トロントのインディーロックバンド、Ducks Ltd.(ダックス・リミテッド)が2枚目のLP『Harm's Way』を発表した。2021年の『Modern Fiction』に続くこの作品は、2月9日にCarparkからリリースされる。



「Hollowed Out」


「私が住んでいる近くのダンダス・ウェストで、少し前に陥没穴が開いたんだ。その道路は1ヶ月間、閉鎖されていた。トロントの多くの通りは、かつて湖に流れ込む川や小川であって、その上に道路が造られたこともあるせいか、奇妙な響きがあったんだ。都市環境に自然が侵食しているように感じていたし、川が戻って来て市民のインフラを破壊しているようにも感じた」

 

「”Hollowed Out"は、衰退とともに生きることについて歌っている。世界の可能性の地平線が、少数の無頓着な金持ちの想像力の端に永遠に引き寄せられるような感覚について・・・。そして、私たちにはどうすることもできないカタストロフィーが続いている状態を通して存在していることについて・・・」


『Harm's Way』はデイヴ・ヴェトライノがプロデュースし、先にリリースされたシングル「The Main Thing」が収録されている。「苦悩についての歌なんだ。自分の大切な人たちが苦しんでいるのを見て、どうすれば彼らのそばにいられるかを考えようとした。そして、この世界が今にも崩壊しそうな時に、その中で生きていくことの緊張について歌っているんだ」


スチュワート、スタイナー、ヌッチオ、バラ、マッカーシーに加え、ネイサン・オデル(ダミー)、ルイ・デ・マガリャエス(ローン)、リンゼイ=ペイジ・マクロイ(パティオ)、そしてバンドのツアー・ドラマーであるジョナサン・パッポ、ベーシストのジュリア・ウィットマンが参加している。

 

「歴史的に、私たちのプロセスは本当に厳しく管理され、孤立していた」とマクグリーヴィは説明した。「このアルバムでは、かなり幅広い音楽的背景を持つ信頼できる人たちと仕事をした」

 


「Hollowed Out」



「Harm's Way」


ダックス・リミテッドは、2ndアルバム『Harm's Way』からセカンドシングル「Train Full of Gasoline」を発表した。前作「Hollowed Out」と「The Main Thing」に続くこの曲では、Ratboysのジュリア・スタイナーとMoontypeのマーガレット・マッカーシーがバッキング・ヴォーカルを務め、ドラムにはRatboysのマーカス・ヌッチオが参加している。以下よりチェック。


「この曲のきっかけは、友人からケベック州のラック・メガンティック鉄道事故について聞いたことだ。


原油を満載した73両編成の列車が無人のまま坂を転がり落ち、脱線して町で爆発した。この事故について何度も読んだが、私の理解では、小さなミスの積み重ねが互いに重なり合い、その結果、それを引き起こした個々の失敗のどれとも比例しない大惨事になったというシナリオだった。この曲は、自己破壊的なパターンについて歌っている。人生における問題を無視したり最小化しようとすると、それが思いもよらないところで顕在化することがある。





「Heavy Bag」


ダックス・リミテッドは、ニューシングル「Heavy Bag」を発表した。「Hollowed Out」、「The Main Thing」、「Train Full of Gasoline」に続くシングルである。

 

絶望と、不幸は仲間を愛するということを歌っているんだ。人は悪い場所にいると、一緒にいる人を貶めようとする。そこにとどまらせるために。

 

それは信じられないほど醜い衝動だが、正直に言えば、私は過去に自分自身を甘やかしたことがある。"この曲では、音楽的にこれまでやったことのないことをやろうとして、アレンジを構築する上で多くの直感を覆さなければならなかった。

 

でも、それが最終的にこの曲に合っていると感じたんだ」。マッキー・スチュワートとブライヤー・ダーリングは、最後にストリングスのレイヤーの多くを即興で演奏することになり、とてもエキサイティングな結果となった。


Ducks Ltd.は先行シングルとして「Hollowed Out」、「The Main Thing」、「Train Full of Gasoline」を公開した。テースターは下記より。





Ducks Ltd. 『Harm’s Way』


 
Label: Carpark
 
Release: 2024/2/9


Tracklist:

1. Hollowed Out
2. Cathedral City
3. The Main Thing
4. Train Full of Gasoline
5. Deleted Scenes
6. On Our Way To The Rave
7. A Girl, Running
8. Harm’s Way
9. Heavy Bag


 Pre-order:


レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのドラマーのブラッド・ウィルクはインスタグラムの投稿で、4人組が2022年の短縮ツアーを再開せず、再びステージで演奏する予定もないことを明らかにした。これはフロントマンのザック・デ・ラ・ロッチャのツアー時のアキレス腱の負傷が原因であるとしている。


「多くの人々が、キャンセルされたRATMの全公演の新しいツアー日程が発表されるのを待ち詫びているのは知っているよ」と彼は書き、フロントマンのザック・デ・ラ・ロシャが怪我のため座ったままパフォーマンスすることを余儀なくされ、さらに最終的には完全にツアーから離れることを余儀なくされたアキレス腱の断裂についてインスタグラムで言及している。


「しかし、これ以上、みんなや僕自身を苦しめたくないんだよ。だから、今後このようなことが起こるかもしれないという連絡はあったが、RATMが再びツアーやライブをすることはないことをみなさんにお知らせしたい。ライブを待ち望んでいた皆さんには本当に申し訳なく思っています」「心の底から......これまで僕らを応援してくれた全ての人にありがとう」と、彼は投稿のキャプションに付け加えた。


レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンは90年代にセルフタイトルアルバムでミクスチャーロックの旋風を巻き起こした。バンドは2010年代に9年間の活動休止後、2020年にリユニオンを果たし、COVID-19により延期されたコーチェラの公演を含むツアーを発表した。ツアーは2022年7月に始まったが、デ・ラ・ロシャはシカゴでの2回目の公演中に負傷し、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでの5夜公演で幕を閉じ、計19回のライブをこなしたに過ぎなかった。


11月、バンドは見事にロックの殿堂入りを果たしたが、ニューヨーク州ブルックリンのバークレイズ・センターで行われたセレモニーにはギタリストのトム・モレロしか姿を見せなかった。



ダブリンのsprintsが1月5日発売のデビューアルバム「Letter To Self」の最後のプレビューシングル「Heavy」を公開した。4人組は煽情的なライヴ・ショーで恐るべき評判を得ている。この新曲は、痛烈なギターリフをふんだんに織り交ぜたサウンドを介して、彼らのリアルなエネルギーを体現している。


この曲について、バンドのリード・ヴォーカリスト、Karla Chubb(カーラ・チャブ)は次のように語っている。


『Ticking』が不安の音的反復だとしたら、『Heavy』は文字通りその対極にある。残酷なまでに不協和音が響くこのサウンドは、不安に苛まれ、麻痺しているような感覚を伝え、押し寄せる思考、パニック、激しさを不安を誘発するようなビルドとコントラストを形成している。初期のバウハウスのレコードやPJハーヴェイの「Is This Desire?」に強くインスパイアされ、80年代のゴシックロックから多大な影響を受けている。


「Heavy」

©︎Matt Crocket

ブリットポップのレジェンドであり、元オアシスのメンバーでもあるノエル・ギャラガーは、自身のプロジェクト、High Flying Birdsの新デモ曲として「In A Little While」を発表した。『Council Skies』に続いて公開されたこの曲でも、ノエル・ギャラガーのスタンスには大きな変更はない。歌詞の通り、世界に希望を見出すことの重要性について歌っているが、直接的には歌われず、サブテクストの範疇に留められている。


ノエル・ギャラガーは、大晦日に自身のX/Twitterアカウントでこの曲を初めて予告し、タイトルとリリース日をシンプルに記したキャプションと共に新曲のスニペットをシェアした。曲自体は、シンガーソングライターでありギタリストでもある彼が、アコースティック・ギターで演奏し、メランコリックでエモーショナルな歌詞を歌うという、シンプルなアプローチをとっている。


「彼らはもう終わりだと言っている。でも、僕は信じない/彼らはもう終わりだと言っている。でも、そんなはずはない/もし、それが失われたなら、僕はそれをどこかで見つけるだろう/ページをめくって、新しいなにかを始めてみよう」と彼はコーラスで歌っている。この曲の試聴は以下から。


ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズの最新作『Council Skies』はBest Rock Album 2023としてご紹介しています。



「In A Little While」


アトランタのラッパー、JIDは 「30 Freestyle」と銘打たれたニューシングルで新年のスタートを切った。この曲は、グリセルダ所属のコンダクター・ウィリアムス、クリスト、タネ・ルノがプロデュースした。この曲でJIDは、彼の唯一無二のフリースタイルのフローを披露し、ラップしている。ソウルミュージックのサンプリング/チョップを配したバックトラックに合わせて、JIDが挑発的なフロウを披露する。


アルバムの前にテープを落とすんだ、お前らのほとんどは味覚を失っている/しかし、俺は猟犬のように失われた偉人たちの匂いを嗅ぎまわっているところ/俺が本当に誰なのか、詐欺師なのか、それとも偽物なのかを見極めようとしている/そいつはゲームか神の門のどちらかで道を見つけるだろう。


新曲を宣伝するインスタグラムの投稿で、JIDは今年を通じて新曲をドロップすることを確認した。アトランタを拠点に活動するラッパーは、X/Twitterの別の投稿を介して「練習のためにフリースタイルを始めたんだ。普段はペンでリリックを書くことが多いんだけど、この曲では一行一行書くのをやめて、自分を試すためにあまり時間をかけずに書いたんだ」とコメントしている。


JIDは昨年8月に待望の来日公演を行っている。最新作は2022年の最新アルバム『Forever Story』。さらにコラボレーターとしてミック・ジェンキンスの最新作『Patience』に参加している。本作は2023年のMusic Tribuneのアルバム・オブ・ザ・イヤーに滑り込みで選ばれている。






J.I.D   最新アルバム『The Forever Story





試聴/購入はこちら:


https://umj.lnk.to/JID_TheForeverStory

 

発売元:ユニバーサル ミュージック合同会社 


 

 
アーティストHP  

 

https://www.jidsv.com/#/

 
 

レーベルHP 

 

 https://www.universal-music.co.jp/jid/ 


ニューヨークのドリームポップ/インディーポップバンド、Lightning Bugが、近日リリース予定のアルバムから、デモ曲「Just Above My Head」と「No Paradise」を同時公開した。リリースはBandcamp限定です。

 

元旦に公開された2つのデモソングはライトニング・バグらしい、かすかなノスタルジアとエモーションを漂わせている。オードリー・カンのボーカルの柔らかさは往年のカレン・カーペンターに比するものがある。混乱した心を鎮め、入り組んだ思考を正し、しずかな安らぎを与えてくれる。レトロなシンセがバンドアンサンブルと溶け合い、オーガニックな空気感を醸成する。

 

Lightning Bugはさらに、この二曲のデモの発表とともに最新アルバム『A Color of the Sky』をリリースしたファット・ポッサムとの契約終了を公表した。バンドは2021年から同レーベルに所属していた。

 

 

 


Release Comment:


来るべきアルバムからの2つのデモで、獣を眠りから優しく目覚めさせたい。私たちはレーベルを離れて、当分の間、すべて自分たちの足で飛び上がることにしました。だから、あなたがたのサポートは殊に特別に感じられます。ジェームス・バルドウィンとこれまでのすべての詩人に感謝したいです。

 

PROJECTOR

 



Next Preview:


イギリス国内では珍しく観光ビーチを持つ港町ーーブライトンは、若者の街であり、ファッションの街でもある。現在、ポストパンクの最重要地になりつつあるこの都市から登場するトリオがいる。


2018年の結成以来、PROJECTORは頑なに独自の道を歩んできた。フックのあるオルタナティヴロックに鋭利なインダストリアル・ドラム・マシン、そしてロンドンのシーンに触発された熱狂的なポストパンクにみずみずしいメロディを持ち込む。バンドはサウンドの幅広さとポップに対する実験的な姿勢をデビュー時から保持している。トリオはロック界の巨人、クレオパトリック(Cleopatrick)とヨーロッパツアーを行い、BBCラジオ6のスティーヴ・ラマック/エイミー・ラメの番組でオンエアされるようになった。それはこのクラフトに対する自信の賜物だった。


PROJECTORのサウンドを聴けば、現代のポストパンクがどうあるべきなのか、そして何をアウトプットすべきかを熟知しているかは瞭然だ。表現の微妙なニュアンス、現代生活、精神、政治の真の狂気と厳しさについて言及している。(彼らは歌詞について話したがらない)。レコーディングに対して一貫した姿勢を貫いてきたPROJECTORはこの数年、独力でプロデュースとレコーディングを行うことで、クリエイティブなアウトプットの手綱をしっかりと握っている。


PROJECTORのデビューアルバム「NOW WHEN WE TALK IT'S VIOLENCE」は2月9日に自主レーベルから発売が予定されている。三者三様の芸術的な錯乱、攻撃性を持ち寄り、そしてバンドがメインストリームのロック・シーンに殴り込みをかける。ポップなフックの間を軽やかに行き来する。 

 


 

 

ある時は、ジョイ・ディヴィジョン/インターポールを想起させるダークでインダストリアルなブルータリズムに染め上げられたかと思えば、またある時は、Squid風味のハイパーアクティブなラントポップのスペクタクルを織りなす。アルバムのクライマックスは、ドラムマシーンとみずみずしいハーモニーで歪んだアシッドに侵食されたカントリーに傾き、ラナ・デル・レイ風味のコーラスに乗せ、『Incesticide』時代のパラノイアなグランジ・ロックへと飛躍してゆく。


男女の双方のメインボーカルの個性が苛烈なポストパンク性、それとは対照的な内省的なオルトロック性を生み出す。ボーカルにはリアム・ギャラガーのようなフックと親しみやすさがある。かと思えば、それとは対照的にアンダーグラウンドなカルト的な雰囲気を擁する。それはロックの持つ原初的な危険性である。なによりも、バンドのテンションが、ピクシーズの初期のような奇妙な熱気を持ち、曲全般をリードする。それは彼らのライブのリアルなエネルギーを力強く反映している。

 

PROJECTORは、デビューを記念し、2024年2月からUKおよびEUツアーを行う。ツアーの皮切りはノッティンガムで開始を告げ、故郷のブライトン、グラスゴーでのライブが予定されている。


ブライトンの新進気鋭のバンドがこの先どのようなウェイブを巻き起こすのか。それはまだ誰にも知り得ないこと。 

 





「ブライトンのトリオ、プロジェクターは、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのウォール・オブ・サウンドとピクシーズの刺すような衝動の中間に位置する」-DIY Magazine

 

 



・TOUR DATES:


・2/22

The Bodega Social ClubーNOTTINGHAM


・2/23


The Green Door StoreーBRIGHTON

 

・2/29

The Garage AtticーGLASGOW





PROJECTOR 『Now When We Talk It's Violence』 


 

Label: Projector

Release: 2024/02/09


Tracklist:

 

1.And Now The End

2.No Guilt

3.Dubious Goals Committee

4.Sunshine

5.Don't Give Anything Up for Love

6.Now When We Talk It's Violence

7.Chemical

8.Necessary

9.Big Idea

10.Breeding Ground

11.Tasyes LIke Sarah

 


Pre-order:

 

https://projectorofficial.bandcamp.com/album/now-when-we-talk-its-violence

 


ジャングルポップ/パワーポップ・リバイバルの雄、The Lemon Twigsがニューシングル「The Golden Years」をキャプチャード・トラックスから発表した。


ブライアン/マイケル・タダリオ兄弟は60/70年代のビンテージロックに傾倒し、デジタル・レコーディングとは異なるアナログレコード時代の温かみのある音作りを意識している。本日公開された「My Golden Years」は、The Rubinoos、 Raspberries、Cheap Trickを彷彿させる甘酸っぱいメロディラインが特徴のシングル。


昨年、The Lemon Twigsは最新アルバム『Everything  Harmony』をキャプチャード・トラックスからリリースした。(レビューはこちらよりお読みください)その後、オーストラリア・ツアーを成功させた。


バンドは、5月29日から6月2日までバルセロナで開催されるプリマヴェーラ・サウンドに出演する。12時ごろにオフィシャルミュージックビデオが公開される予定。ぜひ下記よりご覧ください。


「My Golden Years」


ブライトンの四人組のロックバンド、YONAKAが2024年の幕開けを告げる「Predator」を発表した。


このニューシングルは、旧来のバンドのアプローチとは異なり、メタルコアやラップメタルの影響を交えたミクスチャー・サウンドとなっている。その音楽性は90/00年代のミクスチャーロックにヒントがありそうだが、もちろんそれを2020年代の形にアップデートしているのは言うまでもない。

 

2023年、ユニバーサルミュージックから発表されたEP『Welcome To My House』では、マンチェスターのPale Wavesのように、ポップ・パンクとハイパー・ポップを融合させたスタイルで話題を呼んだ四人組。だが、YONAKAを単なる「ニューライザー」等と称する段階は過ぎているのではないだろうか。Evanescence(エヴァネッセンス)を基調としたメタルコアに近い音楽性、チャーリーXCXのハイパーポップ、現代的なUKラップを吸収し、それらをポピュラーミュージックとして昇華したスタイルは劇的である。今後さらに多くのファンベースを獲得しても不思議ではない。昨年のG2、Jeris Johnsonとのコラボレーション曲「Detonate」の進化系がニューシングル「Predator」で遂にお目見えとなった。問題無用のベストニュートラックだ。

 

YONAKAは、2023年、イギリスの最大級の都市型の音楽フェスティバル、レディング/リーズに出演し、続いて彼らの新たな代名詞となるアンセムソング「PANIC」を発表した。今後、急上昇が予想されるブライトンのロック・バンドに注目したい。

 

 

「Predator」

Snõõper

ナッシュヴィルの新進気鋭のパンクバンド、Snõõperは大晦日に2023年を締めくくるべく、カオティックなトラック 「for yr love 」を公開した。この曲はサイケロック風のリミックスソングで、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジが在籍したヤードバーズの代表曲。彼らのビンテージロックに対する愛着がターンテーブルのようなミックスと融合を果たした。


今年、Snõõperはジャック・ホワイトの主宰するサードマンから『Super Snõõper』(Reviewを読む)をリリースした。先月は単発シングル「Company Car」を公開している。両シングルはいずれもバンドキャンプの限定リリース。


デビューアルバムでは、カルフォルニアのオリジナル・パンク、DCやボストンのストレイト・エッジに傾倒をみせたが、二つのシングルは双方とも一定のジャンルでは語りつくせないものがある。snooperの雑多性、クロスオーバー性を象徴するづけるユニークかつ魅力的なトラックだ。


 James Bernard & anthéne  「Soft Octaves」


 

Label: Past Inside the Present

Release: 2023/12/31

 

 

 

Review


 

James Bernard(ジェイムズ・バーナード)は、カナダ/トロントを拠点に活動するアンビエントアーティストで、多数のバック・カタログを擁している。 今作でコラボレーターとして参加したanthéne(Brad Deschamps)は、トロントのレーベル、Polar Seasの主宰者である。


ジェイムズ・バーナードによると、『Soft Octaves』の主なインスピレーションは、私たちの「不確実性と希望の時代」にあるという。ヘッドホンをつければ、別世界へと誘われ、カラフルで想像力豊かな地平線を発見することができる。ジェームズ・バーナードはそれを以下のように表現している。


窓のシェードの向こうの燐光が最初にまぶたを乱す、その限界の瞬間を特定するのは難しい。

 

あるときは、千尋の夢の最後の数瞬間の、長い尾を引く部分的な記憶であり、またあるときは、不安であれ熱望であれ、その後に続くものを予期するときの抑えがたい下降するため息である。あなたの無意識の不在の間に何世紀もの時間が流れている。


このアルバムには、パンフルートのような音色を用いたアブストラクト・アンビエントを主体とする楽曲が際立つ。その始まりとなる「Point Of Departure」は、超大な、あるいは部分的な夢幻への入り口を垣間見るかのようでもある。しかし、アンビエントの手法としては、それほど新奇ではないけれども、アナログシンセにより描出されるサウンドスケープには、ほのかな温かみがある。そしてその上に薄くギターを被せることにより、心地よい空間性を提供している。

 

「Flow State」でも温和な音像が続く。(アナログ)ディレイを用いたシンセの反復的なパッセージの上にアンビエント・パッドが重ねられる。 それらの重層的な音の横向きの流れは、やはりオープニングと同様に、夢想的なアトモスフィアを漂わせている。夢想性と論理性を併せ持つ奇妙な曲のコンセプトは、聞き手に対して幻想と現実の狭間に居ることを促そうとする。その上にギターラインが薄く重ねられるが、これが微妙に波の上に揺られるような感覚をもたらす。

 

 「Saudade」ではオープニングと同様に、パンフルートをもとにしたアンビエントの音像にノイズを付け加えている。アルバムの冒頭の三曲に比べると、ダーク・アンビエントの雰囲気がある。しかしギターラインが加わると、その印象性が面白いように変化していき、神妙な音像空間が出現する。それらの空気感は徐々に精妙なウェイブを形作り、聞き手の心に平安をもたらす。

 

「Trembling House」はリバーブ・ギターで始まり、その後、ロサンゼルスのアンビエント・プロデューサー、marine eyesのボーカルが加わる。マリン・アイズは、今年発表した「idyll (Extented Version)」の中で、カルフォルニアの太陽や海岸を思わせるオーガニックなアンビエントを制作していて、この曲でも、自然味溢れるボーカルを披露している。器楽的なアイズのボーカルはディレイ・エフェクトの効果の中にあって、安らぎと癒やしの感覚をもたらしている。

 

「Overcast」は叙情的なアンビエントで、イントロの精妙な雰囲気からノイズ/ドローンに近い前衛的な作風へと変化していく。しかし、この曲は上記の形式の主要な作風を踏襲してはいるが、かすかな感情性を読み取ることが出来る。途中に散りばめられる金属的なパーカッションの響きは、制作者が述べるように、夢幻の断片性、あるいは、それとは逆の意識の中にある無限性を示しているのだろうか。当初は極小のフレーズで始まるが、以後、極大のなにかへと繋がっている。サウンドスケープを想起することも不可能ではないが、それは現実的な光景というよりも内的な宇宙、もしくは、意識下や潜在意識下にある宇宙が表現されているように思える。


続く「Soft Octave」もオーガニックな質感を持つアンビエント。その中には雨の音を思わせるかすかなノイズ、そして大気の穏やかな流れのようなものがシンセで表現されている。聞き手は小さな枠組みから離れ、それとは対極にある無限の領域へと近寄る手立てを得る。かすかなグリッチノイズは、金管楽器のような音響性を持つシンセのフレーズにより膨らんでいき、聞き手のイメージに訴えかけようとする。核心に向かうのではなく、核心から次第に離れていこうとする。音像空間は広がりを増していき、ややノイジーなものとなるが、最後には静寂が訪れる。

 

「Cortage」は、Tim  Heckerが表現していたようなアブストラクトなアンビエントの範疇にある。しかし、それは不可視の無限の中を揺らめくかのようである。暗いとも明るいともつかないイントロからシンセのパッドが拡大したり、それとは正反対に縮小していったりする。フランス語では、「Cortage」というのは「葬列」とか「行進」という意味があるらしい。ぼんやりとした霧の中を彷徨い、その先にかすかに見える人々の影を捉えるような不可思議な感覚に満ちている。シネマティックなアンビエントともいえるが、傑出した映画のサウンドトラックと同じように、独立した音楽であり、イメージを喚起する誘引力を兼ね備えていることが分かる。

 

「Renascene」は、Chihei Hatakeyamaが得意とするアブストラクトアンビエントを想起させる。精妙な音の粒子やその流れがどのようなウェイブを形成していくのか、そのプロセスをはっきり捉えることが出来るはずである。その心地よい空間性は、現代的なアンビエントの範疇にある。しかし、曲の最後では、グリッチ/ノイズの技法を用い、その中にカオスをもたらそうとしている。表向きには静謐な印象のあるアンビエントミュージックがそれとは逆の雑音という要素と掛け合わされることで、今までになかったタイプの前衛音楽の潮流ができつつあるようだ。

 

『Soft Octaves』のクライマックスを飾る「Summation」では、James Bernard、anthéneの特異な表現性を再確認出来る。


アルバムのオープニングと同じように、夢想的、あるいは無限的な概念性を込めた抽象的なアンビエントは、ニューヨークのRafael Anton Irissari(ラファエル・アントン・イリサーリ)の主要作品に見受けられる「ダーク・アンビエント」とも称されるゴシック調の荘厳な雰囲気があり、表向きの癒やしの感覚とは別の側面を示している。この曲は、威厳や迫力に満ちあふれている。


ジェームズ・バーナードが語るように、本作は、シュールレアリスティックな形而上の無限性が刻印され、クローズ曲が鳴り止んだのちも、アルバムそのものが閉じていかないで、不確実で規定し得ない世界がその先に続いているように思えてくる。希望……。それは次にやって来るものではなく、私たちが見落としていた、すでにそこに存在していた何かなのかもしれない。


 

 

90/100

 

 

 

 



アンビエントの名盤ガイドもあわせてお読みください:


アンビエントの名盤 黎明期から現代まで


 

今年のはじめ、フランスの音楽シーンを牽引するナント出身のシンガー、クリスティーン・アンド・ザ・クイーンズは「Stayin' Alive」「Saturday Night Fever」のカバーをカンヌ国際映画祭で披露しています。昨日、歌手はクリスマスバージョンをリリースし、カンヌで撮影されたライブ映像を同時公開しました。


ビージーズのカバーについて、クリスティーン・アンド・ザ・クイーンズは次のように説明しています。


アートは癒しがある。私たちを何度も何度もひとつにする。人間性の経験であり、想像力の喜びの船であり、私たちが共に再発明する炉辺なのだ。私の師匠たちは、アートを魔法の避難所として見なしている。仮面を被り、自分自身から解き放たれ、彼ら自身の夢の主権の領域へと入り込むため...。


素晴らしい友人、気前のいい見知らぬ人々、美しいヴェネツィアの住人たちとともに、数日という緊急事態の中で制作された本作は、2023年への私たちの惜別の言葉、そしてより良い未来に向けたパンクのジェスチャーでもある。ではまた会おう!! ークリス


クリスティーン・アンド・ザ・クイーンズの最新作は「PARANOÏA, ANGELS, TRUE LOVE」

 

 

 

「Staying Alive!」‐Chris version

 

 

「Staying Alive」-Live From Canne Cante le Cinema

 



「1989」(テイラーズ・ヴァージョン)がビルボード200の1位に返り咲き、ロックの伝説、エルビス・プレスリーが持つチャート首位獲得最多週間記録に並んだ。最高記録の保持者であるビートルズは、アルバムチャートに最も多くランクインさせたアーティストとして132週を記録している。

 

2023年はテイラー・スウィフトにとって素晴らしい一年となった。『スピーク・ナウ(テイラーズ・ヴァージョン)』と『1989(テイラーズ・ヴァージョン)』をリリースしただけでなく、記録破りの『The Eras Tour』に乗り出し、コンサート映画『Taylor Swift | The Eras Tour』を発表。


ドレイクと並んでビルボード・ミュージック・アワードの歴代最多受賞記録を更新し、ビルボードのチャートでトップ10に4作のアルバムをランクインさせた最初の女性アーティストとして歴史を刻み、アカデミー賞の映画芸術科学アカデミーに招待された。さらにタイム誌のパーソン・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた。


今週、テイラー・スウィフトはアルバムがチャート上位にランクインして67週目を迎えた。以前はエルヴィス・プレスリーがこの記録を保持していたが、スウィフトはそれに並んだことになる。1989(テイラーズ・ヴァージョン)』は、クリスマスにレコードが売れたこともあり、チャート3位の『ミッドナイツ』、7位の『ラヴァー』と並んで、再びチャートのトップに返り咲いた。



2023年も残すところあと2日。バラク・オバマ元大統領は、ポップス、カントリー、R&Bなど、この1年で最もノリノリだった曲を明かし、「バラク・オバマのお気に入りの音楽」を発表した。


2023年、彼は28曲をリピートしている。ハイライトは、カロルGとシャキーラの "TQG"、ザック・ブライアンの 「I Remember Everything」 、ケーシー・マスグレイヴスの「Sprinter」、デイヴ・アンド・セントラル・シーの「America Has a Problem」、ビヨンセ feat.ケンドリック・ラマー。Megan Thee Stallionの 「Cobra」、Tylaの 「Water」、Mitskiの 「My Love Mine All Mine」、Victoria Monétの 「On My Mama」も含まれている。12月29日(金)、彼はインスタグラムに以下のように書いている。


「今年のお気に入りの曲を紹介します。チェックすべきアーティストや曲があったら教えてくださいね」


オバマ氏がかなりの音楽通であることは以前から知られている。そのあまりのセンスの良さに、ミシェル夫人に手伝ってもらっているのでは、との噂も流れるほど。過去数年間の彼の楽曲リストにも記録されている。2022年、Lizzo、Rosalía、Ari Lennox、Ethel Cain、Steve Lacy、Omar Apolloといったアーティストの音楽を選んだ。ビヨンセ、ケンドリック・ラマー、ザック・ブライアンなど数組は、2022年と2023年の両方のプレイリストでフィーチャーされている。


また、第44代アメリカ大統領は毎年、夏のお気に入りの曲を紹介している。2023年のベストリストには、Boygenius、Ice Spice、Luke Bryan、Nicki Minaj、Leonard Cohenのソングが含まれている。


 


チャカ・カーンがRolling Stone誌のインタビューに応じ、自身の音楽的遺産と最近のロックの殿堂入り、そして最近のジョージア州での暮らしについて語った。


11月、チャカ・カーンはついにロックの殿堂入りを果たし、2023年殿堂入りを果たしたケイト・ブッシュ、ミッシー・エリオット、シェリル・クロウらとともに、音楽優秀賞を受賞した。


自分のキャリアと遺産を振り返り、カーンは、50年にわたる成功を経験できたことは信じられないほど幸運なことだと感じている。そしてかつてはそのような成功を予期していなかったと謙遜している。

「私は今ほど有名になるとは一度も思ったことはありませんでした。なぜなら、私は何もする必要もなく、私の曲に関して起こったことだからです。私を世界に大々的に紹介してくれる素晴らしい人はいませんでした。この業界で自分がどれほど愛されているかに今でも驚いているくらいです」


R&B、ファンクの女王は、ロバート・パーマー、レイ・チャールズ、クインシー・ジョーンズ、グラディス・ナイト、デ・ラ・ソウル、メアリー・J.ブライジ、アリアナ・グランデらとコラボするなど、輝かしいキャリアを持っている。パフォーマンスは彼女の構想の中にあるが、ツアー・キャリアを終える時期が近づいたと感じている。


「ある人たちは、それがすべてなんだ。私はこの豊かな人生を手に入れた。ひ孫もいるし、もっと仲良くなりたい。だからもうツアーはしない。日程は組むけど、ツアーには見えない。その間に寝る時間があるくらいに間隔を空ける」と彼女は説明し、「完全な引退という点ではまだそこまでには至っていないかもしれません」と付け加えた。


さらにアーティストは現在、ジョージア州に引っ越し、森の近くに住み、自家栽培をしながら充実したライフを送っているらしい。チャカ・カーンはユニークなジョークを込めて、RSのマーク・サマーに以下のように語った。

「私はビッグフットを探してます。それからサスカッチも探してます。なぜなら、この家は森に囲まれていて、とっても美しいのだから。私は、毎日起きると、森の中の湖を眺めてます。私は外に座って、純粋な空気を吸い、次の夏に向け、田植えの準備をしています。私は自分で野菜を育て、自分のハーブをたくさん育てるつもり。それをいつも楽しみにしてます。そして、私には自分らしい人生を送る計画がありますよ」

 

20世紀の作曲家は、特に古典派やウイーン学派に属する作品に一定の評価が与えられており、同時に主要な楽団やオーケストラにより再演される機会が多い。また、それ以後のコンテンポラリー・クラシック、すなわち現代音楽家を見ると、グラスやライヒなどの現代のポピュラーミュージックに強い触発を及ぼした音楽家のスコアは一般的に、日の目を見る機会が多いように思える。

 

けれども、他方、その中間の年代にある作曲家、例えば、ベルク、ウェーベルンを除いては、以後の年代に属する作曲家は、現代的な観点から軒並み不当な評価を受けている場合が多い。例えば、バルトーク・ベーラに興味を持つオーケストラやコンダクターはいるにせよ、その東欧近辺の20世紀の作曲家のスコアが軽視されるケースは、それほど少なくないように思えてならない。しかし、ソビエト連邦/ドイツのアルフレート・シュニトケ、そして、ポーランドのヘンリク・グレツキなど、20世紀のクラシックからポピュラー・ミュージックへと主要な音楽の舞台が変遷する時代に、良質なオーケストラによるスコアを書いた作曲家は数多く存在する。

 

ヘンリク・グレツキ(Henryk Mikołaj Górecki)は、バルトークと同様、ブルックナーやマーラーの系譜にある管弦楽法にポーランドの民謡の要素を取り入れた作曲家だ。しかし、オーケストレーションにおける技法の巧緻さは、同年代の作曲家の中でも傑出している。グレツキは晩年になると、指揮者も務めるようになったが、これはパリでの音楽教育の賜物であると解釈できる。特に、彼が遺したオーケストラのスコアの中では、クワイア(混声合唱)やオペラに属する楽曲に名作が多い。合唱曲では、ポール・ヒリアーが指揮した『5 Kurpian Songs:Op.75』 がある。この曲集はポーランドの「Kurpie」という地域の独自の民族性や文化性にスポットライトを当てている。

 

今回、言及する「交響曲第三番 (別名:悲歌のシンフォニー)」は、ヘンリク・グレツキの代表的な傑作として知られる。一楽章のブルックナーの系譜にある巧みな管弦楽の流れは序章的な内容を暗示し、二楽章のオペラを思わせるストリングスとオペラの融合の見事さ、そして二楽章の余韻を補佐するような形で続く同じく三楽章は、現代の東欧圏の主要な作曲家と比べても遜色がない。この作品こそ、主要な楽団や指揮者に再評価されるべきものであるかもしれない。

 

1977年の「ワルシャワの秋」音楽祭で、ヘンリク・グレツキの独唱ソプラノと管弦楽のための交響曲第3番「悲歌の交響曲」作品36(1976年)がポーランドで初演されると、大きな感動を呼んだ。当時の反応はいかなるものだったのか??

 

 

聴衆は混乱した。ある者は「傑作」と評価し、また、ある者は「作曲家の創作意欲のなさの現れ」と見なした。聴衆は、いくつかの和音と繰り返される旋律に還元された音楽言語の手段の単純さに感動した。グレツキの以前の、極めて洗練された工房での作品と比較すれば、これは真の革命だった。作曲家は批評家の意見に対して自らを弁護する必要があったーー



実際、交響曲第3番の前には、16年前の「ワルシャワの秋」と銘打たれた音楽祭で演奏された極めて前衛的な作品『スコントリ』に象徴されるように、作曲家の創作態度がそれ以前へと急進的に変化することを予感させる作品がいくつかあった。しかし、交響曲第3番を聴いた聴衆は、言葉の異常な単純化、「受け入れがたい」までの表現手段の削減、ブルックナーのような「原始的な調性」への回帰に衝撃を受けたのだ。

 

これらと同じ要素に、ヘンリク・グレツキの作品の熱狂的なファンは、新たな作曲コンセプトとこの作曲家の天才の証しを感じ取ったのである。その一方で、この音楽の特徴は、やはり表現の膨大な負荷にあることを誰もが認めざるを得なかった。交響曲第3番では、そして、それ以前のアド・マトレムと交響曲第2番では、この表現は異なる色調を帯びている。交響曲第3番が初演から16年後に驚異的な大成功を収めたのは、祈りにも似た熱情があったからなのだろうか。

 

交響曲第3番の初演時に、ヘンリク・グレツキは以下のようなコメントをプログラムのブックレットに添えている。


「1976年10月30日から12月30日にかけて、バーデンバーデンのラジオ局Südwestfunkの委嘱で『交響曲第3番』を作曲しました。1977年4月4日、第14回国際現代芸術祭の一環として初演された。歌はステファニア・ヴォイトヴィッチ、演奏は、エルネット・ブール指揮シュトヴェストフンク放送交響楽団。交響曲は3曲からなる」

 

「一番長い(約27分)第1曲は、ソプラノの呼びかけによって中断される厳格なカノンである。カノンのテーマには、ヴワディスワフ・スキエコフスキ師のコレクションにある”クルピーの歌”の断片を用いた。第2曲は、ABABCの構造 を持つソナタ形式の一種の哀歌である。第3曲では、アドルフ・ディガツ師のコレクションから、オポーレ地方の本格的な民謡の変奏曲を使用した。この交響曲はヘンリク・グレツキの妻に捧られたものである。演奏時間は約55分。ーー(1977年、音楽祭「ワルシャワの秋」のプログラムブックレットに収録された作曲家のコメント)」 

 

 

 「Symphony No.3」ーMovement 2

 

 

しかし、これらのセンセーショナルな聴衆の反応については、当初、ポーランドを始め、東欧圏に限定されていたことを付け加えねばならない。三楽章から構成されるこの交響曲には、ヴェルディのオペラに象徴される華やかさがあり、さらに以後のミニマル学派の予兆となる楽節や全体的な構成の簡素化、そして、新古典派以降の作曲家、及び新ウイーン学派の作曲家らが複雑的な構造を用いるようになったことに対する反駁の意図が見受けられ、ソナタ楽章の原始的な回帰という意味も込められている。そしてバルトーク・ベーラのように、土地固有の民謡、現在でいえばフォーク・ミュージックの要素をオーケストラスコアの中に導入しようと試みた。

 

また、交響曲第三番の第2楽章における「叙情的なテーマ」は、シューベルトやブラームスに代表されるウイーン/ドイツ圏のロマン派の持つテーゼへの回帰という意図も読み解くことが出来る。ヘンリク・グレツキは、アルフレート・シュニトケと並んで、以降の時代のミニマル学派への架橋を行った重要な作曲家であり、映画音楽なども含めて現代的な音楽へ与えた影響は図りしれないものがある。古典的なソナタ形式に回帰しながらも、ポピュラーミュージックのような簡素な構成を選んだことも、このスコアを今なお音楽的に意義深いものにしている理由だ。




ヘンリク・グレツキ(Henryk Mikołaj Górecki):

 

 (1933年12月6日ツェルニツァ生まれ、2010年11月12日カトヴィツェ没):ポーランドの作曲家、教育学者。


1960年にカトヴィツェの国立高等音楽学校を卒業し、作曲をボレスワフ・シャベルスキに師事。後に同大学の学長を務める。その後、パリで音楽の勉強を続ける。PAUの全国的な正会員。


1958年のワルシャワ秋音楽祭で、ジュリアン・トゥヴィムの詞による混声合唱と器楽アンサンブルのための「エピタフィウム」を発表し、初めて認められた。


1960年の「ワルシャワの秋」での《スコントリ》の発表により、グレツキの音楽への関心がさらに高まった。この曲は、ポーランドのソノリズムを代表する作品のひとつである。タイトルの「zderzenia」は、ぶつかり合う音の塊と訳すことができる。この作品の音の密度は並外れて高く、88音群にも達する。同時に、ポーランド音楽における連弾技法の最も一貫した応用例のひとつでもある。


同年、ソプラノと3群の楽器のための《モノローギ》でポーランド青年作曲家連盟コンクール(1960年)第1位を受賞。この賞のおかげで、彼は初めての海外旅行(フランス)に出かけることができた。


『リフレイン』(1965年)では、作曲家は伝統的な演奏技法、さらには和声に立ち戻った。曲の最初と最後の短いエピソードでは、旋律さえも聴くことができる。初期の作品の典型であったコントラストは弱まった。この作品は1967年、パリのユネスコ国際作曲家コンクールで受賞した。


1969年、彼は金管楽器と弦楽器のための《古いポーランドの音楽》を作曲した。この曲の特徴は、その後、グレツキの音楽の典型となった。また、別の変化もあった。作曲家は声楽と楽器のジャンルや、(一般的には)聖なるテキストに目を向けた。彼は、主にポドヘール地方の古楽や民俗音楽を明確に参照することが多く、明確な旋律と伝統的で単純な和声、モチーフやフレーズが何度も繰り返される作品を生み出している。ゴレツキの音楽がしばしばミニマリズムと結びついたり、「新しいシンプルさ」と呼ばれたりするのは、このような特徴があるからである。


これがグレツキの代表作である交響曲第3番、別名「悲歌の交響曲」の特徴である。1976年にワルシャワの秋の現代音楽祭で初演され、その後海外でも演奏されたが、当時はあまり関心を集めなかった。


1992年、非常に効果的なプロモーション・キャンペーンにより、アメリカの歌手ドーン・アップショーによって録音された後、この曲はクラシック音楽のみならず、世界のヒットチャートに登場した。交響曲第3番は、とりわけポーランドの優れた歌手ステファニア・ヴォイトヴィッチとゾフィア・キラノヴィッチによって録音された。ゴレツキは一夜にして国際的な有名人となった。


2005年10月15日、ビエルスコ=ビャワで開催された第10回ポーランド作曲家フェスティバルで、アメリカの弦楽四重奏団クロノス・クァルテットによって弦楽四重奏曲第3番作品67『歌は歌う』が初演された。スタイル的には、弦楽四重奏曲第3番は、前作と大きな違いはないが、瞑想的なものへと大きくシフトしていることが見て取れ、第3楽章(最も調性的な楽章)だけが、単純な遊びの要素を取り入れている。


2003年にルクス・エクス・シレジア賞を受賞したほか、数々の国際コンクールや国内賞を受賞している。ワルシャワ大学(1994年3月10日)、ヤギェウォ大学(2000年)、ルブリン・カトリック大学(2004年)などから名誉博士号を授与さふすふすれ、上シレジアのカトヴィツェ市(2008年)とリブニク市(2006年)の名誉市民でもある。2003年、ポロニア・レスティトゥータ勲章星付中佐十字章を受章。