ラベル Jazz の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル Jazz の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

 

Photo: Dorothy Darr

 9月23日、チャールズ・ロイドは「Trios:Ocean」をブルーノートからリリースします。これら六月から十一月にかけて3つのリリースを通じて繰り広げられる「Trio of Trios」シリーズは、伝説的なサックス奏者で、NEAジャズ・マスター、チャールズ・ロイドを3つの異なるトリオ編成で紹介する壮大なプロジェクトとなっている。

 

今回、シリーズ二作目となるアルバム「Trios: Ocean」のリリース発表と同時に、ピアニストのジェラルド・クレイトン、ギタリストのアンソニー・ウィルソンが共演するシングル「Jaramillo Blues (For Virginia Jaramillo and Danny Johnson)"」が先行公開されました。ぜひ下記よりチェックしてみてください。

 



3つのTrioシリーズ第1弾のアルバム「Trios: Chapel」は、6月24日に発売されている。このアルバムは、ギタリストのビル・フリゼール、ベーシストのトーマス・モーガンをフィーチャーしている。「Trios: Chapel」「Trios:Ocean」に続く第三弾のアルバム「Trios:Sacred Thread」は11月18日に発売。この作品はギタリストのジュリアン・レイジとパーカッショニストのザキール・フセインをフィーチャーしている。 

 

 

以上の三部作のアルバムは、ヴァイナルとCDで個別に発売されるほか、ブルーノートストア限定で、3枚組LPヴァイナル・ボックスセットとして注文可能となっている。これら三枚のアルバムを収めた「Trio of Trios」のレコードボックスセットには、ドロシー・ダーによる3枚の印象的なアルバムジャケットをモチーフにした4枚のリトグラフプリントが付属、さらに、ボックスセットのアートワークのサイン入りリトグラフが入ったハードカバースリップケースに収められている。


今回のトリオ・シリーズ第二弾となる「Trios:Ocean」は、チャールズ・ロイドの故郷であるカリフォルニア州サンタバーバラにある、150年の歴史を持つロベロ・シアターでレコーディングが行われた。世界的なパンデミックが始まった、2020年9月9日に無観客開催のライブ配信が録音されている。この公演において、ロイドは、ピアノのジェラルド・クレイトン、ギターのアンソニー・ウィルソン、有名なミュージシャンを父に持つ2人のミュージシャンと共演を果たしている。ジェラルド・クレイトンは西海岸の伝説的ベース奏者、ジョン・クレイトンの息子である。一方のアンソニー・ウィルソンもまた著名なバンドリーダー、トランペッター、作曲家のジェラルド・ウィルソンの息子であり、かつて、チャールズ・ロイドは10代でメンフィスから南カリフォルニア大学に留学したとき、ウィルソンのビッグバンドで演奏した経験がある。

 

ロイドの音楽のボキャブラリーの中には、常にブルースミュージックが織り込まれており、その影響は、時にあからさまに、時にひそやかに現れるが、今回発表されたシングル"Jaramillo Blues "ではその双方の影響が顕著に現出している。画家・ヴァージニア・ジャラミロ、そして、彼女の夫で、彫刻家、ダニエル・ジョンソンに捧げられたこのシングル作品では、チャールズ・ロイドが、ハウリン・ウルフ、ボビー・ブルー・ブランド、B・B・キング、といったブルースの巨匠と一緒に演奏した10代のバックグラウンドまで時系列で遡ることが出来る。ジェラルド・クレイトンの明るく朗らかなギターのコードが、チャールズ・ロイドのブレスへの導入部となっており、演奏のムードとトーンを作り上げていく、かなり楽観的な色合いの強いジャズブルースである。



チャールズ・ロイドは長い期間、自由な精神を保持する演奏家であるのみにとどまらず、ジャズシーンのマスター・ミュージシャンであり、そして、素晴らしい空想家でもあった。60年以上にわたり、このサックス奏者兼作曲家は、「The Water Is Wide」(ECM)を始めとする名作群において、モダンとクラシックの架橋するようなサックス奏者として、ジャズシーン、ひいては音楽界そのものに大きな影を落としてきたが、84歳になった今でもその力はまったく衰え知らずで、相変わらずの多作ぶりを見せている。チャールズ・ロイドは、早い時代から、興味深い独創的な即興ソロをジャズの演奏のコンテクストに置くことがいかに表現自体に自由をもたらし、創造性を刺激するかを見抜いていた。ロイドはその素晴らしいキャリアを通じて、自分の即興技術を枠にはめる別の方法を真摯に探し求め続けている。


イギリスのジャズ・グループ、Ezra Collective(エズラ・コレクティブ)がニューアルバム「Where I'm Meant To Be」をPartisan Recordsより11月4日にリリースすることを発表しました。


デビュー作『You Can't Steal My Joy』の次作アルバムで、最近のシングル "Victory Dance "も収録されています。Where I'm Meant To Beには、Kojey Radical、Emeli Sande、Nao、Sampa The Greatが参加しています。


ザンビア出身のラッパー、Sampa The Greatは、アルバムのニューシングル "Life Goes On "において、Ezra collectiveと共演を果たしている。この曲は、Fela Kutiの1972年のレコード 「Shakara Oloje」を意識したものであり、Nathan Millerが監督したミュージックビデオは、ロンドンとザンビアのルサカで撮影された。バンドは次のように説明している。



ロンドンとルサカの出会い。喜びの瞬間、葛藤の瞬間、しかし、私たちは続けなければならないという精神で結ばれている。人生は歩み続けなければならない...。私たちは、ジャズとミックスできるものの限界を押し広げようという一貫した意志を持って音楽を作っています。

 

これは、南部アフリカのヴァイブスのエネルギーと、私たち独自のスタイルのロンドン・ジャズをミックスしたものです。そして、この美しさを表現するのに、サンパ・ザ・グレートの右に出る者はいない。


アフロビート、ロンドン・ジャズ、ヒップホップがスリリングにミックスされた「Life Goes On 」を聴くかぎり新作アルバムは期待出来る作品になるかもしれません。新曲のビデオ、全トラックリスト、さらに、セロニアス・モンクのアルバム『アンダーグラウンド』を引用したアルバム・アートワークは、以下よりご覧ください。


「Life Goes On 」

 



Ezra Collective 「Where I'm Meant To Be」




Label: Partisan

Release: 2022年11月4日


Tracklist:


1. Life Goes On (feat. Sampa the Great)
2. Victory Dance
3. No Confusion (feat. Kojey Radical)
4. Welcome To My World
5. Togetherness
6. Ego Killah
7. Smile
8. Live Strong
9. Siesta (feat. Emeli Sandé)
10. Words by Steve
11. Belonging
12. Never The Same Again
13. Words by TJ
14. Love In Outer Space (feat. Nao)   

Phoro: Fabrice Bourgelle

ロンドンを拠点にするジャズ作曲家Sarathy Korwarは、新作アルバム『Kala』をLeaf Labelから11月11日にリリースすると発表しました。『Kala』はフューチャージャズとして注目しておきたい作品となります。

 
このニュースを記念して、Sarathy Korwarは新曲「Utopia Is A Colonial Project」を公開し、振付師でダンサーとして活躍するBotis Sevaが出演するEliott Gonzo監督によるヴィジュアルが到着している。また、アルバムのジャケット(Sijya GuptaとFabrice Bourgelleによる)とトラックリストは以下よりご確認下さい。


「ユートピア思想は、そもそも植民地化のための1つの図式として見ることができます」とコルワーはプレスリリースで説明しています。
 
 
「ユートピアのアイデアは、入植者の植民地主義という考え方と本質的に直結している。それは自然界を生きている感覚を持った存在ではなく、無生物の資源として見なすことから来ている。
 
私たちは、反ユートピア主義、反ディストピア主義である必要がある。南アジア、その他の地域の右翼ポピュリスト政治家が売り込んでいるような「ユートピア思想」とはまったく異なる未来を想像することが必要です」

 
アルバム『KALAK』は、プロデューサー・Photayと共に”Real World Studios”で録音が行われた。
 
 
シンセサイザーにThe Comet Is ComingのDanalogue、バリトン・サックスに、Tamar Osborn、ピアノに、Al MacSween、パーカッションにMagnus Mehta、ボーカルにMelt Yourself DownのKushal Gaya、インド/ムンバイ在住のプロデューサー・Noni-Mouseといった面々がレコーディングに参加しています。
 

Sarathy Korwarは、この次作アルバム『Kala』の制作の背後にあるアイデアについて詳らかにしている。

フューチャリズムをめぐる言説は、しばしばヨーロッパ中心主義の世界観に深く根ざしています。

 

アフロ・フューチャリズムのように、インド・フューチャリズムは、今やグローバル・サウスに焦点を当てようとしています。南アジアでは、文化的に、未来や過去との関係を、循環の考え方の中で思い描いている。例えば、概念としてのカルマなどがそうです・・・。時間は一直線に流れるのではなく、円環状に流れていると理解することができるわけです。

 

音楽では、左から右、上から下という話になると、ある固有のヒエラルキーがあるように感じられます。私は、このアルバム制作において円形のリズム表記法を考え始めた。そのパターンが持つ象徴性について考えれば考えるほど、それがこのアルバムの核心になることに気づいたんです。

 

 

 1st single 「Utopia Is A Colonial Project」:


以下のMVはホラーテイストですので苦手な方はご視聴をお控え下さい。


 





Sarathy Korwar 『KALA』





Tracklist:
 

1. A Recipe To Cure Historical Amnesia
2. To Remember [feat. Kushal Gaya]
3. Utopia Is A Colonial Project
4. Back In The Day, Things Were Not Always Simpler [feat. Noni-Mouse]
5. The Past Is Not Only Behind Us, But Ahead Of Us
6. Kal Means Yesterday And Tomorrow
7. Remember Begum Rokheya
8. That Clocks Don’t Tell But Make Time [feat. Kodo]
9. Remember Circles Are Better Than Lines
10. Remember To Look Out For The Signs
11. KALAK – A Means To An Unend



Photo: Daniel Yohannes

キース・ジャレットの最後のフランスでのソロ・コンサートが、この秋、ECMレコードから9月30日に発売される『ボルドー・コンサート』で世界と共有されることになった。このアルバムは、先駆的なジャズ・ピアニストが2016年7月6日にボルドー国立歌劇場公会堂で行った公演を記録したものです。


ジャレットは、過去半世紀にわたり、ポストバップの先駆的なピアノ・アプローチでジャズ・スタンダードの再定義に多くの時間を費やしてきたが、特にベーシストのゲイリー・ピーコックとドラマーのジャック・デジョネットを中心としたスタンダード・トリオで、彼は常に即興演奏に特別な才能を発揮していた。彼のフリーフォームのコンサートは、ジャレットのキャリアだけでなく、ジャズ界でも最も有名である。

 

キース・ジャレットのボルドーでの演奏は、その遺産に恥じないものでした。彼は13のパートからなる即興演奏の組曲を繰り広げ、幅広いダイナミクス、様式美、そして感情的なムードを表現している。当時、フランスの批評家の中には、この公演を、アルバムとしてリリースされ、ピアニストのキャリアの軌道を変えたジャレットの画期的な1975年のケルン公演と好意的に比較する者もいたほどだった。


フランスのル・モンド誌の批評でフランシス・マルマンドは、この演奏について「彼はこれまで弾いたことのないもの、誰も弾く勇気のなかったもの、...誰も二度と弾かないであろうものを弾いている...」と書いている。

 

また、StereophileのRichard Lehnertは、Bordeaux Concertの直前に録音されたミュンヘン2016年の即興ライブアルバムを取り上げた際、「彼の優雅さ、抑制、自由、厳格さ、豊かさ、暗示の幅、心からの深さ、狂想曲の高さ、情熱的な音楽の知性、厳格に鍛えられた表現力、その場で発明した形の展開、凝縮された輝き、そのすべてを衰えない技術の完成度で実行しているので驚き、ときに圧倒される。他の誰もこれに匹敵することはできない。今まで誰もやったことがない」と批評している。 

 



しかし、このリリースにはいくらかのほろ苦さをおぼえるファンが多いのも事実である。2018年、御存知の通り、キース・ジャレットは、2度の脳梗塞に見舞われ、以前のように軽やかな演奏ができなくなったジャレットの未来に、以前のような形でのコンサートは期待できないかもしれない。

 

それでも、ジャレットのファン、ひいては、ジャズのファンにとって救いをもたらすのは、このピアニストが築き上げた膨大な録音遺産、バックカタログに触れられること、そして、ジャレットの天才的な音楽性を思い出させてくれる光り輝く作品がもう間もなく登場することである。


『ボルドー・コンサート』のデジタルとCDに続いて、10月14日には2枚組LPのレコードが発売される。


「Bordeaux Concert』は、ECMから9月30日に発売されます。


 

© Michele Giotto


二人のジャズ奏者、Enrico Rava(エンリコ・ラヴァ)、Fred Hersch(フレッド・ハーシュ)は、共作アルバム『The Song Is You』 をECM/Universal Musicから9月9日にリリースすると発表した。7月29日、このアルバムの先行シングルとして「Retrato em Branco e Preto」 が公開されている。

 

この新作アルバム『The Song Is You』 は2人のマスター・インプロヴァイザーのインスピレーションに満ちた出会いを記録したものとなる。


イタリア人トランペッター、フリューゲルホーン奏者のエンリコ・ラヴァ、そして、米国人ピアニストのフレッド・ハーシュは、この新作で音楽の歴史への愛を共有し、ジェローム・カーンの「The Song Is You」、セロニアス・モンクの「Mysterioso」「Round Midnight」、カルロス・ジョビンの「Retraato em Branco e Preto」、ジョージ・バスマンの「I'm Getting Sentimental Over You」などのスタンダード曲を共に探求しています。


また、フレッドの「Child's Song」、エンリコの「The Trial」という自作曲も演奏し、二人で自由に音楽を作り上げている。ジャズがこのような理解と相互作用のレベルに達したとき、演奏は素材というよりも、それがどんなに優れたものであっても、解釈者がそれに何をもたらすかということに意味を持つようになる。ラヴァとハーシュは、ストーリーテラーの芸術としてのジャズの即興演奏について、豊富な経験と研ぎ澄まされた感覚を持ち合わせています。



エンリコ・ラヴァは、1970年代からECMに所属し、リリースを重ねてきました。『The Pilgrim And The Stars』は今やモダンジャズの古典とみなされている。フレッド・ハーシュは、ノンサッチ、パルメット、サニーサイドなどのリーダー・アルバムに続いて、このレーベルから初めて作品を発表しました。


ハーシュは、長い演奏家としてのキャリアを通じて、デュオという楽器に非常によく戻ってきた。回顧録『Good Things Happen Slowly』の中で、彼はこの形式を好んでいたことを振り返っている。


「デュオは、キーボード全体を使って一度に複数のことができる私の能力に合っていた。また、左手でブロックコードを弾くだけでなく、音楽をオーケストレーションすることもできた。(2つ以上の独立したメロディラインが同時に進行する、自発的対位法への愛に浸ることができました。大音量からピアニッシモまで即座に対応できる。それは共同作業であると同時に、親密なものでもあります。相容れないといけないが、それぞれのミュージシャンがユニークなものを提供できるような違いも必要だ」  (エンリコ・ラヴァのディスコグラフィーには、ステファノ・ボラーニとの『第三の男』など、注目すべきデュオもある)


 
2021年11月の『The Song Is You』のレコーディングは、その年の初めにイタリアで行われたわずかな日程に続いて行われた。しかし、その最初の段階から、何か特別なことが起こっていることは明らかだった。


フレッド・ハーシュは言う。「私が最初からとても気に入ったことのひとつは、エンリコがソロでなければならないとは感じていないことです。明確に定義されているわけではないんだ」さらにフレッドはインタビュアーのニコラ・フェラウトに、「僕たちは一緒に物事を作っているんだ」と言った。「彼は、僕がそこに入っていって、ちょっとだけ彼をプッシュするのを許してくれる。また、私が彼に多くのスペースを与えることもある。最高のデュオ・パートナーとは、あまり多くを語らなくてもいいものなんだ。ただプレーするだけです。そして、このコンビは長い付き合いになりそうな予感がします。エンリコは偉大なマスターだしね」




1939年にイタリア/トリエステで生まれ、トリノで育ったエンリコ・ラヴァは、マイルス・デイヴィスやチェット・ベイカーに影響を受け、早くからジャズトランペットに親しんできた。1960年代の国際的なフリージャズ界で活躍し、スティーブ・レイシーの『森と動物園』、カーラ・ブレイの『丘を越えるエスカレーター』、マンフレート・ショーフの『ヨーロピアンエコーズ』など歴史的に重要な録音に貢献している。しかし、エンリコ・ラヴァの音楽における自由の概念は、その重要な要素の一つとして叙情性を包含している。これは彼の芸術的冒険のすべてにおいて不変のものであった。イタリアン・ジャズを代表するアーティストとして知られ、ヨーロッパ最大のジャズ・ミュージシャン賞であるJazzparをはじめ、数々の賞を受賞している。2011年には、50年にわたる音楽活動を振り返った『Incontri con musicisti straordinari』を出版している。


最近のECMからのリリースでは、エンリコ・ラヴァのライブアルバム2枚がある。両アルバムには、エンリコを師と仰ぐ多くの若手演奏家の一人であるピアニストのジョヴァンニ・グイディも参加している。

 

一方のピアニスト、フレッド・ハーシュは1955年に米国シンシナティに生まれ、ニューイングランド音楽院でジャキ・バイアードやジョー・マネリらの指導を受けた。1977年にニューヨークに移り、アート・ファーマー、ジョー・ヘンダーソン、スタン・ゲッツらと仕事をするようになった。1984年の『Horizons』では、マーク・ジョンソン、ジョーイ・バロンとのトリオを発表し、ハーシュは独立したオリジナルなピアノ奏者として認知されるようになった。デュオ演奏にも積極的で、アナト・コーエン、ビル・フリセル、ジュリアン・レイジ、クリス・ポッター、アヴィシャイ・コーエン、ミゲル・ゼノンらとコラボレーションを行った。ソロ活動も盛んで、2006年にはニューヨークのヴィレッジヴァンガードでソロピアニストとして1週間の公演を行った最初のアーティストとなった。


フレッド・ハーシュは、2003年にウォルト・ホイットマンの詩に題材を取った「Leaves of Grass」、2010年のマルチメディアプロジェクト「My Coma Dreams」、2022年1月にカーネギーホールでイゴール・レビットによって初演された「Variations on a Folksong」などの作曲も高く評価されている。フレッド・ハーシュの回顧録『Good Things Happen Slowly』は、ジャズ・ジャーナリスト協会による『ブック・オブ・ザ・イヤー』に選ばれ、このピアニストが獲得した重要な賞のうちのひとつとなった。



『The Song Is You』は9月9日にECM/Universal Musicから発売される予定です。2021年11月にスイス・ルガノのコンサートホール”Auditorio Stelio Molo RSI”で録音され、ECMを主宰するManfred Eicher(マンフレッド・アイヒャー)がプロデュースを手掛けている。


 

The Comet Is Coming. Portraits by Bourgelle; edit and graphics by Veil Projects


Danalogue(ダン・リーヴァース)、Shabaka(シャバカ・ハッチングス)、Betamax(マックス・ハレット)からなるロンドン拠点のジャズレイヴ・トリオ、The Comet Is Comingが、次作『Hyper-Dimensional Expansion Beam』を発表し、この告知と同時にニューシングル「CODE」を公開しています

 

2019年の『The Afterlife』に続くこの作品は、9月23日に、Impulse!からリリースされる。公開解禁となったアルバム・ジャケット、「CODE」のヴィジュアルを以下でチェックしてみて下さい。


『Hyper-Dimensional Expansion Beam』は、Genesisのピーター・ガブリエルの”Real World Stidio”で、The Comet Is Comingの共同エンジニア、クリスティアン・クレイグの協力のもとレコーディングが行われた。4日間にわたるレコーディング後、DanalogueとBetamaxは、素材をサンプリングし、アレンジを行った。

 

プレスリリースによると、次作アルバムは、「テクノロジー、人類、霊性、そして、宇宙のつながりの未来についての音楽的メッセージ」を表現しているそうです。





The Comet Is Coming『Hyper-Dimensional Expansion Beam』

 

Artwork


1957年9月15日、ジョン・コルトレーンは、ニュージャージー州ハッケンサックにあるルディ・ヴァン・ゲルダー氏のリビングルームのスタジオに入り、「ブルー・トレイン」を録音した。

 

この作品は、ジョン・コルトレーンがアルフレッド・ライオンと交わした握手契約の成果であり、伝説のサックス奏者がブルーノート・レコードのリーダーとして行った唯一のセッションとなった。

 

ブルージーなタイトル曲に象徴される歴史的傑作は、トランペットのリー・モーガン、トロンボーンのカーティス・フラー、ピアノのケニー・ドリュー、ベースのポール・チャンバース、ドラムのフィリー・ジョー・ジョーンズというダイナミックなセクステットが参加して5曲を収録した。『ブルー・トレイン』は、ジョン・コルトレーンを自然なる力の存在として確立し、史上最も尊敬され、影響力のあるジャズ・アーティストの一人になるための道筋を示したのである。

 

このオリジナルアルバムの録音から65周年を記念し、ブルーノートのTone Poet Audiophile Vinyl Reissue Seriesの一環として、「Blue Train」は2種類の特別版で9月16日にリリースされる。

 

オリジナル・アルバムの1LPモノラル盤は、豪華なゲートフォールド・チップオン・ジャケットに収められる。2LPステレオ盤、『Blue Train: The Complete Masters』には、7つの未発表テイクが収録される。そのうち、4つが未発表音源となる。また、コンプリート・マスターズ・バージョンには、フランシス・ウルフによる未公開のセッション写真、ジョン・コルトレーンの専門家であるアシュレイ・カーンによるエッセイが掲載されたブックレットが特典として付属している。

 

”Tone Poet Vinyl Edition”は、いずれもJoe Harleyがプロデュースし、Kevin Grayがオリジナルのアナログ・マスターテープからマスタリング、RTIで180gのビニールとしてプレスされる。『Blue Train: The Complete Masters』は、2枚組CDとデジタルコレクションとしてもリリースされる予定だ。


『ブルー・トレイン』のオリジナル・マスターテープ(モノラル、ステレオ、別テイク)を聴くことのスリルに匹敵するスタジオ体験は他では得ることが出来ない」とジョー・ハーレイは話している。「私はこの2つの新バージョンを、ジョン・コルトレーンのこの名演の決定版であると考えています」

 

『ブルー・トレイン』は、ジョン・コルトレーンのキャリアにおいてきわめて重要な瞬間に誕生した。1957年、ヘロイン中毒のため、マイルス・デイヴィス・クインテットを解雇され、ジョン・コルトレーンは精神的などん底にあった。しかし、その後、セロニアス・モンクとファイブ・スポット・カフェで夏の長期滞在をしたことを契機に、ヘロインをすっぱり断ち切ったコルトレーンは劇的な復活を遂げ、再び、情熱的で、神がかりの演奏をするようになったのである。

 

1957年の終わり、ジョン・コルトレーンは、マイルス・デイヴィスのカルテットに再雇用され、最初の代表作、本人も深く誇りに思うアルバムを制作した。この作品を自身のカタログの中で、コルトレーンはどのように位置づけているのか、それは、コルトレーンの専門家であるアシュレイ・カーンが自らのエッセイで次のように語っていることからもわかる。「ブルー・トレインは、常に、自己批判的で控えめなコルトレーンが最も高く評価する録音であった。1960年、マイルス・デイヴィスとの最後のツアー中、スウェーデンのDJがコルトレーンに、彼のカタログの中でどの作品が一番好きかという質問に対して、コルトレーンは即座に答えた。『ああ、自分はブルートレインが好きだよ。いいバンドが入ってるんだもの。いい録音だったな」と。



 



John Coltrane – Blue Train: The Complete Masters

 

 


Label:  Blue Note

Release:  2022年9月16日


Side A

Blue Train (Coltrane) – 10:43

Moment’s Notice (Coltrane) – 9:10

Side B

Locomotion (Coltrane) – 7:14

I’m Old Fashioned (Kern-Mercer) – 7:58

Lazy Bird (Coltrane) – 7:07

Side C

Blue Train false start * – 0:21

Blue Train alternate take 7 * – 7:09

Moment’s Notice alternate take 4 * – 7:19

Side D

Lazy Bird alternate take 1 – 9:22

Blue Train alternate take 8 – 10:27

Moment’s Notice alternate take 5A (incomplete) * – 5:08

Lazy Bird alternate take 2 – 7:29

*previously unreleased

 

 

John Coltrane, tenor saxophone

Lee Morgan, trumpet

Curtis Fuller, trombone

Kenny Drew, piano

Paul Chambers, bass

Philly Joe Jones, drums

 

 

Original Session Produced by ALFRED LION

Recorded on September 15, 1957, at Van Gelder Studios, Hackensack, New Jersey

Recording Engineer RUDY VAN GELDER

Cover Design by REID MILES

Photography FRANCIS WOLFF

LP Supervision by JOE HARLEY

LP Mastering by KEVIN GRAY, Cohearent Audio



 


ジャズ界の巨匠、Sun Ra Arkestra(サン・ラ)は、今年の10月7日にOmni Soundより『Living Sky』というタイトルの新譜をリリースします。今年98歳になったアルトサックス奏者マーシャル・アレンが指揮を執るこの新録音には、19人のミュージシャンが参加しています。


この発表と同時に、サン・ラはアルバムからのファースト・シングル「Somebody Else's Idea」を公開した。


 


この曲「Somebody Else's Idea」はサン・ラーによって書かれたもので、1955年に録音され、1970年に再び録音された(1971年の『My Brother The Wind, Vol II』に収録された)。この曲は、ジューン・タイソンのヴォーカルを除いたインストゥルメンタルの形で初めて収録された。


『Living Sky』は、2021年にリリースされた前作『Swirling』に続く作品です。アートワークと全トラックリストは以下よりご覧ください。



Sun Ra Arkestra『Living Sky』





Tracklist

A1. Chopin (Frédéric Chopin)
A2. Somebody Else’s Idea (Sun Ra)
B1. Day of the Living Sky (Marshall Allen)
B2. Marshall’s Groove (Marshall Allen)

C1. Night of the Living Sky (Sun Ra)
D1. Firefly (Marshall Allen)
D2. Wish Upon a Star (Leigh Harline)

Ronnie Foster  Photo: Jen Rosenstein
 

ジャズ・オルガン界の巨匠ロニー・フォスターがブルーノート・レコードに復帰し、36年ぶりの新作「Reboot」を7月15日にリリースする。


このアルバムは、1972年のブルーノート・デビュー「Two Headed Freap」から50年ぶりのリリースとなる。この9曲入りのアルバムはフォスターの再出発となる作品です。フォスターはハモンドオルガングルーヴを全方位的に作り上げ、過去へのオマージュというより、新しいことを始めるための彼のチャレンジ性反映した作品となっている。

 

先日、ロニー・フォスターはスティーヴィー・ワンダーの「Isn't She Lovely」を新たに演奏している。この曲は、ワンダーの1976年の傑作「Songs In The Key Of Life」に収録されており、フォスターは元々、Songs In The Key Of Lifeのアルバムトラック "Summer Soft" で演奏していた。

 

フォスターは、ブルーノートのいくつかのアルバムでスティーヴィー・ワンダーの曲をカバーしており、(1972年の『Sweet Revival』では「Superwoman」、1974年の『On The Avenue』では「Golden Lady」、1975年の『Cheshire Cat』では「Tuesday Heartbreak」)、2022年の『Reboot』の「Isn't She Lovely」は、この伝統を受け継いでいる。 

 




スティーヴィー・ワンダーとの仕事に加え、ジョージ・ベンソンのベストセラーアルバム『Breezin'』や、先週、ブルーノートのクラシック盤リイシューシリーズの一部として再発されたア・トライブ・コールド・クエストのクラシックヒップホップ曲『Two Headed Freap』からフォスターの「Mystic Brew」をサンプリングを行っている。

 

ブルーノートのオルガンのトーチを再び力強く掲げたフォスターは、先達から注がれた音楽の浸透力に感謝をしている。アルバムのライナーノーツで、ロニーは、2021年に他界した彼の人生における非常に重要な人物に敬意を表している。


「このアルバムは、私の兄弟、友人、バッファローホーミー、ヒーローであり、ハモンドB3オルガンの世界最高の一人だったロニー・スミス博士の思い出に捧げます」

 

 



Ronnie Foster  『Reboot』


 

Label: Bluenote

Release: 2022年7月15日

 

Tracklist


1.Reboot

2.Sultry Song Ⅱ 

3.Swingin'

4.J's Dream

5.Isn't She Lovely

6.Carlos

7.Hey Good Lookin' Woman

8.After Chcago

9.After Conversation With Nadia



Liten/Buy:


https://ronniefoster.lnk.to/Reboot

およそ10年間、マイルス・デイヴィスのブートレッグ・シリーズが継続してリリースされてきました。


ボックスセットに収録されるトラックリストのほとんどは数十年にわたるライブ音源を収めたもの。今回、コロンビアはその第7弾シリーズのリリースを発表しました。このアルバムにはこれまでお蔵入りとなっていたスタジオ音源が多数収録されています。


3CDのボックス・セットとしてリリースされる新しいコンピレーションは、『That's What Happened』と名付けられ、1982年から1985年までの演奏を網羅しています。この最初のディスクには、1983年の『Star People』と1984年の『Decoy』のセッションで録音された音源が収録されている。もう1枚は、1983年7月7日のデイヴィスのモントリオールでのライヴ、さらには、最後の1枚は、1985年の『You're Under Arrest』のアウトテイクによって構成されています。

 


 

 

Miles Davis 「The Bootleg Series Vol.7 That's What Happened 1981−1985」

 

 


Label: Columbia/Legacy 

Release:2022年9月13日


 

Disc 1


1. Santana (13:06)
2. Minor Ninths, Part 1 (3:13)
3. Minor Ninths, Part 2 (4:13)
4. Celestial Blues, Part 1 (8:05)
5. Celestial Blues, Part 2 (4:04)
6. Celestial Blues, Part 3 (6:57)
7. Remake of OBX Ballad (5:00)
8. Remake of OBX Ballad Sessions (7:17)
9. Freaky Deaky, Part 1 (9:50)
10. Freaky Deaky, Part 2 (5:25)

Disc 2


1. Time After Time (alternate) (5:53)
2. Time After Time (full session) (8:58)
3. Theme From Jack Johnson (Right Off) / Intro (8:30)
4. Never Loved Like This (studio session demo) (5:00)
5. Hopscotch (slow) (5:39)
6. Hopscotch (fast) (6:59)
7. What’s Love Got To Do With It (4:25)
8. Human Nature (alternate) (5:59)
9. Katia (full session) (10:24)

Disc 3 (Live in Montreal, July 7, 1983) 


1. Speak (That’s What Happened) (12:27)
2. Star People (9:21)
3. What It Is (6:58)
4. It Gets Better (12:25)
5. Hopscotch (7:51)
6. Star On Cicely (9:12)
7. Jean-Pierre (7:34)
8. Code 3 (6:36)
9. Creepin’ In (10:36)


 



ブルーノートは、コンピレーション・シリーズ「Blue Note Re:imagined」の第2弾を、今年9月にリリースします。


Blue Note Re:imagined IIは、ブルーノートの歴史的なカタログを横断するコンピレーションで、ドナルド・バード、セロニアス・モンク、ウェイン・ショーター、ノラ・ジョーンズ、ボビー・ハンフリー、カサンドラ・ウィルソン、マレーナ・ショー、グラント・グリーンの曲を再創作しています。


このアルバムには、Yazz Ahmed、Nubiyan Twist、Ego Ella May、Theon Cross、Daniel Casimir、Binker Golding、Oscar Jeromeなどのジャズ、ソウル、R&Bのアーティストが参加しています。

 

今回のコンピレーションは、2020年に発売されたシリーズ第1弾に続く作品となります。9月30日のリリースに先駆けて、アートワークとトラックリストが公開されています。ご確認下さい。

 






Blue Note Re:imagined II




Tracklist:
1. Yazz Ahmed — It
2. Conor Albert — You Make Me Feel So Good
3. Parthenope — Don’t Know Why
4. Swindle — Miss Kane
5. Nubiyan Twist — Through The Noise (Chant No.2)
6. Ego Ella May — The Morning Side Of Love
7. Oscar Jerome & Oscar #Worldpeace — (Why You So) Green With Envy
8. Daniel Casimir featuring Ria Moran — Lost
9. Theon Cross — Epistrophy
10. Maya Delilah — Harvest Moon
11. Kay Young — Feel Like Making Love
12. Venna & Marco Bernardis — Where Are We Going
13. Reuben James — Infant Eyes
14. Binker Golding — Fort Worth
15. Cherise — Sunrise
16. Franc Moody — Cristo Redentor

シカゴ出身のヴィブラフォン奏者、現在、NYジャズシーンきっての気鋭アーティストとして知られるJoel Rossは、ニューアルバム「The Parable of the Poet」に収録されている素晴らしい叙事詩の1つである傑出したジャズ・カット「Guilt」のミュージック・ビデオを公開しました。

 

Joel Ross

今回の「Guilt」のシネマティックな映像は、聖書を連想させるものであり、男が水の中で女性の胴体に花びらを散らす。この実験的な映像は、白黒で撮影された振り付け付きのダンスも特徴的です。


ジョエル・ロスは、4月に絶賛されたニューアルバム「The Parable of the Poet」をリリースしました。

 

このアルバムは、アルトサックスのイマニュエル・ウィルキンス、テナーサックスのマリア・グランド、トランペットのマーキス・ヒル、トロンボーンのカリア・ヴァンディバー、ピアノのショーン・メイソン、ベースのリック・ロサート、ドラムのクレイグ・ウェインリブ、フルートのスペシャルゲスト、ガブリエル・ガロによる、8人のパラブルバンドと共に彼のコラボレーション精神を表現し、新境地を開拓するものとなっています。


『The Parable of the Poet』は、ブルーノートから海外盤として、D2Cの限定カラーヴァイナル、CD、デジタルフォーマットでリリースされ、5月20日にはブラックヴァイナルがリリースされている。また、日本国内では、デジタル盤はリリースされており、フィジカル盤は明後日の6月10日から一般販売される。


ジョエル・ロスの音楽に対するビジョンは、明確であると同時に神秘的です。スヴェン・ムーヴメント組曲の各タイトルは、ロスの感情的な決断や経験を参照しており、彼は、それぞれの物語の特殊性を解釈の余地を残しながら、譬え話や再話に存在するテーマを表現しようと努めている。ロスは、演奏する曲について、物語的な説明を加えることはほとんどない。彼は自分自身の動機を声に出さないので、リスナーもバンドメンバーも、音楽をユニークに、体験的に読み取ることができる。「リスナーが何を受け取り、何を受け取るかに興味があるんだ」と彼は言う。


 

 

また、ジュエル・ロスは最近、"First Look "のエピソードでブルーノート社長ドン・ワズと「詩人の寓話」について話し合いました。この新しいアルバムを引っさげ、ロスは、秋まで続く大規模なライブのためにロードショーに出ている。

 

 

・Amazon Link 

 

 

 


・Apple Music Link



Weekly Recommend

 

Nduduzo Makhathini 「In The Spirit Of NTU」

 


 Label:  Blue Note Africa

 Release:  5/27,2022

 


ーー南アフリカのジャズの潮流を変えるーー

 

  

 1947年、アメリカのジャズドラマー、ブルーノートの伝説的な人物、アート・ブレイキーが最初にアフリカ大陸を訪問し、さらに、60年代初頭、アパルトヘイト(人種隔離政策)による、黒人の表現活動に対する制限、検閲、暴力が南アフリカの社会全体に蔓延し、激化した後、何世代にもわたり、南アフリカのジャズ・ミュージシャンは、アパルトヘイトによる艱難辛苦に耐えながら、現代に継承される活気あるジャズシーンを長い年月をかけて生み出していった。

 

その後は、アパルトヘイトの弾圧により国内の複数の著名なジャズ奏者たちは、迫害を逃れ、亡命することを余儀なくされた。その後、南アフリカのジャズシーンはかなり長きにわたって憂き目にさらされてきた。迫害は、人種的な芸術表現にも及び、長い時代の芸術の停滞が何十年にもわたり、南アフリカには続いた。そして、この後の時代の空白の流れを汲み、現代の南アフリカの音楽シーンから世界的なシーンに羽ばたこうとしているのが、この土地のジャズシーンの中心的な役割をに担って来た、ジャズ・ピアニストの ンドゥドゥゾ・マカティーニさんです。

 

彼は、間違いなく、今後のアフリカのジャズを先頭で背負って立つような風格を持った人物であり、これまでアパルトヘイトなどの政治的な問題により、大きく取り扱われてこなかったか、不当に蔑ろにされてきたアフリカン・ジャズを世界に広めるような役割を背負っているように思えます。前作のアルバム『Modes of Communication』は、アメリカでも高い評価を受けており、既に何度か紹介しましたが、ニューヨーク・タイムズが「2020年のベスト・ジャズ・アルバム」に選出し、既にアメリカ国内でも着々と知名度を上げつつある演奏家と言っても良いかもしれません。

 

彼が今週末に発表した新作アルバム「In The Spirit Of NTU」は、ブルーノートとユニバーサルミュージックが共同で新設立した「ブルーノート・アフリカ」の記念すべき第一号のリリースとなります。

 

このアルバムでは、ピアニストのマカティーニの他、サックス奏者のリンダ・シクハカネ、トランペット奏者のロビン・ファシーコック、ビブラフォン奏者のディラン・タビシャー、ベーシストのスティーブン・デ・スーザ、パーカッション奏者のゴンツェ・マケネ、ドラマーのデーン・パリスといった、南アフリカで最も刺激的な若手ミュージシャン、ボーカルのオマグとアナ・ウィダワー、サックス奏者のジャリール・ショウ、といった特別ゲストでバンドを結成しているのに注目です。

 

全体的な作品の印象としては、ジャズのスタンダード、そして、ミニマル的な構造を持ったモダンジャズ、さらにそこに、アフリカの文化における精神性、民族音楽、古くは「グリオ」という元は儀式音楽から出発したブルースの元祖ともなった音楽からの強い影響が見受けられるアルバムです。

 

そこに、マカティーニのおしゃれな雰囲気を持つピアノの演奏、また、時に、無調音楽に近いスケールを擁して繰り広げられる演奏は、他の共同制作、バンドの多くのメンバーたちの協力によって、聞きやすく、遊び心に溢れ、そして何よりスリリングな展開力を持ったジャズが紡がれる。一曲目の「Unonkanyamba」では、前衛的な作風にも取り組んでおり、これらはかつてのマイルス・デイヴィスのように、刺激的でパワフルな雰囲気を擁する作風として確立されています。

 

もちろん、この作品の魅力は、ジャズとしての画期的な実験性だけにとどまらず、アフリカの民族文化、そして、大掛かりなスケールを持った宇宙論的なアイディアに至るまで、様々な試みを介し、聞きやすく、親しみやすい、誰にでも楽しめるような音楽が麗しく展開されていることに尽きるでしょう。さらに、 また、その他にも、omaguguが参加した二曲目の「Mama」では、和やかで落ち着いた古典的なジャズのバラードソングを、心ゆくまで楽しんでいただけるはず。

 

さらに、ンドゥドゥゾ・マカティーニのピアノの演奏は、前衛的でありながら、普遍的なジャズマンとしての風格を兼ね備える。バンドの独特なアフリカのリズムに加え、マカティーニの演奏は、ビル・エヴァンスのような感性の鋭さ、叙情性、技巧性、気品を併せ持ち、ニューオーリンズ・ジャズ 、往年のニューヨーク・ジャズに比する洗練性を持ち、それらの要素がアフリカのエキゾチズムと絶妙に合わさることにより、これまで存在しえなかったニュー・ジャズが誕生しています。

 

ピアニスト、ンドゥドゥゾ・マカティーニが率いるジャズバンドは、この作品で、以上のような試みを介して、アート・ブレイキーの時代からめんめんと引き継がれる南アフリカのジャズの魅力を引き出そうとしています。それは複数の楽曲を介して、エモーション、スピリチュアル、フィロソフィー、いくつかの観点から多次元的にアフリカンジャズの核心へと徐々に近づいていきます。それは、スタンダードジャズ、ジャズバラード、ミニマリスム、アフリカの民族音楽、様々な知見と見識を持つマカティーニだからこそなしえる職人芸とも呼べるものです。さらにこの作品は、南アフリカのジャズシーンを紹介するという意味が内在しているだけではなく、この南アフリカのジャズシーンが世界的に見ても秀抜したものだということを象徴付ける作品となっています。

 

「In The Spirit Of NTU」で、マカティーニは、気品あふれるジャズを魔法のように体現させ、そして、楽しく、朗らかで、寛いだ雰囲気を持った芸術性の高い音楽を生み出し、南アフリカのジャズ音楽の魅力を余すところなく世界のリスナーに伝えようとしています。この作品の台頭は、アメリカ以外の他の地域のジャズ、カナダ、モントリオール、ノルウェー、オスロに続き、南アフリカのジャズシーンが、世界的に注目を浴びるように働きかけるだけでなく、音楽史としてもきわめて重要な意義を持っているように思えます。概して、ジャズは、現在の作品より過去の作品が評価が高くなる傾向があるものの、このマカティーニの最新作「In The Spirit Of NTU」は、そういった評価軸を変えるような力に満ちあふれている。伝統的であり、また古典的でありながら、モダンジャズであり、幅広いリスナーに親しんでいただけるようなアルバムで、勿論、20世紀から始まった長年のジャズ史から見ても、傑作の部類に挙げられる作品です。

 

「In The Spirit Of NTU」が、奇しくも、先週の、ロンドンを拠点にするアフリカ系ジャズマン、シャバカ・ハッチングの「Afrikan Culture」のリリースと重なったことは、何も偶然ではなく、これは、時代の要請を受け、秀逸なジャズマンがアフリカ大陸からデビューしていく流れを予見したもの。ここに表されている「NTU−アフリカの精神」と呼ばれるものが一体何なのか、それを掴むためには、実際のアルバムを聴いていただく必要があると思いますが、いずれにしても、ストラヴィンスキー、マイルス・デイヴィスといった巨匠がアフリカ音楽の独特なリズムを自身の作品に刺激的に取り入れた20世紀に続き、いよいよ、今後、これらのアフリカの音楽が、再び世界的に華やかな脚光を浴びる時代がもうすぐそこまで近づいているのです。



95/100 

 

 

Weekend Featured Track:

 

Nduduzo Makhathini 「Unonkanyamba」

 

 



・Amazon Link

 

 


Nduduzo Makhathiniは、5月27日に発売される南アフリカのピアニスト兼作曲家の輝かしいニューアルバム『In the Spirit of Ntu』から、3枚目にして最後のシングル「Emlilweni」を発表しました。このアルバムは、9月23日に2枚組LPレコードのリリースが発表されたばかりです。

 

アルバムのアンカートラック "Emlilweni "では、アメリカのアルトサックス奏者Jaleel Shawがゲスト参加し、火をモチーフにしたサウンドになっています。「南アフリカでは、音は燃えている火の外にあるものと考えられてきました。彼らは、「この特別な時期にしかるべき燃え盛る炎のサウンドトラックはこれだ!」と言うのです。私は、音がもはやこの燃え盛る炎の境界線上に存在することに適合しないとはどういうことなのか...この炎の中から音が現れるとはどういうことか...と考え始めたのです」

 

"このプロジェクトは、南アフリカの困難な時期、混乱と紛争の時期に構想されました "と彼は続けます。「もう一度言いますが、火事、暴動、大虐殺の時代でした。この意味で、私が作曲した音楽は、背景やサウンドトラックとしてこれらの火を取り囲んでいるのではなくて、これらの音は談話の一部なのです。これらの音は、燃え盛る炎から、炎が燃え尽きるまで映し出される。残るのは、これらの音が復元しようとするものである。つまり、Ntuは、私たちの本質を思い出そうとする創造的な力なのです」

 

「In the Spirit of Ntu」は、ンドゥドゥゾ・マカティニの記念すべき10枚目のスタジオ・アルバムとなります。『Modes of Communication』(ニューヨーク・タイムズ紙が「2020年のベスト・ジャズ・アルバム」のひとつに選んだ)に続いてユニバーサルミュージック グループ アフリカと提携してブルーノート レコードからリリースする2作目と、新たに結成したインプリント、ブルーノート アフリカからの最初のリリース作品である。南アフリカの活気あるジャズ・シーンの中心人物であるマハティーニは、サックス奏者のリンダ・シクハカネ、トランペット奏者のロビン・ファシーコック、ビブラフォン奏者のディラン・タビシャー、ベーシストのスティーブン・デ・スーザ、パーカッション奏者のゴンツェ・マケネ、ドラマーのデーン・パリスといった南アフリカで最も刺激的な若手ミュージシャン、ボーカルのオマグとアナ・ウィダワー、サックス奏者のジャリール・ショウといった特別ゲストでバンドを結成した。

 

マイナーとメジャーのリズム」、「ガイド付きモビリティ」、「アクティブリスニング」、「儀式」といった様々なコンセプトをプロジェクトに組み込んでいるマッカティーニは、ズールー族の伝統と知的好奇心のバックグラウンドを生かし、魅力的な表現に取り組んでいます。


「私は、ジャズを我々の文脈に位置づける方法として、宇宙論的なアイデアに取り組んでいるのです。私は「Modes of Communication」をリリースしました。手紙を冥界から聞こえてくる音のメタファーとして使い、『Letters from the Underworlds』を発表しました。その前にリリースした『Listening to the Ground』では、聴くことが知ることであるという考え方を取り入れていました。In the Spirit of Ntu」は、そのような地面から現れるものに耳を傾けるというパラダイムの中で生きているのです。


Ntuはアフリカに古くから伝わる哲学であり、Ubuntuの考え方はそこからきています。Ubuntuとは、「あなたがいるから私がいる」ということです。それは集団性を深く呼び起こすものです。"


Listen on Spotify 


Gilad Hekselman 「Far Star」

 


 

Label: Edition Records

Release Date: 2022年5月13日



イスラエル出身、現在ニューヨークを拠点に活動するジャズギタリストの新作「Far Star」は、テルアビブ、ニューヨーク、フランスの三箇所でレコーディングが行われたジャズアルバムです。

 

ヘクセルマンをはじめ、盟友であるキーボード奏者のシャイ・マエストロ、ドラム奏者のエリック・ハートランド、他にも、ジブ・ラビッツ、アミール・ブレスラーといったジャズミュージシャンがレコーディングに参加。結果的には、パンデミックの不測の事態が生じたことの反動により、冒険心あふれるサウンドが生み出されています。

 

「2020年初め、家族と一緒に東南アジアの旅から戻り、新しい音楽を演奏する機会を用意していた。 ところが、パンデミックに見舞われ、音楽を演奏するために残されたのは、楽器、マイク、コンピューターだけだった、他のみなと同じように、この緊急事態がどれだけ続くのかもわからないまま演奏を始めた。レコードを作るときが来たら、すぐさま音源をバンドに送ってみようと考えていた、それから、私はレコーディング・エンジニアの経験もなかったため、何百ものチュートリアル動画を参照し、サウンドエンジニアのレッスンを受け、何千時間を割いて、ファースターと言う作品を完成させた」

 

ギラッド・ヘクセルマン自身が以上のように語っているように、これまでの彼のキャリアの中で最も労作といえ、キーボード奏者のハートランドが半分の楽曲に参加している他は、ほとんど彼自身の手で生み出されたとも言える。カントリージャズを中心に、エレクトロニカ、ヒップホップまでを踏襲し、ヘクセルマンのキャリアの中でも最も刺激的な作風が生み出されています。

 

パット・メセニーのようなカントリーの質感を追求した「Long Way From Home」で、彼はまるでパンデミック時代のことなどどこ吹く風とでもいうように朗らかな口笛を吹いていますが、これはアルバム「FarStar」のメインテーマとして掲げられ、このフレーズを中心に彼の哀愁あるアルバムの持つ多様な世界が繰り広げられていきます。ヘクセルマンのギター・プレイはジャズのスケールを忠実になぞらえながらも、アバンギャルドなインプロヴァイゼーションを見せる場合もあります。

 

今回のアルバムは、フュージョンジャズ、カントリージャズを中心に楽曲が組み上げられていますが、盟友ともいえるハートランドの演奏との息がぴったりと取れていて、時にそれはアバンギャルドなフレーズに意図的に挑戦しているのは、パンデミックという抑制感の強い時代の産物ともいえます。そこにさらに、これまでのヘクセルマンのカントリー、フュージョンの要素に、エレクトロニカ、そして、ヒップホップの要素を加え、現代的な質感を持ったニュージャズの領域にチャレンジを挑んでいます。

 

オープニングトラック「Long Way From Home」から「Magic Chord」、アルバムの最大の聞きどころとなる「Cycles」、ヒップホップの要素を取り込んだ「The Headrocker」、アバンギャルドジャズの領域にチャレンジを挑んでいるラストトラックの「Rebirth」に至るまで、ジャズ・アンサンブルとして落ち着きがある一方かなりスリリングな演奏を味わっていただけるはずです。

 

ジャズとしての一つの醍醐味は、以前からの伝統性を引き継ぐとともに、そこに新たな表現としての何らかの前衛性を求めることだということはヤン・バルケのレビューで以前にも述べましたが、ギラッド・ヘクセルマンは見事にこの作品でそれをやり遂げています。

 

このアルバムは、フュージョンジャズとしての深い味わいを持つと共に、パンデミック時代の抑圧から自らを解放されるための冒険心が感じられる快作です。また、ギラルド・ヘクセルマンは、「Far Star」というタイトルについて以下のように述べていますが、この言葉がおそらく、作品の魅力を一番上手く表現していると思われます。


「Far Star」とは、何なのかというと、私たちの創造力を駆使し、部屋の中から、遠い音の銀河まで旅を企てることだ」と。さらに、ギラルド・ヘクセルマンは語っています。「これらのパンデミックの最中に制作された音楽は、私たちの生活の中で、明らかに非常に厳かった時代を通して、私がつくづく感じていたことに尽きる。それは、どういうわけか、大きな自由と解放の思い出の名残りを仄かにとどめている」と。


(Score:85/100)




 

・Amazon Link

 

 


サックス奏者のシャバカ・ハッチングは、現在の英国のジャズルネッサンスのシーンにおいてひときわ強い存在感を放つミュージシャン。サンズ・オブ・ケメット、コメット・イズ・カミング、シャバカ&ザ・アンセスターズのリーダーとして活躍しています。


現在、彼はシャバカという名を冠する新しいソロ・プロジェクトに取り組んでおり、彼の8曲収録のソロデビューEP「Afrikan Culture」は、Impilseを介して5月20日にリリースされます。ハッチングは、今回のEPにおいて、ディリップ・ハリスと共に共同制作を行いました。彼は以下のようにこの作品について述べています。

 

「African Culture」は、瞑想にまつわるアイディア、私が自分の心を保ち、表面化された音楽を受け入れることの意味をテーマに据えて制作が行われました。尺八を始めとする様々な種類の管楽器を取り入れており、メロディーやリズムが空間中にごく自然に浮かび、謂わば、その先に垣間見える音の森を探索するかのような実験的な音楽性を特徴としています。


アルバムから先行シングルとなる「Black meditation」と題された管楽器を多用した曲が公開されています。以下で御覧ください。

 

 

 

 

 

Shabaka「Afrikan Culture」 

 




Label:Impulse! Records

Release:5/20,2022

 

 

Tracklisting

 

1.Black Meditation

2.Call it a European paradox

3.Ital Is vital

4.Memories don't live like People do

5.Ritual awakening

6.Explore inner space

7.The dimension of subtle awareness

8.Rebirth

 


VerveとUniversal Music Enterprisesが提携して推進するジャズの名盤のリイシューシリーズ「Acoustic Sounds」は今年もリリースが継続される予定です。この「Acousic Sounds」の2022年のリリースカタログには、複数のジャズの巨人たちの旧作のリイシュー盤が組み込まれています。

 

元々、「Acoustic Sounds」シリーズは、2020年に導入されたもので、オリジナルのアナログテープの録音からステレオ形式でリマスターが行われ、180gのヴァイナルとしてプレスしたLPをリリースするというものです。現在のところ、デジタル配信ではリリースが予定されていません。ヴァイナル盤のみのリリースです。日本では、HMV Recordで取り扱いがあるようです。

 

 今年の今後のリリースラインナップには、ジャズの巨人たちが目白押し。エラ・フィッツジェラルド、ルイ・アームストロング、デューク・エリントン、コールマン・ホーキンス、フォラオ・サンダースらのリイシューが控えています。このシリーズは12月まで毎月リリースが続き、新たなタイトルが順次付け加えられていきます。ジャズファンとしては注目のリイシューとなります。 

 

 

 

Acoustic Sound 2022 再編集版のリリース予定

 

 

・5月13日 Duke Ellington&Coleman Hawkins(デューク・エリントン&コールマン・ホーキンス)

 

「Duke Ellington Meets Coleman Hawkins(デューク・エリントン・ミーツ・コールマン・ホーキンス 」(Impulse!,1963)

 

 

・6月17日 Bill Evans(ビル・エヴァンス)

 

「Trio 65(トリオ65)」(Verve 1965)


 

・7月15日 Ella Fitzgerald&Louis Armstorong(エラ・フィッツジェラルド&ルイ・アームストロング)

 

「Ella&Louis(エラ&ルイス)」(Verve 1956)


 

・8月19日 Oscer Peterson(オスカー・ピーターソン)

 

「We Get Requests(ウィ・ゲット・リクエスツ)」(Verve 1964)

 

 

・9月9日 Bill Evans(ビル・エヴァンス)

 

「Bill Evans at Town Hall(ビル・エヴァンス・アット・タウン・ホール)」(Verve 1966)

 

 

・9月16日 Ella Fitzgerald&Louis Armstrong(エラ・フィッツジェラルド&ルイ・アームストロングー)

 

「Ella&Louis Again(エラ&ルイス アゲイン)」(Verve 1957)

 

 

・10月14日 Roy Haynes(ロイ・ヘインズ)

 

「Out Of The Afternoon(アウト・オブ・ザ・アフタヌーン)」(Impulse! 1962)

 

 

・11月11日 Pharaoh Sanders(フォラオ・サンダース)

 

「Karma(カルマ)」(Impulse! 1969)


 

・12月2日 Oscar Peterson(オスカー・ピーターソン)

 

「Night Train(ナイト・トレイン」(Verve 1963)

 

 

 

Verve Records Official

 

https://shop.ververecords.com/collections/acoustic-sounds 

 

 Jon Balke  Siwan 「Hafla」

 


Label:ECM

Release:April 22,2022


2007年の「Book Of Velocity」で、プリペイドピアノ、アバンギャルドジャズの金字塔を打ち立てたノルウェーのジャズピアノ演奏家ヨン・バルケは、次作「Siwan」からエキゾチックジャズの領域に踏み入れていった。

 

ソロアーティストとして発表した2007年の傑作「Book Of Velocity」は、ドイツのECMのレコードの屈指の名作として挙げられますが、このアーティストの全盛期を象徴するハリのある演奏力、アバンギャルドジャズの最高峰をこの作品で踏破したせいか、その後、ヤン・バルケはどちらかと言えば、シンセサイザー/ピアニストとして落ち着いた演奏を求めるようになり、楽曲としての世界観を最重要視するようになった。以後、バルケは、知性を探訪し、歴史学的な強い興味を持ち続け、付け焼き刃ではない最古の文明を、前衛音楽、民族音楽、モダンジャズと多彩な局面からアートとして表現しようと努めている演奏家です。

 

4月22日に、お馴染みのECMからリリースされたヨン・バルケの最新作「Siwan-Halfla」は、表題から察するに、2009年の「Siwan」の続編とも呼べるアルバムです。ここで、ヤン・バルケは、同レーベルの特色の一つ、2000年代に盛んだったジャズと民族音楽の融合に再挑戦しています。これは、エキゾチックジャズというような呼び名で親しまれていたもので、バルケが率いている音楽グループ、「シワン」としての五年ぶりの作品となります。このアルバムに収録されている歌詞は、何でも、ウマイヤ朝の王女、ワラダ・ビント・アル・ムスタクフィー、イブン・サラ・アス・サンタリニのⅩⅠ世紀の十一世紀の詩が取り上げられ、ゲストボーカルのマン・ブチェバクがイスラム情緒たっぷりに歌い上げる。「Halfia」は、2021年の5月から6月に掛けて、デンマーク・コペンハーゲンのVillage Recording Studioで録音が行われている。

 

このアルバム「Halfa」は、ポンゴ、ストリングス、ホーン、さらに、複数のアラビアの民族楽器のフューチャーしたイスラム情緒たっぷりな旋律の中、バルケはシンセサイザー奏者として音楽の世界を綿密につくりあげていく。それは一曲から作品世界が拡張されていくというより、複数の楽曲が組み合わさって、その世界を強固にしていく。全盛期の「Book Of Velocity」のようなアヴァンギャルド性こそ薄れているものの、熟慮に熟慮を重ねた知性あふれる演奏家、作曲家、音楽家としての慎重なバルケの表情が伺える。

 

そして、今作にゲストボーカルとして参加したマン・ブチェバクの歌というのも、語弊があるかもしれないが、イスラムのポエトリー・リーディングのような洗練された文学性の雰囲気がほんのり漂っている。イスラム文化におけるエキゾチズム性は、多くの人にとって馴染みないものであるが、その中には、中国、東洋の旋律的な特徴に似た性質が込められているため、ヨーロッパ(トルコ近辺をのぞく)のリスナーにとっては異国情緒を感じさせ、アジアのリスナーにとっては淡いノスタルジアすら感じさせる。また、中国の民族楽器、胡弓のような楽器が取り入れられているのにも注目である。

 

また、イスラムの民族音楽や文学性を引き継いだ楽曲が目立つ中、「Dailogo en la Noche」では、シワンというグループの命題であるアンダルシアの雰囲気が引き出され、ジャズソング風にアレンジされている。さらに、エンディングを彩る「is there no way」では、民族音楽とバラードの融合に挑戦しており、これが硬派な楽曲が際立つアルバムの中、ちょっとした華やかさと贅沢な安らぎを与えてくれる瞬間でもあります。他にも、イスラム、アンダルシアの民族音楽の特性を引き出した、複雑で前衛的なリズム性が引き出された楽曲が数多く見受けられる。そもそもジャズというのは、一つの型の踏襲であるとともに、音楽の持つ表現の可能性を無限に押し広げるためのジャンルでもあり、この作品は、そのことを象徴付ける概念が提示される。音楽集団として多国籍のルーツを持ち、各々が異なる音楽的背景や文化性を持つグループらしい独特な作風、エキゾチック・ジャズの入門編としても最良の一枚といえるのではないか。

 

(Score:82/100)

 

5月27日、南アフリカのジャズ・ピアニスト、作曲家、ヒーラーとしても活躍するNduduzo Makhathini (ンドゥドゥゾ・マカティーニ)が新作アルバム「In The Spirit of Ntu」をリリースします。

 

前作の「Modes of Communication」は、ニューヨーク・タイムズによって、2020年の「ベストジャズアルバム」に選出されています。この度、新しくマカティーニによって制作されたアルバムは、名門レーベルであるブルーノートから、今年の5月27日にリリースされます。これは、マカティーニのキャリアの中で、ブルーノートから初めてリリースされる作品、アーティストにとって記念碑的なジャズアルバムとなりそうです。新作アルバムリリースに併せて、先行シングル「Senze'Nina」が紹介されています。

 

ジャズ・ピアニストのンドゥドゥゾ・マカティーニは、彼のこれまでのリリースカタログで探求されてきた主題、音、概念を新作アルバム「In the Spirit Of Ntu」の構造化された10曲の中に凝縮しています。彼は、新たに発売されるアルバムについて、「これまでに行ってきたすべての経験を要約し、さらに、それを何らかのコンテキストに入れる必要があると感じていました」と語っています。南アフリカの活気に満ちたジャズシーンの中心人物として活躍するマカティーニは、今回の新作アルバムを制作するに際して、サックス奏者のリンダ・シカカネ、トランペット奏者のロビン・ファシーコック、ビブラフォン奏者のディラン・ビッシャー、ベーシストのスティーヴン・デゾウザ、さらに、パーカッション奏者のゴンツィマケネなど、南アフリカで最もエキサイティングな若いミュージシャンから成るジャズバンドを結成し、音源制作に取り組みました。

 

マカティーニは、マイナーリズムとメジャーリズム、モビリティ、アクティヴ・リスニング、儀式主義、様々な前衛的なアプローチを交えてプロジェクトに取り入れ、アフリカのズールの伝統、知的好奇心の背景を利用し、聞き手に対して、魅力的なアーティキュレーションを伝えようとします。「私は、私達の文脈でジャズを位置づける手段として、これらの宇宙論ともいえる概念に取り組んでいきました」と、彼は述べており、さらに以下のように付け加えています。


「私は、コミュニケーションとしてモード奏法のアイディアを出しました。さらに、冥界からくる音のメタファーとして文字を使用し、冥界からの手紙のようなニュアンスを出しています。リスニング・トゥ・グラウンドをリリースした際、リスニングという概念をより深く探求していこうというような目的意識を持っていました。新しいアルバムでは、地面から浮かび上がるものに耳を傾ける、というパラダイムが取り入れられています。さらに、Ntuというのは、古代アフリカの哲学そのものです。今作は様々なアイディアによって彩られた作品です」

 

 

 

 

 

 ・Nduduzo Makhathini  「In the Spirit Of Ntu」

 

Presave


・Blue Note Records official


https://store.bluenote.com/collections/new-releases/products/nduduzo-makhathini-in-the-spirit-of-ntu

Jeff Parker


 
ジェフ・パーカーは、LAを拠点に活動するアメリカのジャズギタリスト兼作曲家。コネチカット州出身、バージニア州ハンプトンで育ったジェフ・パーカーは、カルフォルニアのバークリー音楽院でギターを学んだ後、1991年からシカゴを拠点に、実験音楽家、ジャズプレイヤーとして活動しています。
 
 
現在も、ジャズ、エレクトニック、ロックと様々な音楽を融合した斬新なギター音楽を紡ぎ出しているアーティストです。
 
 
これまでジェフ・パーカーは、シカゴのインディーシーンの象徴的なポスト・ロックバンドの活動、作品制作に数多く携わっています。
 
 
Tortoiseのギタリストとしての活動をおこなっているほか、シカゴのインディーシーンの重要なバンド、Isotope 217°の、ジャズ・アンサンブル、Chicago Undergroundの発起人でもあり、2000年代には、クリエイティヴミュージシャンの進歩を助ける協会”AACM”の会員に名を連ねています。 
 

上記のバンドとは別に、Andrew Bird、Yo La Tengoをはじめ、数多くの秀逸なアーティストとの共同制作を行い、ならびに、Jeff Parkerとしてのソロ名義での活動も行っています。
 
 
2021年までにジェフ・パーカーは、通算7枚のスタジオ・アルバム
 
 
「Like-Coping」2003、
「The Relatives」2005、
「Bright Light in Winter」2012、
「New Bread」2016、
「Slight Freedom」2016、
「Suite for Max Brown」2020
「Forfolks」2021
 
を発表しています。
 
 
特に、ジェフ・パーカーのソロ作品は、モダンジャズとしての国内外のメディアにきわめて高い評価を受けています。
 
 
「New Bread」「Slight Freedom」の二作はThe New York Timesが2016年のトップジャズリリースとして選出しています。また、「Suite for Max Brown」は、英国ガーディアンの日曜版「The Observer」の紙面において、2016年のトップジャズアルバムに選出されていることにも注目です。

 

 

 

 

 「Forfolks」 International Anthem  2021

 


 

 

これまで、Tortoise、Isotope 217°、といった実験的ロックバンドの活動において、また、Chicago Undergroundでのジャズ・アンサンブルにおいて、コンピューター・テクノロジー、ロック、ジャズ、電子音楽を交えて、様々な音楽の混淆、未知なる音楽へのアプローチに三十年もの間、挑戦しつづけてきたジェフ・パーカー。
 

2021年12月10日にリリースされたソロ・ギター作品は、ジェフ・パーカらしい前衛性が垣間見える作風で、音楽本来のプリミティヴな魅力を楽しんでいただけるでしょう。
 
 
「Forfolks」は、これまでのジェフ・パーカーの作品に比べ、ジャズ・アンサンブルというより、ジャズ・ギターに焦点を絞った硬派なギタリストとしてのアプローチが貫かれた傑作といえ、ジェフ・パーカーのジャズギタリストとしての並々ならぬ情熱が感じていただけるはずです。
 
このスタジオ・アルバムには、ウェス・モンゴメリーのようなジャズギターの巨人に対するリスペクト、フォーク音楽を始めとするアメリカのルーツミュージックに対する憧れに近い、内側の熱情を外側に静かに表出した作品です。
 
 
今回のスタジオアルバムには、セロニアス・モンクのカバー「Ugly Beauty」、ジャズ・スタンダードの「My Deal」のほか、1997年にIsotope 217°、Tortoiseと制作を行った「La Jetee」をはじめ、六曲のオリジナル曲が収録されています。これらの楽曲は、2021年6月、カルフォルニア州のジェフパーカーの自宅にあるスタジオSholo Studioで僅か2日間で録音されました。
 
 
このスタジオアルバムに収録されている楽曲は、ジャズ・ギターの原始的なみずみずしい演奏の魅力が宿っています。しかし、その中に、いかにも、これまでシカゴのインディーシーンの中心人物として活躍してきたジェフ・パーカーらしい前衛性が発揮され、楽曲中にループを多用し、それを層状に連ね、メロディックな即興のギター演奏、電子音楽のテクスチャーが融合、実験音楽としての意義を失わせない斬新なアプローチをジェフ・パーカーは本作において図っているのです。
 
 
「私は、自分が彷徨うための音の世界を生み出そうとしている」とパーカー自身が語っているように、今作品は、一度、そのジャズ・ギターの世界に踏み入れた途端、めくるめく音楽の大迷宮に迷い込んでしまうかのような、驚き、そして、深み、厳かさを存分に感じていただけるはずです。
 
 
また、ジェフ・パーカーと長年コラボレーションを行ってきた彼の音楽性を最もよく知るMatthew Luxは、この新作「Forfolks 」について、ライナーノーツに以下のように書き記しています。

 

 

”ジェフがソロで演奏するのを聴くのはとても特別なことだ。彼は、異常なほど無欲な即興演奏家であるし、しばしば、自分ではなくて、他のバンドメンバーの貢献をことのほか強調したりする奥ゆかしい人物なんだ。

 

もちろん、本来、ジェフは、全く何の音も鳴らない空間で、3つのコードを演奏するような器用なミュージシャンではない。それでも、今回のレコーディングについては、すべて彼一人の力によって演奏されているのは確かなことだよ。ジェフの頭の中で組み立てられた音楽を具体化していくため、アイディアが何度も入念に繰り返され、それがようやく確かなギターのフレーズとして固定化されていった作品なんだ。

 

今回のアルバムの8つのセクションにおいて、ジェフが音の世界を入念に作り上げていくことを聴くことで、これまでまったく知られていなかった事実、彼がどのようなプロセスでこういった実験的な音楽を生み出しているのか知ることができるはずだ。

 

.....彼は、実は、今回のレコーディングにおいて単一のジャンルとして音楽を落とし込み、その枠組内で演奏することを避けていた。 どちらかといえば、音楽を色彩的にいろどるため、あえて絵画的なアプローチを選択し、いかにも商品らしい音楽を生み出そうとはせずに、内面的な深い声を音楽として表現するように努めていたんだ”


 

 

 

 

 

・Apple Music Link