JPEGMAFIAがプロデュースしたこの曲は、ピンク・シーフ(Pink Siifu)をフィーチャーし、DJ ハラムがプロデュースしたアーマンド・ハマーの前シングル「Trauma Mic」に続く作品である。両曲とも、デュオの待望のアルバム『We Buy Diabetic Test Strips』からのリリースである。
JPEGMAFIAとのコラボレーションの過程、そして、「Woke Up and Asked Siri How I'm Gonna Die」がアルバム制作の原動力となったことについて、ビリー・ウッドは次のように書いている。というのも、いくつかのトラックは、ドープなヴァースと本当に良いビートと素晴らしいフックを備えていて、曲は本当にドープでクールなんだ。それは確かに勝利だけど、他の曲もあるんだ」
彼は続ける。「全てのパーツがユニークな軌道を描いて渦を巻き、お互いを高め合い、突然全体が浮遊するような曲だ。錬金術。卑金属が金に変わるなど。新しい創造の旅に出るとき、私はいつもその瞬間を待ってるんだ。その紛れもない道しるべを・・・。『We Buy Diabetic Test Strips』では、そのような瞬間が少なからずあった。その回のテイクで、ああ、これだ、と思ったんだ」
音楽のテーマから言うと、デビューアルバム『The Water(S)』の時代から、黒人として生きることの葛藤、警察の横暴を鋭く描いた。二作目のアルバム「Piece Of A Man』では、ジル・スコットの1971年のデビュー作のオマージュを行い、三作目のアルバム『Elphant Is The Room』では、R&Bやジャズに依拠し、みずからの家族との関係等に焦点を当てるなど、作品ごとにそのテーマを様変わりさせてきた。
インディアナのラッパー、Freddie Gibbsが参加した#2「Show & Tell」では、トリップ・ホップとシカゴ・ドリルの融合を図っている。昨年のケンドリック・ラマーの最新アルバム『Mr. Morales & The Big Steppers』でのBeth Gibbonsの参加を見ても分かる通り、地域を問わず、今や米国のラッパーは、ブリストルのトリップ・ホップの影響をUSラップの中に取り入れようとしている。 蠱惑的なブリストル・サウンドを下地にしたトラックに乗せられる、ジェンキンスのフロウは、中盤にかけて、神がかったドープな領域へと突入している。ギャングスタ・ラップのように過激な雰囲気もあるにせよ、曲自体はしっとりとしたソウルに近い概観に彩られている。
#3「Sitting Ducks」では、エレクトロニックとラップのクロスオーバーに取り組んでいる。例えば、エレクトロニック寄りのラップは、2018年の『Piece Of a Man』に収録されていた「Gwedolynn's Apprehension」でも示されており、改めてこの形式を踏襲している。バック・トラックに関しては、Warp Recordsのアーティストの制作するようなIDM(Intelligence Dance Music)ではありながら、リズム・トラックに接して対比的に歌われるジェンキンスのラップは、シカゴのラッパー、Defceeのスタイルに近い。
これらのラップ・バトルに触発されたリリックとIDMの融合は、きわめて新鮮な印象をもたらす場合がある。ジェンキンスは、このトラックにおいて、自らフロウの特徴ある低音から中音域を漂うリリックを披露しているが、コラボレーターとして参加したBenny The Butcherはそれより少し低いフロウを披露し、曲全体に安定感と落ち着きを与えている。リリックには、過激なスラングが含まれるが、他方、聴かせる要素もある。言葉こそエクストリームなニュアンスも込められてはいるにせよ、感情のバランスが抑制され、奇妙なバランス感と音感に支えられている。
#7「ROY G. BIV」では、このプロデューサーらしいサイケデリックな性格と、ミニマルな要素が絡み合い、スタイリッシュなヒップホップが生み出された。短いシンセのスニペットを反復させ、それをなだらかなバックトラックとしてアウトプットし、そのビートの上をジェンキンスのフロウが軽やかに舞う。ダンス・ミュージックとラップの中間域を意識した楽曲であり、アルバムの中では最も聴きやすく、軽やかな感じの一曲として楽しむことができるはずだ。
#2「Hold Me Down」 にて、ようやく本格的なスポークンワードが展開される。オープナーに続いてダブ・ステップに近い複雑なリズムを擁するトラップが繰り広げられるが、少しアイロニックかつシニカルなニュアンスをおり混ぜ、内省的なラップが繰り広げられている。イントロこそ単調な印象もあるリリックは、その後、コーラスが加わるや否や、ビートの上をまろやかなフロウが転がり始める。その上に、ゴスペルやアフロ・ジャズを想起させるメロウなフレーズが、甘い雰囲気を生み出し、アウトロのフェードアウトまで持続している。また、ドラムンベースやベースラインを基調にした変則的なリズムに加え、ソフト・ロック調の軽やかな雰囲気を織り交ぜながら、序盤の”トロピカル・ヒップホップ”としての基礎をしっかりと築き上げている。
#3「Balloons」は、ジェイ・エレクトロニカが参加したことで問題となったトラックですが、アルバムの中でも聴き逃がせない。Nilfer Yanyaに近いベースラインをバックにして、Nonameのスポークンワードは序盤よりも感覚的な鋭さと緊張感を増していく。独特なのは、絡みつくようなリリックの運びを介し、小節の後半に言葉の強拍を配置することにより、コアなグルーブ感を生み出している。そこに、チャールズ・ミンガスのウッド・ベースの演奏(モード奏法)を多分に意識したジャズのベースが加わると、Nu Jazzにも近い雰囲気を帯びる。サビの「Crack The Moon」というフレーズを介して、Nonameはフィーリングに直に訴えかけるようなフレーズを生み出している。これにイタロ・ディスコ風の甘い感じのコーラスが合わさり、リゾートな気分を盛り立てている。
#5「potentially the Interlude」 もクールなトラックだ。ビンテージ・ファンクを下地にし、モダンなソウルとしてアウトプットしている。特に、ジャズではお馴染みの6/8のビートが反復されることで、うねるようなグルーブ感が生み出され、それらのビートの合間を縫うようにし、Nonameのスポークンワードがジャブさながらに打ち出され、最終的にはよりフロウに近づいていく。
「Thank You (OG Version)」は、ヘイウッド=スミスの亡き母を称えるために書かれたSlingshotのオリジナル・バージョンである。より静かで感情的なアプローチで作曲されている。この曲の作曲は、ジェレミーにとって画期的な瞬間で、感情的で傷つきやすい経験と正面から向き合うために初めてソングライティングを活用した。OGバージョンは、その意図を直接音に反映させている。
ある意味、彼は、タイラーのキャリアと自身のアーティスティックな旅の間に並行するものを見ている。2021年に『CALL ME IF YOU GET LOST』が発売されたとき、ジェレミーはレコードを最初から最後まで聴いた。音楽を仕事にすることが単なる夢だった高校時代に、オッド・フューチャーの最初のテープを聴いたことを思い出したのだ。早いもので、ジェイウッドはEPを2枚、アルバムを2枚リリースし、次のフルレングス・リリースに向けて精力的に活動している。
A1: Landlines A2: Woke Up And Asked Siri How I'm Gonna Die A3: The Flexible Unreliability of Time and Memory A4: When It Doesn't Start With A Kiss B1: I Keep A Mirror In My Pocket B2: Trauma Mic B3: Niggardly (Blocked Call) B4: The God's Must Be Crazy B5: Y'all Can't Stand Right Here C1: Total Recall C2: Empire Blvd C3: Don't Lose Your Job D1: Supermooned D2: Switchboard D3: The Key Is Under The Mat
JPEGMAFIAとDanny Brownがコラボレーション・アルバム『SCARING THE HOES』を拡張し、「DLC PACK」と名付けた4曲入りの特別版のEPをリリースした。この作品はビデオゲームからヒントを得て制作された。現在、アップル・ミュージックまたはスポティファイ、バンドキャンプでストリーミング出来る。各種ストリーミング/EPのご購入はこちらからどうぞ。
オリジナル・アルバム同様、『SCARING THE HOES: DLC PackはJPEGMAFIAによって制作された。
オープニング・トラックの 「Guess What Bitch, We Back Hoe!」はアップテンポでクラブ・テイストのプロダクションだ。「Hermanos 」はデュオのシャープなフロウとは対照的なゴージャスなヴォーカル・サンプル。「Tell Me Where to Go」はソウル・フリップを取り入れた驚くほどレイドバックした曲。エンディング曲「No! ー」では、壮大なクワイア・サンプルが、"Bitch, I ain't Baby Keem, My cousin ain't gave me shit "のようなJPEGMAFIAの小粋なパンチラインと見事に合致している。曲を締めくくるため、ブラウンは率直な話し言葉のアウトで、"囚われの身のような気分で、逃げ出したい/晴れの日は憂鬱だから、雨の日を祈る "と自らの繊細さを告白している。
シカゴのラッパー、Mick Jenkins(ミック・ジェンキンス)がニューアルバム「The Patience」を8月18日にリリースすると発表しました。後日、掲載した特集記事、Weekly Music Featureもあわせてご覧ください。
ミック・ジェンキンスはシカゴのオープンマイクシーンとも関わりを持つ。2021年に発表したアルバム「Elephant In The Room」は当サイトの2021年のベスト・アルバムに選出されている。ラップには一家言を持つイギリスの音楽メディア、CLASH誌は、ミック・ジェンキンスを高く評価し、レビュアーであるニール・スミスさんは次のように絶賛している。「ミック・ジェンキンスは、ニュアンスと重層的なサブテキストの達人だ。アルバムは、ヴィンテージ・ソウル・レコードの基礎と、リリックに長けたアルト・ヒップホップ・アルバムにしか見られない、悲痛で残酷な正直さを融合させている」前作はジェンキンスが家族との記憶に焦点を当て、彼の命題であるビンテージ・ソウルとモダン・ラップの融合に音楽的な根幹が置かれていた。
サンファのデビュー・アルバム『Process』は2017年にリリースされた。Spirit 2.0」は、ケンドリック・ラマーの『Mr.Morale & The Big Steppers』(「Father Time」)、SBTRKTの『The Rat Road』(「L.F.O.」)、ストームジーの『This Is What I Mean』(「Sampha's Plea」)に続く作品だ。
『Sad Clown Bad Dub』シリーズは、シカゴのアンダーグラウンド・ヒップホップ・デュオ、Atmosphereがツアー中に限定販売するカセットテープとCD-Rのシリーズとして始まった。
このプロジェクトは、1999年の開始以来、は、レアな4トラック・デモ、ライヴ・レコーディング、ツアーの舞台裏を収めたDVD、ミックス・テープ、7インチ・ヴァイナル・シングルなど、数多くのフォーマットで十数回に渡って繰り返されてきた。今日に至るまで、初期の作品のひとつである『Sad Clown Bad Dub 2』は、このシリーズで最も有名で、垂涎の的となっている。
2000年にリリースされた『Sad Clown Bad Dub 2』は、手書きのトラックリストとライナーノーツが書かれたイラスト入りジャケットの後ろにCDが収められたシンプルなDIYリリースだった。レコーディングも同様にラフで、ミキシングもマスタリングもされていない生の4トラック・デモが12曲収録されている。アトモスフィアは、当初、小遣い稼ぎのために500枚しかCDを制作しなかったが、その話題性とファンからの要望により、最終的にCDの追加プレスに踏み切り、今度はジャケット・アートに「Authorized Bootleg(公認ブートレグ)」というフレーズを刻印した。『Sad Clown Bad Dub 2』の未完成さは、その内容の魅力を妨げるものではなかった。
一般的に、ヒップホップ界では、アンダーグラウンドの名作とされている『Sad Clown Bad Dub 2』は、アトモスフィアの広範なディスコグラフィーの中でも傑出したリリースのひとつとして語られることが多い。
ストームジーは、イギリス/ウェストロンドン出身のラッパー、Fredo(フレド)をフィーチャーし、デイヴことサンタンをプロデュースに迎えた新曲「Toxic Trait」を発表した。昨年12月に3作連続で1位を獲得したアルバム『This Is What I Mean』に続くニューシングルで、UKドリルの新機軸を示している。
このシングルには、イギリス人ディレクター、フェミ・ラディが監督したビデオが付属しており、社会的な有害特性を探求している。ビデオでは、ギャンブル、暴力、贅沢なライフスタイルへの賛美など、様々な架空のシナリオが描かれている。ムハメッド・アリの1968年のエスクァイア誌の表紙やケヒンデ・ワイリーが描いた絵画「A Ship Of Fools」など、文化的な引用も含まれている。ビデオには、フレドとアリソン・ハモンドのセラピー・シーンがあり、最後はイヴォリアン・ドール、ウレッチ32、スペックス・ゴンザレスが登場するグループ・セッションで締めくくられる。入れ替わり立ち替わりに披露されるリリックのスタイルにも着目したい。
これまで一般のラップファンほどには、キラー・マイクの音楽をじっくりと聴いてこなかったのは確かなので、見当違いなレビューにもなるかもしれないと断っておきたい。しかし少なくとも、『Michael』には、現代のトラップやドリルを中心に、DJスクラッチの技法や、レゲエ、レゲトンの影響を織り交ぜた軽快なトラックが強い印象を放っている。法意識に対する思いを込めたオープニング「Down By Law」は、ドリルのリズムを元にして、キラー・マイクのマイク・パフォーマンスが徐々に流れを作っていく曲で、コラボレーターのCeelo Greenの参加はR&Bに近い雰囲気を、このトラック全体に与えている。渋いラップではあるけれど、どっしりとした重厚感すら持ち合わせたナンバーで、このアルバムは少しずつ、言葉の流れを作り始める。
キラー・マイクのブラック・カルチャーにとどまらない普遍的な愛は、その後、より深みを増していく。先行シングルとして公開された印象的なオルガンのイントロで始まる「RUN」は、このアルバムのハイライトとも言える。この曲ではおそらく、昨今の政治的な関心における賛否両論を巻き起こすため、デイブ・シャペルのモノローグが導入され、トランスフォビアへの際どいジョークが織り交ぜられている。キラー・マイクは、ビンテージ・ファンクに近い、渋さのあるベースラインにリリックを展開する。そして、ファンクの要素は、コラボレーターのヤング・サグの参加により、中盤から後半にかけて、レゲトンとチルアウトを融合させたような展開に緩やかに変遷していく。考えようによっては、ベテラン・プロデューサーのトレンドのラップへの感度の高さを表しており、モダンなラップへの親しみを表したような一曲といえるだろうか。続く「NRICH」も鮮烈な印象を残す曲で、ブラックネスの最深部に迫ろうとしている。面白いのは、キラー・マイクのラップに対し、6Lack、Eryn Allen Kaneの重厚感のあるコーラスは、曲全体にバリエーションをもたらし、レゲエに近い楽曲へと徐々に変貌させていく。ある意味では、オールドスクールのヒップホップに近いコアなアプローチを感じさせる一曲だ。
その後も、ドリルのトレンドを忠実になぞられた「Takin' That Shit」の後に続いて、ソウル/ゴスペルの影響を込めた「Slummer」では、このアーティストを単なるラップミュージシャンと捉えているリスナーに意外性を与えるだろうと思われる。キラー・マイクは、この曲を通じて、ラップ芸術がどうあるべきかという見本を示すとともに、この音楽の通底には、憎しみではなく、普遍的な愛情が流れていることを示そうとしている。それはもちろん教会の音楽として登場したゴスペル、その後のソウルや、80年代のディスコで示されて来たように、一部の信奉者のために開かれたものではなく、ストリートや大衆へ、富む人から貧しい人まで、その感覚を広めていくため、これらのブラック・ミュージックの系譜は存在していたのだ。キラー・マイクはそのことを踏まえ、今一度、ストリートへの芸術の本義を、この楽曲を通じて問おうというのだろうか。特に、ジェイムス・ブラウンやオーティス・レディングといった旧来のソウル/ファンクへの、このラップ・アーティストの愛着と敬意がこの曲にはしめされているように思える。