2010年代のシンセポップ/エレクトロニックポップのミュージック・シーンの席巻から10年を経て、いよいよポップスのクロスオーバーやジャンルレス化が顕著になってきています。


その中で台頭したのが、ベッドルーム・ポップに続いて、ハイパー・ポップ、エクスペリメンタル・ポップという、ワイアードなジャンルです。これらのシーン/ウェイブに属するアーティストは、エレクトロニック、ヒップホップ、メタル、ネオソウル、パンク、コンテンポラリー・クラシカル、ゲーム音楽、それから無数のサブジャンルに至るまですべてを吸収し、それらをモダンなポピュラーミュージックとして昇華させています。2010年代以前のポピュラー音楽と2020年代以降のハイパーポップ/エクスペリメンタルポップの音楽の何が異なるのかについて言及すると、以前は耳障りの良い曲の構成やメロディーを擁するのがポピュラーとしての定義であったが、2020年代以後は必ずしもそうとは言いきれません。ときには、ノイズやアヴァンギャルドミュージックを取り入れ、かなりマニアックな音楽性を選ぶこともあるようです。


特に若い世代にかけて、さらにいえば、流行やファッション性、あるいはデジタルカルチャーに敏感な10代、20代のアーティストにこの傾向が多く見られます。若い年代において広範な音楽的な蓄積を積み重ねることはほとんど不可能であるように思えますが、ご存知の通り、サブスクリプションやストリーミング・サービスの一般的な普及により、リスナーは無数の音楽に以前より簡単にアクセス出来るようになり、それと同時に、自分の好みの音楽を瞬時にアクセス出来るようになったこと(かつての書庫のように膨大な数のレコードのラックを血眼になって探し回る必要はなくなった)、SoundcloudやYoutube、あるいは、TikTokで自らの制作した音楽を気軽にアップロード出来るようになったこと、次いで、それらのアップロード曲に関するリスナーのリアクションが可視化出来るようになったことが非常に大きいように推測されます。


これは、デビュー作をリリースしたばかりのイギリスのシンガー、Pinkpantheressも話している通りで、自分の音楽が大衆にどれくらい受け入れられるのかを推し量る「リトマス試験紙」のようになっています。つまり、こういった手段を取ることにより、ポピュラリティーと自らのマニア性のズレを見誤ることが少なくなった。つまり、多数のリスナーがどういった音楽を必要としているのか、音楽市場の需要がアーティストにも手に取るように分かるようになったのです。もちろん、あえてそのことを熟知した上で、スノビズムを押し出す場合があるにしても……。

 

そんな中、2023年は女性、あるいはこのジャンルに象徴づけられるノンバイナリーを自称するシンガーソングライターを中心に、これらのハイパーポップのリリースが盛んでした。特にハイパーポップ/エクスペリメンタルポップに属するアーティストに多く見受けられたのが、自らの独自のサブカルチャー性や嗜好性を、それらのポピュラリティーの中に取り入れるというスタイルです。音楽的に言及すれば、メタルのサブジャンルや、エレクトロニックのグリッチを普通に吸収したポップサウンドを提示するようになってきています。これはUKラップなどで普通にグリッチを取り入れることが一般的になっているのと同じように、ポピュラー・ミュージックシーンにもそれらのウェイブが普及しつつあるという動向を捉えることが出来るでしょう。

 

2023年以降のポピュラー・ミュージックシーン、特に、ハイパーポップというジャンルを見る限りでは、それらの中にどういった独自性を付け加えるのかが今後のこのジャンルの命運を分けるように思われる。


特に今年活躍が目立ったのはアジアにルーツを持つ女性、あるいはノンバイナリーのアーティストだ。必ずしも耳の肥えたリスナー、百戦錬磨のメディア関係者ですら、これらのジャンルの内奥まで理解しているとは言い難いかもしれませんが、少なくともこのジャンルの巻き起こすニューウェイブは、来年移行のミュージックシーンでも強い存在感を示し続けるに違いありません。

 

今年、登場した注目のハイパーポップ/エクスペリメンタルポップアーティスト、及びその作品を以下にご紹介していきます。

 

 

 

 

・シンガポール出身のハイパーポップの新星 Yeule  ーグリッチサウンドとサブカルチャーの融合ー

 

 

Pitchfork Musiic Festivalにも出演経験のあるYeuleは、シンガポール出身のシンガーソングライターであり、現在はLAを拠点に活動している。イエールは、日本のサブカルチャーに強い触発を受けている。

 

エヴァンゲリオンなどの映像作品の影響、次いで沢尻エリカなどのタレントからの影響と日本のカルチャーに親和性を持っている。加えて、Discordなどのソーシャルメディアの動きを敏感に捉え、自らの活動を、インターネットとリアルな空間を結びつけるための媒体と位置づける。

 

今年、Ninja Tuneから三作目のアルバム『softcars』を発表し、海外のメディアから高い評価を受けた。ベッドルームポップを基調としたドリーム・ポップ/シューゲイズの甘美なメロディー、そしてボーカルに加え、チップチューン、グリッチを擁するエレクトロニックを加えたサウンドが特徴となっている。もちろん、その音楽性の中にアジアのエキゾチズムを捉えることも難しくない。

 

 

「Softcar」ー『Softcar』に収録

 

 

 

 

・mui zyu  ー香港系イギリス人シンガーのもたらす摩訶不思議なエクスペリメンタル・ポップー

 

 



香港にルーツを持つイギリスのシンガー、mui zyuは他の移民と同じように、当初、自らの中国のルーツに違和感を覚え、それを恥ずかしいものとさえ捉えていた。ところが、ミュージシャンとしての道を歩み始めると、それらのルーツはむしろ誇るべきものと変化し、また音楽的な興味の源泉ともなったのだった。今年、Mui ZyuはFather/Daughterと契約を交わし、記念すべきアーティストのデビューフルレングス『Rotten Bun For An Eggless Century』(Reviewを読む)を発表した。

 

ファースト・アルバムを通じ、mui zyuは、パンデミック下のアジア人差別を始めとする社会的な問題にスポットライトを当て、台湾の古い時代の歌謡曲、ゲーム音楽に強い触発を受け、SFと幻想性を織り交ぜたシンセ・ポップを展開させている。他にもアーティストは、中国の古来の楽器、古箏、二胡の演奏をレコーディングの中に導入し、摩訶不思議な世界観を確立している。

 

 

「Hotel Mini Soap」ー『Rotten Bun For An Eggless Century』に収録

 

 

 

 

・Miss Grit   ーデジタル化、サイボーグ化する現代社会におけるヒューマニティーの探求ー

 



デジタル管理社会に順応出来る人々もいれば、それとは対象的に、その動きになんらかの違和感を覚える人もいる。ニューヨークを拠点に活動する韓国系アメリカ人ミュージシャン、マーガレット・ソーンは後者に属し、サイボーグ化しつつある人類、その流れの中でうごめくヒューマニティーをアーティストが得意とするシンセポップ、アートポップの領域で表現しようと試みている。


デビューアルバム『Follow the Cyborg』(Reviewを読む)をMuteから発表。『Follow the Cyborg』でソーンは、機械が、その無力な起源から自覚と解放へと向かう過程を追求している。この作品は、エレクトロニックな実験と刺激的なエレキギターが織り成す音の世界を表現している。ピッチフォークが評したように、「ミス・グリットは、彼女の曲を整然とした予測可能な形に詰め込むことを拒み、その代わりに、のびのびと裂けるように聴かせる」


ミス・グリッツがサイボーグの人生についてのアルバムを構想するきっかけとなったのは、このような機械的な存在のあり方に対する自身の関わりからきている。混血、ノンバイナリーであるソーンは、外界から押しつけられるアイデンティティの限界を頑なに拒否し、流動的で複雑な自己理解を受け入れてきた。ローリング・ストーン誌に「独創的で鋭いシンガー・ソングライター」と賞賛されたMiss Gritのプロセスは内省的で、ビジョンは正確である。ミス・グリッドは、サイボーグの人生を探求する中で、『her 世界でひとつの彼女』、『エクス・マキナ』、『攻殻機動隊』、ジア・トレンティーノのエッセイ(『Trick Mirror: Reflections on Self-Delusion』より)、ドナ・ホロウェイの『A Cyborg Manifesto』などに触発を受けている。

 


「Follow The Cyborg」ー『Follow The Cyborg』に収録

 

 

 

  Yaeji  ーXL Recordingsが送り出す新世代のエレクトロニック・ポップの新星ー




ニューヨーク出身の韓国系エレクトロニックミュージック・プロデューサーであり、DJ、さらにヴォーカリスト、Yaeji(イェジ)は、K-POPのネクスト・ウェイブの象徴的なアーティストに位置づけられる。

 

2017年のEPリリースをきっかけに世界的に高い評価を受けた後、彼女はチャーリーXCX、デュア・リパ、ロビンのリミックスを手掛け、2回のワールドツアーをソールドアウトさせ、デビュー・ミックステープ・プロジェクト『WHAT WE DREW 우리가 그려왔던』をリリースした。

 

クイーンズのフラッシングで生まれたイェジのルーツは、ソウル、アトランタ、ロングアイランドに散りばめられている。韓国のインディー・ロックやエレクトロニカ、1990年代後半から2000年代前半のヒップホップやR&Bに影響を受けており、彼女のユニークなハイブリッド・サウンドの背景ともなっている。


『With A Hammer』は、コロナウィルスの大流行による閉鎖期間中に、ニューヨーク、ソウル、ロンドンで2年間にわたって制作された。これは、アーティストの自己探求への日記的な頌歌であり、自分自身の感情と向き合う感覚、勇気を出してそうすることで可能になる変化である。

 

この場合、Yaejiは、怒りと自分の関係を検証している。これまでの作品とは一線を画している。トリップホップやロックの要素と、慣れ親しんだハウスの影響を受けたスタイルを融合させ、英語と韓国語の両方で、ダークで内省的な歌詞のテーマを扱っている。ヤエジはこのアルバムで初めて生楽器を使用し、生演奏のミュージシャンによるパッチワークのようなアンサンブルを織り交ぜ、彼女自身のギター演奏も取り入れる。「With A Hammer』では、エレクトロニック・プロデューサー、親しいコラボレーターでもあるK WataとEnayetをフィーチャーし、ロンドンのLoraine JamesとボルチモアのNourished by Timeがゲスト・ヴォーカルとして参加している。

 

 

「easy breezy」ー『With A Hammer』に収録

 

 

 

 

yune pinku  ーロンドンのクラブカルチャーを吸収した最もコアなエレクトロ・ポップー

 



現在、サウスロンドン出身のyune pinkuは特異なルーツを持ち、アイルランドとマレーシアの双方のDNAを受け継いでいる。"post-pinkpantheress"とみなしても違和感のないシンガーソングライター。現時点では、シングルのリリースと2022年のEPのリリースを行ったのみで、その全貌は謎めいている部分もある。yuneというのは、子供の頃のニックネームに因み、10代の頃にはビージーズやキンクス、ジョニ・ミッチェルの音楽に薫陶を受けた。若い頃にパンクとインディーズカルチャーに親しみ、その後、ロンドンのクラブカルチャーでファンベースを広げた。

 

彼女の音楽には、最もコアなロンドンのクラブ・ミュージックの反映があり、そこにはUKガレージ、ダブステップ、 ハウス、ダンスミュージック全般的な実験性を読み解くことが出来る。yune pinkの生み出すエレクトロニック・ポップが斬新である理由は、その音楽に対する目が完全には開かれていないことによる。電子的な音楽を聴くのが楽しくて仕方がないらしく、「まだ電子音楽の異なるジャンルに新しい発見をしている途中なんです」とアーティストは語る。


yuneにとってダンスミュージックはまだ新しく未知なるものなのである。そのため、複数のシングルには電子音楽としてセンセーショナルな輝きに充ちている。今年、発表されたシングル「Heartbeat」は、エレクトロニックのみならず、ポピュラーミュージックとしても先鋭的な響きを持ち合わせている。今後、注目しておきたいアーティスト。

 


「Heartbeat」ーSingle

 

 

 

Saya Gray   ーCharli XCXのポスト世代に属する前衛的なポピュラー・ミュージックー




今年、Dirty Hitからアルバム『QWERTY』をリリースしたSaya Gray(サヤ・グレー)はトロント生まれ。


アレサ・フランクリン、エラ・フィッツジェラルドとも共演してきたカナダ人トランペット奏者/作曲家/エンジニアのチャーリー・グレイを父に持ち、カナダの音楽学校「Discovery Through the Arts」を設立したマドカ・ムラタを母にもつ音楽一家に育ち、幼い頃から兄のルシアン・グレイとさまざまな楽器を習得した。グレーは10代の頃にバンド活動を始め、ジャマイカのペンテコステ教会でセッションに明け暮れた。その後、ベーシストとして世界中をツアーで回るようになり、ダニエル・シーザーやウィロー・スミスの音楽監督も務めている。


サヤ・グレーの母親は浜松出身の日本人。父はスコットランド系のカナダ人である。典型的な日本人家庭で育ったというシンガーは日本のポップスの影響を受けており、それは前作『19 Masters』でひとまず完成を見た。

 

デビュー当時の音楽性に関しては、「グランジーなベッドルームポップ」とも称されていたが、二作目となる『QWENTY』では無数の実験音楽の要素がポピュラー・ミュージック下に置かれている。ラップ/ネオソウルのブレイクビーツの手法、ミュージック・コンクレートの影響を交え、エクスペリメンタルポップの領域に歩みを進め、モダンクラシカル/コンテンポラリークラシカルの音楽性も付加されている。かと思えば、その後、Aphex Twin/Squarepusherの作風に象徴づけられる細分化されたドラムンベース/ドリルンベースのビートが反映される場合もある。それはCharli XCXを始めとする現代のポピュラリティの継承の意図も込められているように思える。

 

曲の中で音楽性そのものが落ち着きなく変化していく点については、海外のメディアからも高評価を受けたハイパーポップの新星、Yves Tumorの1stアルバムの作風を彷彿とさせるものがある。サヤ・グレーの音楽はジャンルの規定を拒絶するかのようであり、クローズ「Or Furikake」ではメタル/ノイズの要素を込めたハイパーポップに転じている。また作風に関しては、極めて広範なジャンルを擁する実験的な作風が主体となっている。一般受けはしないかもしれないが、ポピュラーミュージックシーンに新風を巻き起こしそうなシンガーである。

 


©︎Mark  Seliger

ローリング・ストーンズの最新作『ハックニー・ダイアモンズ』が英国1位に返り咲いた。クリスマスにストーンズを聴くことほど心楽しいことはない。ストーンズの最新アルバムは、12月22日金曜日に発表されたUKオフィシャル・アルバム・チャートで2週連続でトップを獲得した。


10月にリリースされた同アルバムは、トップ5を上回るセールスを記録し、ストーンズにとって14作目となる全英1位を獲得した。


レディー・ガガ、エルトン・ジョン、スティーヴィー・ワンダー、ポール・マッカートニーとのコラボレーションをフィーチャーし、元ベーシストのビル・ワイマンとグループの故ドラマー、チャーリー・ワッツが参加した『ハックニー・ダイアモンズ』(ポリドール)は、ストーンズのオリジナル・アルバムとしては、2005年に最高2位を記録した『ア・ビガー・バング』以来18年ぶりの記録となる。


「2023年を締めくくるにふさわしい素晴らしい結果ですね」と、ローリングストーンズはオフィシャル・チャート・カンパニーが発表した声明の中で述べている。「ハックニー・ダイアモンズを聴いてくれたみんな、ほんとにありがとう。楽しいクリスマスと新年をお過ごしください!!」


ローリングストーンズの『ハックニー・ダイアモンド』Best Rock Album 2023としてもご紹介しています。

 


クリスマスの日、M.I.A.は新しいミックステープ『ベルズ・コレクション』をリリースした。この16曲入りコレクションは、M.I.A.のウェブサイト、ohmni.comを通じて、日本時間の12月25日午後3時にリリースされた。


プレスリリースによると、このプロジェクトは2023年12月にM.I.Aによってロンドンのエンジェルで制作・ミックスされ、「反逆の嵐、音楽のシノプティック・エディット」と説明されている。M.I.Aは、様々なアーティストやプロデューサーをサンプリングし、音と言葉を装飾している。このミックステープには、時間、地理、人種、年齢、空間を意図的に超えた特徴的なサウンドがある。無限のジャンルレスな周波数。真に新鮮なオーディオベルのバイブレーション。あなたの耳元でチリンチリンと鳴る。


トラックリストには、"FREE PALI "と "BELLA HADID "と題された曲のほか、スクリレックス、ブラックスター、トロイ・ベイカーとのコラボが含まれている。M.I.A.は2022年に最新アルバム『MATA』をリリースした。




M.I.A 『Bells Collection』



Tracklist:

01. NEVER ALONE – M.I.A / TROY BAKER

02. AMEN – OLIVER RODIGAN

03. BELIEVE A BELL – M.I.A + YUVAN SHANKAR RAJA +

04. BOX BELLS INTERLUDE – M.I.A BOX COMP

05. GOD KIDS NOBELL + GABRIBELL CHICKEN DINNER DJ INTERLUDE

06. BELLA HADID – M.I.A

07. KATHAL (LOVE) – M.I.A + SAMPLE AR RAHMAN

08. BELLS IN ANGEL – M.I.A

09. FREE PALI – M.I.A

10. BROWN G I R L IN THE RING – M.I.A / BLAQ STARR / BONNNY M

11. TABLE FLIPPIN REBELLS – M.I.A

12. UN NENJU (SACRED HEART) – M.I.A KIDKANEVAL

13. ANDAVAN PRAY INTERLUDE – M.I.A / ILLAYARAJA / YESUDAS

14. BABYLON BABELL – M.I.A TROY BAKER

15. SOLITUDE – M.I.A / REX KUDO / SKRILLEX

16. GALAXY – M.I.A / REX KUDO





 



2023年のロック・シーンも一言でいえば「盛況」だった。ブリット・ポップの伝説、ブラーの復活宣言、新作アルバムのリリース、そしてワールド・ツアーは当然のことながら、ホーキンス亡き後のフー・ファイターズの新作のリリースもあった。他にも、スラッシュ・メタルの雄、メタリカの新作も全盛期に劣らぬパワフルな内容だった。スウェーデンのガレージ・ロックの伝説、Hivesの新作リリースもあった。そして、彼らの後を追従する若い世代のパラモアもメインのロックシーンで相変わらず存在感を示してみせた。ロックとは何なのか、音楽として聴けば聴くほどわからなくなるというのが本音だが、ハイヴズがその答えを端的に示してくれている。

 

Hivesが言うように、「ロックとは成熟することを拒絶すること」なのであり、また熟達するとか洗練されることから背を向けて一歩ずつ遠ざかっていくことでもある。一般的な人々が世界的なロックバンドに快哉を叫ぶことすらあるのは、そういった人々が年々周囲に少なくなっていくことに理由がある。


すでにご承知のように、ロックとは、パンクと同じように、単なる音楽のジャンルを指すものではなく、アティテュードやスタンスを示すものなのである。そもそも、世間や共同体が大多数の市民に要請する規範や規律から距離を置くことなのであり、私達のよく見聞きする倫理や模範とかいう概念を軽々と超越することなのだ。以下、ベスト・リストとしてご紹介する、2023年度のロックバンドの人々は、おしなべてそのことを熟知しているのであり、そもそもロックが社会が要請する常識的な概念とは別の領域に存在することを教唆してくれる。人間は、年を重ね、人格的に成長すればするほど、規範や模範という概念に縛りつけられるのが常だが、どうやらここに紹介する人たちは、幸運にもそれらのスタンダードから逃れることが出来たらしい。

 

 

 

Foo Fighters  「But Here We Are」


Label: Roswell

Release : 2023/6/2

 

テイラー・ホーキンスの亡き後も、結局、フー・ファイターズは前進を止めることはなかった。『But Here We Areは表向きにはそのことは示されていないが、暗示的にホーキンスの追悼の意味が込められている収録曲もある。グランジの後の時代にヘヴィーなロック・バンドというテーゼを引っ提げて走りつづけてきたデイヴ・グロール率いるフー・ファイターズであるが、新作アルバムではアメリカン・ロックの精髄に迫ろうとしている。更にこれまで表向きには示されてこなったバンドの音楽のナイーブな一面をスタンダードなロックサウンドから読み取る事もできる。

 

そしてメインストリームで活躍するバンドでありながら、このアルバムの主要なサウンドに還流するのは、2000年代、あるいはそれ以前のUSインディーロック/カレッジロックのスピリットである。それらをライブステージに映える形の親しみやすくダイナミックなロックソングに昇華させた手腕は瞠目すべき点がある。そして、ソングライティングの全体的な印象についてはボブ・モールドのSugarのスタイルに近いものがある。オープニングを飾る「Rescued」、「Under You」はフー・ファイターズの新しいライブ・レパートリーが誕生した瞬間と言えるだろう。

 

Best Track 「Resucue」 




Paramore 「This Is Why」

 

 

Label: Atlantic

Release: 2023/2/10


今年、本国の音楽メディアにとどまらず、英国のメディアをも絶叫させた6年ぶりとなる新作アルバムを発表したパラモア。だが発売当初の熱狂ぶりはどこへやら、一ヶ月後そのお祭り騒ぎは少し収まり始めていた。しかし、落ち着いてから改めて聞き直すと、良作の部類に入るアルバムで、正直いうと、マニアックなインディーロックアルバムよりも聞き所があるかもしれない。特に「The News」はポスト・パンクとして見ると、玄人好みの一曲となっていることは確かだ。

 

『This Is Why』は現代社会についてセンセーショナルに書かれた曲が多い。タイトル曲では、インターネット/ソーシャルメディア文化の息苦しさや、公然と浴びせられる中傷について嘆きながら、苛立ちの声を上げ、「意見があるならそれを押し通すべき」と歌う。ウィリアムズの怒りと苛立ちを表現したこの曲は、Paramoreの先行アルバム『After Laughter』のダンス・ファンクにエッジを加えることに成功し、多くの人の共感を呼ぶ内容となっている。ドラマーのザックは世界的に見ても傑出した演奏者であり、彼のもたらす強固なグルーブも聴き逃がせない。

 


Best Track 「The News」

 

 

 

 Metallica 「72 Seasons」

 


 

 Label: Blackend Recordings Inc.

Release: 2023/4/14

 

一般的にいうと、大型アーティストやバンドのリリース情報というのは、レーベルのプロモーションを通じて、大手メディアなどに紹介され、順次、中型のメディア、そして零細メディアへと網の目のようにニュースが駆け巡るものである。しかし、近年、限定ウイスキーの生産及び公式販売など、サイド・ビジネスを手掛けていたメタリカの新作アルバム「72 Seasons」の発表は、ほとんどサプライズで行われた。


ドラマーのラーズ・ウィリッヒが語ったところによると、新作の情報を黙っていようとメンバー間で示し合わせていたという。そういったこともあってか、実際にサプライズ的に発表された『72 Seasons』(Reviewを読む)は多くのメタルファンに驚きを与えたものと思われる。

 

実際のアルバムの評価は、メタル・ハマーなどの主要誌を見ると、それほど絶賛というわけでもなかった。しかしながら、多くのメタルバンドが商業的に成功を収めるにつれて、バンドの核心にある重要ななにかを失っていくケースが多い中、メタリカだけではそうではないということが分かった。

 

確かに、フルレングスのアルバムとして聴くと、全盛期ほどの名盤ではないのかもしれないが、特にオープニングに収録されている「72 Seasons」LUX ÆTERNAの2曲は、スラッシュ・メタルの重要な貢献者、そしてレジェンドとしての風格をしたたかに示している。特にラーズ・ウィリッヒのドラムのスネア、タム、ハイハットの連打は、精密機械のモーターのように素早く中空で回転しながら、フロント側のヘッドフィールドのギター/ボーカル、他のサウンドを強固に支え、それらを一つにまとめ上げている。90年代のUSロックの雰囲気に加え、80年代のプログレッシヴ・メタルの影響を反映した変拍子や創造性に富んだ展開力も健在だ。

  


Best Track 「72 Seasons」

 

 

 

 

Hives  「The Death of Randy Fitzsimmons」



Label: Hives AB

Release: 2023/8/11

 

スウェーデンは90年代後半、ガレージロックやパンクが盛んであった時期があり、Backyard Babies、Hellacoptersと、かっこいいバンドが数多く活躍していた。しかし、最も人気を博したのは、ガレージ・ロックのリバイバルを合間を縫って台頭したHivesだ。デビュー当時の代表曲「Hate To Say I Told You So」はロックのスタンダード・ナンバーとして今なお鮮烈な印象を放っている。


『The Death of Randy Fitzsimmons』はコンセプチュアルな意味が込められ、さらにドラマ仕立てのジョークが込められている。なんでも、ハイヴズの曲は「ランディ・フィッツシモンズ」という謎のスヴェンガリによって書かれたと長い間言われてきたというが、一度も一般人の目に触れることはなかった。そして、つい最近になって、フィッツシモンズが "死んだ"らしく、ハイブスは彼の墓を探し回っていたところ、偶然にもデモ音源を発見し、『ランディ・フィッツシモンズの死』というタイトルにふさわしいアルバムに仕上げた(と言う設定となっている)。

 

まるで墓から蘇ったかのように久しぶりのアルバムをリリースしたハイヴズ。しかし、年を経ても彼らのロックバンドとしてのやんちゃぶりは健在である。さらに、アホさ加減は現代のバンドの中でも群を抜いている。先行シングルのビデオに関しても、シュールなジョークで笑わせに来ているとしか思えない。もちろん、新作アルバムについても、シンプルな8ビートを基調としたガレージ・ロックのストレートさには、唖然とさせるものがある。そして、アルバムに充るストレートな表現やシンプル性は、複雑化し、細分化しすぎた音楽をあらためて均一化するような意味がこめられているのではないか。サビのシンガロングなコーラスワークもすでにお約束となっている。

 

「ロックとは成長するものではない!!」と豪語するハイヴズ。しかしながら、彼らの音楽が2000年代から何ひとつも変わっていないかといえば、多分そうではない。アルバムの後半では、クラフトワークのようなテクノ風の実験的なロックの作風に挑戦しているのには、少し笑ってしまった。

 

 

 Best Track 「Bogus Operandi」

 

 

 

 

 Blur  「The Ballad Of Darren」

 


Label: Warner Music

Release; 2023/7/21



オリジナル・アルバムとしては2015年以来となるブラーの『The Ballard Of Darren』。デーモン・アルバーンはこのアルバムに関して最善は尽くしたものの、現在はあまり聴いていないと明かしている。どちらかといえば、先鋭的な音楽性という面では、グラハム・コクソンの新プロジェクト、The Waeveのセルフタイトル(Reviewを読む)の方に軍配が上がったという印象もある。もちろん、音楽は優劣や相対的な評価で聴くものではないのだけれど。

 

デーモン・アルバーンはどれだけ多くのロックバンドをかき集めようとも、テイラー・スウィフト一人が生み出す巨大な富には太刀打ちできない、とも回想していた。 そんな中で、ブリット・ポップ全盛期の時代の勘のようなものを取り戻すべく苦心したというような趣旨のことも話していた。

 

今作には、彼らの代名詞であるアート・ロック、そして現代的なポストパンクの要素、それからブリットポップの探求など、様々な音楽性が取り入れられている。磨き上げられたサウンドの中には懐古的な響きとともに、現代的な音楽性も加わっている。特に、オープニング「The Ballad」はシンセ・ポップとスタイル・カウンシルの渋さが掛け合せたような一曲だ。その他、録音機材の写真を見ても、シンセ・ポップをポスト・パンク的な音響をダイレクトに合致させ、新しいサウンドを生み出そうしている。彼らの目論むすべてが完成したと見るのは早計かもしれないが、新しいブラーサウンドが出来つつある予兆を捉えることも出来る。つまり、このアルバムは、どちらかといえば結果を楽しむというより、過程を楽しむような作品に位置づけられる。

 

 

Best Track 「The Ballad」

 

  


 Queen Of The Stone Age 「In Times New Roman...」

 


 

Label: Matador 

Release: 2023/6/16

 

 ストーナーロックの元祖、砂漠の大音量のロックとも称されるKyussの主要なメンバーであるジョッシュ・オムを中心とするQOTSA。すでに多くのヒット・ソングを持ち、そのなかには「No One Knows」、「Feel Good Hit Of The Summer」など、ロックソングとして後世に語り継がれるであろう曲がある。2017年の『Villains』に続く最新アルバム『In Times New Roman...』はジョッシュ・オムの癌の闘病中に書かれ、ロックバンドの苦闘の過程を描いている。現在、オムの手術は成功したようで、ファンとしては胸をなでおろしていることだろう。

 

今作には、ガレージ・ロック調の曲で、ジョッシュ・オムが「お気に入り」と語っていた「Paper Machete」などストレートなロックソングが満載。タイトルにも見受けられる通り、何らかの米国南部の文化性もそれらのロックソングの中に込められているかもしれない。注目すべきはストーナーの系譜にある「Negative Space」など轟音ロックも収録されていることである。その中にはさらにテキサスのSpoonのように、ブギーのような古典的なロックの要素も加味されている。轟音のロックとは対象的なブルースロックも本作の重要なポイントを形成している。


 

Best Track 「Paper  Machete」

 

 

 

 

 King Gizzard & The Lizard Wizard 『The Silver Cord』



Label: KGLW

Release: 2023/10/27

 

オーストラリアのキング・ギザード&リザード・ウィザードはメタルやサイケロックを多角的にクロスオーバーし、変わらぬ創造性の高さを発揮してきた。ライブにも定評があり、バンドアンサンブルとして卓越した技術、さらに無数の観客を熱狂の渦に取り込むパワーを兼ね備えている。

 

『The Silver Chord』は、A面とB面で構成されている。後半部はリミックス。従来のメタルやサイケを中心とするアプローチから一転、テクノやハウスの要素を交え、それらを以前のメタルやサイケの要素と結びつけ、狂信的なエナジーを擁するロックを構築した。バンドから電子音楽を中心とする音楽性に変化したことで、一抹の不安があったが、予想を遥かに上回るクオリティーのアルバムをファンに提供したと言える。アンダーワールドやマッシヴ・アタックのダンス/エレクトロニックのスタイルにオマージュを示し、それを新たな形に変えようとしている。

 

 

Best Track 「Gilgamesh」

 

 

 

PJ Harvey   『I Inside The Old Year Dying』

 


 

Label: Partisan 

Release; 2023/7/7

 

 


これまでは長らく「音楽」という形式がポリー・ジーン・ハーヴェイの人生の中心にあったものと思われるが、それが近年では、ウィリアム・ブレイクのように、複数の芸術表現を探求するうち、音楽という形式が人生の中心から遠ざかりつつあるとPJ ハーヴェイは考えていたらしい。しかし、音楽というものがいまだにアーティストにとっては重要な意味を持つということが、『I Inside The Old Year Dying』を聴くと痛感出来る。一見すると遠回りにも思え、ばらばらに散在するとしか思えなかった点は、このアルバムで一つの線を描きつつある。

 

詩集『Orlam』の詩が、収録曲に取り入れられていること、近年、実際にワークショップの形で専門の指導を受けていた”ドーセット語”というイングランドの固有言語、日本ふうに言えば”方言”を歌唱の中に織り交ぜていること。この二点が本作を語る上で欠かさざるポイントとなるに違いない。

 

それらの文学に対する真摯な取り組みは、タイトルにも顕著な形で現れていて、現代詩に近い意味をもたらしている。「死せる旧い年代のなかにある私」とは、なかなか難渋な意味が込められており、息絶えた時代の英国文化に現代人として思いを馳せるとともに、実際に”ドーセット語”を通じ、旧い時代の中に入り込んでいく試みとなっている。

 

これは昨年のウェールズのシンガー、Gwenno(グウェノー)が『Tresor』(Reviewを読む)において、コーニッシュ語を歌の中に取り入れてみせたように、フォークロアという観点から制作されたアルバムとも解釈出来るだろう。この旧い時代の文化に対するノスタルジアというものが、音楽の中に顕著に反映されている。それはイギリスの土地に縁を持つか否かに関わらず、歴史のロマンチシズムを感じさせ、その中に没入させる誘引力を具えている。音楽的にはその限りではないけれど、今年発売されたアルバムの中では最も「ロック」のスピリットを感じたのも事実。

 

 

 Best Track『I Inside The Old Dying』





The Rolling Stones 『Hackney Diamonds』

 


Label: Polydor

Release: 2023/10/20

 

ローリング・ストーンズの最新アルバム『Hackney Diamonds』はチャーリー・ワッツがドラムを叩いている曲もあり、またレディーガガ、マッカートニー、エルトン・ジョンなど大御所が録音に参加している。

 

正直なところ、思い出作りのような作品なのではないか思っていたら、決してそうではなかったのだ。ミック・ジャガーも語っている通り、「曲の寄せ集めのようなアルバムにしたくなかった」というのは、ミュージシャンの本意であると思われる。


そして、産業ロックに近い音楽性もありながら、その中にはキース・リチャーズのブギーやブルース・ロックを基調とする渋いロック性も含まれている。そして最初期からそうであったように、フォークやカントリーの影響を込めた楽曲も「Depends On You」「Dream Skies」に見出すことも出来る。そして、「Jamping Jack Flash」の時代のアグレシッヴなロック性も「Bite My head Off」で堪能出来る。他にもダンスロック時代の余韻を留める「Mess It Up」も要チェックだ。



Best Track 「Whole Wide World」

 

 

 

 

Noel Gallagher’s High Flying Birds 『Council Skies』




Label: Sour Math

Release: 2023/6/2 

 

 

ノエル・ギャラガーは、2017年の『フー・ビルト・ザ・ムーン?』に続く11曲入りの新作アルバム『Council Skies』を、お馴染みのコラボレーターであるポール "ストレンジボーイ "ステイシーと共同プロデュースした。『Council Skies』には初期シングル「Pretty Boy」を含む3曲でジョニー・マーが参加している。


「初心に帰ることだよ」ノエル・ギャラガーは声明で述べた。「たとえば、白昼夢を見たり、空を見上げて、人生って何だろうと考えたり・・・。それは90年代初頭と同様に、今の僕にとっても真実なんだよ。私が貧困と失業の中で育ったとき、音楽が私をそこから連れ出してくれたんだ」「テレビ番組のトップ・オブ・ザ・ポップスは、木曜の夜をファンタジーの世界に変えてくれたが、自分の音楽もそうあるべきだと思うんだ。自分の音楽は、ある意味、気分を高揚させ、変化させるものでありたいと思う」

 

今作において、ノエル・ギャラガーはスタンダードなフォーク・ミュージックとカントリーの要素を交えつつも、ポピュラー・ミュージックの形にこだわっている。微細なギターのピッキングの手法やニュアンスの変化に到るまで、お手本のような演奏が展開されている。言い換えれば、音楽に対する深い理解を交えた作曲はもちろん、アコースティック/エレクトリックギターのこと細かな技法に至るまで徹底して研ぎ澄まされていることもわかる。どれほどの凄まじい練習量や試行錯誤がこのプロダクションの背後にあったのか、それは想像を絶するほどである。本作は、原型となるアイディアをその原型がなくなるまで徹底してストイックに磨き上げていった成果でもある。そのストイックぶりはプロのミュージシャンの最高峰に位置している。

 

「Love Is a Rich Man」ではスタンダードなロックの核心に迫り、Sladeの「Com On The Feel The Noise」(以前、オアシスとしてもカバーしている)グリッターロックの要素を交え、ポピュラー音楽の理想的な形を示そうとしている。ロックはテクニックを必要とせず、純粋に叫びさえすれば良いということは、スレイドの名曲のカバーを見ると分かるが、ノエル・ギャラガーはロックの本質を示そうとしているのかもしれない。


「Think Of A Number」では渋みのある硬派なアーティストとしての矜持を示した上で、アルバムのクライマックスを飾る「We're Gonna Get There In The End」は、ホーンセクションを交えた陽気で晴れやかでダイナミックな曲調で締めくくられる。そこには新しい音楽の形式を示しながら、アーティストが登場したブリット・ポップの時代に対する憧れも感じ取ることも出来る。


90年代の頃からノエル・ギャラガーが伝えようとすることは一貫している。最後のシングルの先行リリースでも語られていたことではあるが、「人生は良いものである」というシンプルなメッセージをフライング・バーズとして伝えようとしている。そして、何より、このアルバムが混沌とした世界への光明となることを、アーティストは心から願っているに違いあるまい。

 

 

Best Track 「I'm Not Giving Up Tonight」



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柴田聡子が来年2月28日、待望の新作アルバム『Your Favorite Things』をリリースする。この新作リリースを記念するツアーが決定。「Tour 2024 "Your Favorite Things"」と銘打たれたツアーは、恵比寿 LIQUID ROOM、梅田 CLUB QUATTRO、名古屋 JAMMIN'にて行われる。

 

今回の東名阪ツアーは、バンドセットで開催される。新作アルバム『Your Favorite Things』に参加している岡田拓郎(G)、まきやまはる菜(B)、浜公氣(Dr.)といった主要なメンバーに加え、谷口雄(Key)、Dub Master X FOHもステージに登場する予定。

 

ツアーの詳細、及び、来年発売予定のニューアルバムの情報を下記よりチェックしてみて下さい。なお、新作の予約特典施行が実施中。1月21日まで対象店舗でご予約いただいた方に、柴田聡子自身が監修したDVD『柴田聡子の台湾周遊記』がプレゼントされる。こちらもお見逃しなく!!

 

『Your Favorite Things』は2022年の「ぼちぼち銀河」以来の新作アルバムとなる。現時点では、アートワークは解禁となっていない。先行シングルとして「白い椅子」が公開されている。

 

 

・柴田聡子「Tour 2024 "Your Favorite Things"」

 

2024.03.02 (Sat) 

東京 恵比寿 LIQUIDROOM OPEN 17:00 / START 18:00

 


2024.03.19 (Tue) 

大阪 梅田 CLUB QUATTRO OPEN 18:15 / START 19:00

 


2024.03.22 (Wed) 

愛知 名古屋 JAMMIN’ OPEN 18:15 / START 19:00



【出演】

 
柴田聡子 Vo.
岡田拓郎 Eg.
まきやまはる菜 Eb.
浜公氣 Dr.
谷口雄 Key.
Dub Master X FOH



【チケット】

 
Adv. 5,000 Yen [+1D]
2024.01.20 (Sat) on Sale
*未就学児入場不可
*小学生以上チケット要



【先行予約】

 
受付期間 2023.12.23(Sat) 21:00 〜 2024.01.08(Mon) 23:59
受付方式 抽選
申込制限 1人4枚まで
受付URL [ https://eplus.jp/shibatasatoko ]




2022年5月に発表した「ぼちぼち銀河」にて新境地ともいえそうな変化を遂げた「柴田聡子」。2024年2月28日に7枚目のアルバム「Your Favorite Things」のリリースが決定。
柴田聡子ニューアルバム「Your Favorite Things」予約特典施策も実施中。(予約受付中)

柴田聡子「Your Favorite Things」
DDCB-12121 | 2024.02.28 Release | 3,000Yen+Tax | Released by AWDR/LR2


[配信リンク: https://ssm.lnk.to/YFT ]



 

柴田聡子ニューアルバム「Your Favorite Things」予約特典施策中。2024年2月28日(水)に発売が決定した柴田聡子「Your Favorite Things」を2023年11月22日(水)~2024年1月21日(日)の期間中に対象店でご予約お客様に「柴田聡子の台湾周遊記 [DVD]」を差し上げます。



商品概要

タイトル| Your Favorite Things
発売日 | 2024年2月28日(水)
品 番 | DDCB-12121
定 価 | ¥3,300(税抜価格 ¥3,000)
形 態 | CD



早期予約購入者特典|  

柴田聡子の台湾周遊記 [DVD]


対象期間|      

2023年11月22日(水)~2024年1月21日(日)各店舗閉店時まで


対象店舗|      

TOWER RECORDS/HMV/diskunion/楽天BOOKS/COCONUTS DISK/cuune/Small World

 

詳しくは各店・ECショップにお問い合わせください。


特典内容|      

前作「ぼちぼち銀河」の特典DVD「柴田聡子の四万十周遊記」、SSTVで放送された「柴田聡子の鯖江周遊記」に続く、柴田聡子の「周遊記」初の海外編。


注意事項|      

 

・2024年1月21日(日)の予約終了時間は各店の閉店時間となり、各ECショップについては同日23:59までとなります。
           

・特典物は商品お受け取り時にお渡しいたします。
           

・早期予約特典の付いていないカートで商品を購入された方は対象外となりますのでお気をつけください。

 




柴田聡子 SATOKO SHIBATA:




シンガー・ソングライター/詩人。北海道札幌市出身。武蔵野美術大学卒業、東京藝術大学大学院修了。


2010年、大学時代の恩師の一言をきっかけに活動を始める。


2012年、三沢洋紀プロデュース多重録音による1stアルバム「しばたさとこ島」でアルバムデビュー。以来、演劇の祭典、フェスティバル/トーキョー13では1時間に及ぶ独白のような作品「たのもしいむすめ」を発表するなど、歌うことを中心に活動の幅を広げ、2022年、6枚目のオリジナルアルバム「ぼちぼち銀河」をリリース。


2016年には第一詩集「さばーく」を上梓。同年、第5回エルスール財団新人賞<現代詩部門>を受賞。詩やエッセイ、絵本の物語などの寄稿も多数。2023年、足掛け7年にわたる文芸誌「文學界」での連載をまとめたエッセイ集「きれぎれのダイアリー」を上梓。


自身の作品発表以外にも、楽曲提供、映画やドラマへの出演、ミュージックビデオの撮影・編集を含めた完全単独制作など、その表現は形態を選ばない。

 Madeline Kenney  『The Same Again: ANRM(Tiny Telephone Session)

 

 

Label: Carpark

Release: 2023/12/15


Listen/Stream


 

Review


米国のレーベル、Carparkはインディーロックを中心に注目の若手のリリースを行っている。ただ、必ずしもロックだけのリリースにこだわっているわけではないらしく、ポピュラーミュージックのリリースも行っている。


今年7月に発売された『A New Reality Mind』の再録アルバム『The Same Again: ANRM(Tiny Telephone Session)』は、シンガーソングライターの音楽の本質的な魅力に迫るのに最適な一枚。本作は最新作をオープンのアップライト・ピアノを中心に再録したもので、オークランドのタイニー・テレフォンでわずか一日で録音された。

 

最新アルバムでは、ハイパーポップやエクスペリメンタルポップを中心とする前衛的なポップスを展開し、ポピュラー・ミュージックの新しいスタイルに挑戦していたが、それらの表向きの印象は、この再録アルバムで良い意味で裏切られることになる。彼女は、あらためてSSWとしてのメロディーセンスや歌唱力をレコーディングのプロセスを通じてリアルに体現しようとしている。『A New Reality Mind』においてマデライン・ケリーは、受け入れ、自己を許し、前に進もうとする意思によるプロセスを示しているが、今回の再録アルバムにおいては、バラードというスタイルを選ぶことによって、最新作の持つ潜在的な側面に焦点を絞ろうとしている。

 

このアルバムはスタジオ・レコーディングではありながら、アコースティック・ライブのようなリアルな感覚が感じられるのも一つの特徴である。

 

例えば、本作のオープナー「Plain Boring Disaster」では原曲のテンポをスロウダウンさせ、そして旋律をより情感たっぷりに、さらに丹念に歌いこむことにより、まったく別の曲のように仕上げていることに驚きを覚える。もちろん、モダンなポピュラー・シンガーとしてのスタンスを選んだ最新作『A New Reality Mind』に比べると、別人のような歌唱法を堪能することが出来る。中音部の安定感のある歌声から、高音部のファルセット、及び、それとは対象的な、つぶやくようなウィスパー風の低音のボイスに至るまで、マデライン・ケニーは多彩な歌唱法を駆使しながら、それらを「許し、受容、前進」といった温かみのあるテーマを擁する旋律とピアノ演奏で包み込もうとしている。何より、ピアノ・バラードはシンガーとしての実力が他のどの形式の曲よりも明らかになるため、歌手としての本物の実力が要求されるが、マデライン・ケニーは平均的な水準を難なくクリアするにとどまらず、それ以上の何かを提供しようとしている。


オープニングで示されたピアノ・バラードという形式はその後、クラシックや映画音楽、劇伴音楽の影響を交えた曲風へと変遷をたどる。「Superficial Conversation」ではマックス・リヒターを彷彿とさせる正調のミニマル音楽の系譜にあるイントロに導かれるようにして、歌手はオリジナル作よりも伸びやかなビブラートを披露している。そこには、最新作よりも広やかな開放感や晴れやかさすら感じられ、なおかつ歌手の持つ潜在的なポテンシャルを捉える事もできる。そして、このアレンジ曲では、バックコーラスを導入し、より親しみやすいポピュラー・ソングに再構成されている。曲の後半のピアノ・ソロに関しては、きわめて伴奏的なものではありながら、フレーズの進行に淡いエモーションとクリアな感覚を留めることに成功している。

 

最新アルバムのハイライト「Reality Mind」の再録は、原曲のエクスペリメンタル・ポップの延長にあるアプローチとは作風が異なる。映画音楽やドラマの挿入歌のような雰囲気を持つこの曲は、ピアノの伴奏に装飾的な音階を加えることで、原曲よりも親しみやすく清々しいポップソングに仕上げている。その他、原曲では相殺されていた印象もある癒しの感覚を上手く引き出している。ボーカル自体も更にハートウォーミングになり、ソウルフルな質感すら持ち合わせている。ケニーの持つ歌声の持つ深い情感に、じっと静かに傾聴したくなるような素晴らしい一曲だ。

 

同じように、最新アルバムの主要曲だった「I Draw The Line」についても、マックス・リヒターの曲を思わせる気品溢れるコンテンポラリークラシックの要素を付加することにより、涼やかな感覚を引き出そうとしている。しかし、ピアノの旋律に乗せられるマデラインのボーカルは、スタンダードなジャズを意識しているように思われる。そして、ミニリズムに即したピアノの楽節は装飾音的な音階の変化を加え、和音そのものを移行させる。その上で、ケニーのボーカルもピアノの演奏に呼応するかのように、歌うフレーズや叙情的な感覚をその中で変化させていく。


その後、コンテンポラリークラシックの影響を交えたスタンダードなバラードソングが続く。「It Carries on」「Red Emotion」は序盤の収録曲と同様に、気鋭のモダンポップのシンガーとは別の実力派シンガーとしての意外な性質を伺い知ることが出来る。


そして、最も注目すべきは、「The Same Thing」におけるアメリカーナ、ジャズの要素を交えたクラシカルなポピュラーミュージックのスタイルにある。例えば、Angel Olsen(エンジェル・オルセン)の歌声にも比するフォーキーなノスタルジアと深い情感を体感出来る。この曲において、マデライン・ケリーは、ささやくような歌声を駆使しながら、シンガーとしての渋さを追求している。もちろん、その後、この曲はピアノの流麗な演奏を介して、ダイナミックな変遷を辿り、最終的には、抑揚や起伏を持つポピュラーソングへの流れを形作っていく。曲の中で、なだらかなストーリー性を設けるようなボーカルの表現力については圧巻というより他ない。

 

本作は全体を通じて多彩な感情性を交え、以後の緩やかな流れを形成している。アルバムの中で淡い哀感を持ち合わせる「HFAM」は、コンテンポラリークラシックを基調としたドラマ音楽や映画音楽のサウンドトラックを想起させるバラードの形式で再構成されている。シンセサイザーの効果が顕著だった原曲よりも、歌声や曲の持つ感情の流れにポイントが置かれているようだ。更にこの曲の後半部では、原曲よりも深いペーソスや哀感がリアルに立ち表れている。

 

以後の収録曲においても、マデラインは自身の歌声を単なる旋律を紡ぎ出すロボットとすることを忌避し、声そのものを生きたアートの表現形態の一つと解釈し、自身の持つ個性、可能性、感情といった精彩感を持つヒューマニティーを遺憾なく発揮し、最終的に色彩的なポップスに昇華している。以後の2曲は、アルペジオを生かしたダイナミックなピアノの演奏、ゴスペルの敬虔な響きを擁するコーラス、あるいは古典的なソウルの影響を含めたメロウかつアンニュイな歌唱法というように、考えられるかぎりにおいて最も多彩なボーカルの形式を披露している。

 

上記の10曲を、最新アルバムの単なる付加物やスペシャル・エディションと捉えることは妥当とは言えず、アーティストにとって非礼となるかもしれない。既存のアルバムがコンテンポラリークラシック、ソウルという異なる形式を通して、新たな姿に生まれ変わったと見るべきか。

 


 

85/100


 




2023年度のエレクトロニック・シーンの話題の中で、最も注目すべきは、イギリスのエイフェックス・ツインがライブに復帰し、そして新作EP『Blackbox Lif Recorder 21F/In a Room7 F760 』をリリースしたことに尽きる。

 

フレッシュな存在としては、ウェールズからはトム/ラッセル兄妹によるデュオ、Overmonoが台頭し、ニューヨークのシンセ・ポップ・デュオ、Water From Your Eyesが登場している。また中堅アーティストの活躍も目覚ましく、ジェイムス・ブレイクも最新作でネオソウルとヒップホップを絡めたエレクトロニックに挑戦している。さらに、アイルランドのロイシン・マーフィーもDJ/ボーカリストとしての才覚を発揮し、最新作で好調ぶりをみせている。

 

2023年度のエレクトロニックの注目作を下記に取り上げていきます。あらためてチェックしてみて下さい。

 



Overmono 『Good Lies』


 

ウェールズから登場したトム/ラッセル兄妹によるデュオはデビュー・アルバム『Good Lies』(Review)でロンドンやマンチェスターの主要なメディアから注目を集めた。

 

ダブステップを意識した変奏ク的なベースに、ボコーダーなどを掛けたボーカルトラックを追加し、ポピュラーなダンスミュージックを制作している。少なくとも軽快なダンスミュージックとしては今年の作品の中でも抜群の出来であり、現地のフロアシーンを盛り上がらせることは間違いない。


全般的にはボーカルを交えたキャッチーなトラックが目立ち、それが彼等の名刺がわりともなっている。だが彼らの魅力はそれだけに留まらない。


その他にも二つ目のハイライト「Is U」では、ダブステップの要素を交えたグルーブ感満載のトラックを提示している。同レーベルから作品をリリースしているBurialが好きなリスナーはこの曲に惹かれるものがあると思われる。そして、それは彼らのもうひとつのルーツであるテクノという形へと発展する。この曲の展開力を通じ、ループの要素とは別にデュオの確かな創造性を感じ取ることができるはずである。

 

更にユーロビートやレイヴの多幸感を重視したクローズ曲「Calling Out」では、Overmonが一定のスタイルにとらわれていないことや、シンプルな構成を交えてどのようにフロアや観客に熱狂性を与えるのか、制作を通じて試行錯誤した跡が残されている。これらのリアルなダンスミュージックは、デュオのクラブフロアへの愛着が感じられ、それが今作の魅力になっている。

 

 


 

Aphex Twin 『Blackbox Lif Recorder 21F/In a Room7 F760 』 EP

 

 


 

近年、実験音楽をエレクトロニックの中に組み込んでいた印象のあるAphex Twin。久しぶりの復帰作は『Ambient Works』のアンビエント/ダウンテンポの時代から『Richard D James』アルバムまでのハード・テクノ、ドリルン・ベースの要素を取り入れた作風と言えるか。


しかし、パンデミックの期間を経て、何らかの制作者の心境が変わったように思え、スタジオの音源というよりも、ライブセットの中でのリアルな音響を意識した作風が目立つ。今年、ライブステージでもバーチャル・テクノロジーを活かし、画期的な演出を披露している。少なくとも、ここ近年には乏しかったリズムの変革を意識したEPであり、先行シングルとして公開されたタイトル曲は旧来のファンにとどまらず、新規のファンもチェックしておきたいシングルである。


 

 

 

 

James Blake 『Playing Robot Into Heaven』


 

来年のグラミー賞にノミネートされている本作。ロンドンのプロデューサー/シンガーソングライターによる『Playing Robot Into Heaven』は、ネオソウル、ラップ、そしてエレクトロニックとアーティストの多彩な才覚が遺憾なく発揮された作品である。前作はボーカル曲の印象が強かったが、続く今作は、ダンス・ミュージックを基調としたポピュラー音楽へと舵取りを果たした。

 

しかし、その中にはアーティストが10代の頃からロンドンのクラブ・ミュージックに親しんでいたこともあり、グライム、ベースライン、ハウス、ノイズテクノなど多彩な手法が組み込まれている。これは制作者がライブセットを多分に意識したことから、こういった作風になったものと思われる。しかし、ボーカルトラックとしては、最初期から追求してきたネオソウルを下地にした「If You Can Hear Me」が傑出している。特に面白いと思ったのは、クローズ曲で、パイプオルガンのシンセ音色を使用したクラシカルとポップスの融合にチャレンジしている。これはBBCでもお馴染みのKit Downesの作風を意識しているように思える。意欲的な作品と言える。




Loraine James 『Gentle Controntation』

 


 

ロンドンのエレクトロニックプロデューサー、ロレイン・ジェイムスは、ローレル・ヘイローの『Atlas』に関して「美しい」と評していました。

 

しかし、 『Gentle Controntation』も音の方向性こそ違えど、『Atlas』に引けを取らない素晴らしいアルバムであり、もしかりにエレクトロニックのベスト・アルバムを選ぶとしたら、『Gentle Controntation』、もしくはアメリカのJohn Tejadaの『Resound』であると考えている。

 

特に、「Post-Aphex」とも称すべきドラムンベース/ドリルンベースの変則的なリズムの妙が光り、そしてその中に独特な叙情性が漂う。おそらく、アコースティックのドラム・フィルをKassa Overall/Eli Keszlerのような感じで、ミュージック・コンクレートとして処理し、その上にシンセサイザーの音源や、ビートやパーカッションを追加した作品であると推測される。現在最も才覚のあるエレクトロニック・プロデューサーを挙げるとしたら、ロレイン・ジェイムスである。女性プロデューサーは、それほど旧来多くは活躍してこなかった印象もあるけれども、きっとこのアーティスト(ロレイン・ジェイムス)が、その流れを変えてくれるものと信じている。



 

 


Rosin Murphy 『Hit Parade』

 


 

世界的な影響力という側面で語るならば、今年度のNinja Tuneのリリースの中では、Young Fathers(ヤング・ファーザーズ)の1択なんだけれど、個人的にはアイルランド出身のSSW/DJのロイシン・マーフィーのDJ Kozeをフィーチャーした最新作『Hit Parade』が好き。

 

本作の発売前、LGBTQに関してアーティストは発言を行っていますが、別に間違ったことは言っていない。多分、ラベリングせず、個人としての尊厳を重んじてという真っ当な考えが曲解されたと思われる。言葉尻だけ捉えるかぎり、ロイシン・マーフィーの発言の真意に迫ることは難しいのだ。


マーフィーの故郷であるアイルランドで撮影されたビデオも本当に美しかった。DJセットを意識したダンスミュージックの範疇にあるネオソウルとしてはかなりの完成度を誇っている。ディスコソウルの範疇にある80年代のダンスミュージックの懐古的な雰囲気も今作の雰囲気にあっている。特にアルバムの中では、「CooCool」、「The Universe」、「Fader」はソウルミュージックのニュートレンドと言える。アルバムジャケットで敬遠するのはもったいない。

 


 

 


Sofia Kourtesis 『Madres』

 


 

ベルリンを拠点にするエレクトロニック・プロデューサー、ソフィア・クルテシスの最新作もコアなレベルでかっこいい。どちらかと言えば、エレクトロニックの初心者向けの作品ではなく、かなり聴き込んだ後に楽しむような作品。ワールドミュージックの要素を内包させたエレクトロニックだ。

 

アルバムの制作の前に、アーティストはペルーへの旅をしているが、こういったエキゾチックなサウンドスケープは、続く「Si Te Portas Bonito」でも継続している。よりローエンドを押し出したベースラインの要素を付け加え、やはり4ビートのシンプルなハウスミュージックを起点としてエネルギーを上昇させていくような感じがある。さらにスペイン語/ポルトガル語で歌われるボーカルもリラックスした気分に浸らせてくれる。Kali Uchisのような艶やかさには欠けるかもしれないが、ソフィア・クルテシスのボーカルには、やはりリラックスした感じがある。やがて、イントロから中盤にかけ、ハウスやチルアウトと思われていたビートは、終盤にかけて心楽しいサンバ風のブラジリアン・ビートへと変遷をたどり、クルテシスのボーカルを上手くフォローしながら、そして彼女持つメロディーの美麗さを引き出していく。やがてバック・ビートはシンコペーションを駆使し裏拍を強調しながら、お祭り気分を演出する。もし旅行でブラジルを訪れ、サンバのお祭りをやっていたらと、そんな不思議な気分にひたらせてくれる。

 

 

 

 

 

Water From Your Eyes 『Everyone's Crushed』

 


 

2023年、ニューヨークのMatadorと契約を交わした通称「あなたの目から水」、Water From Your Eyesのネイサンとレイチェルは、二人とも輝かしい天才性に満ちあふれている。

 

デュオはソロアーティストとして、インディーポップのマニアックな作品に取り組んでいるが、デビュー・アルバム『Everyone's Crushed』では、エレクトロニックやシンセポップ、ポスト・パンク、ノーウェイブ、インディーポップをミックスした新鮮な音楽に取り組んでいる。しかし、「あなたの目から涙」の最大の魅力は実験音楽や現代音楽に近いアヴァンギャルド性に求められる。またアルバムアートワークに象徴づけられる「AKIRA」のようなSFコミック風のイメージもデュオの魅力と言える。本作では、「Barley」のビートの変革、あるいは「14」でのオーケストラとポップス、エレクトロニックをクロスオーバーしたような作風も素晴らしい。

 

 

 


 

Avalon Emerson  『&the Charm』

 


 

イギリスのDJとして現地のクラブシーンで鳴らしてきたアヴァロン・エマーソン。実は、現地でしか聞けない音楽というのがある。それは他のどの地域でも聴くことが出来ず、またレコードなどの音源でも知ることが出来ないもの。アヴァロン・エマーソンのエレクトロニックはそういったスペシャルなダンスミュージックだ。旧来は、DJとしてクラブのフロアでならしてきたアーティスト。今作では彼女が得意とするスタイルに、ボーカルを加えたポップとして仕上げている。

 

『& the Charm』は、コアなDJとしての矜持がアルバムのいたるところに散りばめられている。テクノ、ディープハウス、オールド・スクールのUKエレクトロ、グライム、2Step、Dub Step、とフロアシーンで鳴らしてきた人物であるからこそ、バックトラックは単体で聴いたとしても高い完成度を誇っている。さらに、エマーソンの清涼感のあるボーカルは、彼女を単なるDJと見くびるリスナーの期待を良い意味で裏切るに違いあるまい。今回、アヴァン・ポップ界でその名をよく知られるブリオンをプロデューサーに起用したことからも、エマーソンがこのジャンルを志向した作曲を行おうとしたことは想像には難くない。何より、これらの曲は、踊りやすさと聞きやすいメロディーに裏打ちされポピュラーミュージックを志向していることが理解出来る。

 

 

 

 

John Tejada 『Resound』

 

 


 

オーストリア/ウィーン出身で、現在は米国のテック/ハウスの重鎮といっても過言ではない、ジョン・テハダ。このアルバムはベースの鳴りが今年度聴いた中で一番凄くて驚いてしまった。 


今年既に3作目となる『Resound』(Review)はテハダ自身がこれまで手掛けてきた音楽や映画からインスピレーションを得ている。クラシックなアナログのドラムマシンとフィードバック、そしてノイジーなディレイによるテクスチャを基盤として、テハダは元ある素材を引き伸ばしたり、曲げたり、歪ませたりしてトーンに変容をもたらす。さらにはシンセを通じてギターのような音色を作り出し、テックハウスの先にあるロック・ミュージックに近いウェイブを作り出すこともある。その広範なダンスミュージックの知識は、ゴアトランス、Massve Attackのようなロックテイストのテクノ、そして、制作者の代名詞的なサウンド、ダウンテンポを基調としたテック/ハウスと数限りない。

 

特に圧巻と思ったのは、「Fight or Flight」では、Aphex Twinの影響を感じさせる珍しいアプローチをとっている。さぞかしこの曲をDJライブセットで聴いたらかっこいいだろうなあと思う。



 

 

 Marmo  『Epistolae』


 


ロンドンのアンダーグラウンドのミュージック・シーンで着目すべきなのは、何もSaultだけではない。エレクトロ・デュオ、Marmoもまたその全容は謎めいており、あまり多くは紹介されない。以前、The Vinyle Facotryが紹介してくれたので、Marmoを知る機会に恵まれた。デュオは最初からエレクトロニックを演奏していたのではなく、10年前はメタルバンドとして活動していたという。

 

ラテン語で「書かれた手紙」を意味するという『Epistolae』は、COV期間中にロンドンとボローニャの間で制作された。COVID-19のパンデミックの最中に、ロンドンとボローニャの間で作られた作品。友情への頌歌であり、また、パンデミックの間につながりを保つ方法として作られた。

 

この作品については、デュオの謎めいたキャリアを伺わせるアヴァンギャルドな電子音楽が貫かれている。 その中には、トーン・クラスターを鋭利に表現するシンセ、ノイズ、アンビエント風の抽象的な音作り、そしてインダストリアル風の空気感も漂う。一度聴いただけでは、その音楽の全容を把握することはきわめて難しい。ロンドンの気鋭の電子音楽デュオとして要注目。






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テキサス/ヒューストンの伝説的なラップ・アーティスト、Scarface(スカーフェイス)によるNPRのタイニー・デスク・コンサートが12月18日(月)に行われ、6曲のメドレーを披露した。


フェイスモブは、彼のバンドと長年のプロデューサーであるマイク・ディーンと共に、「My Block」から「Smile」、ゲトー・ボーイズの「Mind Playing Tricks on Me」まで、6曲の名曲を披露した。彼は、ゲトー・ボーイズの同胞である故ブッシュウィック・ビルの名曲「Mind Playing Tricks Me」にオマージュを捧げた。フェイスの語り口と語り口も同様に痛烈であり、特に彼の代表作 "Mary Jane "など、ほとんどの曲を影響下でレコーディングしたことを口にしていた。  


最近、フェイスはフェンダーとのインタビューで、ギターへの親しみを語った。「僕のおじさんたちはみんな左利きだったけど、ギターをひっくり返して右利きで弾いていたんだ。僕は弾き方を知らなかったから、ギターを逆さまにして弾いたんだ。だから、彼が作っていたコードは彼にとっては正しいんだけど、僕にとっては逆さまだった。何も知らなかったから、簡単だったんだと思う。初めてギターで覚えた曲は、テン・イヤーズ・アフターの「I'd Love to Change the World」だった。それからZZトップの「La Grange」を弾き始めた」


タイニーデスクのプロデューサーであるDJカズンBは、Xでのフェイスのパフォーマンスを絶賛し、「これまで出したタイニーデスクの中で最高のヒップホップ」と評した。






ブルックリンにある倉庫で開かれたKAYTRANADA、Honey Dijon、Peggy GouのDJのセットが大晦日にApple Musicでライブストリーミングされる。


 「ニューイヤー・ミックスというのは、1年を乗り切ったことを祝うという意味合いが強いんだ。他のミックスとは違うアプローチなんだ。今夜のミックスは、よりハウス的な方向でアプローチしている」とKAYTRANADAはオープニング・セットについて語った。 


 「大晦日のミックスはフレッシュなスタートで、新しいチャプターに入るんだ。だから、明るさ、フレッシュさ、喜び、再生、そして楽しさをもたらすようにしているんだ」とHoney DijonはApple Musicに語っている。


「自分のカルチャーとサウンドを届けたい。私は、ハウス・ミュージックを創り上げてきたブラック・クィアの多くの素晴らしい肩の上に立っているから、いつも教え、楽しませ、喜びをもたらしたいの」 


ライブストリーミング・フェスティバルの最後を締めくくるペギー・グーは、こう付け加えた。「私はいつも30分前には自分のセットやショーに行き、雰囲気を掴み、他のDJがどのようにプレイしているかを見るようにしています。私は観客のエネルギーにとても敏感で、できるだけそれを読み取るようにしています」


さらに来年の期待について、彼女はこう付け加えた。「だから、ファンのみんなは2024年に予想外のことを期待していてほしい。 また、ライブストリームには、アップル・ミュージックのダンス・ミュージック界の権威ティム・スウィーニー、ブルックリンの集団パピ・ジュース、フランスのテクノ界の伝説ローラン・ガルニエなどが出演している。


すでにソールドアウトとなったイベントの全パフォーマンスは、大晦日のPT午後7時、ET午後10時にApple MusicとApple TVアプリで独占配信される。


 また、ライブストリームイベント終了後も、Apple MusicとApple TV+の両方で、Apple Music Liveのパフォーマンスをオンデマンドでいつでもストリーミング視聴することができる。NYE Setsは12月31日(日)にApple MusicとApple TV+で配信されます。



 

 

俳優のライアン・ゴズリング(Ryan Gosling)が、バービーのサウンドトラックのヒット曲「I'm Just Ken」の3つの新バージョンを収録した「Ken EP」をリリースした。


オリジナルに加え、「In My Feelings Acoustic」、「Purple Disco Machine Remix」、そしてゴズリング、マーク・ロンソン、アンドリュー・ワイアットがスタジオで撮影した映像を使用したミュージック・ビデオ付きの「Merry Kristmas Barbie」が収録されている。以下からチェックしてほしい。


「I'm Just Ken」は、2024年グラミー賞の映像メディア部門最優秀楽曲賞にノミネートされている。バービー・サウンドトラックからの他の2曲、デュア・リパの「Dance the Night」とビリー・アイリッシュの「What Was I Made For?'」も同賞にノミネートされている。



 

トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンが、NPRのフレッシュ・エア・シリーズのためにキュレーションしたクリスマス・プレイリストでホリデー・シーズンを祝っている。ザ・ポーグスやポール・サイモンのクラシックから、フィービー・ブリジャーズや100ジェックスといった現代的なキャロルまで、19曲のコレクションを選んだ。


トーキング・ヘッズは、ホリデーソングには無縁だった。「ピンと来なければ、この恥ずかしいものを手に入れるだけだよ」とフロントマンはNPRに説明している。「この曲は、彼がサンタクロースを文字通りに解釈した。ここにいるのは、基本的にあなたの家に忍び込み、プレゼントを置いていく見知らぬ男で、かなり奇妙な格好をしている。これを書いみたら?」


バーンのプレイリストには、ポール・サイモンの「Getting Ready for Christmas Day」、ジェームス・ブラウンの「Santa Claus Go Straight to the Ghetto」、LCDサウンドシステムの「Christmas Will Break Your Heart」、ティエラ・ワックの「feel good」など、彼の優れた幅広いセンスをさらに証明するような選曲が並んでいる。


 


GhettsがSkrapzをフィーチャーした新曲 「Twin Sisters」をリリースした。


このトラックは、Ghettsと頻繁にコラボレーションしているTenBillion Dreamsがプロデュースし、オランダ人監督、Geerten Harmens(A$AP Rocky、Lil Wayne、Gunna)がビジュアルを制作した。


「Twin Sisters」は、ムーンチャイルド・サネリーをフィーチャーした前シングル 「Laps」に続く。ゲッツにしては珍しく、「Laps」はビデオなしでリリースされた。


何か意義のあることをして地元コミュニティに恩返しをしたいという願望に突き動かされたゲッツは、このユニークなパートナーシップにより、150人の若者の年会費を負担することになった。


ゲッツは、2021年に発表した『Conflict Of Interest』がUKオフィシャル・アルバム・チャートで1位を獲得し、MOBO賞、マーキュリー・ミュージック・プライズ、ブリット・アワードにノミネートされたのに続き、アルバム『On Purpose, With Purpose』をワーナーから2月2日にリリースする。



リアム・ギャラガーとジョン・スクワイアが、以前から予告されていた極秘のコラボレーションを発表し、デュオとして全アルバムをレコーディングしたことをガーディアン誌に明らかにした。


元オアシスのフロントマンと元ストーン・ローゼズのギタリスト、マンチェスター出身で最も成功した2人のミュージシャンには、長年の交流がある。スクワイアはオアシス、そして後にギャラガーと壮大なサイケデリック・バラード『Champagne Supernova』のライヴで共演し、1997年にはギャラガーがスクワイアと共作した『Love Me and Leave Me』という曲が、オアシスのツアーをサポートしていたスクワイアのバンド、シーホースによってレコーディングされた。しかし、2人がデュオとして音楽をレコーディングするのは、この新しいプロジェクトが初めてである。


アルバムのタイトルと発売日はまだ完全に発表されていない。同誌によると、フル・アルバムになる予定だという。


ガーディアン紙はニューアルバムについて以下のように評している。「魅力的で生々しく、クランチングで即効性のあるプロダクション・サウンドで、エネルギーに満ちた曲は、ストンプするリズム、骨太なリフ、痛々しく明るいメロディアスなトップ・ラインなど、ブリットポップのヘビー・エンドに位置する」「ブルース、ガレージ、サイケ・ロックも主要な構成要素であり、意外にもビートルズが試金石となっている」


10月にXからリリースされると噂されるデュオのアルバムについて尋ねられたギャラガーは、はっきりと肯定することなく、典型的な威勢の良さでこう答えた。「リヴォルヴァー以来のベスト・アルバムだ」


もうひとつの曲のタイトルは、アメリカのジャーナリストで小説家のトム・ウルフの自由奔放な物語を引用したもので、スクワイアが書いた歌詞は時にかなり棘がある。「自分の好きなように作り上げろ/誰もあなた以上のことはわからない......。あなたの思いと祈りに感謝し、くたばれとギャラガーが歌う場面もある。


最初のシングル『Just Another Rainbow』は、ストーン・ローゼズの『Waterfall』を彷彿とさせ、スクワイアのファンキーで元気なソロが印象的な曲で、1月5日にリリースされる。スクワイアは、この曲は「失望について歌ったもので、本当に欲しいものは決して手に入らないという感情だ。でも、僕は曲を説明するのが好きじゃなくて、それはリスナーの特権だと思うんだ」と語る。



両者は当初、リモートで共同作業を行い、スクワイアがギャラガーに曲のアイディアを送ったり、ジミ・ヘンドリックス、セックス・ピストルズ、フェイセズ、ボブ・マーリー、ビージーズなどを参考にしたと言われている。


ロサンゼルスでのフル・セッションの前に、スクワイアのマックルズフィールド・スタジオでデモが作られた。スーパー・プロデューサーでポップ・ソングライターのグレッグ・カースティンがベースを弾き、ジョーイ・ワロンカーがドラムを叩いた。ワロンカーは、REMやベックと共演するだけでなく、トム・ヨークやフリーらとアトムス・フォー・ピースで演奏したこともあるスーパーグループのベテランだ。


シーホースがアルバム『ドゥ・イット・ユアセルフ』で全英2位を獲得し、ヒット・シングル『ラヴ・イズ・ザ・ロウ』を引っさげて成功を収めたのに対し、スクワイアはストーン・ローゼズで最もよく知られている。


インディー・ポップ、サイケデリック・ロック、ダンス・ミュージックを融合させた彼らは、90年代初期のマッドチェスター・シーンを代表するバンドとなった。しかし、このバンドはわずか2枚のアルバムで解散し、シーホースは1枚しかレコーディングしていない。それ以来、スクワイアの音楽活動は断続的になり、近年はビジュアル・アートに専念している(『Just Another Rainbow』のスリーブ・アートでコラボレーションしている)。

 

2009年にストーン・ローゼズの再結成は「絶対にない」と言っていたにもかかわらず、バンドは2年後に再結成を果たした。再びライヴを行うのみならず、バンドは2016年にも『All for One』と『Beautiful Thing』の2曲をレコーディングした。スクワイアはまた、2002年と2004年に2枚のソロ・アルバムをリリースしている。 

Elephant Gym 『World』

 


 

Label: World Recording

Release: 2023/12/14 


Review


台湾/高雄のポストロックバンド、Elephant Gym(大象体操)は、KT Chang/Tell Changの兄妹を中心にテクニカルなアンサンブルを強みとして、同地のミュージック・シーンに名乗りを挙げた。大象体操は台湾の大型フェスティバルに多数出演を果たし、同国の象徴的なロックバンドといっても過言ではない。


大象体操の最大の特性は、KT Changのスラップ奏法、そして彼女の涼しげなボーカルラインにある。これが変拍子の多い目眩くような曲構成の中でファンクやジャズ、フュージョン、ラウンジの要素と合致を果たすことで、しなやかなサウンドが生み出される。シカゴやルイヴィルのポスト・ロック/マス・ロックのサウンドとは異なり、日本のLITE、Mouse On The Keysに近いポピュラーミュージックの影響を交えたアーバンなスタイルが大象体操の醍醐味となっている。

 

前作『Dreams』は、リリース情報がイギリスのNMEでも取り上げられていたが、バンドにとって分岐点となるようなアルバムであったことは確かだ。従来のポストロックサウンドと併行し、近未来的な音楽性を付け加え、ポップ音楽の要素に加えてプログレッシヴ・ロックの最前線の音楽を示唆していた。『World』では、デビュー当時の音楽性ーー台湾のポップス、日本のポップス、 フュージョン、ラウンジ、ポストロック/マスロック・サウンドーーを織り交ぜている。ここに、アジア、そして世界の文化を一つに繋げようという、バンドのイデアを見てとってもそれはあながち思い違いとは言えない。これまでエレファント・ジムがクロスオーバーをしなかったことは一度もないが、旧来のアルバムの中でも最も多彩なジャンルが織り交ぜられている。

 

アルバムのオープナー「Feather」は、エレクトロニックの要素を前面に押し出したイントロの後、お馴染みのエレファント・ジムのサウンドが始まる。ラウンジとフュージョンの要素を交えたオシャレな雰囲気のあるサウンドは、東京の都心部の夜の情景を思わせ、Band Apart、Riddim Saunterのアーバンロックサウンドをはっきりと思い起こさせる。しかし、その後に続くサウンドは、紛れもなく大象体操のオリジナル・サウンド。ジャズの影響を絡めたフュージョンに近い展開が続く。演奏の自由度が高く、大きな枠組みを決定しておいてから、そのセクションの中で即興演奏を行っている。 ただし、アンサンブルの演奏が重視されたからと言っても、大象体操のサウンドに精細感やポピュラー性が失われることはほとんどない。新たに加わったブラス・アンサンブルも曲のジャジーな雰囲気を引き立てている。

 

他にも、今作には新たなバンドの試みをいくつも見出すことが出来る。「Adventure」では、AOR/ソフト・ロックの音楽的な性質に、細かなマスロックの数学的なギターロックの要素を付与している。その中にフュージョン・ジャズの影響を交え、ベースの対旋律的なフレーズを散りばめて、涼やかなギターサウンドを披露している。その中にはわずかに、アフリカのジャズであるアフロビートの影響も見受けられ、そして、これが旧来にはなかったようなエキゾチックなロックの印象性を生み出している。全体的な楽曲構造の枠組みで見るかぎり、明らかにマス・ロックの系譜にあるトラックだが、その中にジャズの影響を反映させることにより、清新な音楽を生み出そうとしている。着目したいのは、イントロから中盤にかけての静謐な展開から、ギターのフレーズとドラムの微細なテンションの一瞬の跳ね上がりにより、ダイナミックなウェイブをもたらし、アグレッシヴな展開へ引き継がれていくポイントにある。続いて、曲の後半部では、トリオのバンドのセッション的な意味合いが一層強まり、裏拍を埋めるようなドラムにより、このバンドの象徴的なダイナミックなポストロック・サウンドへと直結していく。

 

「Flowers」は、平成時代のFlippers Guitarの渋谷系を彷彿とさせる小野リサのボサノヴァ、フレンチ・ポップ、ジャズ、日本のポップスを掛け合わせたトラックを背に、KT Changの涼し気なボーカルで始まる。しかし、その後に続くのは実験的な音楽で、主旋律的なベースラインとパーカッションである。この曲は、ベースがメインのメロディーを形成し、ビートを意識した器楽的なチャンのボーカルとパーカッションが装飾的な役割を果たしている。さらに、その後に続く「Name」では、Mouse On The Keysのシンセサイザーの演奏を交えたポスト・ロックの影響下にあるサウンドを繰り広げる。東アジアの都会の夜景を思わせるアーバンな空気感を持つサウンドという側面では、Mouse On The Keysとほとんど同じであるが、この曲における大象体操のサウンドは、さらにラウンジとフュージョン、ファンク寄りである。そして、以前よりも静と動に重点を起き、楽曲の中盤では静謐なピアノのシンプルなフレーズが夜空に輝くかのようだ。

 

今回、もう一つ、大象体操はより高度な試みを行っている。それがオーケストレーションとロックの融合である。この手法は、すでにオーストラリアのDirty Three、カナダのGod Speed You Emperror!、それからアイスランドの Sigur Ros、スコットランドのMOGWAIが示してきたものだが、大象体操が志すのは、キャッチーで掴みやすいサウンドだ。木管楽器のミリマリズムの範疇にある演奏を配し、ボサノヴァのようなスタイリッシュな空気感を生み出し、それらを旧来のバンドのポストロック/マスロックの技法と結びつけようとしている。しかし、時折、カラオケに近いサウンドになるのが欠点であり、これはおそらく別録りをしているらしいという点に問題がある。もしかすると、オーケストラと同時に演奏すれば、さらにリアルなサウンドになったかもしれない。続く「Light」も同じように、ジョン・アダムスやライヒのミニマル・ミュージックの要素を継承し、それをポピュラリティの範疇にあるポスト・ロックサウンドに仕上げている。特に、中盤のボーカルのコーラスの部分に、バンドとしてのユニークさ、演奏における楽しみを感じることが出来る。こういった温和な雰囲気に充ちたサウンドは前作には見られなかったものである。あらためてバンドが良い方向に向けて歩みを進めていることが分かる。

 

アルバムの収録曲のなかで、最も心を惹かれるのが、洪申豪がゲスト参加した「Ocean In The Night」のオーケストラバージョンだ。この曲は再録により旧来の楽曲が新しく生まれ変わっている。エモに近いギターラインにマリンバの音を掛け合せて、そこにモダンジャズの雰囲気を添え、精妙なサウンドを生み出している。中国語のボーカルも良い雰囲気を生み出し、曲の途中では、このアルバムで最も白熱した瞬間が到来する。このバンドの最大の長所である素朴さと情熱を活かしつつ、最終的にローファイな感じのあるロックサウンドという形に昇華される。

 

アルバムのクローズ曲については割愛するが、「Happy Prince」でも新しいサウンドに挑戦しており、KT Changの歌手としての弛まぬ前進が示される。Don Cabarelloのサウンドに比する分厚いベースラインとチャンの涼やかでポップなボーカルが絶妙な合致を果たしている。バンドが今後どのようなサウンドを理想としているのかまでは分からない。けれども、大象体操はいつも新しいことに挑戦するバンドでもある。無論、そのチャレンジを今後も続けてほしいと思います。

 

 

80/100 

 

 

Best Track 「Ocean In The Night」(feat. 洪申豪) -Orchestra Version

 

 

 

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