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 Josiah Steinbrick 『For Anyone That Knows You』

 

 

Label: Unseen Words/Classic Anecdote

Release: 2023/4/21

 

 

Review


残念なことに、先日、坂本龍一さんがこの世を去ってしまったが、彼の音楽の系譜を引き継ぐようなアーティストが今後出てこないとも限らない。彼のファンとしてはそのことを一番に期待してきたいところなのだ。

 

さて、これまでJosiah Steinbrickという音楽家については、一度もその音楽を聴いたことがなく、また前情報もほとんどないのだが、奇異なことに、その音楽性は少しだけ坂本龍一さんが志向するところに近いように思える。 現在、ジョサイア・スタインブリックはカルフォルニアを拠点に活動しているようだ。またスタインブリックはこれまでに三作のアルバムを発表している。

 

ジョサイア・スタインブリックのピアノソロを中心としたアルバム『For Anyone That Knows You』の収録曲にはサム・ゲンデルが参加している。基本的には、ポスト・クラシカル/モダンクラシカルに属する作品ではあるが、スタインブリックのピアノ音楽は、モダンジャズの影響を多分に受けている。細やかなアーティスト自身のピアノのプレイに加え、ゲンデルのサックスは、簡素なポスト・クラシカルの爽やかな雰囲気にジャジーで大人びた要素を付け加えている。

 

スタインブリックのピアノは終始淡々としているが、これらの演奏は単なる旋律の良さだけを引き出そうというのではなく、内的に豊かな感情をムードたっぷりの上品なピアノ曲として仕立てようというのである。ジャズのアンサンブルのようにそつなく加わるゲンデルのサックスもシンプルな演奏で、ピアノの爽やかなフレーズにそっと華を添えている。それほどかしこまらずに、インテリアのように聞けるアルバムで、またBGMとしてもおしゃれな雰囲気を醸し出すのではないだろうか。

 

ただ、これらの心地よいBGMのように緩やかに流れていくポスト・クラシカル/モダン・ジャズの最中にあって、いくつかの収録曲では、ジョサイア・スタインブリックの音楽家としてのペダンチックな興味がしめされている。二曲目の「Green Glass」では、ケチュア族の民族音楽家、レアンドロ・アパザ・ロマス/ベンジャミン・クララ・キスペによる無題の録音の再解釈が行われている。これらの音楽家の名を聴いたことがなく、ケチュア族がどの地域の民族なのかも寡聞にして知らないが、スタインブリックはここで、ポーランドのポルカのようなスタイルの舞踏音楽をジャズ風の音楽としてセンスよくアレンジしているのに着目したい。

 

その他にも、 「Elyne Road」では、マリアン・コラ(Kora: 西アフリカのリュート楽器)の巨匠であるトゥマニ・ドゥアバテの原曲の再構成を行い、ソロピアノではありながら、民謡/フォークソングのような面白い編曲に取り組んでいる。加えて、終盤に収録されている「Lullaby」では、ハイチ系アメリカ人であるフランツ・カセウスという人物が1954年に記録したクレオールの伝統歌を編曲している。ララバイというのは、ケルト民謡が発祥の形式だったかと思うが、もしかすると、スコットランド近辺からフランスのクレオール諸島に、この音楽形式が伝播したのではないかとも推測出来る。つまり、これらの作曲家による再編成は音楽史のロマンが多分に含まれているため、そういった音楽史のミステリーを楽しむという聞き方もできそうである。

 

もうひとつ面白いなと思うのが、アルバムのラストトラック「Lullaby」において、ジェサイア・スタインブリックはクロード・ドビュッシーを彷彿とさせるフランス近代和声の色彩的な分散和音を、ジャズのように少し崩して、ピアノの音階の中に導入していることだろう。この曲は、部分的に見ると、民謡とジャズとクラシックを融合させた作品であると解釈することが出来る。

 

『For Anyone That Knows You』は、人気演奏家のサム・ゲンデルの参加により一定の評判を呼びそうである。また、追記として、スタインブリックは、作曲家/編曲家/ピアニストとしても現代の音楽家として素晴らしい才覚を感じさせる。今作については、その印象は少しだけ曇りがちではあるけれど、今後、どういった作品をリリースするのかに注目していきたいところでしょう。

 

Josiah Steinbrick 『For Anyone That Knows You』は4月21日より発売。また、ディスクユニオンNewton RecordsTobira Recordsで販売中です。

 

 82/100

 

 Mark de Clive-lowe, Shigeto, Melaine Charles

『Hotel San Claudio』

 



 

作曲家、ピアニスト、DJであり、ジャズ、ダンス、ヒップホップの架け橋として20年にわたり活躍してきたマーク・ド・クライヴ・ロウ(MdCL)が、ブルックリンを拠点にハイチ出身のジャズ・ヴォーカリスト兼アーティスト、メラニー・チャールズとデトロイトのドラマー/プロデューサー/DJ、シゲトとコラボしたアルバム、ホテル・サンクローディオが遂に登場する。ファラオ・サンダースの再解釈を含む3トラックセットのスピリチュアル・ジャズをライブ感あふれるビーツに変換し収録している。


メラニー・チャールズのデビューアルバム『Y'all Don't (Really) Care About Black Women』、MdCLが2022年にドワイト・トリブルとテオドロス・アヴェリーを迎えてリリースした最後のロングプレイヤー『フリーダム - ファロア・サンダースの音楽を祝う』に続き、3人の先鋭ミュージシャンは、9トラックの音の探求と即興によるジャズ、ヒップホップ、ソウルなハウスにわたる芸術の旅に参加することになった。


また、ファラオ・サンダースが最近亡くなったことを受け、偉大なマスターの3つの再解釈、「The Creator Has a Master Plan」(ここでは2つのバージョンがある)と「Love is Everywhere」は、彼のメッセージと精神をそのままにこの曲を再創造する方法として機能している。


マーク・ド・クライブ・ロウは、「ファラオ・サンダースが私たちに提供するものは、人間の状態を反映したものであり、私たちがなりうるすべての願望を包んでいる」と表現している。「サンダースの精神は、私たちがどのように、どのように創作するかを導く道標であると考えるからです」


イタリア/ウンブリアの首都ペルージャから東へ90分、なだらかな丘、アドリア海、絵のように美しいイタリアの田園風景を背景に、自然の中でくつろぎ、クラシックなデザインのホテルが、3年近くかけて実現した刺激的なコラボにより、一瞬にして我が家のようにアットホームな場所に生まれ変わった。


この旅は、2018年にアメリカのデトロイトで始まった。特別なデュオ・パフォーマンスと銘打たれ、コラボレーター/リミキサーMdCL(Nubya Garcia, Bugz In The Attic, Dwight Trible, Ge-Ology)が、デトロイト出身のザック・サギノーことShigeto(Andrés、Dabrye、Shlohmo)とともに地元の会場、モーターシティ・ワインを舞台にパフォーマンスを行うよう招待された。


2人は実際会ったことがなかったにもかかわらず、真剣なセッションが行われた。数ヶ月後、イタリアで、MotorCity Wineを組み込んだFat Fat Fat Festivalは、2019年のプログラムのオープニングにこの2人をフィーチャーすることに照準を合わせた。しかし、2人はパズルのピースが欠けていると感じていた。そこで登場したのが、"トリプル・スレット"ことメラニー・チャールズだ。


2018年10月にブルックリンで開催されたフェスティバルのポストショーで初めてつながり、その後、日本の加賀市で2週間のスタジオ・レジデンシーを行ったMdCLは、チャールズが完璧にコラボレーターとしてフィットすると確信したのだった。


Fat Fat Fatでのヘッドライン・セット(そして、その後、このニュー・アルバム)となる素材の執筆とリハーサルの間に、トリオは週の大半をぶらぶらして風を切り、イタリア料理/ワインと音楽のお気に入りを共有した。その中で、影響を受けたミュージシャンの一人が、サックスの巨人、宇宙の賢人でもあるファロア・サンダースだった。


トリオは、サンダースの30mに及ぶ名作「The Creator Has A Master Plan」と象徴的な「Love Is Everywhere」を2部構成で演奏し、ホテル・サン・クラウディオのスピリチュアルに焦点を当てたジャズの中心的な存在とした。


この曲には普遍性があり、美しくシンプルな2コードのメジャーハーモニーとマントラのようなテーマがある。さらに「この曲には、宗教的、精神的なものであろうとなかろうと、世代やイデオロギー、文化の違い、それらを超えて全ての人に届くような何かが込められている」とトリオは説明する。


さて、その数ヵ月後、ニューヨークの有名なジャズライブハウスNubluで行われたマーシャル・アレン監督によるサン・ラ・アーケストラのライブに続いて、Fat Fat Fatでのトリオのパフォーマンスを行った。(当日はミニ竜巻でほとんど中止になるも、会場はまさに熱狂的だったという)

 

翌日、3人はすぐにスタジオ入りし、前日の熱狂そのままにライブセッションの音をテープに収録する。シゲトのディラ風スラップ、メラニー・チャールズの巧みなライム、MdCLのサンプル・チョップなど、ヒップホップへの愛が感じられるパーフェクトなシングルである。


MdCLのアルバム『Heritage』で初めて披露された『Bushido』は、70年代のジャズ・フュージョンに重きを置いており、MdCLのシンセの衝動とドナルド・バード寄りのソウル・ジャズのプロダクションが、雰囲気と実験の境界を這うように展開している。MFTでは、Charlesのボーカルが、大きなリバーブとディレイで処理され、Hotel San Claudio全体に存在する、広大な天空のようにゆったりとした質感を与えているのがわかる。


トリオのケミストリーは、どんな形であれ、新境地を開拓することに長けており、その勢いは現在のところ衰え知らずである。LA、デトロイト、ニューヨーク、そして日本からイタリアを経由し、Hotel San Claudioは、今まさに世界に飛び立とうとしているのである。

 


Shigeto/Mark de Clive-lowe/Melaine Charles


Mark de Clive-lowe、Shigeto、Melaine Charlesから成るトリオは、コラボレーションという本質に迫り、そして、ミュージシャンの異なる性質が掛け合わるということがなんたるかを今作においてはっきりと示している。


昨年9月に亡くなった米国アーカンソー州のジャズの巨匠、ファラオ・サンダースに捧げられた『Hotel San Claudio』は、少なくとも単なるトリビュート・アルバム以上の価値を持つように思える。それは固定化し概念化したジャズシーンに対して新風を吹き込むとともに、音楽の新たな可能性の極限をトリオは探求しようというのだ。

 

『Hotel San Claudio』は、イタリアにあるホテルを主題に据えた作品である。もちろんタイトルから連想される優雅さは全体に見出すことが出来るが、なんと言っても、巨匠のもたらした音楽の革新性を次世代に受け継ごうというトリオの心意気が全面に漲ったパワフルな一作と呼べるだろう。

 

そもそも、ファラオ・サンダースはスピリチュアル・ジャズとしてのテーマを音楽性の中心に据えていた。マーク・デ・クリーヴ・ロウ(MdCL)、シゲト、メライン・チャールズの三者は、DJ、ドラマー、ヴォーカリスト/フルート奏者として、スピリチュアルな要素と、ジャズ、ソウル、ディープハウス、アフロ・カリビアン・ジャズ、 ヒップホップという幅広い視点を通じて、刺激的な作品を生み出すことになった。


最近、トリオは「Jazz Is Dead」というキャッチフレーズを掲げ、ライブ/レジデンスを定期的に開催している。ジャズは死すというのは真実ではあるまいが、少なくともトリオはジャズにあたらしい要素を加味し、フューチャー・ジャズ、ニュー・ジャズ、クロスオーバー・ジャズの時代を次へ、さらに次へと進めようとしている。

 

このアルバムはソウルの要素が強いジャズとして、また、ウンブリア州のホテルの名に由来することからもわかるように、難しいことを考えずにチルな作品としても楽しめる。ただ、クロスオーバーという概念に象徴されるほとんどの音楽がそうであるように、細分化された音楽の影響がところどころに見られる。そして、トリオの音楽的なルーツがなんの気兼ねもなく重なり合うことで、明るく開放的なエネルギーを形成しているのである。

 

マークによるスクエア・プッシャーの全盛期のような手がつけられない前衛的なサンプラーやシンセサイザーのフレーズ、シゲトのチョップを意識したビート、さらにアフロ・キューバン・ジャズの影響を踏まえたチャールズのフルート、そして、マイケル・ジャクソンのバンドとして参加したこともある彼女のヒップホップとソウルの系譜にあるパワフルなボーカル/ライムは実際のセッションを介してエネルギーをバチバチと言わせ、そしてジャズともソウルともつかない異質なスパークを形成し、リスナーに意外な驚きをもたらすのである。

 

ニューエイジ/スピリチュアル・ジャズの系譜にあるオープニング・トラック「The Creator Has A Master Plan」において、トリオはくつろいだ雰囲気に充ちた音の世界を綿密に構築する。フルート奏者のメライン・チャールズの雰囲気たっぷりの演奏により、物質的な世界とも精神的な世界ともつかない音響世界へ聞き手をいざなう。そのスピリチュアルな音響空間に、ソウルフルなチャールズのメロウかつソフトなボーカルが乗せられる。

 

続く、カリブ音楽の変則的なリズムを交えた#2「Strings」は、ラップ、ディープ・ハウス、ジャズの合間を行くようなナンバーだ。前曲とは異なり、このトラックをリードするのは、DJのMark de Clive-lowe(MdCL)である。彼の独創性の高いベースラインとリードシンセが魅惑的なアンビエンスを形成し、それに合わさるような形で、シゲトのジャズ風のドラミングがトラックに力強さを付与する。さらに、メライン・チャールズのソウルフルなボーカルが加わることで、三位一体の完璧なジャズ・ソウルが組み上げられ、また、その上に爽やかなライムが加わる。


聞き手は実際のセッションを通じ、どのように音が構造的に組み上げられていくのか、そして、シゲトのシャッフル・ビートを多用したスリリングなリズム構成が曲全体にどのような影響を及ぼしているのか、そのプロセスに触れることが出来ると思う。


「Strings」

 

 

これらの前半部の動的なエネルギーに満ちた展開を受けて訪れる3曲目「MFT」は一転して、チルアウトの雰囲気に充ちたムーディーなナンバーに移行する。


スピリチュアル・ジャズの要素を端々に散りばめ、メライン・チャールズのメロウで奥行きのあるボーカルは、時にはアフリカ民族音楽のようなエキゾチズムを交え、さらにアフロジャズ風のフルート、そして、それに対するディレイ/リバーブを組み合わせることで、最終的にミステリアスな楽曲として昇華される。特に、前二曲と比べると、チャールズの伸びやかなボーカルを堪能出来るが、時には、ニューエイジ風の精神世界を反映させたような異質な雰囲気に溢れている。


続く、「Bushido」はハイライトのひとつで、ニュージーランド出身の日系人であるMark de Clive-lowe(MdCL)のルーツを形成する一曲だ。


彼は、ヨナ抜き音階をシンセを通じてスケールを維持してフレーズを紡いでいく。和風なエキゾチズムは、スピリチュアル・ジャズの系譜にあるメラインのフルートとマーク・デ・クライヴ・ロウのオシレーターによるレトロかつアバンギャルドなリードシンセによって増幅される。前3曲に比べ、マークとチャールズのセッションの迫力がより鮮明となる。さらに静と動を兼ね備えたシゲトのパワフルなドラムがセッションをこの上なく刺激的なものにしている。特にトリオの持つアバンギャルド・ジャズのムードが最も力強く反映された一曲となっている。


インタリュードを引き継ぐ「Kanazawa」はもちろん言うまでもなく、日本の地名に因んでいる。アルバムの中で最もポピュラー要素が濃いナンバーであり、聞き手にやすらぎをもたらすこと請け合いだ。アルバムの前半部とは異なり、チャールズがセッションの主役となり、バックバンドを率いるかのような軽快さでリードする。ボーカルの合間に、チャールズはメロウなフルートを披露し、ポップなナンバーにアルバムのコンセプトであるリゾート地にいるようなリラックスした感覚を付与している。


さらに終盤に収録されているファラオ・サンダースのカバー「Love Is Everywhere」も沸き立つような雰囲気に満ち溢れたナンバーである。

 

フュージョン・ジャズ風のリズムに加え、ループ要素を込めたミニマルなフレーズとチャールズの快活なボーカルが劇的な融合を果たす。ジャズの巨匠ファラオ・サンダースが伝えようとした宇宙的な真実は、世界に平安をもたらすであろうことを証明している。また、ハスキーヴォイスを交え素晴らしいファルセットを披露するチャールズのボーカル、そして、マークのシンセの動的なエネルギーとシゲトのライブのような迫力を持つドラムの劇的な融合にも注目したい。

 

「Interlude(Degestivo)」は、5曲目の間奏曲の続きではなく、「The Creator Has A Master Plan」のテーマを変奏させたものと思われるが、それは別の意味が込められており、次の二曲目の連曲「The Creator Has A Master Plan Ⅱ」の呼び水ともなっている。


これらの構造的な性質を受け継いだ後の最終曲は、一曲目のスピリチュアルな雰囲気に回帰し、円環構造を形成する。この点は、実際に通しで聞いた時、サンダースの遺作の円環的な構造と彼の音楽的なテーマである神秘主義を思い起こさせ、全体に整合性があるような印象をもたらすはずだ。



84/100



Weekend Featured Track 「Kanazawa」


『Hotel San Claudio』はSoul Bank Musicより3月24日に発売。

 

©Samantha Isasian


Camae AyewaのプロジェクトであるMoor Motherは、2022年のアルバム「Jazz Codes」のデラックス・エディションを発表しました。Moor Motherはミュージシャンの他にも詩人として活躍する才媛である。5月19日に発売される拡張版には、Kyle Kidd、Keir Neuringer、Aquiles Navarroが提供した新曲「We Got the Jazz」が収録される。下記よりお聴きください。


「”We Got the Jazz”は、多くのポピュラー音楽がいかに凡庸であるか、資本主義的な構造について、そしてそれらの配置がいかに買われ、支払われているかについて私が考え抜いたものです」とカマエ・アイワは声明でこのシングルについて述べています。

 

ジャズに参加することを許された人、詩に参加することを許された人の白塗りについて話し、現在と未来において革新の余地はどこにあるのかを問うているのです。また、私のジャズバンド、Irreversible Entanglementsについて考えています。私たちは、ステージを破壊し、聴衆を元気づけ、ジャズシーンのすべての人に、認知されているかどうかにかかわらず、どのように世界中をツアーしてきたか。また、私自身が文化に与えた影響についても話しています。

 

 Ralph Towner 『At First Light』

Label: ECM Records

Release Date:2023年3月17日

 

 

Review 

 

ワシントン州出身の名ギタープレイヤー、ラルフ・タウナーはECMとともに長きにわたるキャリアを歩んできた。これまでの作品において、このレーベルに所属する他のアーティストと同様、コンテンポラリー・ジャズ、アヴァンギャルド・ジャズ、エキゾチック・ジャズと幅広い音楽性に挑んできた。ヤン・ガルバレク、ゲイリー・ピーコック、ゲイリー・バートン、これまで世界有数のジャズ演奏者を交え、コンスタントに良質なジャズギターを通じて作品を発表してきた。


ラルフ・タウナーは82歳のギタープレイヤーであるが、この作品はミュージシャンのハイライトを形成する一作である。そして面白いことに、本作には、これまでのジャズギターの革新者としての姿とともに、デビュー作『Diary』のアーティストの原点にある姿を捉えることが出来る。

 

アルバムは、オリジナル曲とカバー曲で構成されている。ホーギー・カーマイケルの「Little Old Lady」、ジュール・スタインの「Make Someone Happy」、フォーク・トラッドの「Danny Boy」、またたタウナー自身のジャズ・バンドであるOregonの曲の再解釈も収録されている。しかし、クラシカル、フォーク、ジャズ、 ミュージカルと多くのポイントから捉えられたクラシカルギター/ジャズ・ギターの素朴な演奏は、一貫してジャズのアプローチに収束するのである。

 

もちろん、そのフィンガーピッキングに拠る繊細なニュアンス、ジャズのスケールの中にスパニッシュ音楽の旋律を付け加えつつ、ラルフ・ターナーは最初の『Diary』の時代の原点に立ち返ろうとしているように思える。また、そのことは一曲目の「Flow」の上品で素朴なギターの模範的な演奏から立ち上る演奏者のクールな佇まいがアルバム全体を通じて感じられる。もちろん、単なる原点回帰というのは、アヴァンギャルド・ジャズ、ニュージャズを通過してきた偉大なジャズプレイヤーに対して礼を失した表現ともなるかもしれない。原点を振り返った上で現在の観点からどのように新しい音楽性が見いだせるのか、あらためてチャレンジを挑んだともいえるだろうか。

 

アルバムは全体的にカバー/オリジナルを問わず、穏やかで素朴な雰囲気に充ちた曲が占めており、演奏自体の豊富な経験による遊び心や優雅さも感じとることが出来る。そしてラルフ・タウナーの旧作を概観した際、タイトル・トラックは往年の名曲のレパートリーと比べても全く遜色がないように思える。デビュー当時の『Diary』の音楽性を踏襲した上で、そこにスペインの作曲家、フェデリコ・モンポウの「Impresiones intimes」を想起させる哀愁に満ちたエモーションを加味し、カントリーの要素を交えながら情感たっぷりのギター曲を展開させている。

 

他にもカバーソングでは他ジャンルの曲をどのようにジャズギターとして魅力的にするのか、トラッド・フォーク「Danny Boy」やブルース「Fat Foot」といった曲を通じて試行錯誤を重ねていった様子が伺える。もちろん、それは実際、聞きやすく親しみやすいジャズとして再構成が施されているのである。他にも、ラルフ・タウナーのOregonにおけるフォーク/カントリーの影響を「Argentina Nights」に見い出すことが出来る。さらに、ディキシーランド・ジャズのリズムを取り入れた「Little Old Lady」もまたソロ演奏ではありながら心楽しい雰囲気が生み出されている。アルバムの最後を飾る「Empty Space」はラルフ・タウナーらしい気品溢れる一曲となっている。


『At First Light」は、ジャズ・ギターの基本的なアルバムに位置づけられ、その中に、フォーク/カントリー、ブルース、クラシックといった多彩な要素が織り交ぜられている。以下のドキュメントを見てもわかる通り、音楽家としてのルーツを踏まえたかなり意義深い作品として楽しめるはずだ。同時に、タウナーの先行作品とは異なる清新な気風も感じ取れる作品となっている。

 

 

94/100

 

 

©︎Patrick O'brien Smith

シアトル出身で、現在、ブリックリンを拠点に活動するドラマー、プロデューサー、ラッパーであるKassa Overall(カッサ・オーバーオール)がWarp Recordsとの契約を発表し、ニューシングル「Ready to Ball」を公開しました。カッサ・オーバーオールはNYジャズシーンの最前線を行く才能とも称される。

 

「感情的なレベルで、この曲は本当に嫉妬の感情を扱っているんだ」とKassa Overallは声明の中で「Ready to Ball」について述べています。

 

「それはまた、上昇志向のハッスルに迷わないための、肯定でもあるんだ。私たちは、どれくらいの確率で光り輝くものを欲しがるのでしょう。それを手に入れるために、どれだけ自分を曲げられるか? 時には、「このままでは、自分の精神的な健康や魂の状態を確認する時間がない」と感じることがあります。それが基本的に両極端なんだよね」


ドラマーのビリー・ハートとピアニストのジェリ・アレンの弟子であるオーバーオールは、2019年の『Go Get Ice Cream and Listen to Jazz』と2020年の『I Think I'm Good』という2枚のスタジオ・アルバムをリリースしています。また、これまでにオノ・ヨーコ、ジョン・バティスト、フランシス・アンド・ザ・ライツらとコラボレートしている。

 

 「Ready to Ball」

©︎Schott Smith


2023年3月6日は、トム・ウェイツのデビュー・アルバム『クロージング・タイム』の発売から50周年にあたります。これを記念し、ANTI- Recordsは新しいヴァイナル・リイシューを発表しました。あらためてウェイツの初期の傑作をチェックしてみてください。


ラフトレードショップはこのデビュー作『Closing Time』について以下のように評しています。


トム・ウェイツの1973年のデビュー・アルバム『Closing Time』は、深夜の孤独の歌に満ちたマイナー調の傑作である。

 

カクテルバーのピアニスティックと呟くようなヴォーカルという一見狭い範囲の中で、ウェイツとプロデューサーのジェリー・イエスターは、ジャジーな「Virginia Avenue」からアップテンポのファンク「Ice Cream Man」まで、そしてアコースティックギターのフォーク調「I Hope That I Don't Fall in Love With You」からサルーンソング「Midnight Lullaby」まで、驚くほど幅広いスタイルのコレクションを実現しており、フランクシナトラかトニーベネットのレパートリーに加えたいほどの完成度がある。ウェイツの音楽的アプローチは、もちろん様式化されており、時には派生的な内容もある。


『Lonely』はランディ・ニューマンの『アイ・シンク・イッツ・ゴーイング・トゥ・レイン』を少し借りすぎている。しかし、彼には優しく転がるようなポップなメロディの才能もあり、印象的で独創的なシナリオを思いつくこともある。例えば、ベストソングの「Ol' 55」と「Martha」は控えめにストリングスで補強されている。「Closing Time」は、才能あるソングライターの登場を告げるもので、その自意識過剰なメランコリーは、驚くほど感動的である。 

 

 「Martha」-Original Version-

 

 

Artwork



 

Concord Jazz


Concord Jazz(コンコード・ジャズ)は、マイルス・デイヴィスの『Bitches Brew』にインスパイアされた新作を発表しました。『London Brew』と題されたこのレコードには、イギリスのジャズ・シーンの重要なプレイヤー、Nubya Garcia、Shabaka Hutchings、Dave Okumu、Tom Skinner、Benji B、Theon Crossらが複数参加しています。

 

2020年12月にロンドンのPaul Epworth's Church Studiosでレコーディングが行われた。3月31日に2xLP、2xCD、デジタルで発売される予定です。以下、トレーラーをチェックし、そのファースト・シングル「Miles Chases New Voodoo in the Church」を聴いてみてください。


ガルシアはプレスリリースでニューシングルについて次のように語っている。"このシングルは、マイルス・デイヴィスのジミ・ヘンドリックスへの頌歌('Miles Runs the Voodoo Down')を私たちが解釈したものです」

 

私はいつも、マイルスとジミの創造的な心にとても刺激を受けてきた...。2人とも自分の道を切り開いた革新者であり、それは、私が自分のキャリアで目指してきたものでもあります。ここしばらくは、自分の楽器でペダルやエフェクトを試したり使ったりしていたので、この曲で彼らの遺産に敬意を表しながら、それを実現できたことは、創造的にも個人的にも嬉しいことでした。


London Brewに参加したミュージシャンたちは、ギタリストのマーティン・テレフェとエグゼクティブ・プロデューサーのブルース・ランプコフによって、パンデミックのために結局中止となったBitches Brewの50周年を祝うライブのために集められた。「私にとって、ビッチェズ・ブリューとはそういうものだ」とシャバカ・ハッチングスは声明で述べている。

 

純粋に音楽が好きで音楽を作っているミュージシャンたちが、社会的な力として、社会的な構成要素として、音楽活動に取り組んでいる。彼らは、団結と動きを表現するものを作っている。それが生きているということなんだ。統一感があり、運動があり、振動がある。それ以上に生きていることはないよ。つまり、それがビッチェズ・ブリューなんだ。


 

 

 



Concord Jazz 『London Brew』 

 


 
Label: Concord Jazz

Release: 2023年3月31日
 

Tracklist:

1. London Brew
2. London Brew Pt.2 – Trainlines
3. Miles Chases New Voodoo in the Church
4. Nu Sha Ni Sha Nu Oss Ra
5. It’s One of These
6. Bassics
7. Mor Ning Prayers
8. Raven Flies Low


Keith Jarret  『Dramaten Theater,Stockholm Sweden September 1972』

 

 

 

 

 Label : Lantower Records

 Release Date: 2023年1月2日

 

 

Review


 米国のジャズ・ピアニストの至宝、キース・ジャレットは、間違いなく、ビル・エヴァンスとともにジャズ史に残るべきピアニストのひとりである。

 

 若い時代、ジャレットはマイルス・デイヴィスのバンドにも所属し、ECMと契約を結び、ジャズとクラシックの音楽を架橋させる独創的な演奏法を確立した。その後、90年代になると、難病の慢性疲労症候群に苦しんだけれども、最愛の妻の献身的な介抱もあってか、劇的な復活を遂げ、『The Melody At Night,With You」(ECM 1999)という傑作を作りあげた。ピアニストの過渡期を象徴するピアノ・ソロ作品には、その時、付きっきりで介抱してくれた最愛の妻に対する愛情を込めた「I Love You, Porgy」、アメリカの民謡「Sherenandoah」のピアノ・アレンジが収録されている。2000年代に入ってからも精力的にライブ・コンサートをこなしていたが、数年前に、ジャーレットは脳の病を患い、近年は神経による麻痺のため、新たに活動を行うことが困難になっている。そして、残念ながら、コンサート開催も現時点ではのぞみ薄で、昨年発売されたフランスでのライブを収録した『Bordeaux Concert(Live)』もまた、そういった往年のファンとしての心残りや寂しさを補足するようなリリースとなっている。

 

 ジャレットの傑作は、そのキャリアが長いだけにあまりにも多く、ライブ盤、スタジオ盤ともにファンの数だけ名盤が存在する。ライブの傑作として名高い『ケルン・コンサート」は、もはや彼の決定盤ともいえようが、その他、『At The Deer Head Inn』がニューオーリンズ・ジャズのゴージャスな雰囲気に充ちており、異色の作品と言えるかもしれないが、彼の最高のライブ・アルバムであると考えている。また、ECMの”NEW SERIES”のクラシック音楽の再リリースの動向との兼ね合いもあってか、これまで、ジャレットは、バッハ、モーツァルト、ショスターコーヴィッチといったクラシックの大家の作品にも取り組んでいる。クラシックの演奏家として見ると、例えば、ロバート・ヒルのゴールドベルク、オーストリアの巨匠のアルフレッド・ブレンデル、その弟子に当たるティル・フェルナーの傑作に比べると多少物足りなさもあるけれど、少なくとも、ジャレットはジャンルレスやクロスオーバーに果敢に挑んだピアニストには違いない。彼は、どのような時代にあっても孤高の演奏家として活躍したのである。

 

 今回、リリースされた70年代でのスウェーデンのフル・コンサートを収録した『Dramaten Theater,Stockholm Sweden September 1972』は、今作のブートレグ盤の他にも別のレーベルからリリースがある。私はその存在をこれまで知らなかったが、どうやらファンの間では名盤に数えられる作品のようで、これは、キース・ジャレットがECMに移籍した当初に録音された音源である。もちろん、ブートレグであるため、音質は平均的で、お世辞にも聞きやすいとは言えない。ノイズが至る箇所に走り、音割れしている部分もある。だが、この演奏家の最も乗りに乗った時期に録音された名演であることに変わりなく、キース・ジャレットのピアノ演奏に合わせて聴こえるグレン・グールドのような唸りと、演奏時の鮮明な息吹を感じとることが出来る。

 

 また、本作は、40分以上に及ぶストックホルム・コンサートは、ジャレットの演奏法の醍醐味である即興を収録した音源となっている。意外に知られていないことではあるが、最後の曲では、ジャレット自ら、フルートの演奏を行っている。そして、素直に解釈すると、本作の聞き所は、ジャズ・ピアノの即興演奏における自由性にあることは間違いないが、着目すべき点はそれだけにとどまらない。すでに、この70年代から、ジャレットは、バッハの「平均律クレヴィーア」の演奏法を、どのようにジャズの中に組み入れるのか、実際の演奏を通じて模索していったように感じられる。音階の運びは、カウンターポイントに焦点が絞られており、ときに情熱性を感じさせる反面、グレン・グールドの演奏のように淡々としている。ただ、これらの実験的な試みの合間には、このジャズ・ピアニストらしいエモーションが演奏の節々に通い始める。これらの”ギャップ”というべきか、感情の入れどころのメリハリに心打たれるものがある。

 

 それらは、高い演奏技術に裏打ちされた心沸き立つような楽しげなリズムに合わせて、旋律が滑らかに、面白いようにするすると紡がれていく。さらに、二曲目、三曲目と進むにしたがって、演奏を通じて、キース・ジャレットが即興演奏を子供のように心から楽しんでいる様子が伝わってくるようになる。公演の開始直後こそ、手探りで即興演奏を展開させていく感のあるジャレットではあるが、四曲目から五曲目の近辺で、がらりと雰囲気が一変し、ほとんど神がかった雰囲気に満ち溢れてくる。それは目がハッと覚めるような覇気が充溢しているのである。

 

 コンサートの初めの楽しげなジャズのアプローチとは対象的に、中盤の四曲目の演奏では、現代音楽を意識したアヴァンギャルドな演奏に取り組んでいる、これは、60年代に台頭したミニマル・ミュージックの影響を顕著に感じさせるものであり、フランスの印象派の作曲家のような色彩的な和音を交えた演奏を一連の流れの中で展開させ、その後、古典ジャズの演奏に立ち返っていく様子は、一聴に値する。更に、続く、五曲目の即興では、ラグタイムやニューオーリンズの古典的なジャズに回帰し、それを現代的に再解釈した演奏を繰り広げている。続く、六曲目では、ジャレットらしい伸びやかで洗練されたピアノ・ソロを楽しむことが出来る。

 

 そして、先にも述べたように、最後のアンコール曲では、フルートのソロ演奏に挑戦している。これもまた、このアーティストの遊び心を象徴する貴重な瞬間を捉えた録音である。楽曲的には、民族音楽の側面にくわえて、その当時、前衛音楽として登場したニュー・エイジ系の思想や音楽を、時代に先んじてジャズの領域に取り入れようという精神が何となく窺えるのである。


 この70年代前後には、様々な新しい音楽が出てきた。そういった時代の気風に対して、鋭い感覚を持つキース・ジャレットが無頓着であるはずがなく、それらの新鮮な感性を取り入れ、実際に演奏を通じて手探りで試していったのだ。いわば、彼の弛まぬチャレンジの過程がこのストックホルム・コンサートには記されている。また、後に、ジャズ・シーンの中でも存在感を持つに至るニュー・ジャズの萌芽もこの伝説のコンサートには見いだされるような気がする。

 

 


Soccer 96

 

Blue Note Recordsは、ロンドンの活気ある"Total Refreshment Centre"のコミュニティに所属する幅広いジャンルのアーティストをフィーチャーした新しいコレクション、『Transmissions from Total Refreshment Centre』を2月17日に発売すると発表しました。

 

このコンピレーションには、Byron Wallen, Jake Long, Matters Unknown, Zeitgeist Freedom Energy Exchange, Neue Grafik, Resavoirといったグループが参加しています。また、Soccer96が、MCのKieron Bootheをフィーチャーした「Visions」が最初の先行シングルとしてリリースされた。

 

 

Soccer 96 「Visions」

 

 


TRC(Transmissions from Total Refreshment Centre)は、Lex Blondel(レックス・ブロンデル)が設立した音楽スタジオであり、ロンドンのジャズ・シーンの重要拠点となっています。このTRCを取り巻くグループは、大陸や世代を超えてつながり、豊かな人間関係を生み出しています。  


さらに、このコレクションは、ニュースクール・ジャズ、ヒップホップ、ダブ、ソウル、ファンク、ドリルといった多彩なジャンルで構成されており、キングスランド・ロードを走る車から聞こえてくる音や、玄関から煙のように出てくる音など、様々なサウンドを聴くことができます。ロンドン、シカゴ、メルボルンのトッププレイヤーたちが、新しいコラボレーション、新しいやり方、新しい曲を探し求め、常に、「私たちは皆、お互いを必要としている」という真理に立ち戻っている。ブルーノートのこれまでのレーベル・カラーとはひと味異なる作品となっています。



Blue Note 『Transmissions From Total Refreshment Centre』

 




Label: Blue Note

Release: 2023年2月17日
 


Tracklist:

1. Soccer96 “Visions” featuring Kieron Boothe
2. Byron Wallen “Closed Circle”
3. Jake Long “Crescent (City Swamp Dub)”
4. Matters Unknown “Eloquence” featuring Miryam Solomon 
5. Zeitgeist Freedom Energy Exchange “Isa” featuring Noah Slee 
6. Neue Grafik “Black” featuring Brother Portrait
7. Resavoir “Plight”

1950年代、60年代のジャズは、ビバップ/ハード・バップが主流となり、この音楽形式が様式化しつつあった。その動向に対して出てきたムーブメントがフリー・ジャズだ。以前のラグタイムなどから引き継がれていたジャズのキャラクター性を形作る既存の調性やテンポをフリー・ジャズは否定しようとした。

 

この音楽が初めて70年代にジャズシーンに出てきた時、革新的な音楽に比較的寛容であったかのマイルス・デイヴィスですら、フリージャズに理解を示そうとはしなかったという。形式の破壊を意図する音楽は既にそれ以前の古典音楽において、無調音楽が出てきているが、ジャズも同じようにそれらの形式的なものを刷新する一派が出てきた。しかし、ジャズそのものが自由な精神に裏付けられた音楽と定義づけるのであれば、フリー・ジャズほどその革新を捉えている音楽は存在しない。

 

フリージャズは、その字義どおり、ジャズを形式や様式から開放する動きといえるが、最初期は、スイングを発展させたシャッフルに近いリズムと、調性音楽の否定に照準が絞られていた。これらは、ブルースに影響を受けたという指摘もあるが、 音楽的にはアフリカの民族音楽のように西洋音楽には存在しない前衛的なリズムを生み出すべく、複数のジャズ演奏者は苦心していたに違いない。このフリージャズの代表的な演奏家の作品を大まかに紹介していきましょう。

 

 

・Ornette Coleman(オーネット・コールマン)

 


 

テキサス出身のサックス奏者、Ornette Coleman(オーネット・コールマン)が 1959年に発表した「The Shape Of Jazz To Come」は、フリージャズの台頭を告げた作品であり、コールマンの代表作品に挙げられる場合もある。

 

もともと、オーネット・コールマンは独学で演奏を習得した音楽家であるため、カルテットでの演奏自体も即興性の強いが、「The Shape Of Jazz To Come」に見られる調性の否定、そして、それ以前のビバップ/ハード・バップの規則的なリズムの否定など、革新的な要素に富んでいる。

 

この作品の発表当時の反応は様々で、批評家からかなりの批判を受けた。その時代の価値観とはかけ離れた革新的の強い作品はおおよそこういった憂き目に晒される場合が多い。批判者の中には、マイルス・デイヴィスとチャールス・ミンガスも含まれていた。しかし、のちのフリージャズに比べると、古典的なジャズの性格を力強く反映している作品であることも事実である。 


 

 

 

 ・Eric Dolphy(エリック・ドルフィー)

 


Eric Dolphy(エリック・ドルフィー)はフルートの他にも、クラリネットとピッコロ・フルートを演奏した。当初は、ビバップ・ジャズの継承者として登場したが、のちにアヴァンギャルド・ジャズに興味を持つようになった。ドルフィーのフルートは、クラシックの影響を反映した卓越した演奏力と幅広いトーンを持つのが特徴である。36歳の若さで惜しくも死去したものの、生前、ジョン・コルトレーン、ミンガス、オリバー・ネルソンの録音に参加している。

 

オーネット・コールマンの最初のフリー・ジャズの発表から、およそ五年後に発表されたのが、フルート奏者、エリック・ドルフィーの1964年のアルバム『Out To Launch』である。一般的にはブルーノートの1960年代のカタログの中で、もっとも先進的なレコードと称される場合も。しかし、アルバムの冒頭は、ビバップの王道を行くような楽曲に回帰している。しかし、二曲目からは一転してアヴァンギャルドなリズムと無調に近いスケールが展開される。 



 

 

 

・John Coltrane(ジョン・コルトレーン) 



ジョン・コルトレーンはテナー・サックス奏者として、マイルス・デイヴィスのバンドの参加だけでなく、バンドリーダーとしても活躍している。後に、アリス・コルトレーンと結婚した。もちろん、「ブルートレイン」、「カインド・オブ・ブルー」、「マイルストーン」など数多くの傑作を残している。時代により、ビバップ、モード、ジャイアント・ステップスとその音楽性も変化しているが、フリー・ジャズの傑作としては1971年の「Ascent」が挙げられる。

 

この作品では、古典ジャズの巨人として挙げられるジョン・コルトレーンのサックス奏者としての意外な一面を堪能できる。コルトレーンらしからぬ前衛性の高い演奏が行われており、そして基本的なスケールを度外視したアバンギャルドな音楽性は今なお刺激的であり続ける。ビバップやモード奏法など、基本的な演奏法を踏まえ、それらを否定してみせることは、このプレイヤーが固定概念に縛られていない証拠でもある。バックバンドもかなり豪華で、マッコイ・タイナー、ジミー・ギャリソン、エルヴィン・ジョーンズが参加している。ジャズにおける冒険ともいうべき傑作の一つで、コルトレーンはサックスの演奏における革新性に挑んでいる。 





・Alice Coltrane(アリス・コルトレーン)

 

 

Alice Coltrane(アリス・コルトレーン)はラッキー・トンプソン、ケニー・クラーク、テリー・ギブスのカルテットの演奏者として活躍し、スウィング・ジャズに取り組んできた。コルトレーンと出会った後は、互いに良い影響を与え合い、スピリチュアルな響きを追求する。夫の死後は、バンドリーダーとしても活躍した。ファラオ・サンダースとの共作もリリースしている。

 

1971年に発表した五作目のアルバム「Universal Conscousness」は、フリージャズの未知の領域をオルガンの演奏によって開拓した作品である。スピリチュアルな音響は、時に、サイケデリックな領域に踏み入れる場合もあり。コルトレーンの演奏のエネルギッシュさが引き出された一作で、一見すると無謀な試みにも見えるが、モード・ジャズ、即興演奏、そして、構造化された構成要素を組み合わせて制作されている。エキゾチック・ジャズの元祖ともいうべき作品で、エジプトやガンジスといった土地の歴史文化の神秘性が余すところなく込められている。 


 

 

 ・Sun Ra(The Arkestra)


 


 

 ラグタイム、ニューオリンズのジャズサウンド、ビバップ、モード・ジャズ、フュージョン、と能う限りのジャンルに挑戦してきたサン・ラ。奇想天外なアバンギャルド・サウンドを通じて宇宙的な世界観を生み出した。アフロ・フューチャリズムのパイオニアとも見なされる場合もある。その他にも、ブラジル音楽や民族音楽等、多岐にわたるジャンルを融合した。電子キーボードをいち早く導入し、The Arkestraを結成し、前衛的な音楽活動を行ったことでも知られる。


Sun Raのフリージャズの音源としては、The Arkestraのライブアルバム「It’s After The End Of The World」が挙げられる。1970年にドナウエッシンゲンとベルリンで録音された音源で、即興演奏そのもののスリリングさ、そしてエネルギッシュな演奏を楽しむ事ができる。

 

 

 

・Barre Phillips(バール・フィリップス)

 



フリー・ジャズの開拓史の中にあり、ブルーノートや他の名門レーベルと共にこのジャンルに脚光を当ててきたのが、マンフレッド・アイヒャーが主宰するドイツのECMである。そして、このレーベルのフリー・ジャズの作品の中で聴き逃がせないのが、伝説的なコントラバス/ウッドベース奏者、Barre Phillips(バール・フィリップス)の1976年の「Mountainscapes」である。バール・フィリップスは、カルフォルニア出身で、1960年でプロミュージシャンとしてデビューする。62年からニューヨーク渡り、その後、70年代にはヨーロッパに移住した。ジャズの即興演奏の推進者として活躍し、さらに2014年には、European Improvisation Centerを設立している。

 

「Mountainscapes」は、サックスの奇矯なサウンドにも惹かれるものがあるが、フィリップスのコントラバスの対旋律の前衛性はこの時代の主流のスタンダードなジャズとは相容れないもので、その存在感は他の追随を許さない。フリー・ジャズ史にあって、ベースの演奏の迫力が最も引き出された傑作である。フリー・ジャズとはいかなる音楽なのか、つまり、その答えはほとんど「Mountainscapes」に示されている。ダイアトニック・コードの否定、リズムの細分化、そして破壊、既成概念に対する反駁とはかくも勇気が入ることであるということが痛感出来る。


変奏形式のアルバムであるが、熱狂性と沈静の双方の要素を兼ね備えたメリハリあるサウンドを味わうことが出来る。特に、ウッドベースとサックスの白熱したセッションが最大の魅力であるが、このアルバムでのサックスは日本の伝統楽器である笙に近い音響性が追究されている。 


 

 

 

上記の様々な演奏家の音源を聴いてみるとよく理解できるが、これらの芸術家たちはリズムの変形やダイアトニック・スケールの否定等、ジャズの古典的な要素をあえて否定してみせることで、様式化したジャズの演奏や作曲に新しい活路を見出そうと模索していた。そして、これがジャズミュージックが陳腐になることを防いだにとどまらず、後の時代に一般化される”クロスオーバー”の概念の基礎を構築する。コールマン、コルトレーン、サン・ラ・バール・フィリップスといった上記のジャズの巨人たちの偉大なチャレンジ精神は、実際、現在もジャズが最新鋭の音楽でありつづけることに多大な貢献を果たしており、この事は大いに賛美されるべきだ。



こちらの記事もあわせてご一読下さい:


ミシェル・バスキア   モダンアートにおけるビバップジャズとの意外な共通点 

 Leland Witty  『Anyhow』


 

 

Label:  Innovative Leisure

Release: 2022年12月9日



Review

 


近年のジャズシーンに、飛びきり風変わりなサックス奏者が出てきた。カナダ・トロントを拠点に活動するレランド・ウィッティだ。これまでのジャズ・シーンでは、1つの楽器をとことん一生涯を通じて追究するタイプの演奏家が一般的な支持されてきたように思えるが、その流れは今後少しずつではあるが変わっていくかもしれない。少なくとも、ウィッティは自由性の高いプレイヤーである。この四作目のアルバム『Anyhow』において、基本的な演奏楽器はテナー・サクスフォンではあるが、バイオリン、シンセ、ギター、木管楽器と複数の楽器をレコーディングで演奏しており、マルチ・インストゥルメンタリストとしての才覚が伺える。彼は、Abletonにギターの短い録音を送り込み、多角的なジャズ・サウンドを探究している。




2020年、映画音楽のスコアを手掛けた後、レランド・ウィッティはこの四作目の制作に着手したという。そして、即興演奏をどのように洗練されたプロダクトとして仕上げるのか、プロデューサーとして思考を凝らした痕跡も見受けられる。そして、プレスリリースによれば、それらの即興演奏の中にある物語性をどのようにして引き出すのかに重点が置かれている。いまや時代遅れの言葉となりつつあるジャズ・フュージョンの名は今作の音楽を端的に表する上で最もふさわしい形容詞となる。しかし、本作のジャズは新鮮味を感じさせるもので、エレクトロとジャズ、映画音楽のように叙事的な音楽を独自の視点から解釈するという面において、ノルウェーのエレクトロ・ジャズバンド、Jaga Jaggistのように、ジャズの近未来を予感させる内容になっている。サウンドは徹底して磨き上げられ、逆再生のループなど細部に至るまで緻密に作り込まれているが、それらの緊張感のあるサウンドは、ウィッティのサクスフォンの独特な奏法によって精細感を失うことはほとんどない。



 

作品の全編には、電子音楽とジャズ、その他にも、プレグレッシヴ・ロックやポップスを内包したサウンドが展開されている。それらの楽曲に説得力をもたらしているのが、レランド・ウィッティ自身のサックスの卓越した演奏力である。自身のサックスの演奏をある種のサンプリングのように見なし、音形を細かく刻んで繋ぎ合わせ、リバーブ/ディレイなどを施してダブ的な効果をもたらすという面では、ブライアン・イーノとの共同制作でお馴染みのトランペット奏者、Jon Hassel(ジョン・ハッセル)の手法に通じるものがある。今作の音楽の核にあるものをアンビエントやニューエイジと決めつけることはできないが、ジョン・ハッセルがかつてそうであったように、その楽器の音響における未知の可能性を、レランド・ウィッティも今作において見出そうとしているように感じられる。しかし、それはもちろん、この奏者がサクスフォンという楽器の音響の特性を把握しているから出来ることであり、演奏自体をごまかしたりするような形で過度な演出が加えられているわけではない。レランド・ウィッティの演奏は伸びやかであり、目の覚めるような意外性に富んでいる。とにかく、聴いていて心地よいだけでなく、トーンの繊細な揺らぎによって意外性を感じさせるのが彼の演奏の特性と言えるかもしれない。



 

アルバム全体には確かにプレスリリースに書かれている通り、何らかのドラマ性や物語性が内包されているように思える。しかしそれは非常に抽象的であり、一度聴いただけでその正体が何なのか把握することは難しい。そして、作品全体に満ち渡る叙情性と神秘性も最大の魅力に挙げられる。作曲の技術の高さ(細かな移調を連続させたり、ループなどを駆使している)については群を抜いており、ハンバー・カレッジで学んだ体系的な音楽の知識にとどまらず、実際のセッションにおける生きた音楽の経験、映画音楽の制作経験の蓄積が生かされているように見受けられる。

 

それらは、流動的なセッションの音の流れやグルーヴを綿密に形成し、ハイセンスな電子音楽のバック・トラックと相まって前衛的な音楽性として昇華されている。かといって、技法に凝るというわけでもなく、各楽曲にはLars Horntveth(ラーシュ・ホーントヴェット)の書く曲のようにユニークさが滲み出ている。



これらをこのミュージシャンの人物的な面白さと決めつけるのは暴論といえるが、少なくとも、古典的なジャズ、クラシックを踏まえた上で、それを新しい音楽としてどのように組み上げていくのかに焦点が絞られている。そして、この点がアルバムそのものに多様性を与え、さらに聴き応えあるものとしている。これまでニューエイジ、エキゾチック、ニュー・ジャズ、様々な開拓者がシーンには登場してきたが、カナダ・トロントのサックス奏者、レランド・ウィッティも同様にジャズのまだ見ぬ魅力を伝えようとしている。

 


92/100

 

 

  



 

 

 Leland Witty

 

レランド・ウィッティは、Badbadnotgoodのメンバーとして最も有名なサックス奏者、マルチインストゥルメンタリスト。

 

コーチェラ、グラストンベリー、ケープタウン・ジャズ・フェスティバル、ロスキレ・フェスティバル、ジャカルタ国際ジャワ・ジャズ・フェスティバルなど、世界各地のフェスティバルで演奏している。

 

パフォーマンスやプロダクションを通じて、Kendrick Lamar、Tyler the Creator、Ghostface Killah、Snoop Dogg、Colin Stetson、Mary J. Blige、Camila Cabelo、Earl Sweatshirt、Frank Dukes、Kaytranadaらと仕事をしてきた。現在、ツアーと制作・作曲の仕事を分担している。

 

レランド・ウィティは、トロントを拠点とするバンドBADBADNOTGOODに7年間所属している。彼は2015年にBBNGに加入したが、全員がハンバー・カレッジのジャズ・プログラムで学んでいた2010年にこのグループと出会っていた。

 

バンドが3枚目のアルバムを出した後にラインナップの再編成を決めた際、アレクサンダー・ソウィンスキー(ドラムス)、チェスター・ハンセン(ベース)、マシュー・タヴァレス(キーボード)がサックスとギターでカルテットを完成させるためにWhittyにアプローチしてきた。Whittyは、Charlotte Day Wilson, Kali Uchis, Kendrick Lamar, Ghostface Killah, Snoop Dogg, Mary J. Blige, Earl Sweatshirt, Kaytranadaなどのアーティストとも仕事をしている。




チャールズ・ロイドは遂にトリオ三部作を完結させた。60年以上にわたり、この伝説的なサックス奏者兼作曲家は音楽界に大きな影響を及ぼしてきたが、84歳になった今も彼は相変わらずの多作ぶりを見せている。


音の探求者であるロイドの創造性は、彼の最新の代表作、異なるトリオのセッティングで彼を表現する3枚の個別アルバムを包含する拡張プロジェクト、トリオ・オブ・トリオ以上に発揮されることはないと思われる。


最初のアルバム「Trios: Chapel」では、ギタリストのビル・フリゼールとベーシストのトーマス・モーガンと共にロイドをフィーチャーしています。2枚目はギタリストのアンソニー・ウィルソンとピアニストのジェラルド・クレイトンとの「Trios:  Ocean」。3枚目は、ギタリストのジュリアン・レイジとパーカッショニストのザキール・フセインとの「Trios:Sacred Thread」となる。


かつて故ジョーン・ディディオンが指摘したように、ほとんどの個人の声は、一度聞けば、美と知恵の声であることがわかる。ロイドはその典型です。1980年代にツアーとレコーディングに復帰し、高い評価を得て以来、彼の演奏はますますスピリチュアルとしか言いようのない要素を獲得し、聴く者を彼の音楽に引き込む実存的な要素を持つようになった。気取らず、知的すぎず、ロイドが「私たちの土着の芸術形式」と呼ぶものを創り上げた偉大なジャズの長老たちの伝統を尊重しており、「シドニー・ベシェ、ルイ・アームストロング、デューク・エリントン、プレッツ、レディ・デイ、バード、そして現代人たち」のような人物を挙げている。テイタム、トラン、ソニー、オーネット、モンク、マイルズといった現代人が彼の道を照らしてくれた。


10代の頃、ブルースの巨匠たち、ボビー・ブルー・ブランド、ロスコー・ゴードン、ハウリン・ウルフ、B・B・キング、ジョニー・エースと一緒に演奏した時の経験が、私のルーツになっています。多くのミュージシャンが演奏できるのに、彼らの音楽はバンドスタンドから離れない。それが僕にとって大きな教訓になった」


例えば、『The Sacred Thread』は50年代後半に生まれたものであり、その原点となった出会いは、ロイドの音楽において過去の経験が現在を照らし出すことが多い。「南カリフォルニア大学で勉強していたとき、ラヴィ・シャンカールとアッラ・ラーカがよく来ていたんだ。 「音楽だけでなく、タゴールのような詩人やミラレパのような聖人も。その後、ラマクリシュナやヴェーダンタに出会いました。また、サロード奏者のアリ・アクバル・カーンにも深い感銘を受けました。彼の息子のアシシュとプラネシュは、私のアルバム『ギータ』に参加しています」。1973年に発売されたこのアルバムは、ビルボード誌で「インド音楽が自由な流れのモダンジャズと巧みに融合している」と評された。


「ジョン・マクラフリンがUCLAでのコンサートに私を招待してくれた。ジョン・マクラフリンの音は美しく、私は彼らが一緒に作っている音楽にとても感動しました。ザキール(・フセイン)のタブラを聴いて、ハウリン・ウルフに戻ったんだ。どうやったら、その例えができるのか、ジャンプできるのかわからないけど、若い頃ハウリン・ウルフと演奏したとき、私は震えたんだ。ザキールとは2001年に初めてコンサートで共演したのですが、その時、USCでラヴィ・シャンカールと共演しているのを見たアラ・ラーカが彼の父親であることを知りました。それをプロビデンスと呼ぶこともできるし、私はそれをセイクリッド・スレッドと呼んでいる」


   


2020年9月26日、パンデミックの真っ只中、ロイドはカリフォルニア州ソノマ郡のワインカントリー、ヒールズバーグのThe Paul Mahder Galleryでバーチャルオーディエンス向けのコンサートをストリーミング配信した。フサインとギタリストのジュリアン・ラージが加わり、ロイドは「ミュージシャンと観客の間のエネルギーや交流がなくなる一方で、拍手によって中断されることのない集中力と集中力がある」と観察している。


「彼はヒールズバーグからそれほど遠くないところで育ち、天才と呼ばれていた。彼は大きな耳を持っていて、私は彼の可能性を聞き出した。彼はまだ若く、その耳は大きくなるばかりです。だから、私は自分の道を見つける魂に祝福され続け、今でも高いワイヤーに乗り、空を飛ぼうという気にさせられるんだ」


トリオ・オブ・トリオス3部作の最終幕となる「Trios:Sacred Thread」は、パーカッションとヴォーカルを使用した唯一のアルバムである。


フセインのタブラと声は、音楽的、感情的な雰囲気を一変させ、エキゾチックなスパイスのように、インド亜大陸の強い音楽の香りを加えてくれる。「ザキールの声を聴くのが大好きなんだ」とロイドは言う。「僕らの音楽に魅惑的な響きを与えてくれるんだ」。ロイドは、インドのラーガや音階を演奏するのではなく、Geetaで行ったように、即興演奏を通してインド音楽とアメリカのジャズとの共通点を探っている。テナーサックスよりもアルトフルート、そしてタロガトーという哀愁を帯びた木管楽器に頼りながら、フセインはタブラ(通常4〜5種類の大きさのタブラとカントラ)を駆使して音楽の波と流れを媒介するのである。


ロイドのテナーサックスでムード、テンポ、キーが決まる「Desolation Sound」では、ラージのハーモニックスの使い方が完璧で、そのあとロイドが再びアルトフルートに入り、軽い音色で音楽のムードを盛り上げる。フセインの歌声を紹介するエピソードに入ると、グループのダイナミックさが一変する。「グマン」は "グル "へのプラナム、「ナチェキータの嘆き」へとテンポを変え、タラガトーの音色に声が響くようになる。音楽、芸術、知恵の女神であるサラスワティへの献身を歌った "サラスワティ "ではフセインの声が雰囲気を和らげ、ロイドが再びフルートを担当した "クティ "ではラゲの巧みな介入を促している。


「ルミの物語」はフセインのタブラとカンジラのソロをフィーチャーしたものである。タブラはドラムの音の中で最も表現力が豊かな楽器として知られ、32音という幅広い音色を持つが、フセインはこれを見事に使いこなしている。テナーのロイド、ギターのラゲとともに、音楽の沈黙を「演じる」ことを恐れず、Sacred Threadの本質をとらえるような瞬間を創りだす。ロイドの「The Blessing」は、1983年7月のモントルー・ジャズ・フェスティバルでピアノのミシェル・ペトルチアーニと録音したもので、雄弁でありながら控えめな、魅力的なコンサートのクライマックスとなる曲である。


トリオ3部作の演奏を振り返り、ロイドは次のような洞察を述べている。


「その音(ノート)を探す中で、私たちの個性が普遍性と融合し、いつのまにか出会っている。その固有性はとても強力であり、私たちが知っている世界を青ざめさせる。"絶対的なものの中にいたのに、相対的なものに戻るのはそう容易いことではない "と。興味深いことに、アポロ12号で月面を歩いたアラン・ビーンもまた、絶対的な世界に行った体験について、それはあなたを変えるのではなく、あなたが誰であるかを明らかにするんだ、と言っているんだ」





 Chales Lloyd 『Trios: Sacred Thread』



Label: Bluenote

Release: 2022年11月18日


 Official-order:


https://charleslloyd.lnk.to/TriosSacredThreadID

  

Matthew Halsall

 マンチェスターのジャズ・ミュージシャン/トランペット奏者、Matthew Halsall(マシュー・ハルソール)は、今年すでに1枚の美しいEPをリリースしており、今回も4曲入りのミニアルバムまたはEP『The Temple Within』を発表してくれた。(レビューはこちらでお読みいただけます)

 

『The Temple Within』の音楽は、マンチェスターの”Yes”で毎月行われているバンドのジャズセッションのエネルギーから生まれたものだが、『Changing Earth』はより瞑想的でスピリチュアルな作品に仕上がっている。


「Changing Earthの曲を書いたとき、気候変動や人類と自然との関係、そして私たちが環境にもたらした変化について深く考えていた」とハルソールは述べている。「私たちの世界は私たちの周りで変化しており、私たちが共有する歴史の中で暗く不安な時期ですが、それでも私たちは一緒に物事を良い方向に変え、調和のとれた解決策を見つけることができると信じています」


本日、この新作EPから公開されたタイトル曲の「Changing Earth」は、バンド全体、特にフルートのMatt CliffeとハープのMaddie Herbertの素晴らしい演奏をフィーチャーしたソウルフルで高揚感のあるグルーバーである。さらに、「Positive Activity」は、Matthaw Halsallの最も魅力的な曲の一つで、Gavin Barrasの催眠的なベースラインを中心に構成されており、メロディーは悲しげでありながら高揚感と希望に満ちており、ハーピストのHerbertがここでも明るく輝いている。

 

「Yogic F」もソウルフルで高揚感のある曲で、ハルソルとパーカッショニストのジャック・マッカーシーが私たちを超越的な上への旅に連れて行ってくれます。この曲はハルソールの真骨頂とも言える曲で、輝くハープと崇高でソウルフルな聖域がバンド全体、特にサックス奏者のマット・クリフの美しい演奏によって高められています。


『Changing Earth』は、マシュー・ハルソールのトランペットとエレクトロニクス、マット・クリフのフルートとサックス、マディー・ハーバートのハープ、リヴィウ・ゲオルゲのピアノ、ギャヴィン・バラスのベース、アラン・テイラーのドラム、ジャック・マッカーシーのパーカッションが参加しています。

 

新作EP『Changing Earth』は前作と同様、Gondwana Recordsから12月2日に発売される。本作は、マシュー・ハルサルとダニエル・ハルサルがプロデュース、マシュー・ハルサルがレコーディングを行い、グレッグ・フリーマンがミックス、テクノロジー・ワークスのピーター・ベックマンがマスタリング、キャリックスのノーマン・ニッツシェがバイナルカットを担当した。アートワークは、The Designers RepublicのIan Anderson(イアン・アンダーソン)が手掛けています。

 

 

 


Matthew Halsall 『Changing Earth』

 



Label: Gondwana 

Release: 2022年12月2日

 


Tracklist:

 

1.Positvive Activity

2.Changing Earth

3.Yogic Flying

4.Upper Soace

 Ezra Collective 『Where I’m Meant To Be』

 


 Label: Partisan

 Release:2022年11月4日



Review 

 

 

ロンドンのジャズ集団、エズラ・コレクティヴは、近年、 盛り上がりつつあるロンドンのジャズシーンの熱狂を象徴するようなクインテットである。彼らは、エズラ・コレクティヴとしてだけでなく、他のジャズバンドでも演奏しているのでスーパーグループと見なされる場合もあるようだ。

 

エズラ・コレクティヴの音楽は大まかにNu Jazzに属すると思われるが、その中にもこのグループの人種を問わない構成からも分かるように、多様性に富んだ内容となっている。レゲエ、アフロ・ビート、アフリカンミュージック、ネオ・ソウル、ヒップホップ、さらには、UKガラージ、ベースラインにいたるまで様々な国々の音楽を吸収し、これらの要素をセンスよくニュージャズの中に取り入れている。

 

とりわけ、この五人組の中で、ひときわ強い存在感を放っているのが、ドラマーのモーゼズ・ ボイドだ。彼は、なんと、ナイジェリア出身のアフロビートの始祖、Fela Kutiのバンドで活躍したトニー・アレンにドラムの手ほどきを受けた、言わば、ドラム奏者として一廉の人物である。このボイドの生み出すドライブ感抜群の超絶技法のドラムをもとに、TJ Koleosoが凄まじいグルーブ感を保つベースラインを加わることで、アンサンブルとしての骨格が出来上がっている。個人的な意見としては、この二人のリズム奏者は、格式あるモダン・ジャズシーン全体を見渡しても、世界最高峰の技術を擁していると思われる。もちろん、ベースとドラムだけで十分演奏自体はスリリングなのだが、これらの堅固な土台に、軽やかで、陽気な、サックス、トランペット、ピアノが加わることにより、ロンドンの最新鋭のジャズ・グループ、エズラ・コレクティヴの音楽は完成に導かれるのである。

 

最初期のエズラ・コレクティヴの音楽性は、Nu Jazzの領域にありながら、レゲエの要素が強かった。そして、この最新作では、「Togertheness」、「Ego Killah」ではその影響が若干残っているが、レゲエやアフロ・ビートの要素が少しだけ弱められ、ヒップホップや、ベースライン、ダブの流動的なリズムを押し出した作風となっている。基本的には、即興演奏をもとにしたジャズ曲としてのキャラクター性が強いが、ザンビア出身のラッパー、Sampa The Great.Kojey Radicalら、秀逸なラップアーティスト、さらに、UKのシンガーソングライター、Emeli Sandeのゲスト参加により、ボーカル・トラックがインスト曲の合間に導入されることで、アルバムのアートワークからも見えることではあるが、華やかで陽気な雰囲気を持つ作品に仕上がっている。

 

 エズラ・コレクティヴのメンバーは、最新作『Where I’m Meant To Be』において、ロンドンの最新鋭のジャズと、アフリカの音楽性を架橋するような作風を志したと説明しているが、他にもこのアルバムには、ラテン・ミュージック、特にカリブ音楽の影響が色濃く反映されており、それらが彼らの音楽性の根幹にあるアクの強いアフロビートと見事に合体を果たしている。常に、エズラ・コレクティヴの演奏は、最初のモチーフのようなものをバンドのセッションを通じて即興的に転がし、流麗な展開を形作って曲の構想を発展させていき、誰も予測のつかない着地点を曲のクライマックスで見出す。そして、このアルバムの楽曲の展開は、スリリングとしか言いようがない。エズラ・コレクティヴのメンバーは、ジャズの基本の型であるコールアンドレスポンスを通じて、彼ら五人は楽器で軽やかに会話をし、さらにそれらの会話を、大きな構成を持つ楽曲へと昇華させているのだ。

 

アルバムの中には、「No Confusion」「Words By Steve」の二曲に、語りのインタルードが導入されているが、これらが、キャッチーな印象を持つラップソング、ポップス/ソウル、そして、エズラ・コレクティヴの音楽性の基礎であるニュージャズの楽曲の中に、ストーリー性を付け加えている。今作において、エズラ・コレクティヴは、演奏の面白みを追求するだけではなく、万人に親しめる音楽性を示しつつ、音楽の持つ文学性や物語性を掘り下げようとしているように見受けられる。そして、それらを実際のセッションだったり、ボーカリストとの白熱した共演を通じ、このグループの最大の魅力である多様性をもとに一つのアルバム作品として組み上げているのだ。

 

 特に、このスーパーグループの演奏の超絶技法、即興演奏におけるクリエイティビティが最大限に高められているのが「Belonging」だ。この曲では、ベースとドラムの演奏技術の力のみで曲が最後まで牽引されていくが、中盤から変拍子を巧みに駆使し、ピアノの即興演奏、ホーンセクション、パーカッション、ストリングスを交え、スリリングな展開に繋げていく。それに加えて、アフリカの民族音楽のメロディーも卒なく取り入れられ、最後には予測のつかない華やかなエンディングが待ち受けている。

 

その後に続く「Never The Same Agein」で、エズラ・コレクティヴは、エキゾチックジャズの新境地を勇猛果敢に開拓してゆく。イントロの哀愁あふれるピアノのフレーズから陽気で心楽しいカリブ音楽へ一挙に様変わりし、ジャズのアンセミックな響きを持つ、言わば、ダイナミックな展開へ導かれる。この刺激的なライブセッションにこそ、最新作『Where I’m Meant To Be』の最大の迫力が込められており、エズラ・コレクティブの晴れやかなジャズ・スピリットの真骨頂が体感出来る瞬間となるだろう。


ロンドンのジャズ・クインテット、エズラ・コレクティブは、この最新作においてさらなる進化を遂げ、既存の作風を軽やかに超越し、ニュージャズの次なるフィールドに歩みを進め始めている。本当に見事だ。

 

 

86/100



Featured Track「Never the Same Again」

 

Ezra Collective ©︎Aliyah Otchere


11月4日(金)に発売される新作アルバム『Where I'm Meant To Be』に先駆け、 Ezra CollectiveがKojey Radicalとのコラボレーション曲「No Confusion」を公開しました。

 

「No Confusion」は、Douglas Bernardtが監督したビデオと合わせて公開された。"Ego Killah"、Sampa The Greatをフィーチャーした "Life Goes On", "Victory Dance "に続く『Where I'm Meant To Be』の第4作目の先行シングルとなっています。


バンドリーダーのフェミ・コレオソは、故トニー・アレンへのオマージュであるこのシングルについて、「トニーおじさんのドラムレッスンは、僕の人生だけでなく、エズラ・コレクティブの人生をも変えたんだ」と語っています。トニー・アレンはナイジェリアのミュージックシーンの英雄であり、フェラ・クティの右腕として活躍した。

 

「彼が教えてくれた最も貴重なことは、常に自分自身であれ、ということだ。自分が自分であること。自分が何者であるかを誇りに思え。自分が本当にあるべき姿であるとき、混乱はないのです。

 

Fela Kuti(フェラ・クティ)の "Confusion "は、トニーおじさんが録音した唯一のドラムソロで、他の誰も演奏することができなかったものです。このトラックは、まさに私たちそのものです。バンドとして自分たちが何者であるかということを本当に理解しているところにいるんだ。"No Confusion "だよ」


『Where I'm Meant To Be』は、エズラ・コレクティヴの2019年デビュー・アルバム『You Can't Steal My Joy』に続く作品で、エメリ・サンデやナオとの新たなコラボレーションを収録予定となっている。

 


 

Kojey Radicalをフィーチャーした "No Confusion "は現在発売中です。Ezra Collectiveは11月4日(金)にPartisan Recordsからアルバム『Where I'm Meant To Be』をリリースする予定で、現在予約受付中。

Tom Sinner

 The Smile/Sons of Kemetに在籍、そして、作曲家/プロデューサーとしても活躍するTom Skinner(トム・スキナー)がソロアルバム『Voices of Bishara』に収録される新曲「The Journey」を公開しました。


この曲はロンドンのチェルシー地区にあるセント・ルークス教会で撮影されたライブ映像とともに公開されています。Tom Herbert(アコースティックベース)、Kareem Dayes(チェロ)、Chelsea CarmichaelとRobert Stillman(テナーサックス)、Paul Camo(サンプル)が出演し、かなり刺激的なセッションとなっています。こちらも合わせて下記よりご覧ください。


新作アルバム『Voices of Bishara』は、11月4日に、Brownswood/International Anthem/Nonesuchからリリースされる予定です。以前、Tom Skinnerは、このアルバムの先行トラック「Bishara」を公開している。

 

 

「The Journey」


 

 

 

「The Journey Live at the St.Lukes Church」 

 

 


 

オーストラリアのジャズ・ファンク・バンド、Surprise Chef(スーパー・シェフ)は、ブルックリンの”Big Crown Records”と契約を結び、最新アルバム『Education & Recreation』をリリースすると明らかにしている。

 

『Education & Recreation』は10月14日にリリースされる予定。アルバム前の最新シングルとして、軽快なグルーヴの 「Iconoclasts 」が公開された。この曲は、LPのための8日間の集中レコーディングの最後、バンドが落胆して、ため息をつきそうになっていたことを反映しているという。

 

「この曲はレコーディングの約1年前に書いたものなんだけれど、当時はそのアイデアを実質的なものにアレンジするのにかなり苦労していた」と、バンドのLachlan Stuckey(ラクラン・スタッキー)は語っている。

 

「その時、僕らの精神状態は不安定で、スタジオで曲を組み立てようとしたんだけど、またしても上手くいかなかった。

 

でも、ありがたいことに、パーカッショニストのHudson Whitlock(ハドソン・ウィットロック)と、レコーディングエンジニアのHenry Jenkins(ヘンリー・ジェンキンス)は、当時の僕達よりも曲の形式を理解してくれていた。彼らはバンドの曲を仕上げるために曲のある部分の文脈をより深く掘り下げ、洗練性を高めてくれたんだ」


ニューシングル「Iconoclasts」は、子守唄のようなキーボードで始まり、柔らかいギターリフとともに、ヒップホップに近い独特のグルーヴに曲調を移行させていく、という内容となっている。

 

「この曲は、レコーディング中に個性的なエネルギーを持つようになった。それは、私たちが非常に苦心していたことと、この曲を完成させたらセッションを終了しても良いというような最後のひと押しのような考えがあったからなんだと思っている」

 


昨年まで、トム・スキナーはSons Of Kemetのドラマーとして、またロンドンのクリエイティブなジャズシーンで最も多作なミュージシャンの一人として知られていました。この1年ほどの間に、スキナーはさらに有名になった。

 

彼はRadioheadのThom YorkeとJonny Greenwoodと共にSmileを結成し、そのバンドは素晴らしいデビューアルバム「A Light For Attracting Attention」をリリースした。(Skinnerは今日リリースされたばかりのBeth Ortonのニューシングル "Fractals "にも参加している)。そして今、スキナーはその作品に続いて、自身のニューアルバムを発表する。


この秋、トム・スキナーは新しいソロ・アルバムをリリースすると発表しました。『Voices of Bishara』は11月4日にNonesuch/International Anthem/Brownswoodからリリースされます。


スキナーは、シャバカ・ハッチングス、ヌビヤ・ガルシア、カリーム・デイズ、トム・ハーバートなど、ジャズ界の大物ミュージシャンとともに、このアルバムをレコーディングしている。スキナーは、オープニングトラック「Bishara」を公開しました。


この曲は、ムーディーに始まり、途中でフリージャズ性が一挙に噴出し、その緊張を解き放つものです。


アルバムタイトルは、チェリストAbdul Wadudの1978年のソロアルバム『By Myself』にちなみ、WadudのレーベルBisharraからプレスされ、アラビア語で「良い知らせ」「良い知らせの持ち主」という意味だそうです。


"このレコードは、不正直さと偽情報が増加する時代に、コラボレーションとコミュニティを通じて、何か真実のものを世に送り出す試みである "と、トム・スキナーは声明で述べています。


「ビシャラは良い知らせをもたらす人という意味であり、このアルバムに参加するミュージシャンは私にとって非常に大切な人たちだ。私たちはこの考えに敬意を表し、暗闇が広がっているところに集団で光を広げるつもりでいる」


以下より、「Bishara」の試聴と、アルバムのトラックリストをご覧ください。





Tom Skinner 『Voices of Bishara』




Label: Nonsuch/International Anthem/Brownswood Recordings
 
Release: 2022年11月4日 



Tracklist:


1 “Bishara” 
2 “Red 2” 
3 “The Journey” 
4 “The Day After Tomorrow” 
5 “Voices (Of The Past)” 
6 “Quiet As It’s Kep

Matthew Halsall 『The Temple Within』EP
 


 

Label:    Gondowana Records

 

Release:  2022年8月26日


Listen/Buy



Review


マンチェスターを拠点に活動するトランペット奏者、Matthew Halsallの最新EP『The Temple Within』は、2020年に発表されたフルアルバム「Salute to the sun」の後、イングランド北部で行われた刺激的なセッションを元にして生み出されたモダン・ジャズの傑作です。

 

このアルバムのタイトルは、ジャズの巨匠アリス・コルトレーンの言葉に因んでおり、教会や修道院、アシュラムのレンガやモルタルではなく、自分の精神の中に空間があるという意味が込められています。


レコーディング・セッションでは、ハルソールが当時結成したばかりの地元ミュージシャンを起用し、毎週のリハーサルとマンチェスターのYesでの月例レジデンスに集った。彼らは、スピリチュアル・ジャズ、英国ジャズの伝統、進歩的なワールドミュージック、エレクトロニカの影響を受け、共同作業のサウンドを作り出しました。この月例セッションに触発され、彼らは北イングランドの文化に根ざしながら、グローバルなインスピレーションを引き出した音楽を作り上げていきました。Halsallにとって、『The Temple Within』の音楽は、これらのセッションの精神を完璧に捉えています。ハルソールはこのアルバムについて以下のように説明しています。


「バンドとしてだけでなく、地元のコミュニティとのつながりができたことに、とても興奮したんだ。毎月のセッションには、さまざまな年齢層の人たちが集まってきます。


そして、この音楽は、まさにその典型です。私にとっては、本当に完璧な音楽のポケット、完璧な瞬間のように感じます。アルバムにすることも考えたんだけど、結局はこのままがいいし、この瞬間のエネルギーを、ライヴにいる人たちだけでなく、世界中のファンやリスナーなど、より広いコミュニティと共有したかったんだ」

 

 

このEPでは、ハルソールのトランペットが先導役をつとめ、その他にも、ピアノ、フルート、サックス、ハープ、エレクトロニクス、パーカーション、ドラムと様々な楽器がセッションの中に取り入れられています。2000年代から、アフリカ、アジア、他にもイスラム圏の音楽文化を取り入れたエキゾチック・ジャズの潮流を形成する一派がジャズシーンに出てきましたが、ハルソールとセッションメンバーはこれらの流れを汲んだ西洋的なジャズとは異なるアプローチに取り組んでいきます。オープニングトラック及びタイトルトラックでもある「The Temple Within』ではアフリカの民族音楽のリズムを大胆に取り入れ、他にもシタールの響き、リズミカルなピアノが導入され、そこにハルソールのノルウェージャズのアプローチのように枯れたミュートを取り入れたハルソールのトランペットの卓越した演奏技法がキラリと光る一曲となっています。

 

「Earth Fire」は、ハープの前衛的なトリルの技法を導入した楽曲で、マシュー・ハルソールは一曲目と同じように、リード的な立ち位置でセッションメンバーの演奏を牽引していきますが、彼のスタイリッシュなソロを通じて、ピアノ・ソロ、 ダイナミックなドラムソロと複数の楽器パートへリードの引き渡しが行われ、英国内のジャズシーンの洗練性を引き継いだモダン・ジャズの刺激的なライブセッションが繰り広げられ、演奏を目の前で見ているかのような迫力を堪能することが出来ます。

 

上記二曲のモダン・ジャズの雰囲気から一転し、三曲目の「The Eleventh Floor」では、イントロの銅鑼のパーカッションが印象的で、アラビア風の音階(スケール)を大胆に取り入れられています。ここでは、一曲目よりもシタールの響きが効果的に導入され、ハルソールの演奏は艷やかさに溢れ、さらに東洋的なエキゾチズムを演出し、2000年代、一時期隆盛を極めたエキゾチック・ジャズの領域にセッションメンバーは踏み入れています。そういったアジアンテイストな雰囲気のシークエンスが繰り広げられる中、マシュー・ハルソールのトランペットのレガートの演奏は高らかで伸びやかであり、マイルス、エンリコ・ラヴァといった巨匠の演奏に象徴されるモダン・ジャズの流れを汲んだダイナミックなブレスの演奏が繰り広げられていきます。

 

このミニアルバムの中で特に聞き逃す事が出来ないのが4曲目収録の「A Japanese Garden in Ethiopia」で、題名にも表れている通り、日本の「四七抜き」音階を取り入れた落ち着いた侘び寂びの雰囲気を演出する。ハルソールのトランペットは、日本の民族音楽楽器の尺八のような枯れた響きを導入し、さらにハープのグリッサンドの劇的な使用は、 四度、七度の音階を避けていることもあってか、大正琴のような艷やかで色彩的な響きをもたらすことに成功しています。この曲で、ハルソールは、ノルウェー・ジャズのトランペット奏者、アルヴェ・ヘンリクセンのように、トランペットの前衛性を追求した最新鋭の演奏技法を組み入れていることに注目です。

 

マシュー・ハルソールは、プレスリリースを通じて、この作品をフルアルバムにすることも念頭においていたものの、これくらいの長さがちょうどよいと感じた、との趣旨の説明を行っていますが、それらのコンパクトに企図されたジャズサウンドは濃密な内容となっており、何度も聴き返したくなる深い情緒を持ち合わせています。マシュー・ハルソール、セッションメンバーは、イングランド北部の様々な年代の演奏者を介して生きた音をマンスリー・セッションから汲み取り、東洋のエキゾチックな雰囲気を交え、それらの特異な音楽的空間を瞬間的に体現してみせています。

 

92/100






 

 

Photo: Bartek Muracki

高田みどりが1999年に発表したアルバム「Tree Of Life」を、WRWTFWWレコードより11月4日にレコードで再発する。高田は現代音楽/実験音楽/ジャズの領域で活躍する日本のパーカーション奏者です。


これまでCDバージョンでリリースされていたこのアルバムが、レコードとして発売されるのは今回が初めてとなる。このレコードのリイシューは、ハーフスピードでマスタリングされています。


この作品のオリジナル盤は、1983年のデビュー作『Through The Looking Glass』から16年後にリリースされた高田のソロ第2作としてダイキサウンドから発表されている。それほど一般的な作品とは言いがたいものの、日本のジャズシーンの隠れた傑作として知られる作品である。


仏教音楽の伝統性を取り入れたパーカッション奏者として、さらにはミニマル、アンビエントのパイオニアの一人である高田みどりは、この1999年の2ndアルバムにおいて、ソフトドラム、ベル、マリンバといった打楽器を駆使し多彩なアプローチを行っている。また、中国の伝統的な弦楽器、二胡を演奏する上海の演奏家、Jiang Jian-hua(姜 建華)がレコーディングに参加している。 


「Tree Of Life」のリイシューは、高田が6月に同じく、”WRWTFWW”からリリースした2枚のソロアルバムに続くものとなる。アートワークとトラックリストは以下をご参照ください。



Midori Takada 「Tree Of Life」 Reissue


 

Tracklist:

1. Love Song Of Urfa
2. Tan Tejah
3. Tayurani
4. Wa-Na-Imba
5. Modoki 1 (Futa-Aya-Asobi )
6. Awase 1 (Futa-Aya-Asobi)
7. Yukiai (Futa-Aya-Asobi)
8. Awase 2 (Futa-Aya-Asobi)
9. Orifusi (Futa-Aya-Asobi)
10. Modoki 2 (Futa-Aya-Asobi)
11. Awase 3 (Futa-Aya-Asobi)
12. Usuyo (Futa-Aya-Asobi)