークに似た美麗な雰囲気が滲んでいます。

 

 

  

 

 特に、4ADとの契約はレコーディングにおいての音の単純な良さという側面においても、ルシンダ・チュアの楽曲性をより魅力あふれるものとしています。SSWとしての歌声は、一作目よりもはるかに渋み、女性的なブルースが最大限に引き出されているという点で、さらに次の表現性へと進んだような印象を受ける。特に、この他のメインストリーム界隈の女性シンガーに比べ、中音域と低音域の強い太さのあるヴォーカルというのが、ルシンダ・チュアの歌声の一番の魅力と言えるでしょう。

 

 

作風についても、一作目のEP「Antidotes 1」と同じように、アンビエント、ポスト・クラシカル、またはアートポップ、と、幾つかの音楽性が均等に配置され、全体的にバリエーションを感じさせ、長く聴いても飽きの来ない聴き応えのあるEP作品となっています。楽曲について説明するなら、このEPがリリースされる以前にシングル盤として先行発表されていた#1「Until I Fall」は、異質な存在感と華やかさ、そしてブルージーさを兼ね備えた楽曲。ルシンダ・チュア自身のチェロ演奏に加え、揺らぎのあるモジュラーシンセサイザーが齎すアンビエンス、そして、囁きかけるようなルシンダの歌声が魅力の一曲。このまさにソウルフルとしか言いようのない魂から直接引き出される哀愁のある歌声は、一聴してみる価値ありです。反復性の高い楽曲ではありながら、モジュラーシンセの音色の揺らぎ、そして、歌唱法のニュアンスの変化、多様性を楽しめる作品となっています。

 

 

 #2の「An Avalanche」は、一曲目とは対照的に、古典ピアノ音楽の小品のような雰囲気を持ったポスト・クラシカル派の音楽。ミステリアスな性格を持った独特な和音に彩られた楽曲です。

 

 

 #3「Torch Song」は、ボーカル曲としてはこのEPの中で最良の楽曲といえ、ノラ・ジョーンズのようなブルージャズの雰囲気を感じさせる。

 

ここでの奥行きのある歌声は正統派のシンガーの堂々たる風格に満ちあふれています。この夜のアンニュイさを感じさせる雰囲気はエレクトリック・ピアノのR&B寄りのアプローチによりしたたかに支えられ、徹底的に抑制のきいたルシンダ・チュアの歌声は、この表題の毒素を取り払うような美しさに満ち溢れている。

 

 

 このEPの最後を飾る#4「Before」も美しい楽曲です。ここでは、どことなくトムウェイツを彷彿とさせるようなブルースの味わいのあるピアノの規則的な伴奏に、ピアノの弾き語りといったスタイルが採られている。その背後にはStars Of The Lidに比するアンビエント的な性格を持った美麗なシンセパッド、あるいはチュアのチェロの演奏がサンプリング的な手法で挿入されている。アンビエントとR&Bの融合というこれまでにありそうでなかった楽曲性を追求したともいえます。


 

 全体的な楽曲の雰囲気としては、感性的ではあるが、理性も失わないという点が非常に魅力的です。ルシンダ・チュアの言葉の通り、ピクチャレスクな音の趣向性があり、音から、映像、写真の一コマのようなものが想起されます。しかし、それは写真藝術とは正反対な表現方法が採られ、聞き手の創造性を刺激し、奥行きのあるサウンドスケープを思い浮かばせるような手法が採られているのが芸術性を追求した音楽であるという気がします。

 

 

 音を提示した後は、すべてを聞き手のイマジネーションに委ねるという感じがあるため、自由な寛いだ雰囲気を感じさせてくれます。行き詰まりとは逆の、広がりと奥行きを増していくような質感とでもたとえられるかもしれません。

 

 

 もちろん、このEPで味わう事の出来るルシンダ・チュアの歌声というのも、哀愁に満ち溢れており、魅力的な輝きを放っています。表現性を、内側に閉じ込めるのでなく、外側に無限に広げていく。歌詞についても、風景の美しさについて歌われますが、そのあたりの情感にとんだ自由な表現性から溢れ出る癒やしが、このEP作品「Antidotes 2」の醍醐味といえるでしょう。

 

 聴けば聴くほど、渋い味わいの出てくる非常に聞きごたえのある芸術性の高い傑作として、今回、御紹介しておきます。

 

 

 

参考サイト

 

last.fm  Lucinda Cyua Biography


https://www.last.fm/music/Lucinda+Chua/+wiki

 

Chris James


クリス・ジェイムス、クリストファー・ジェイムスブレナーは23歳、ドイツを拠点に活動する男性シンガーソングライター。

 

ドイツのインディーポップ界において、最も、今、勢いの感じられる若手アーティストであり、ベッドルーム・ポップという、若い世代のジャンルに属しています。このシーンでは、クレイロ、レックス・オレンジ・カウンティ、ガールズ・イン・レッドといったアーティストの活躍が近年目立ちますが、クリス・ジェイムスはその一角に入り込んで来てもおかしくないこれからが楽しみなアーティストです。

 

クリス・ジェイムスは、アメリカで生まれましたが、幼少期に両親と共に、ドイツのドゥッセルドルフにほど近いハイデンという街に移住してから、アメリカ系ドイツ人として暮らす。

 

その後、コロナ禍を機に、ベルリンに活動拠点を移す。クリス・ジェイムスは、2011年、つまり、驚くべきことに13歳という若さで作曲活動を開始し、初めはYoutubeの動画を介し、マムフォード・アンド・サンズ,コールドプレイ、エド・シーランの楽曲を実際にカバーすることにより、これらのアーティストのすぐれたポップ性を自身の感性の中に浸透させていったという。

 

事実、このエピソードから見られるとおり、ジェームスブレナーの音楽性には、親しみやすい軽快なポピュラー性が感じられます。それは、上記したビッグアーティストの音楽の良い部分を受け継いでいるからこそでしょう。

 

クリス・ジェイムスは、スタジオ・アルバム「The Art of Overthinking」で2020年にドイツでデビューを飾る。これまで、二回のドイツ国内ツアーを成功させていて、なおかつ、サブスク配信時代のアーティストといえ、2500万回サブスクリプションでストリームされている。

 

インディーズアーティストでありながら大変人気のあるアーティストで、デビューから約一年にも関わらず国内外で多くのファンを獲得しつつある。また、著名な仕事としては、K-POPのBTS,Tommorow X Togetherに楽曲提供をしているあたりも見逃せず、軽快で親しみやすいポップソングを書くことにかけては他のアーティストと比べ、頭ひとつ抜きん出ているように思えます。

 

只、ひとつ面白いのは、ジェームスブレナーには、他の表面的な音楽のキャッチーさとはまた別箇に、音楽の核心となる思想が少なからず含まれていることでしょう。若いベッドルームポップ世代らしい未来の社会に対する明るい提案が感じられることです。

 

これは、若い世代が、これからの世界を作り上げていくという意思表示のように思え、個人的な意見としても、若い世代が新しい提案をしていくことは、これからの社会にとって必要不可欠といえるでしょう。

 

これまでは、知見のある様々な専門家が意見することが正しいとされてきましたが、これからの時代は必ずしも以前と同じようなやり方が選ばれるべきでなく、ジェームスブレナーのような若い世代が未来の社会に対して、どんどん自由闊達に提言をおこなっていくべきだと思えます。

 

そして、クリス・ジェイムスの曲中に歌われることも、恋愛など、若い年代らしい主題もある一方、若い世代としての社会に対する提言、一個人と社会の関わり方がどうのようにあるべきなのか、また、イギリスの次にロックダウンの厳しいドイツの一市民としての考えを恐れることなく提示し、コロナパンデミックにおける社会的な圧力、そのポイントにおける個人と個人、個人と集団がどういった関係をこれから築いていくべきなのか、そういった新しい提案をしている。

 

まさに若いミュージシャンとして頼もしさを覚えるほど、社会における個人という存在について忌憚ない意見を歌にこめているのが、ジェームスブレナーの感性の素晴らしさであり、魅力といえそうです。 



The Fear of Missing Out 2021




 

 

TrackListing



1.Will You See Again

2.Hey It's Me

3.The Way Look At Me

4.4AM Magic

5.Alone on a Friday

6.The Fallout

7.Happy Ending

8.The Fallout(acoustic)

9.Happy Ending(acoustic)

 


 

ドイツポップ界をこれからクリス・ジェイムスが牽引していくような大きな可能性を示してみせたのが二作目となるアルバム「The Fear of Missing Out」です。 

 

前作のデビューアルバム「The Art of Overthinking」での形、アルバム全体は軽快なポップスによって占められているものの、収録曲の最後の二曲はアコースティックのしっとりした楽曲によって締めくくられるスタイルは今作にも、いわばルーチンワークのように引き継がれています。

 

また、クリス・ジェイムスの音楽性の中には、ドイツ在住のアメリカ人というバックグラウンドも、少なからず影響していると見え、ドイツのクラブミュージック、そして、アメリカのインディー・ポップの双方の長所を上手く受け継いだというジェイムスらしいスタイルが伺えるように思えます。

 

一作目「 The Art of Overthinking」で際立ったポップセンスを提示するこに成功したジェームスブレナーはこの二作目において、さらにその才覚に磨きをかけた。

 

全体的には、オートチューンをかけたボーカルが魅力の楽曲が多く、そのあたりはトレンドを行くといえるでしょう。しかし、ボーカルの作り込みは軽妙な雰囲気に彩られていて、とても聞きやすく、万人受けするような親和性がある。

 

そのことはこのアルバムのハイライトといえる#1「Wiil I See You Again」によく現れていて、この軽快なポップスとしての輝きは、この年代のベッドルームポップらしさがあるように思えます。

 

また、その雰囲気とは対極に位置するしっとりした雰囲気のある「Happy Ending」もドイツのEDMとしてのポップ性を追求したすぐれたクールな楽曲。また、前作のスタイルを引き継いでのアコースティックの最後の二曲、特に「The Fallout」は、アメリカのジャック・ジャクソンを彷彿させる寛げるような涼やかな雰囲気のある佳曲として聞き逃がせません。

 

クリス・ジェイムス、ことジェイムスブレナーのキャリアは始まったばかりです。これからどのような活躍をしてくれるのか、最新の動向をガンガン追っていきたい、非常に楽しみな雰囲気のあるアーティストです。


まだ、夏の暑さはしばらく続きそうなので、こういった爽やかで軽快なポップスもたまには良いかなあと思い、今回、クリス・ジェイムスというドイツの気鋭ベッドルーム・ポップアーティストを紹介してみました。

 

 

Happy Listening!!



参考サイト


stadtgarten.de


https://www.stadtgarten.de/en/program/chris-james-2043


minutenmusik.de


https://minutenmusik.de/rezension/chris-james-the-fear-of-missing-out