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JIDが8月26日にDreamville/Interscopeからリリースされるニューアルバム「The Forever Story」を発表しました。本日、アトランタのラッパーである彼は、Kenny MasonとFoushéeをフィーチャーしたニューシングル「Dance Now」を発表し、そのプレビューを行いました。アルバムのカバーアートワークとともに、下記よりご覧ください。 

 


『The Forever Story』はJIDの2018年の記録『DiCaprio 2』に続く作品となる。トラックリストはまだ公開されていないが、このLPには21 SavageとBaby Tateとの共演で以前シェアされたシングル「Surround Sound」が収録される予定となっている。

 

 




プエルトリコの大スター、バッド・バニーがニューシングル「Un Preview」をリリースした。TainyとLa Pacienciaとの共同プロデュースにより制作された。Stillzが監督したビデオは以下から。


「Un Preview」は、バッド・バニーが5月にフランク・オーシャン、リル・ウージー・ヴェルト、ドミニク・ファイクらをフィーチャーしたビデオとともにリリースした「Where She Goes」に続くシングルだ。また、「K-POP」ではトラヴィス・スコットとザ・ウィークエンドと共演している。


 

©Alexander Richter


ニューヨークのラッパー、billy woodsとELUCIDのデュオ、Armand Hammer(アーマンド・ハマー)が、Run the JewelsのEl-Pがプロデュースした新曲「The Gods Must Be Crazy」を公開した。

 

この曲は、今週金曜日(9月29日)にリリースされる彼らのアルバム『We Buy Diabetic Test Strips』からの最新シングル。これまでにリリースされたシングル「Woke Up and Asked Siri How I'm Gonna Die」「Trauma Mic」が収録されている。以下よりチェックしてほしい。


「woodsとELUCIDは特別な関係にあり、このジャムで一緒になれたことを嬉しく思っているよ。僕たちはバンガーを作ったと思うな」

 

 

 「The Gods Must Be Crazy」


キラー・マイクが6月に発表したソロ・アルバムのデラックス・エディション『MICHAEL DELUXE』を発表した。新作は来週9月15日(金)にリリースされる。マイクはこの発表を記念して、T.I.、JID、Jacqueesをフィーチャーしたボーナストラック「Maynard Vignette 」を公開している。


『MICHAEL DELUXE』には、『MICHAEL』(レビューはこちらより)を構成するオリジナルのトラックリストに加え、新たに4曲のボーナス・トラックが収録される:「メイナード・ヴィネット」、「YES」、「ゲット・サム・マネー」、「アクト・アップ」だ。プレスリリースによると、これは "ディレクターズ・カット "のようなもので、マイクが最初のリリースのために削ぎ落としたより簡潔なヴァージョンをさらに拡大したものだという。さらに、待望のヴァイナル盤とCD盤が予約受付中で、フィジカル・フォーマットで楽曲を入手できる。


"メイナード・ヴィネット "は、洗練されたピアノで装飾されたインストゥルメンタルとトーンダウンしたテンポをバックに、マイクのメロウな側面にスポットライトを当てている。彼とJID、T.I.が交互にヴァースを担当し、Jacqueesの滑らかなヴォーカルがコーラスを担当している。


「Maynard Vignette」


 

JPEGMAFIAがプロデュースしたこの曲は、ピンク・シーフ(Pink Siifu)をフィーチャーし、DJ ハラムがプロデュースしたアーマンド・ハマーの前シングル「Trauma Mic」に続く作品である。両曲とも、デュオの待望のアルバム『We Buy Diabetic Test Strips』からのリリースである。


JPEGMAFIAとのコラボレーションの過程、そして、「Woke Up and Asked Siri How I'm Gonna Die」がアルバム制作の原動力となったことについて、ビリー・ウッドは次のように書いている。というのも、いくつかのトラックは、ドープなヴァースと本当に良いビートと素晴らしいフックを備えていて、曲は本当にドープでクールなんだ。それは確かに勝利だけど、他の曲もあるんだ」


彼は続ける。「全てのパーツがユニークな軌道を描いて渦を巻き、お互いを高め合い、突然全体が浮遊するような曲だ。錬金術。卑金属が金に変わるなど。新しい創造の旅に出るとき、私はいつもその瞬間を待ってるんだ。その紛れもない道しるべを・・・。『We Buy Diabetic Test Strips』では、そのような瞬間が少なからずあった。その回のテイクで、ああ、これだ、と思ったんだ」


アーマンド・ハマーのアルバム『We Buy Diabetic Test Strips』は、2021年にアルケミストがプロデュースした『Haram』に続く作品ではあるが、生楽器を取り入れ、El-P、JPEGMAFIA、Kenny Segal、DJ Haram、Black Noi$e、さらにゲスト・ヴォーカリストとしてPink Siifu、Moor Mother、Junglepussy、Cavalier、Curly Castro、Moneynicca(フィリー・パンク・バンドSoul Glo)ら革新的なプロデューサーを起用した全く異なる作品となっている。


さらに、ジャズの名手シャバカ・ハッチングスがフルートで登場し、ELUCIDとエンジニアのウィリー・グリーンと共にジャム・セッションを行い、『We Buy Diabetic Test Strips』の礎を築いたミュージシャンでもある。

 


「Woke Up and Asked Siri How I'm Gonna Die」



Weekly Music Feature


Mick Jenkins



Mick Jenkins Via Facebook
 


シカゴのラッパー、ミック・ジェンキンスがRBCレコードと新たなレコーディング契約を結び、8月18日にRBCレコード/BMGからニュー・スタジオ・アルバム『ザ・ペイシェンス』をリリースする。


ニューアルバムについてジェンキンスは、「忍耐……。できる限り、自分の状況を変えるために力の及ぶ範囲であらゆることをする人間です。ある程度の一貫性があれば、その行動は必然的に待たなければならないポイントにたどり着くと思うんだ。自分を前進させるために必要なことが、もはや自分の手には負えないという時点のこと。筋肉の断裂と修復、芸術的な意図とはまったく無縁の瞬間に訪れるコンセプトの理解など。このような瞬間に、私は忍耐に対して最も苛立ちを覚えるんだ。そして、この作品群は、そのフラストレーションのように聞こえる」


アラバマ生まれで、シカゴ育ちのラッパー、ジェンキンズは、過去10年にわたり、淡々とした明晰な眼差しの詩情溢れる音楽で名を馳せてきた。

 

ジェンキンスの作品群は、彼の若きベテランとしての地位を反映している。2014年のミックステープ『The Water[s]』でブレイクした彼は、そのミックステープのリリース以来、3枚のフルレングス・アルバムと4枚のEPを発表し、現代で最も器用なリリシストのひとりとしての地位を確立した。

 

『ザ・ペイシェンス』は、まだ若く、芸術的な力を存分に発揮しているアーティストのサウンドであり、この地点に到達するまでに費やした年月によって衰えはしたが、その継続的なバイタリティを証明することに躍起になっている。その結果、ジェンキンスにとって最も切迫した芸術的声明となった。


ジェンキンスはアルバムごとに異なるテーマを掲げて来た。そして、彼は自分にいつもこう言い聞かせる。「次はどんなアルバムを作るのか?」前回のアルバム制作時には、リリースの締切まで1週間というクレイジーな日程をこなした。ジェンキンスは自分の置かれた状況から抜け出してから、再び、「次はどうするか」という瞬間が訪れた。やはり答えは音楽だった。『エレファント・イン・ザ・ルーム』がリリースされ、契約が終了した後、彼が企てたのは創造だった。 


「その間、たくさんの音楽を作っていた。契約する前にラップを辞めたり、苦境に立たされたり、どんな状況に陥っても忍耐を持ち続けようと自分に言ってきたんだ。レーベルからフリーになって、BMGで新しい状況を見つけたとき、フリーになる6ヶ月前から話していたんだ。よし、この日が来れば、このクソが走り出すぞ 、と思っていたんだ。それからさらに9ヵ月かかった。俺は、この2年間、レーベルと関わったり、音楽を作ったりせずに過ごした。まだいくらか待ち続ける必要があった」


「その間、俺から見たものは、フィーチャリングばかりだった。EPを出すこともできた。準備はできていたし、曲もたくさんあった。曲を作ることもできた。でも、やりたいことは、より高いレベルにするということで、そのために、高いレベルでやるための資金とリソースを手に入れるまでじっと待つ必要があった。ただ、より多くの音楽をドロップしようとしている。それはたしかに素晴らしいことだけど、すでにやっていたことなんだ。だから、より高いレベルで活動するためには、自分自身に、”いや、全然まだだ”とプレッシャーをかける必要があるんだ」


新しいレベルの自由を得て、ジェンキンスは最新プロジェクト『ザ・ペイシェンス』を制作している。彼は今作のインスピレーションをバスケットボールに譬えて説明している


「どんな分野に足を踏み入れても、どんなに優れていても、学ぶべきことはたくさんあるという考えには忍耐が必要だ。勝ち点を40落としたとしても、勝つために必要なことを学ばなければならない。実力は関係ない。知識を得たら、あとはそれをどう応用するかなんだ。どこで、どのように潮の満ち引きが必要なのか、この理論の応用が白黒はっきりしないのはどこなのか。でも、それは現場に行ってみないとわからない。実力とはまったく関係ないことだってある。音楽を作ることと関連するとは限らない。その方法を学ばなければならない。バスケットボールの世界には、あなたを左右するものがたくさんある。その94本の足がどれだけ優れているかとは関係のない、他の人たちにとっての自分のポジションを切り開くことになる。お金と出場時間に影響するんだよ(笑)」


「そのようなスペースをどのようにナビゲートするかを学ぶ必要があった。得点できるという事実以上に、そのスペースでベストを尽くす方法を学ばなければいけないんだ。僕はラップのスコアラーで、一日中バーを持っている。でも、それ以上に操り方を学ばなければならないことがたくさんある。外に出ることを学び、人々と一緒に仕事ができるようなコミュニケーションの取り方を学ぶ必要がある。ある方法を示さなければならない。あるやり方で、あるやり方をしなければならない。そのプロセスを忍耐強くやり遂げるというのが、私が1番言いたいことなんだ。タイトルを見た人は、私が忍耐について説いていると思うかもしれないね(笑) いや、そうではなくて、これはちょっとしたフラストレーションを指している。この時期がそうだったし、多くの場合、忍耐強くなければならないというのは、そういうことだと思うんだよね」 



Mick Jenkins 『The Patience』  RBC /BMG

 

先週のNonameに続いて、シカゴの最良のラップ・ミュージックをご紹介致します。ミック・ジェンキンスは、デビュー・アルバム以来の10年は、ほとんど経済的、あるいは、クリエイティヴの面で切迫した状況で制作を続けてきた。

 

今回、メジャー・レーベル移籍第一弾となるアルバム『The Patience』では、シンプルに商業的な面での援助により、これまで平均して6万ドルの制作費だったが、今回、それを上回る費用がレコーディングに充てられた。しかし、問題なのは、4作目のアルバム『The Patience』は最も過激で、アグレッシヴで、赤裸々で、自分自身であることを恐れぬ作品となっている。そして、メジャーレーベルへの移籍でマイルドな音楽になるどころか、その舌鋒の鋭さは増しており、2010年代のシカゴ・ドリルが世界的に普及していった時代に比する、苛烈な雰囲気が込められている。


ミック・ジェンキンスがラップを始めたのはそれほど早くなかった。アラバマの大学に入ってから、ラップを始めた。(これは彼と一度、共同制作をしている、ロンドンの大学で学んだ日本人のラッパー、Daichi Yamamoto{ダイチ・ヤマモト}と共通する。)そして、ジェンキンスは、学生時代のラップのコンテストの賞品として貰い受けたヘッドフォンを使い、音楽を制作してきた。彼は同時に、現在では主流のストリーミングではない、Soundcloudを介して楽曲のテストをしてきた。そして、音楽を探すのも、このストリーミング・サービスを通してである。

 

音楽のテーマから言うと、デビューアルバム『The Water(S)』の時代から、黒人として生きることの葛藤、警察の横暴を鋭く描いた。二作目のアルバム「Piece Of A Man』では、ジル・スコットの1971年のデビュー作のオマージュを行い、三作目のアルバム『Elphant Is The Room』では、R&Bやジャズに依拠し、みずからの家族との関係等に焦点を当てるなど、作品ごとにそのテーマを様変わりさせてきた。


こう言うと、 ジェンキンスがいつもコンセプトアルバムを制作してきたと思うかもしれないが、実は、そうではないようだ。彼はより良いものを作りたいと思うだけで、最善の環境の中で最善の音楽を作り、ラップしてきた。その真摯なスタンスはもちろん、メジャー・レーベル移籍後の第一作でも変わることがない。

 

アルバムのプロデューサーは、Nonameの『Sundial』でも名をクレジットされたバーグ、アルケミストとマッドリブに影響を受けたニューヨークのプロデューサー、ストイックが手掛けている。

 

近年、ジャズとヒップホップの融合に取り組んで来たミック・ジェンキンスではあるが、アルバムのオープニング「Michelin Star」のイントロでは、従来の音楽性が引き継がれている。そして、以前よりも制作費を掛けたこともあって、大掛かりで映画的なプロダクションがなされているという指摘もある。 

 

 

「Michelin Star」

 

 

 #1「Mickelin Star」のオープニングのイントロを見て分かる通り、本作は最初こそジャズ風のくつろいだサンプリング/チョップを配したメロウな感じで始まるが、その後、シカゴ・ドリルの最盛期を思わせるアグレッシヴなリリック/フロウが展開されていく。ジェンキンスは、過去の作品でも行っていたジェームス・ブラウンの「Ah」という掛け声を起点にし、一息に捲し立てるようなラップで聞き手を圧倒する。これまでの旧作を聴いたかぎり、これほど前のめりで激しい印象をもたらす彼のリリックは聴いた覚えがない。その上に、バレアリックやサマーチル風の女性コーラスや、ソウルの影響を部分的に配し、爽快感のあるリリックを展開させる。いわば、ドープな瞬間とメロウな瞬間が混在する、異質なオルト・ヒップホップの世界観が生み出されている。このラップ・ミュージックは明らかに今までありそうでなかった形式なのだ。


インディアナのラッパー、Freddie Gibbsが参加した#2「Show & Tell」では、トリップ・ホップとシカゴ・ドリルの融合を図っている。昨年のケンドリック・ラマーの最新アルバム『Mr. Morales & The Big Steppers』でのBeth Gibbonsの参加を見ても分かる通り、地域を問わず、今や米国のラッパーは、ブリストルのトリップ・ホップの影響をUSラップの中に取り入れようとしている。 蠱惑的なブリストル・サウンドを下地にしたトラックに乗せられる、ジェンキンスのフロウは、中盤にかけて、神がかったドープな領域へと突入している。ギャングスタ・ラップのように過激な雰囲気もあるにせよ、曲自体はしっとりとしたソウルに近い概観に彩られている。 

 

#3「Sitting Ducks」では、エレクトロニックとラップのクロスオーバーに取り組んでいる。例えば、エレクトロニック寄りのラップは、2018年の『Piece Of a Man』に収録されていた「Gwedolynn's Apprehension」でも示されており、改めてこの形式を踏襲している。バック・トラックに関しては、Warp Recordsのアーティストの制作するようなIDM(Intelligence Dance Music)ではありながら、リズム・トラックに接して対比的に歌われるジェンキンスのラップは、シカゴのラッパー、Defceeのスタイルに近い。

 

これらのラップ・バトルに触発されたリリックとIDMの融合は、きわめて新鮮な印象をもたらす場合がある。ジェンキンスは、このトラックにおいて、自らフロウの特徴ある低音から中音域を漂うリリックを披露しているが、コラボレーターとして参加したBenny The Butcherはそれより少し低いフロウを披露し、曲全体に安定感と落ち着きを与えている。リリックには、過激なスラングが含まれるが、他方、聴かせる要素もある。言葉こそエクストリームなニュアンスも込められてはいるにせよ、感情のバランスが抑制され、奇妙なバランス感と音感に支えられている。

 

#4「Smoke Break-Dance」には、アトランタのラッパー、JIDが参加している。この曲では煙草(隠語)について歌われている。レコーディング中、JIDは吸っていたというが、ジェンキンスは吸っていなかったという。両者の友人関係によくあるようなスモークに関する、親密なやり取りが繰り広げられている。この曲は、ジャズを基調にしていて、JIDのリリックがリラックス感を与える。JIDのスポークンワードは、曲の途中で歌に近くなり、明確な音程を込めて歌われる。ラップには音程がないという固定概念を覆す、画期的なトラックである。 

 

「007」



アルバムの中盤に収録されている#5「007」から、よりシネマティックな効果を交えたダイナミックなヒップホップへと移行していく。正確に言うと、ピアノや金管楽器のチョップの技法を交えた摩訶不思議な世界へと突入する。ソウル/ジャズをサンプリングとして処理したイントロは感嘆に値するものがあり、ピアノのグリッサンドなどを交え、覇気のあるジェンキンスのフロウが鮮烈な印象を放つ。サックスの断片的なサンプリングは、ジェンキンスのボーカルにゴージャスかつラクジュアリーな雰囲気を付加している。バックトラックに対し、ジェンキンスは、抑揚のあるフロウを展開させる。聴いていて、健やかな気分になり、また、晴れやかな気分になりそうな一曲だ。もちろん、この曲の中に漂っているジャジーな雰囲気は、前作から一貫して彼が追い求めてきた作風であり、それが最終形態として完成をみた瞬間と言えるだろうか。           


アルバムの衝撃的なハイライトは、この2曲後に訪れる。最初の山場は、#6「2004」で到来する。シカゴ・ドリルの最もコアなリズムやパーカッションを継承し、それをブレイク(休符)を挟みながら展開させるジェンキンスのフロウに注目しておきたい。言うなれば、Chicago-Drillの未来形であるStop & Goのスタイルを通して、モダンなラップの最高峰へとジェンキンスは上り詰めようとしている。ここでは、迫力のあるリリックにも刮目すべきだが、その一方で、リズム的な側面からもタメの効いた言葉が、ブレイク(休符)の後に堰を切ったかのように放たれる瞬間は、ほとんど崇高さすら感じさせる。また、咳払いをリズム風に配し、女性ボーカルのサンプリングやシンセのシークエンスを実験的に配し、アヴァンギャルドかつミステリアスな雰囲気をもたらしている。「Motherf○cker」等を始めとするリリックやフロウの過激さは十分である。彼は、2010年代のChief KEEFに象徴されるシカゴのギャングスタ・ラップのハードコア・カルチャーを受け継ぎ、この曲において現代のヒップホップの禁忌に挑んだと言えるだろう。 

 

#7「ROY G. BIV」では、このプロデューサーらしいサイケデリックな性格と、ミニマルな要素が絡み合い、スタイリッシュなヒップホップが生み出された。短いシンセのスニペットを反復させ、それをなだらかなバックトラックとしてアウトプットし、そのビートの上をジェンキンスのフロウが軽やかに舞う。ダンス・ミュージックとラップの中間域を意識した楽曲であり、アルバムの中では最も聴きやすく、軽やかな感じの一曲として楽しむことができるはずだ。 

 

「Pasta」
 

 

 

#8「Pasta」は、先に紹介した「007」、「2004」と併せて今年度のヒップホップのベスト・トラックに挙げても違和感がない。従来の作品の中で最も過激なフロウをジェンキンスは披露している。ここでは、近年、溜め込んでいたフラストレーションが一気に解き放たれている。イントロでは、エミネムの時代からDefceeの時代に至るまでの新旧のラップから、現代のシカゴ・ドリルまでをシームレスに往来している。バック・トラックの金管楽器のサンプリングから、エレクトロのスニペットに至るまで、すべてが完璧だが、ジェンキンスの叫びに近い激情的なフロウは圧巻というよりほかない。これまで、繊細なものから、それとは逆の激しいものまで、感情の振れ幅の広いラップを探求して来たアーティストの渾身の一曲がここに誕生している。

 

最もエクストリームな瞬間を経たのち、いくらかマイルドなヒップホップへと移行していく。続く「Farm To Table」は、昨年、4ADからアルバムを発表したBartees Strangeと同名のタイトルで、それに因んだ曲だろうか? この曲ではジャズという局面を通し、スタイリッシュなラップで聞き手の耳をクールダウンさせる。オープナー「Michelin Star」と同様、ジェイムス・ブラウン風の叫びも、最早、アーティストのラップの主要なスタイルになりつつあるといえる。また、この曲は、アルバムの序盤の収録曲と同じく、中音域を揺らめく比較的落ち着いたフロウが最たる魅力となっている。コラボレーター、VIC MENSAのラップは、メロウな性格を及ぼしている。現代のラップとネオソウルのクロスオーバーという流行のスタイルを楽しめるはずだ。

 

アルバムの終盤に至っても、一貫して、これらの緊張感は途切れることがない。それどころか、「Guapanese」では、より深みのあるラップが繰り広げられ、「Pasta」、「2004」と並んで強固な印象を残す。ピアノの短いインプロバイゼーションをサンプリングとして処理し、それをジャズ風の曲調として昇華している。ジェンキンスは時おり悲哀を滲ませ、ハリのあるリリックを展開させる。突如、その中に生ずるブレイク(休符)は、心の中に生じた空虚な間隙のようだ。しかし、リリックの節々に漂う悲しみは渋さと深みを兼ね備え、胸にグッと迫って来る。

 

アウトロ「Mop」も圧巻というよりほかない。イントロから中盤まで、さらりとしたリリックが展開されるが、その後、悲哀に満ちた呟きが続いている。曲の最後では、ラップが徐々に途絶えていき、最後にジェンキンスの言葉がくっきりと浮かび上がり、その中に奇妙な余白を生じさせている。

 

この十年間、アーティストは、より良い作品を希求しながらも、大きな波がやって来るのを今か今かと待ちつづけてきた。いわば「忍耐」というのは、本作の制作期間を表するものではなく、この作品以前の10年を象徴するものであった。そして、その忍耐は、彼がアラバマでラップを始めた瞬間に始まった。それから彼は、ようやく答えに辿り着いた。3つのアルバムを経て、いよいよ機は熟した。ついに最高傑作『The Patience』が生み出されることになったのだ。

 

 

97/100

 

 

Mick Jenkinsの新作アルバム『The Patience』はRBC/BMGより発売中です。ストリーミング等はこちらより。



ジャミーラ・ウッズ(Jamila Woods)が、近日発売予定の3rdアルバム『Water Made Us』からセカンド・シングル「Boomerang」を発表しました。

 

リード・カット「Tiny Garden」(duenditaをフィーチャリング)に続くこの曲は、ジョーダン・フェルプスとヴィンセント・マーテルが監督したビデオ付き。以下よりチェックしてみましょう。


「この曲は、去年のロンドンのある日、Nao、GRADES、George Mooreと一緒に書いたんです。ナオと一緒に仕事をし、彼女のコラボレーターに会い、彼らの相乗効果を感じることができたのは素晴らしかったよ。この曲は、あなたの人生を通して、何度も繰り返し現れるような関係、あなたが誰かに抱く磁気的な愛着、そして "私たちはそうなるのか、ならないのか?"と考えることから来る興奮と不安について歌った曲なんです」


Jamila Woodsのニューアルバム『Water Made Us』は、10月13日にJajaguwarからリリース予定です。

 

「Boomerang」



Nonameは、イメージ主導の物語とキャッチーなフックを散りばめた器用なラップ・スタイルで知られる。彼女は社会政治を意識したラッパーに成長した。資本主義、反黒人主義、警察の残虐行為、帝国主義など、黒人に対する疎外が交差するあらゆるものを定期的に批判しています。
 
Nonameは特に、不公平を論じ、それに立ち向かう作品を読むことを会員に奨励するノナム・ブック・クラブを運営している。また、投獄されている人々のための読書プログラムも定期的に行っている。2021年、ノナムは『ローリング・ストーン』誌の取材に対し、ファクトリー・ベイビーと名付けた次のプロジェクトについて、より "過激で、より有益で、より解決志向 "なものになると語っている。

Nonameのアルバム『Sundial』は、コモン、ビリー・ウッズ、ジェイ・エレクトロニカ、エリン・アレン・ケイン、$ミルク・マネー、アヨニなどが参加している。


当初7月リリース予定だった『Sundial』は翌月に発売が見送られた。ファティマ・ニエマ・ワーナー出身のノナメがジェイ・エレクトロニカとエリン・アレン・ケインをフィーチャーしたリード・シングル「Balloons」のリリースを予告した数日後に延期が決定した。これは、批評家たちがエレクトロニカの反ユダヤ主義的見解の疑いで、ワーナーの決定に異議を唱えた後、ワーナーはツイッターでエレクトロニカを擁護し、Sundialを棚上げにすると脅した出来事に端を発している。


ワーナーは、削除されたツイートの中で、"y'all don't want the album.'' 別のツイートには、ああ、歌のファ・ショが出るんだ(笑)。アルバムはまた別の話だ。選択的暴挙はいいよ。とにかく、ヒップホップは素晴らしい場所にいるのだし、もうNonameのアルバムは必要ないだろう」と書かれていた。

 

さらに、一部のTwitterユーザーを "woke mob "のメンバーと呼び、ワーナーはこうツイートしていた。「ジェイを自分の曲に選んだことについて、多くの批評を目にした。彼の政治的、宗教的信条に同意できないのなら構わない。しかし、何百万人もの人々を絶滅させた責任者である彼をヒットラーと比較するのは、私にとっては乱暴なことだ。本当にそんなに深くはないだろう」

 


『Sudial』/ AWAL
 

 

見ての通り、アルバム・ジャケットについては強い主張性があるので、嫌悪感を覚える人も中にはいるかもしれません。とにかく、一部でセンセーショナルな議論を呼び起こしそうなアルバムです。2021年の段階で、新作自体の構想は明らかにされていたとのことですが、一ヶ月発売が繰り越しになっている。また、アルバムのアートワークは発売前に公表されておらず、先日、アーティスト自身がフェイスブックの公式アカウントでその全貌がようやく明らかとなった。


さて、Nonameは、シカゴのヒップホップシーンから出てきたアーティストであり、チャンス・ザ・ラッパーが評価したことで知られ、カニエ・ウェストに強い影響を受けている。また、同地のMick Jenkins、さらに、Sabaとの仕事をみる範囲では、シカゴのラップ・シーンと強いコネクションを持つ。


Faderのインタビューによると、Nonameと彼女が名乗るようになったのは、「ラベルに縛られたくない」という思いがあったから。「ラベルには興味がないし、服装にもあまり興味がない」という。また、Nonameはブランドの服を着ない。そして、自らの存在を規定する名前がないからこそ、イマジネーションが広がるともいう。さらに次のように彼女は語っている。「名がないからこそ、看護婦になる可能性もあるし、脚本家になる可能性もある」と。さらに彼女は続けている。「より実存的なレベルで、芸術やその他の存在の一つのカテゴリーに限定されることはありません」

 

もうひとつ、Nonameをより良く知る上で、抑えておきたい点は、彼女の音楽が文学に親和性があるということだろう。これは、City Slangのマッキンリー・ディクソンと共通するものがある。 Nonameはトム・モリソンのファンで、実際に曲の中に見られる歌詞は、ニーナ・シモンに触発されている。また、パトリシア・スミスという詩人も好きであるという。彼女の母親は、20年ほど書店を経営しており、彼女の母が父と出会ったのは、書店を通じてだった。実際、幼い頃のNonameは本を読むのがそれほど好きではなかったというが、高校生の時に人生が変わった。彼女はその時、こんなふうに思ったという。「なんてことだろう、文学こそ私の人生!!」と、その後、音楽活動と合わせて、詩の仕事もまた彼女の創作活動の背景の一つとなっている。

 

2021年にローリング・ストーン誌に対して解き明かされた新作アルバムの構想や計画をみると、過激なアルバムであるように感じる人もいるかもしれないが、実際は、トロピカルの雰囲気を織り交ぜた取っ付きやすいヒップホップ・アルバムとなっている。 アルバムの多くの収録曲は、イタロのバレアリックのようなリゾート地のパーティーで鳴り響くサマー・チルを基調にしたダンス・ミュージック、サザン・ヒップホップの系譜にあるトラップ、それから、ゴスペルのチョップ/サンプリングを交えた、センス抜群のラップ・ミュージックが展開されている。少なくとも、本作はモダンなヒップホップを期待して聴くアルバムではないかもしれませんが、他方、ヒップホップの普遍的なエンターテイメント性を提示しようとしているようにも感じられる。

 

 

#1「Black Mirror」は、ラウンジを基調にしたトロピカル・サウンドであり、なごやかでノルタルジックな雰囲気のイントロで始まる。それから、アーシーとも、オーガニックとも称される、Nonameのまろやかなスポークンワードが緩やかに展開されていく。それに加えて、おだやかなムードのコーラスが入ると、年代不明のディスコ・フロアへといざなわれるかのようでもある。

 

#2「Hold Me Down」 にて、ようやく本格的なスポークンワードが展開される。オープナーに続いてダブ・ステップに近い複雑なリズムを擁するトラップが繰り広げられるが、少しアイロニックかつシニカルなニュアンスをおり混ぜ、内省的なラップが繰り広げられている。イントロこそ単調な印象もあるリリックは、その後、コーラスが加わるや否や、ビートの上をまろやかなフロウが転がり始める。その上に、ゴスペルやアフロ・ジャズを想起させるメロウなフレーズが、甘い雰囲気を生み出し、アウトロのフェードアウトまで持続している。また、ドラムンベースやベースラインを基調にした変則的なリズムに加え、ソフト・ロック調の軽やかな雰囲気を織り交ぜながら、序盤の”トロピカル・ヒップホップ”としての基礎をしっかりと築き上げている。


 

#3「Balloons」は、ジェイ・エレクトロニカが参加したことで問題となったトラックですが、アルバムの中でも聴き逃がせない。Nilfer Yanyaに近いベースラインをバックにして、Nonameのスポークンワードは序盤よりも感覚的な鋭さと緊張感を増していく。独特なのは、絡みつくようなリリックの運びを介し、小節の後半に言葉の強拍を配置することにより、コアなグルーブ感を生み出している。そこに、チャールズ・ミンガスのウッド・ベースの演奏(モード奏法)を多分に意識したジャズのベースが加わると、Nu Jazzにも近い雰囲気を帯びる。サビの「Crack The Moon」というフレーズを介して、Nonameはフィーリングに直に訴えかけるようなフレーズを生み出している。これにイタロ・ディスコ風の甘い感じのコーラスが合わさり、リゾートな気分を盛り立てている。

 

 

 

 

 

#4「boomboom」でも同じく、英語の語感もしくは触感とも言うべき繊細でセンシティブなニュアンスが引き出されている。サザン・ソウルを根底に置く、いわば渋さのあるスモーキーなソウル・ミュージックが、トラップ寄りの現代的なビートやリズムと絡み、それに続いて最初期のモータウンのソウル・アーティストが行ったような言葉遊びにも似たフレーズが展開されていく。

 

トランペットの小刻みなスタッカートとレガートによる演奏は、この曲の性格をより楽しげに、和やかにしている。これはソウル、ジャズ、ラップという複数のコンテクストを介し、20世紀から次の世紀にかけてのブラック・カルチャーの音楽の潮流をシームレスに辿るかのようだ。


もちろん、モータウンをはじめとするサザン・ソウルのアーティスにとどまらず、20世紀の前半から中頃にかけて、男性のブルースマンも「boom」といったフレーズを介し、言葉遊びをリズミカルに取り入れたものだったが、Nonameもラップによる言語の実験性を介し、乗りやすいソウル・サウンドとして昇華している。そして、この曲がそれほど古臭くなからないのは、ビートの構成が巧みで、エレクトロに近いリズム・トラックとしてアウトプットされているから。

 

 

#5「potentially the Interlude」 もクールなトラックだ。ビンテージ・ファンクを下地にし、モダンなソウルとしてアウトプットしている。特に、ジャズではお馴染みの6/8のビートが反復されることで、うねるようなグルーブ感が生み出され、それらのビートの合間を縫うようにし、Nonameのスポークンワードがジャブさながらに打ち出され、最終的にはよりフロウに近づいていく。


曲の中盤では、Nonameのリリックは迫力を帯びはじめ、ドープとしかいいようがない刺激的な瞬間も到来する。リリックに充ちる緊張感は、「Nobody Answers」というフレーズの後に苛烈な雰囲気を帯び始める。



 

 


#6「namesake」も、チャールズ・ミンガスを彷彿とさせる重厚なベースラインでイントロが始まり、その後、動きのあるラップが展開される。この曲でも下地になっているのは古典的なジャズではあるが、その上で、エレクトロのリズム、サザン・ヒップホップの系譜にあるラップが繰り広げられる。


これらのアンビバレントなリリックは、Nonameの外側にある感覚と内側にある感覚のせめぎ合いが、こういったアブストラクトな表現として昇華されているのだろう。曲の中には大きな起伏こそないものの、前の曲と同様、コアなグルーブ感が打ち出されたトラックとして楽しめる。特に、アウトロにかけての主要なリズム・トラックからパーカッションをいきなり抜き去る瞬間がきわめて絶妙であり、前のめりのフロウとは対象的に、曲の後にメロウで落ち着いた余韻を残している。

 

続く、#7「beauty supply」では、メロウなファンク/ソウルが展開される。近年のネオ・ソウルがほとんどそうであるように、エレクトロの影響を反映させている。ついで、ラップとソウルの中間層にある、最もスモーキーな雰囲気が立ち込め始める。これらのソウルは、Nonameのリリックの節々と重なりながらセクシャルな雰囲気が生み出される。「beauty supply」は、前2作のアルバムにはあまりなかった要素であり、シンガーとしての進化が見える。ファンク色の強いベースライン、そして芳醇なホーン・セクションに支えられるようにし、これらの雰囲気は強調される。従来のアルバムにはあまりなかった艶やかさを前面に打ち出したトラックとなっている。

 

 

#8「toxic」を通じて、エレクトリック・ピアノにより、メロウなムードはさらに深みを増す。サンプリングのスポークンワードに応答するかたちで展開されるNonameのスポークンワードは、前衛的かつスタイリッシュである。ここにはシンガーの文学的かつ詩的な素質をうかがい知れる。


ここでもアルバムの序盤と同様、変則的なリズムを交えたモダンなトラップを意識したスポークンワードが繰り広げられる。しかし、Nonameのリリックのフレージングには爽やかな雰囲気があり、バックトラックと相まって、バレアリックに近い雰囲気を帯びる。言葉数は多いけれども、アルバムの中では、小休止のような意味合いのある安らいだ感じのトラックとなっている。

 

 

#9「Afro Futurism」は、フェラ・クティをはじめとする、アフリカの神秘思想に基づいて制作されたものと思われる。イントロのチョップ/サンプリング、及び、ブレイクビーツ的な処理は、デ・ラ・ソウルのノスタルジックなラップの源流を思い起こさせる。Nonameのスポークンワードには、アフロ・ジャズへのロマンチシズムがちらつき、ときにメロウで甘い雰囲気が生み出される瞬間もある。特に、他の曲に比べると、Nig○erの言葉を全面的に打ち出しながら、それらのルーツ的な何かを探し求めるかのようだ。しかし、バックトラックのメロウさに反し、相変わらずスラングを交え、スポークンワードを繰り出すNonameのフレーズは、始終淡々としている。

 

 

 

 

複数の著名なミュージシャンが参加した#10「gospel?」では、モダンなゴスペルの形が提示される。ゴスペルをチョップ/サンプリングとして消化し、その合間にメロウなソウルのフレーズを取り入れている。Nonameに対するBilly Woodsを筆頭とするラッパーのスポークンワードは、「対話型のゴスペル」とも称するべき、新たなスタイルが提示されている。このトラックには、新旧のブラック・カルチャーへの普遍的な愛着が余すところなく詰め込まれている。それは、ポリティカル・コネクトネスという固定概念をかるがると飛び越え、ついにはコモンセンスの意義すら塗り替えている。Nonameは、自らの音楽に関し、名やラベルを付与しないことで、措定や概念性から逃れる。なおかつ徹底して芸術表現を研ぎ澄まそうとしているのも見事だ。

 

アルバムのクローズ曲「oblivision」でも表現の自由性は保持されている。ファンクをベースにしたなごやかで甘いムードが覚めやらぬまま本作は終わってしまう。多少、シニカルな表現性が込められつつも、コラボレーターと協力してスムーズかつ勢いのあるラップを繰り広げている。これはおそらくファンへの配慮があってのことだ。Common、Ayoniのコーラスの参加は、楽曲の構成を簡素化し、省略化する効果を発揮している。ここには、飽くまでも「ポピュラー・ミュージックとしての親しみやすさにこだわりたかった」という制作者の意向も見え隠れする。

 

 

92/100

 

 

Nonameの新作アルバム『Sudial』はAWALより発売中です。ストリーミング等はこちらから。


 



カナダ出身のソングライター兼プロデューサー、Jeywoodこと、ジェレミー・ヘイウッド=スミス(Jeremy Heywood Smith)は、2022年のアルバム『Slingshot』(レビューはこちらから)のから1年後、新作EP『Grow On』を発表した。


『Grow On』は、ヘイウッド=スミスが2018年から2020年にかけて培ってきた音の遊び場を引き継いだもので、前作から「芸術的に何も置き去りにしない」ことを目指すと同時に、これからの創作の道筋に光を当てている。


EPのタイトルは、Slingshotのシングル「Thank You」の歌詞にもなっているが、ヘイウッド=スミスの亡き母親と、その母親が彼に言った「大人になって成長しなさい」というアドバイスにインスパイアされたものだ。

 

この助言は長年にわたり、特に2018年から2020年にかけては、母親の早すぎる死を含め、多くの人生の変化をもたらした時期であった。前に進むために振り返るという意味を込めたSlingshotが最終的にアルバム名に選ばれたものの、このフレーズが彼の頭から離れることはなかった。


オープニング・トラックの「Heavy Eyes」は明晰さについて歌った曲で、人生の道筋、心の明晰さ、精神の明晰さについて歌っている。

 

ヘイウッド=スミスは冒頭で、"I'm grown halfway there "と繰り返し唱えている。この曲についてヘイウッド=スミスは、この曲を書いたとき、すべてを把握し、自分の人生の方向性が明確になったと感じたと説明している。

 

それから数年後、彼はこの曲の歌詞を「実際に明晰さを手に入れたというよりも、明晰さを顕在化させたようなもの」だと考えている。それは、成長することの一部とは、自分がすでにいた場所を認識し感謝しながらも、まだ先があることを知る知恵を持つことだという認識だ。


サウンド的には、『Heavy Eyes』は5つの異なる曲が1つになったような、ある種のコントロールされたカオスのように感じられる場合がある。このコントロールされたカオスは、ジェレミーのプロデューサーとしての成長によって可能になった。このプロセスを通し、彼は音空間の創造に集中するようになり、リスナーを圧倒することなく「Heavy Eyes」のような大きなアイデアを軌道に乗せ、作曲家としてもプロデューサーとしても自分の耳をより心から信頼することを学んだ。


「Dirk Gently (Know Yourself)」は、ジェイ・ウッドの特徴的なサウンドに大きく傾倒したトラックだ。ヘイウッド=スミスは2020年に "Dirk Gently "の制作を開始し、最近、新鮮な耳でこの曲に戻り、新たに見つけた空間と構造の感覚を吹き込んだ。


『Heavy Eyes』と同様、『Dirk Gently』も確固たる確信のもとに書かれた。今、この曲がリリースされ、ウィニペグからモントリオールに移り住み、新たな旅に出る彼は、自分が何者なのか、そして未来に何が待ち受けているのか、ちょうど見定めているところだと感じている。

 

 「Dirk Gently (Know Yourself)」

 

「Thank You (OG Version)」は、ヘイウッド=スミスの亡き母を称えるために書かれたSlingshotのオリジナル・バージョンである。より静かで感情的なアプローチで作曲されている。この曲の作曲は、ジェレミーにとって画期的な瞬間で、感情的で傷つきやすい経験と正面から向き合うために初めてソングライティングを活用した。OGバージョンは、その意図を直接音に反映させている。

 

OGバージョンは、彼の母親の音楽的嗜好へのオマージュであると同時に、その意図を直接音に反映させている。アル・グリーン(Al Green)への言及とともに、この曲にモータウンの感覚を吹き込むことが目的だった。この曲は、ジェイウッドが育った音楽を思い出させる黒人教会ゴスペルの文化に触れている。

 

「Thank You」は、後にSlingshotとなる楽曲をコンパイルし始めたジェレミーが、初めて他の人に聞かせた曲でもある。ヘイウッド=スミスは、このオリジナル・ヴァージョンを共有することで、「一周したような、文字通りスリングショットのような瞬間だ」と語っている。


EPの最後を飾るのは、ヘイウッド=スミスが長年影響を受けてきたタイラー・ザ・クリエイターの「SWEET」のカバーだ。

 

ある意味、彼は、タイラーのキャリアと自身のアーティスティックな旅の間に並行するものを見ている。2021年に『CALL ME IF YOU GET LOST』が発売されたとき、ジェレミーはレコードを最初から最後まで聴いた。音楽を仕事にすることが単なる夢だった高校時代に、オッド・フューチャーの最初のテープを聴いたことを思い出したのだ。早いもので、ジェイウッドはEPを2枚、アルバムを2枚リリースし、次のフルレングス・リリースに向けて精力的に活動している。

 

©Maya Hayuk


デンジャー・マウスとジェミニ{Danger Mouth&Jemini)が、2004年のコラボレーション・アルバム『Born Again』をついにリリースする。

 

2003年と2004年にレコーディングされたこのアルバムは、8月25日にレックス・レコードからリリースされる。新作アルバムのリード・シングル「Brooklyn Basquiat」の試聴は以下から。


 

 

デンジャー・マウスとジェミニのデビュー・アルバム『Ghetto Pop Life』は2003年にリリースされた。プレス・リリースによると、『Born Again』は "より内省的で告白的なトーン "になっているという。


昨年、デンジャー・マウスはブラック・ソートとのコラボレーション・アルバム『Cheat Codes』をリリースした。

 


Danger Mouth & Jemini 『Born Again』

 

Tracklist:

 
1. All I


2. Locked Up


3. Me


4. Knuckle Sandwich II


5. Born Again


6. Brooklyn Basquiat


7. Walk the Walk


8. Where You From


9. Dear Poppa


10. World Music



ビリー・ウッドとエルーシッドからなるラップ・デュオ、Armand Hammer(アーマンド・ハマー)が、ピンク・シーフとの新曲「Trauma Mic」のビデオを公開しました。DJ Haramがプロデュースしたこの曲は、9月29日にFat Possumからリリースされる『We Buy Diabetic Test Strips』からの先行シングル。

 

この曲は、「アブストラクト・ヒップホップの先鋒」とも称するべき、前衛的なトラックだ。インダストリアルの実験性とラップを劇的に融合させている。

 

また、Armand Hammerはヨーロッパと北米でのこのプロジェクトの秋のツアー日程も発表している。ヘンリー・ネルソンとティム・ブレイク・ネルソンが監督した「Trauma Mic」のビデオは以下をチェック。


『We Buy Diabetes Test Strips』は、ポストカード、フライヤー、電話番号からアルバムのプリセーブや詳細が分かるというユニークな内容だ。


このアルバムには、ジャングルプッシー、ソウル・グロのピアース・ジョーダン、カーリー・カストロ、キャバリアー、ムーア・マザーがゲスト参加している。アルバムには生楽器(コメット・イズ・カミングのシャバカ・ハッチングスのフルートを含む)とJPEGMAFIA、EL-P、ケニー・シーガル、ブラック・ノイ$e、プリザベーション、オーガスト・ファノン、スティール・ティップド・ダヴ、チャイルド・アクター、セッブ・バッシュのプロデュースが参加している。


エルーシッドは、ニューアルバム『We Buy Diabetes Test Strips』のレコーディング過程について声明を発表した。


「スタジオで初めて会った才能あるプレイヤーたちが、あらかじめ録音されたビートに合わせてジャムり、新しい方向へと分裂していくんだ。同じ部屋にいて、4人がお互いの音の世界をいじくりまわしているのを静かに見ていて、最終的に確かなグルーヴにロックインするのは、私にとって明確で明白な魔法のような瞬間だったよ」


アーマンド・ハマーの最後のアルバムは、2021年のアルケミストとのコラボ作『Haram』だった。ビリー・ウッドは今年初め、ケニー・シーガルとニューアルバム『Maps』をリリースして話題を呼んだ。またこの際には、イギリスの音楽メディア、DIYのカバーアートを飾っています。


 

 

 

Armand Hammer 『We Buy Diabetes Test Strips』

 

Tracklist:


A1: Landlines
A2: Woke Up And Asked Siri How I'm Gonna Die
A3: The Flexible Unreliability of Time and Memory
A4: When It Doesn't Start With A Kiss
B1: I Keep A Mirror In My Pocket
B2: Trauma Mic
B3: Niggardly (Blocked Call)
B4: The God's Must Be Crazy
B5: Y'all Can't Stand Right Here
C1: Total Recall
C2: Empire Blvd
C3: Don't Lose Your Job
D1: Supermooned
D2: Switchboard
D3: The Key Is Under The Mat

 

©Loraine James

Loraine James(ロレイン・ジェイムス)は、リード・シングル「2003」でニュー・アルバム『Gentle Confrontation』を発表した。今日、プロデューサーは、ラップ・グループ、Injury Reserveのメンバーの一人であるRiTchieとのコラボ曲 「Déjà Vu」を発表した。

 

Injury Reserveは、2020年にStepa J. Groggsが亡くなった後、By Storm名義で活動を続けることを発表したばかりだ。『Gentle Confrontation』はHyper Dubから9月8日に発売予定。

 

「Déjà Vu」

©︎ Rovenant Earth


JPEGMAFIAとDanny Brownがコラボレーション・アルバム『SCARING THE HOES』を拡張し、「DLC PACK」と名付けた4曲入りの特別版のEPをリリースした。この作品はビデオゲームからヒントを得て制作された。現在、アップル・ミュージックまたはスポティファイ、バンドキャンプでストリーミング出来る。各種ストリーミング/EPのご購入はこちらからどうぞ。


Youtube版も公開されていますが、年齢制限が設けられているため、18才未満はご視聴をお控え下さい。ご視聴はYoutubeの下記の公式リンクより。


オリジナル・アルバム同様、『SCARING THE HOES: DLC PackはJPEGMAFIAによって制作された。

 

オープニング・トラックの 「Guess What Bitch, We Back Hoe!」はアップテンポでクラブ・テイストのプロダクションだ。「Hermanos 」はデュオのシャープなフロウとは対照的なゴージャスなヴォーカル・サンプル。「Tell Me Where to Go」はソウル・フリップを取り入れた驚くほどレイドバックした曲。エンディング曲「No! ー」では、壮大なクワイア・サンプルが、"Bitch, I ain't Baby Keem, My cousin ain't gave me shit "のようなJPEGMAFIAの小粋なパンチラインと見事に合致している。曲を締めくくるため、ブラウンは率直な話し言葉のアウトで、"囚われの身のような気分で、逃げ出したい/晴れの日は憂鬱だから、雨の日を祈る "と自らの繊細さを告白している。

 

 

©Bryan Lamb

シカゴのラッパー、Mick Jenkins(ミック・ジェンキンス)がニューアルバム「The Patience」を8月18日にリリースすると発表しました。後日、掲載した特集記事、Weekly Music Featureもあわせてご覧ください。

 

ミック・ジェンキンスはシカゴのオープンマイクシーンとも関わりを持つ。2021年に発表したアルバム「Elephant In The Room」は当サイトの2021年のベスト・アルバムに選出されている。ラップには一家言を持つイギリスの音楽メディア、CLASH誌は、ミック・ジェンキンスを高く評価し、レビュアーであるニール・スミスさんは次のように絶賛している。「ミック・ジェンキンスは、ニュアンスと重層的なサブテキストの達人だ。アルバムは、ヴィンテージ・ソウル・レコードの基礎と、リリックに長けたアルト・ヒップホップ・アルバムにしか見られない、悲痛で残酷な正直さを融合させている」前作はジェンキンスが家族との記憶に焦点を当て、彼の命題であるビンテージ・ソウルとモダン・ラップの融合に音楽的な根幹が置かれていた。

 

さて、8月発売のニューアルバム『The Patience』の最初のニュー・シングル「Smoke Break-Dance」はアトランタのラッパー、JIDが参加している注目作。「Smoke Break-Dance」はマリファナへのラブソングで、ジェンキンスはシンコペーションのビートに乗せて、マリファナを愛用し、それがいかに良い気分をもたらすかを表現している。「ほんのちょっとのマリファナで、彼は深みにはまっていくことはない」とJIDはヴァースで付け加えている。ミュージックビデオはアンドレ・ミューアが監督を務めた。こちらも下記よりご覧下さい。

 

Mick Jenkins(ミック・ジェンキンス)は、この新作アルバムについて、次のように説明している。「私は、自分の状況を変えるため、自分の力の及ぶ範囲内であらゆることをする人間なんだ。 ある程度の一貫性があれば、その行動は必然的に待たなければならないポイントにたどり着く場合もあるんだ。それで、 自分を前進させるために必要なことが、もはや自分の手には負えない時点であることさえある。 筋肉が断裂し、修復され、芸術的な意図とは無縁の瞬間に、そのコンセプトをはっきり理解する。 私が忍耐に対し最も苛立ちを覚えるのは、このような瞬間なんだ」

 

 


ジェイムス・ブレイクは、2021年の『Friends That Break Your Heart』に続く作品を発表した。タイトルは『Playing Robots Into Heaven』で、Republicから9月8日にリリースされる。

 

プレスリリースによると、この新譜はジェームスが自身の実験的なエレクトロニック・ミュージックのルーツに立ち返った作品だという。本日発表されたリード・シングル「Big Hammer」と合わせてオスカー・ハドソンが監督したビデオも公開されている。


ブレイクは最近、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』のサウンドトラックでメトロ・ブーミンとタッグを組んだ。また、キラー・マイクのアンドレ3000とフューチャーのコラボ曲「Scientists & Engineers」も共同プロデュースしている。


「Big Hammer」


James Blakeは8月16日に単独来日公演を大阪で行います。公演はZepp Osaka Baysideにて開催されます。詳細はクリエイティヴマン公式サイトよりご確認下さい。

 

 

James Blake 『
Playing Robots Into Heaven』


Label: Republic
Release: 2023/9/8
 
Tracklist:
 
1. Asking to Break

2. Loading

3. Tell Me

4. Fall Back

5. He’s Been Wonderful

6. Big Hammer

7. I Want You to Know

8. Night Sky

9. Fire the Editor

10. If You Can Hear Me

11. Playing Robots Into Heaven


 

©︎Jesse Crankston

ロンドンのシンガーソングライター、サンファが6年以上ぶりとなるソロ・シングルをリリースした。「Spirit 2.0」は、Yussef Dayes、El Guincho、Owen Palletが参加し、YaejiとIbeyiのLisa-Kaindé Diazがヴォーカルをとっている。


「この曲は、自分自身と他者とのつながりの大切さ、そしてただ存在することの美しさと厳しい現実について歌っている」とサンファはプレスリリースで語っている。「助けを必要とする瞬間、それは本当の強さを必要とする。たとえその人が答えを持っていなくても、誰かがそばにいてくれるような感覚を楽しんでほしい。考えすぎずに誰かを呼び出すこと......手放しでただ踊ること......物事の平凡さを通り越して、鳥の巣から宇宙船まで、すべての魔法に感謝したいんだ」


サンファのデビュー・アルバム『Process』は2017年にリリースされた。Spirit 2.0」は、ケンドリック・ラマーの『Mr.Morale & The Big Steppers』(「Father Time」)、SBTRKTの『The Rat Road』(「L.F.O.」)、ストームジーの『This Is What I Mean』(「Sampha's Plea」)に続く作品だ。


ングルのリリースなどの活動予定。 

 

米国、カリフォルニア州・クパチーノ出身のラッパー/プロデューサーのJoe Cupertinoが新曲『IMM』を本日6/28にリリースします。


4ヶ月連続シングルリリースの第四弾である本楽曲は、Joe Cupertinoが前半部分のトラックのプロデュースを務め、後半部分はT-Razorによるものである。独創的で突発的なJoe Cupertinoの代名詞ともいえるビートスイッチも今作ではより自然で流動的に行われています。

 

普段のJoe Cupertinoの楽曲とはひと味違う、ダークでグルーミーなビートと詩で展開される本楽曲は、後半部分になるとどこか酩酊状態を彷彿とさせるビートに変わる。正気とそうじゃない状態を音楽を通して行き来できる様な楽曲になっている。




 

シングルのアートワークはJoe Cupertinoが以前より交流があるイギリス人アーティストのkingcon2k11(過去に、Hudson Mohawke{ハドソン・モホーク、Toro y Moi{トロイ・モア)などの作品を手がけている)、オーストラリア人アーティストのShell Lucky OceanとCUPETOWNメンバーであるShotaro Shinozakiが合作したものである。今後は4ヶ月に及ぶ連続シングルのリリースを予定しています。

 

 

Joe Cupertino 「IMM」 New Single

 

Label:  Decide Today Regret Tomorrow

Release: 2023/6/28


Tracklist:

1.IMM


Download/Streaming:

 

https://linkco.re/SrARUx6f

 

 



『Sad Clown Bad Dub』シリーズは、シカゴのアンダーグラウンド・ヒップホップ・デュオ、Atmosphereがツアー中に限定販売するカセットテープとCD-Rのシリーズとして始まった。

 

このプロジェクトは、1999年の開始以来、は、レアな4トラック・デモ、ライヴ・レコーディング、ツアーの舞台裏を収めたDVD、ミックス・テープ、7インチ・ヴァイナル・シングルなど、数多くのフォーマットで十数回に渡って繰り返されてきた。今日に至るまで、初期の作品のひとつである『Sad Clown Bad Dub 2』は、このシリーズで最も有名で、垂涎の的となっている。


2000年にリリースされた『Sad Clown Bad Dub 2』は、手書きのトラックリストとライナーノーツが書かれたイラスト入りジャケットの後ろにCDが収められたシンプルなDIYリリースだった。レコーディングも同様にラフで、ミキシングもマスタリングもされていない生の4トラック・デモが12曲収録されている。アトモスフィアは、当初、小遣い稼ぎのために500枚しかCDを制作しなかったが、その話題性とファンからの要望により、最終的にCDの追加プレスに踏み切り、今度はジャケット・アートに「Authorized Bootleg(公認ブートレグ)」というフレーズを刻印した。『Sad Clown Bad Dub 2』の未完成さは、その内容の魅力を妨げるものではなかった。


一般的に、ヒップホップ界では、アンダーグラウンドの名作とされている『Sad Clown Bad Dub 2』は、アトモスフィアの広範なディスコグラフィーの中でも傑出したリリースのひとつとして語られることが多い。

 

この作品は、複雑な思考と感情を探求する内省的なプロジェクトであり、時折ユーモラスな皮肉とウィットに満ちた場面もある。

 

スラッグの文章は鋭く洞察力に富んでおり、個人的な苦悩をリスナーが共感できる普遍的なテーマに変えるコツを心得ている。他方、アントのプロダクションは、ミニマルでムーディー、さらには折衷的で、雰囲気のあるテクスチャーと型破りなリズムに満ちている。このリリースは、ヒップホップ界で最も革新的で境界を押し広げるアーティストとしての評判を確立するのに貢献し、彼ら独自のユニークなサウンドを共に発展させる初期の足がかりの1つとなる。


アルバムは8月4日にRhythmesayersより発売されます。最初のテースターとなる「Body Pillow」が公開されています。

 

Atmosphereは今年、同レーベルより新作アルバム『So Many Other Realities Exist Simultaneously』を発表しました。


 

「Bad Pillow」



Atmosphere  『Sad Clown Bad Dub 2』

 


Tracklist:

 

  1. Sad Clown
  2. Body Pillow
  3. The Pill
  4. Running With Scissors
  5. Fashion Magazine
  6. The Wind
  7. Hungry Fuck
  8. Hells Playground
  9. The Ocean
  10. When It Breaks
  11. Inside Outsider
  12. The River

 


ストームジーは、イギリス/ウェストロンドン出身のラッパー、Fredo(フレド)をフィーチャーし、デイヴことサンタンをプロデュースに迎えた新曲「Toxic Trait」を発表した。昨年12月に3作連続で1位を獲得したアルバム『This Is What I Mean』に続くニューシングルで、UKドリルの新機軸を示している。


このシングルには、イギリス人ディレクター、フェミ・ラディが監督したビデオが付属しており、社会的な有害特性を探求している。ビデオでは、ギャンブル、暴力、贅沢なライフスタイルへの賛美など、様々な架空のシナリオが描かれている。ムハメッド・アリの1968年のエスクァイア誌の表紙やケヒンデ・ワイリーが描いた絵画「A Ship Of Fools」など、文化的な引用も含まれている。ビデオには、フレドとアリソン・ハモンドのセラピー・シーンがあり、最後はイヴォリアン・ドール、ウレッチ32、スペックス・ゴンザレスが登場するグループ・セッションで締めくくられる。入れ替わり立ち替わりに披露されるリリックのスタイルにも着目したい。


監督のフェミ・ラディはこのミュージックビデオについて、「歌詞を聴いた後、このビデオで楽しみたいと思った。ルネッサンス風の絵画に命を吹き込むというアイディアが気に入ったんだ。このビデオの大部分は、ロンドンで撮影された。高速のシネマ・ロボット・カメラで撮影され、水平方向にも垂直方向にも毎秒2メートルのスピードで動くことができる」と説明している。


昨年には、音楽業界における多様性についての考えを述べたストームジーは、今年に入っても活発な意見を共有している。最近のDazed Magazineのインタビューで、ストームジーは音楽業界における自分の成長を振り返り、「22歳で音楽をやるのと、30歳になろうとしているのとでは違いがある。それは、成熟することでしか得られない平穏と安定と静けさなんだ」と語った。


「Toxic Trait」

 Killer Mike -『MICHAEL』

 



Label: Loma Vista 

Release: 2023/6/16


Review


アトランタのラッパー、ラン・ザ・ジュエルズとしても活動する、キラー・マイクは今回のアルバムに最も自信を示しており、また黒人のラップミュージックに対する誤解を解こうと努め、家族との関係から、亡き母親への言及など、彼の広範な人生、そしてブラックネスへの関わりなど多角的な考えが取り入れられたアルバムである。

 

しかし、ヤング・サグの同年代のラップアーティストたちがRICOの罪で起訴されていることを見るに見かねた形で、キラー・マイクはラップ・ミュージックそのものが裁判の証拠として提出されることに危懼を覚え、ブラック・カルチャーの信を問う形で、彼なりの主張をこのアルバムの音楽の中に織り交ぜている。裁判の証拠として、ラップの音源が提出されることに対してキラー・マイクはある種の哀しみすら覚えていたことは想像に難くない。確かに、ギャングスタ・ラップの先鋭化や、ラップグループの間での闘争も過去にはあるにはあったが、すべてがそういった暴力的な思想に裏打ちされたものから、この音楽が生み出されるわけではないはずだ。グッド・モーニング・アメリカのインタビューでは、「ヒップホップが芸術として尊重されないのは、この国の黒人が完全な人間として認識されていないから」とさえ述べている。「裁判所が彼らの作ったキャラクターや、彼らが韻を踏んで語る見せかけのストーリーに基づいて彼らを起訴することを許したら、次はあなたの家に彼らがやってくるでしょう」というのは、ラップミュージックに対する一般的な偏見が多いことを彼が嘆いてやまぬことの証なのだ。そこで、今一度、彼は過激な音楽としてみなされがちなラップ・ミュージックの本質を誰よりもよく知る人間として、本来は恐ろしいものではないことをこの最新作で示そうとしているように思える。彼はラップ・ミュージックに対する偏見を今作を通じて打ち砕こうというのだ。

 

これまで一般のラップファンほどには、キラー・マイクの音楽をじっくりと聴いてこなかったのは確かなので、見当違いなレビューにもなるかもしれないと断っておきたい。しかし少なくとも、『Michael』には、現代のトラップやドリルを中心に、DJスクラッチの技法や、レゲエ、レゲトンの影響を織り交ぜた軽快なトラックが強い印象を放っている。法意識に対する思いを込めたオープニング「Down By Law」は、ドリルのリズムを元にして、キラー・マイクのマイク・パフォーマンスが徐々に流れを作っていく曲で、コラボレーターのCeelo Greenの参加はR&Bに近い雰囲気を、このトラック全体に与えている。渋いラップではあるけれど、どっしりとした重厚感すら持ち合わせたナンバーで、このアルバムは少しずつ、言葉の流れを作り始める。

 

一転して、ピアノとスポークンワードを交え、昔の映画のワンシーンのような雰囲気で始まる二曲目の「Shed Tears」は、マイクが家族としていかに自分が不十分であるかを歌っている。ゴスペル風のイントロから軽快なキラー・マイクらしい巧緻なリリック捌きへと繋がっていくが、彼のラッパーとしての潤沢な経験の蓄積は、トラップを基調としたリズムの展開や、わずかに漂う教会のゴスペルミュージックへの親和など、様々な形をとって現れる。ここには、アーティストのラップへの愛情に始まって、その次にはブラックミュージック全体への親しみという形に落ち着く。Mozzyのゲスト参加はキラー・マイクの楽曲に華やかさとゴージャスさを加味している。


キラー・マイクのブラック・カルチャーにとどまらない普遍的な愛は、その後、より深みを増していく。先行シングルとして公開された印象的なオルガンのイントロで始まる「RUN」は、このアルバムのハイライトとも言える。この曲ではおそらく、昨今の政治的な関心における賛否両論を巻き起こすため、デイブ・シャペルのモノローグが導入され、トランスフォビアへの際どいジョークが織り交ぜられている。キラー・マイクは、ビンテージ・ファンクに近い、渋さのあるベースラインにリリックを展開する。そして、ファンクの要素は、コラボレーターのヤング・サグの参加により、中盤から後半にかけて、レゲトンとチルアウトを融合させたような展開に緩やかに変遷していく。考えようによっては、ベテラン・プロデューサーのトレンドのラップへの感度の高さを表しており、モダンなラップへの親しみを表したような一曲といえるだろうか。続く「NRICH」も鮮烈な印象を残す曲で、ブラックネスの最深部に迫ろうとしている。面白いのは、キラー・マイクのラップに対し、6Lack、Eryn Allen Kaneの重厚感のあるコーラスは、曲全体にバリエーションをもたらし、レゲエに近い楽曲へと徐々に変貌させていく。ある意味では、オールドスクールのヒップホップに近いコアなアプローチを感じさせる一曲だ。

 

その後も、ドリルのトレンドを忠実になぞられた「Takin' That Shit」の後に続いて、ソウル/ゴスペルの影響を込めた「Slummer」では、このアーティストを単なるラップミュージシャンと捉えているリスナーに意外性を与えるだろうと思われる。キラー・マイクは、この曲を通じて、ラップ芸術がどうあるべきかという見本を示すとともに、この音楽の通底には、憎しみではなく、普遍的な愛情が流れていることを示そうとしている。それはもちろん教会の音楽として登場したゴスペル、その後のソウルや、80年代のディスコで示されて来たように、一部の信奉者のために開かれたものではなく、ストリートや大衆へ、富む人から貧しい人まで、その感覚を広めていくため、これらのブラック・ミュージックの系譜は存在していたのだ。キラー・マイクはそのことを踏まえ、今一度、ストリートへの芸術の本義を、この楽曲を通じて問おうというのだろうか。特に、ジェイムス・ブラウンやオーティス・レディングといった旧来のソウル/ファンクへの、このラップ・アーティストの愛着と敬意がこの曲にはしめされているように思える。

 

キラー・マイクのブラック・ミュージックへの愛情は、アルバムの最終シングルとして発表された「Scientist &Engineers」に表されており、イントロはゴスペルというよりワールド・ミュージックに近い雄大な気配に充ち溢れている。中盤にかけてのリリックは現代のラップの理想形、及び、完成形が示される。この曲でも、キラー・マイクは巧みな展開力を見せ、導入部のあとのドリル・ミュージックを経た終盤にかけては、イントロのゴスペルやワールドミュージックのフレーズを再度呼び覚まし、華麗なエンディングへと導く。Jay-Zによる「このアルバムを聴いたとき、昔、叔母の家で見ていた映画を思い出した」という発言は、アルバムの序盤の映画のワンシーンのようなサウンドスケープが導入されていることもあるが、この曲に見られるような、創造性の高い展開力が、彼にそのような感想を抱かせることになった要因かと思う。優れた音楽というのは、喚起力を持ち合わせており、必ずといっていいほど、何らかの映像を聞き手の脳裏に呼び覚ます。時にはレコーディングの光景すら思い浮かばせる場合もあるのだ。

 

中盤の収録曲については割愛するが、アルバムの中でキラー・マイクが強い思いを込めたのが「Motherless」である。レビューの冒頭でも述べたように、亡き母への追悼の意味を持つ作品ではあるが、彼のリリックは、哀しみではなく、勇ましさやシンプルな愛着によって支えられている。「Motherless」のなかで、キラー・マイクは次のように歌っている。「ママが死んだ。おばあちゃんが死んだ。正直、めちゃくちゃ落ち込み、怖くなった」このトラックでは、ラップ・アーティストの切なる思いがものすごくシンプルに表現されているがゆえ、胸を打つものがある。


「母の話をするとき」と、キラー・マイクは述べている。「彼女は美しく豊かなアウトローのような人生を送り、私は彼女を”美しいワル”としてみんなに紹介できることを、光栄に思っています。しかしながら」と、キラー・マイクは言った。「これは悲しいビデオや弔辞を意味するものではありません。アトランタのウエストサイドに住む、バッド・アス・ブラック・ガールを祝福したいのです。彼女は、”OGママ・ニーシー”と呼ばれ、多くの人々に親しまれていたのだから」彼はまた、「実際にレコーディング・ブースに入った時、ただ泣き始めた」と語るが、それこそラップ・ミュージックの崇高な瞬間を表していると思う。ミュージック・ビデオで見ることが出来る、厳しい眼差しの奥にある慈しみ・・・。キラー・マイクはおそらく、その涙の後、何か温かい思い出とともに、亡き母を始めとする家族への追悼を捧げようとしたのだった。

 

 

86/100

 

Featured Track 「Motherless」