カナダの双子デュオ、ソフトカルトがニューシングル「Shortest Fuse」を発表した。前作「Heaven」「Haunt You Still」に続く新曲。


昨年、デュオは来日公演を行い、サポートアクトにオークランドのエモシューゲイズバンド、Presentを迎えた。今年に入り、ソフトカルトはソングライティングの側面で劇的な成長を遂げている。そのことは年明けに発表された「 Heaven」を聴けば一目瞭然である。前回のシングルに続く「Shortest Fuse」でも二人は好調を維持している。


「Shortest Fuse」は資本主義社会とそれが低所得世帯に与える影響について批判的な視点を提供している。


ソフトカルトの声明によれば、この曲は資本主義に内在するシステム的な問題を掘り下げ、経済モデルが恵まれぬ人々の負債と貧困の絶え間ないサイクルを永続させていると主張している。双子は、労働市場そのものが過小評価され、一部の人間の手に不釣り合いな富が蓄積されることにつながっていると主張する。利潤の追求に根ざし、しばしば労働者の努力の真価に見合わぬ賃金を支払うことで労働者を搾取していると非難される資本主義は、ソフトカルトによって、特にその支配下にある人々の権利を奪うシステムとして描かれている。これは資本主義が成長する過程では問題にならなかったが、資本主義が極限まで発展した時、システムが持つ利点が失われるということである。それはシステムの崩壊、つまり資本主義の凋落を意味している。


ソフトカルトは、資本主義に内在する利益の不平等な分配について懸念を表明し、このモデルの設計が、人口のごく一部が実質的な報酬を得る、というシナリオを永続させていると主張する。(富の集中の構造はケインズの経済学を参照)彼らは、人口の特定の層を経済的に不利な状態に永久に保つように設計されたシステムの中で、自己満足に陥らないよう強く求めている。


 


「Shortest Fuse」

New Dad  『Madra』

 

Label: A Fair Youth

Release: 2024/01/26

 

 

Review 

 

 New Dadはアイルランドのゴールウェイ出身のバンド。ドリーム・ポップとシューゲイズの中間にある音楽性が特徴である。当初はトリオ編成であったというが、ボーカリストのフリー・ドーソンがひとりで演奏するのが嫌という理由でベーシストのショーン・オダウトが加入した。

 

 2022年のEP『Banshee』は、ロックダウンに直面した際の不安や気分の落ち着かなさをテーマに縁取っていた。続く、フルアルバム『Madra』は、ボーカリストの人間関係、あるいは暗鬱的な感情、それにまつわる治癒がフィーチャーされ、内面の表出ともいうべきテーマが暗示されている。 アイルランドのクリエイター、ジョシュア・ゴードンが手掛けたアルバムのアートワークは脆さや、傷つきやすさのメタファーとして機能する。


 Madraは、ニューダッドが、彼らの音楽的ルーツと再びつながり、彼らの形成期を支えたシューゲイザー・サウンド(バンドは、ピクシーズ、ザ・キュアー、スローダイヴを初期に最も影響を受けたバンドとして挙げている)を深く掘り下げている。初期の作品である「Waves EP」(2021年)と「Banshee」(2022年)を彷彿とさせるインディー/ポップのきらめきも加えている。


 今年、バンドがロンドンに移る前に、彼らの故郷であるアイルランドのゴールウェイで書かれた。伝説的なロックフィールド・スタジオ(ブラック・サバス、クイーン)でレコーディングされたこのアルバムは、ニューダッドの長年のコラボレーターであるクリス・W・ライアン(ジャスト・マスタード)がプロデュースし、アラン・モルダー(スマッシング・パンプキンズ、ナイン・インチ・ネイルズ、ウェット・レッグ)がミキシングを行った。

 

 アルバムはJust Masterdにも近い印象のあるアンニュイなギターロックが中心となっているように思われる。しかし、「Banshee」の頃に見いだせた温かな感じが消え、ひんやりとしたドリーム・ポップやシューゲイズサウンドが展開される。バンドはよりバンガー的なフレーズを意識しつつ、従来のサウンドをどのように敷衍させるのか試みているという印象である。それは、3曲目の「Where I Go」に現れ、ディストーションの拡張、ギターサウンドが生み出すアンビエント的な音響の中で、ボーカルのアンニュイさをどう活かすのかに重点が置かれているように思える。確かにポストシューゲイズに位置づけられるように、ほどよい心地よさもある。そして、ノイジーな側面ばかりで押し通すのではなく、その中にあるサイレンスを大切にしているように思える。これがシューゲイズの感覚的なうねりを生み出し、ニューダッドのサウンドの長所となっている。まるで港のさざなみを静かに見つめるような叙情性がギターロックと重なり合う。

 

 そして以前よりもダークなサウンドが色濃くなった印象である。それはアルバムのテーマであり、またアートワークにも象徴される内面の脆さを暗示している。オープニング「Angel」では、内面の苦悩がドーソンのボーカルに乗り移り、それはかつてのサバスのような印象のあるゴシック的な雰囲気を生み出すこともある。しかし、ゴシック・メタルのようになることはなく、すぐさま甘美的なメロディーを持つ展開へと立ち戻り、それはゴシック的なドリーム・ポップともいうべき世界観を作り出す。しかし、そのサウンドの中にはどこまでも悲しみが漂う。

 

 しかし、このアルバムがどこまでも暗鬱で悲観的なのかと言えば、そうではないと思う。例えば、中盤に収録されている「In My Head」はいわゆる暗鬱な状況から低空飛行でありながらも、その感情の中間域にあるフラットな状態に近づくことがあり、それはわずかにバンドアンサンブル全体として、「Banshee」の「Ladybird」に比する温かい感情性を帯びることがある。そして、それはドラムとツインギター、ベースの心強さのあるエネルギーによって押し上げられていく。


 2分17分のツインギターの織りなす絶妙な叙情性についてはアイルランドのバンドの伝統であり、とても素晴らしい。その後にノイジーで迫力のあるサウンドが展開される瞬間、得がたいカタルシスが生み出される。「Nosebleed」では、コクトー・ツインズのようなゴシック的な色合いを受けついだドリーム・ポップの核心を突く。そして、アルバムの表面的な印象とは正反対に、聞き手に癒やしや安心感を与える。ここに、90年代のシューゲイズの前身であるニューロマンティックやスコットランドのギターロックとの共通性を見出すこともさほど難しくはない。実際的には、このジャンルの主要な特徴である甘美的なサウンドが生み出され、そのエモーションが内省的なポップスのアプローチにより強化される。



 

  『Madra』の音楽的なアプローチは、一貫して内省的なギターロックサウンドという形で昇華され、「Let Go」では、前進しきれないことに対するもどかしさのような思いも捉えられる。それは内省的な停滞感が表され、アストラルに属する感覚がどこまでも続いているかのような気分を起こさせる。しかし、その感覚を進んでいくと、暗い感覚を宿したままディストーションギターにより激しいスパークを発生させる。これらの暗澹とした感覚を鋭いサウンドとして発散させ、それらがそのまま癒やしに変化することをニューダッドは示そうとしている。

 

 そしてギターサウンドの上に不安感や恐怖感といったエモーションが夢遊の雰囲気を携えて流れていく。ピクシーズのような鋭利なオルタナティヴサウンドの影響も見えるが、正直、かのバンドのように開けた感覚はなく、どこまでも閉塞感に満ちている。このサウンドをどのように捉えるのかは、リスナー次第といえるかもしれない。

 

 しかし、それらの全般的な暗鬱なサウンドの印象は、本作の終盤で一瞬だけ覆される。「Dream Of Me」では、「Banshee」の頃の温和で心地よいオルトロックが帰ってきたような印象がある。

 

 フルアルバムとして聞くと、この曲を1つの支点として、ダウナーな領域を彷徨う感情の出口が示されているといえる。いわば、それ以前の曲では、暗澹たるもんどり打つ感覚、それ以後は、そこから抜け出す過程が示されている。これが「In My Head」と同じく、何か報われない思いを抱くリスナーに共感をもたらすかもしれない。


 「Nightmare」では、タイトルの印象とは裏腹に、暗い感覚から生み出される仄かな明るさが示され、Girl Rayのようなディスコ・リバイバルのようにファニーな感覚が表れる。アルバムの終盤では、「White Rabbits」において、オルト・フォークとギターポップの中間にある音楽性を示す。


 最後のタイトル曲は、Just Masterdの音楽性を彷彿とさせるポストパンク的なアプローチを見せる。アートワークは、ホラーな感じなので、ちょっとビックリするかもしれない。でも、実はこれこそ以前からのニューダッドの特性でもある。それは人生の甘さに添えるスパイスのようなものなのだ。


 

76/100 

 

 

「In My Head」

 Future Islands    『People Who Aren't There Anymore』

 


 

Label: 4AD

Release: 2024/1/26

 

Listen/Stream

 

 

Review 

 



 ボルチモアのフューチャー、アイランズは、2008年のデビュー当時は、実験的なシンセポップ・サウンドが持ち味だった。

 

 以後、フューチャー・アイランズは、2015年の一年間に1000回に及ぶ過酷なツアーをこなし、弛まぬ成長を続けてきた。2011年頃から、バンドはポピュラー性を前面に出すようになり、ソングライティングのメロディーを洗練させ、アンサンブルに磨きをかけてきた。グラミー賞プロデューサー、ジョン・コングルトンとLAで録音された『People Who Aren't There Anymore』は、サミュエル・T・ヘリングの年を重ねたがゆえのボーカルの円熟味、ウィリアム・カシオンの骨太なベース、そして全体に華やかさをもたらすゲリット・ウェルマーズのシンセサイザー、ソングライティングに携わった三者三様の個性が良質な科学反応を起こしている。

 

 近年、ラフ・トレードが年間ベストに選出したNation Of Language(ネイション・オブ・ランゲージ)を筆頭に、ヒューマン・リーグやジャパンといったニューロマンティックやニューウェイブに属するバンドが、ニューヨークを中心に盛り上がっている。この動向はロンドンを中心に隆盛を極めるポストパンクとは別のウェイブを巻き起こしそうな予感もある。


 70年代のニューウェイブに対するノーウェイブの復刻とまではいかないが、ポストパンクバンドが飽和状態にあるシーンを鑑みると、シンセ・ポップはポスト・パンクに対する一石を投じる存在で、穏当に言えば、新鮮な気風をもたらす意味があるのではないだろうか。少なくとも、ニューロマンティック/ソフト・ロックに属するバンドの楽曲は、世の中に無数に氾濫する情報過多の音楽の中にあり、清涼味をもたらす。ノイジーな音楽に食傷気味のリスナーにとって地上の楽園ともなりえる。

 

 アルバムのタイトルに関しては、アガサ・クリスティーの推理小説の題名のようであり、実際、様々な推理や憶測を交えることができる。


 すでに自分の元を去っていった人々への惜別か、それとも、会うことが叶わぬ人々に対する哀愁の思いか、定かではないが、生きていれば、人間関係は驚くほど早く移り変わり、いつも当たり前と思っていることは全く当たり前ではなく、いつも普通に接している人々は、もしかすると、その後、普通に会えなくなることもある。そんなことをやんわりと教え愉してくれる。


 タイトルにこめられた「最早そこにいなくなった人々」という伏線的なテーマは、「King Of Sweden」におけるベースとシンセを中心とするアプローチに乗り移り、サミュエル・ヘリングの渋いボーカルが加わり、フューチャー・アイランズの代名詞となる緻密なサウンドにより構築されていく。デペッシュ・モードに比するロック的な響きも求められなくもないが、ボーカルの合間に導入される癖になるレトロなシンセが、曲の持つエネルギーを増幅させる。これらの見事なアンサンブルに関して、なんの注文をつけることができよう。明らかに三分半頃からのヘリングのボーカルには、ロックに引けを取らないエナジーを感じ取ることができる。2010年頃に飽和したかに思えたシンセ・ポップが今も健在であることを、彼は身をもって示している。

 

 もうひとつのハイライトは「The Tower」に訪れる。内省的なシンセのフレーズを遠心力として、ヘリングの円熟味を感じさせるボーカルが同じように和らいだ感覚をもたらす。バンドは以前よりもアンセミックで親しみやすいサウンドを追求しているが、「High」というフレーズの繰り返しのところで、この曲は最高の瞬間を迎える。ヘリングはオープナーと同様、ロック的なエナジーをもたらそうとしているが、反面、対旋律的な動きを重視したベースライン、ムーグシンセのような音色を駆使することもあるシンセラインは驚くほど落ち着いている。これがサウンドの絶妙な均衡を保ち、静謐さと激しさを兼ね備えた音楽を生み出す要因になっている。

 

 

 アルバムの中盤では、ライブサウンドを意識した楽曲が収録され、オーディエンスをどのように熱狂の中に取り込むかという狙いも読み解くことができる。「Say Goodbye」、「Give Me The Ghost Back」はフューチャー・アイランズのアグレッシヴな側面が立ち現れ、前者はソフト・ロックを基調としたベースラインの力強さに、そして後者は、ニューロマンティックの懐古的なボーカル/シンセの中に宿る。これらのサウンドは、アルバムの冒頭の収録曲と同じように、2つの側面ーーサイレンスとラウドーーという対極にあるはずの音楽が合致することで生み出される。


 その後、微細な感情の揺れ動きを巧みに表現するかのように、2つの対比的なトラックが続く。「Corner Of My Eye」は暗喩的に含まれる悲哀をどのようにダイナミックな音楽表現として昇華するのかという思いが読み取れる。昨年のGolden Dregsほど明確なアプローチではないものの、人生の中における目の端の涙を拭うかのように、その後の希望に向けて歩き出す過程を親しみやすいシンセ・ポップとして刻印している。実際、サビの部分では、彼らのレコーディングの経験の側面が立ち現れる瞬間があり、ロサンゼルスの海岸のようなロマンティックで開けた雰囲気、あるいはそのイメージが脳裏に呼び覚まされる。背後に過ぎ去った悲しみに別離を告げ、未知の新しい人生に向かい、少しずつ歩み出すかのような清々しさを味わえる。続く「The Thief」は対象的に、YMOのようなサウンドを基調とするスタイリッシュでレトロなポップスが展開される。シンセのフレーズにアジア音楽のスケールが取り入れられることもあり、ボーカルのヘリングの声には、ちょっとユニークでおどけたような感覚がうっすら滲み出ている。


 

 アルバムの終盤には、「Iris」を筆頭にし、80年代のドン・ヘンリーやフィル・コリンズの系譜にあるノスタルジア満載のサウンドが繰り広げられる。ただフューチャー・アイランズのアプローチは、コリンズのようにR&Bの影響はなく、純粋なソフト・ロックをダンサンブルに解釈していて、なかにはニューウェイブに近い音楽性も含まれている。「Peach」に関してはスティングが志向したような清涼感のある80年代のポピュラー音楽に対する親和性も感じられる。

 

 後半では、コンポジションに大掛かりな仕掛けが施され、ライブを意識した大きなスケールを持つ曲が収録されていることに注目したい。


 特に「The Sickness」に関しては、ライブの終盤のセットリストに組まれてもおかしくない曲で、聴き逃す事はできない。ドラマティックな感覚をバンドサウンドとしてどのように呼び覚ますのかに焦点が絞られる。実際、ここには完璧な形でこそないにせよ、エモーショナルという側面で、フューチャー・アイランズの真骨頂が垣間見える。トロピカルなイメージを持つシンセ、対旋律的なベース、渋いボーカルが化学反応のスパークを起こす時、彼らの従来とは異なる魅力が現れ、一大スペクトルを作り上げる。そこには、かすかでおぼろげでありながら、バンドの最も理想とするサウンド、グループの青写真が断片的に示唆されていると言えるだろう。

 

 

 

82/100 

 


「The Tower」

 


今年、チャンス・ザ・ラッパーが復帰を果たし、2ndアルバム『Star Line Gallery』をドロップする可能性が高い。彼はクリスマスの頃にインスタグラム・ライブで新作アルバムについて明かし、このアルバムを「作曲と芸術的ヴィジョンの面で最も誇れるプロジェクト」のひとつと呼んでいる。


チャンスはツイッターで、新曲 「I Will Be Your (Black Star Line Freestyle) 」を「いくつかの小節と、タイムライン用のソウル・サンプルだけ」と説明している。ソウルのサンプルの素材はわからないが、チャンスに2分42秒間ラップする機会を与えた。彼は曲の冒頭で "Death Cab For Cutie "を "Let's grab a smoothie "と韻を踏む。リリックにはハリー・ポッターへの言及もあるという。


De La Soul

・サンプリングはどのように発展していったのか?

サンプリングというのは、すでに存在する音源を利用して、それらをコラージュの手法で別の意味を持つ音楽に変化させるということである。つまり、再利用とか、リサイクルという考えを適用することができる。それはクリエイティヴィティの欠如という負の印象をもたらす場合もあるにせよ、少なくとも、ヒップホップミュージシャンやレーベル関係者にとっては、再利用という考えは、「音楽の持つユニークな側面」として捉えられていたことが想像できる。そして、すでにあるものを使うという考え、それはそのままラップのひとつの手法となっていった。

 

ヒップホップ・シーンでのサンプリングに関しては、70年代後半にはじまった。


1979年、シュガーヒル・ギャング(The Sugarhill Gang)の「Rapper’s Delight」のサウンドトラックを制作するにあたり、レーベルの経営陣は苦肉の策として、シック(Chic)の「Good Times」をコピーさせるという手法を選んだ。

 

そして、その18年後、ノートリアス・BIGの「Mo Money Mo Problems」の曲を制作するさい、ション・パフィ・コムズが選んだのはダイアナ・ロスの「I Coming Out」をただサンプリングしただけだった。どちらの原曲もナイル・ロジャースによって書かれた。


当初、こういったサンプリングとかチョップの試みは、シュガーヒル、エンジョイといったラップアーティスト、スタジオでバンドを使った初期のラップレコードの多くによってもたらされた。それは、ブレイクビーツの手法を用いず、こういったサンプリングを使用すると、ラジオ曲でオンエアされやすいという事情もあったため、積極的に使われていくようになった。そして当時はソウル全盛期に音楽的なルーツを持つミュージシャンの象徴的なメンタリティでもあった。

 

以降、サンプリングの手法がひろまると、この技法はソウルの後のヒップホップを聴いて育ったミュージシャンのトラックメイクの重要なファクターになり、ヒップホップの新しい可能性を開くための道筋を開く。ライブステージでしか生み出し得ないと思われていたリアルな音楽をレコーディングやレコード・プロダクションの過程で生み出すことが可能になった。これはレコードという媒体が、単なる記録の集積以上のものとなり、以前に演奏されたサウンドや再発見されるサウンドの集合体という、今までとは違った意義を持つようになった。

 

ただ、この時点では、サンプリングは、ミュージシャンだけの特権ともいうべきものにすぎず、一般的なリスナーにはあまり知られていなかった。この手法を一般に普及させたのが、パブリック・エネミー(Public Enemy)、そして、昨年、サブスクリプションで全作品を公開したデ・ラ・ソウル(De La Soul)である。

 

(昨年末、ビースティ・ボーイズ、デ・ラ・ソウルのプロデューサーと制作を作ったイギリスのDef. foというミュージシャンとメールでやりとりとしていたが、こういったミュージシャンに関しては、新しいものにこだわっておらず、良い音楽を再発見するというサンプリング的な意義を見出そうとしている。彼の作品には、ベル・アンド・セバスチャンのキーボード奏者も参加している)

 

ちなみに、デ・ラ・ソウル、そしてパブリック・エネミーは両方とも、ロングアイランド出身のグループである。とくに、パブリック・エネミーの代表作『Public Enemy Ⅱ』は、ブラック・パンサー党の思想、そして、ネイション・オブ・イスラームの理念をかけあわせ、黒人を排除する冷血な社会構造と対決する姿勢が示されていた。これが同じような思いを持つブラザーに大きな共鳴をもたらしたのである。そして、サンプリングという観点から言うと、現在のヒップホップミュージシャンがそうであるように、ヘヴィメタルの再利用が行われ、スラッシュ・メタルの先駆的なバンド、アンスラックス(Anthrax)の音源が彼らのトラックに取り入れられていた。最近でも、JPEGMAFIA、Danny Brownが、SlayerやMayhemのTシャツを着ていたのは、詳しいファンならばご存知と思われる。彼らがスラッシュメタルやブラック・メタルに入れこんでいるらしいのは、パブリック・エネミーからの時代の名残り、あるいはその影響と言える。

 

Public Enemy

そして、サンプリング・ミュージックの今一つの立役者がヴィンテージ・ソウルをブレイクビーツ的な手法で取り入れたのが、デ・ラ・ソウルである。デ・ラ・ソウルのデビューアルバム『3 Feet High and Rising』で、ラップはもちろん、歌やジョーク、寸劇などが爽快に散りばめられた24曲入りの超大作だった。

 

このアルバムは、パブリック・エネミーの『Ⅱ』の一年後に発売された。パブリック・エネミーの作品がストリートギャングの余波を受けた黒人としての怒りとアジテーションを集約した作品であったとするなら、デ・ラ・ソウルのデビュー作は、それとは対比的に、子供っぽさ、無邪気さ、可愛らしいサウンドが織り交ぜられた作品だった。デ・ラ・ソウルのデビュー作の中には、彼らのソウル・ミュージックに対する愛情が余さず凝縮されていた。スティーリー・ダン、オーティス・レディング、スライ・ストーン、ダリル・ホール&ジョン・オーツ等、ネオソウルからモータウンのソウルまで幅広い引用が行われている。そして、デ・ラ・ソウルは、これらのミュージシャンの曲を見事に組み合わせた。それは「拡散的なサウンド」ともいえるし、ブレイクビーツの系譜の重要な分岐点となったことは想像に難くない。そして、トゥルーゴイとポスダナスが繰り出したのは、ジョークとウィットに富んだリラックスしたリリックだった。

 

彼らの音楽は、ソウルミュージックの系譜にあると同時に、ヒップホップの友愛的な側面を示していた。80年代に活躍したプロデューサーは、こぞってサンプリングに夢中になり、権利関係を度外視し、音楽のサンプルをかなり自由に使用していた。しかし、サンプリングが商業音楽として普及していくと、同時に著作権やライセンスに関する問題が生ずるようになり、以降は音楽業界全体が、著作権というものに関して一度十分な配慮をおこなう必要性に駆られた。

 

 

・サンプリングと権利問題  利益性とライセンスの所在

 

著作権におけるサンプリングの問題を提起する契機を与えたのが、他でもない冒頭で紹介したシュガーヒル・ギャングの「Rapper's Delight」であり、このシングルがチャートで大ヒットを記録した時だった。

 

このシングルが大ヒットすると、元ネタとなった「Good TImes」を書いたバーナード ・エドワーズ、及び、ナイル・ロジャースは訴訟を起こし、シュガーヒル・ギャングのソングライターのクレジットと印税を獲得することで、この話は収まったのだった。このライセンスに関する問題は、1979年に、報道で大きく取り上げられたというが、それでもサンプリングはこの年以降も比較的自由に使われ続けていた。楽曲のサンプルの元となったソングライターにとって、サンプリングされるということは、経済的に美味しい話をもたらす格好の機会となった。そして、サンプリングは事実、それ以降は弁護士の間で、大儲けのネタになるという話が盛り上がったのである。現在でも、レーベルの方からミュージシャンに、サンプリングやリミックスをしないか、という提案がある場合があるというが、これは早くいえば利益を生むからである。


金銭的な問題や争点と合わせて、一般的な解釈として、サンプリングに対する警戒感が強まった要因には、人種に関する差別意識も含まれていた。サンプリングそのものが、一般的に嫌悪感を持って見られるようになったのは、パブリック・エネミーやデ・ラ・ソウルといった、ブラック・ミュージックの一貫として、オリジナル曲が使用されるようになってからのことである。

 

サンプリングの一番の問題とは、サンプリングされた後に、元ネタとなるミュージシャンの楽曲の価値がどれくらい残されているかという点にある。つまり、音楽的な貢献度の割合自体にクレジットの付与を行うべきかどうかの判断基準が求められるはずだ。もしかりに、元ネタの曲が、有名でもヒット・ソングでもなければ、クレジットする必要はきわめて低いと明言しえるが、デ・ラ・ソウルなどの上記のサンプリングの問題は、有名な音楽が引用元として使用されたことが争点となった。しかし、ここでも矛盾点が生じる。例えば、有名ではない音楽、ヒット・ソングではない音楽そのものが、そうではない音楽よりも価値が乏しいのかという問題だ。

 

1979年の問題に関しては、いわば楽曲を使用された側の感情的な側面が、法律的な騒動を惹起するように働きかけたと考えられる。一例では、ヒップホップという音楽自体を嫌悪していたロック・ミュージシャン、ポップ・ミュージシャンが、自分の楽曲がネタとして使用されていると気がついた時、こういったミュージシャンは、そのことを糾弾するばかりか、ラップそのものに対する敵意すらむき出しにしたのである。しかし、サンプリングに対して問題視しなかったのが、ベテランのR&Bミュージシャンであった。ただ、この点については、彼らが音楽業界で、騙されたり、マージン等をごまかされていたため、それほど権利自体に配慮しなかったのが要因だったという指摘もある。こういった流れが沸き起こった後、プリンス・ポールは、デ・ラ・ソウルと「Transmisitting Live From Mars」で知られるポップバンド、タートルズの曲の一部を使用したということで訴訟が起こり、そして示談金で自体の収束を図ったのである。

 

ただ、これ以降もサンプリングは受け継がれていった。しかし、デ・ラ・ソウルの時代に比べると、攻めのサンプリングはできなくなり、守りのサンプリングという形でひっそりと継続された。以後は、パブリック・エネミーのような鋭角でハードなサウンドは鳴りを潜め、耳慣れたビートやボーカルの一部のフックを織り交ぜた単純なサンプリングが使用されることになった。

 

単純なループサウンドが主流になると、音楽的にもシーンの新しい存在を生み出すことに繋がった。ハマー、クーリオ、ショーン・パフィー・コムズの曲が大ヒットを記録する過程で、その元ネタとなったR&Bの古典的なカタログは、金のなる木、もしくは資金的な鉱脈と見なされるようになった。

 

この点においては、サンプリングの良い側面が存在する。それは、サンプリングされてヒットすると、元ネタとなるミュージシャンの楽曲も同時に売れるということである。たとえば、スターミュージシャンが、それほど有名ではないミュージシャンの曲のサンプリングを行うと、元ネタの曲もヒットするという相乗効果が求められる。ただ、これに関しては、引用を行ったアーティストがわかりやすい形で、なんらかの表記かリスペクトを示す必要があるように思える。

 

 

・以後の時代 他ジャンルへのサンプリングの普及 

 

Beastie Boys

1990年代に入ると、サンプリングという考えは、音楽業界ではより一般的なものとなった。そして、これらの土壌は、むしろヒップホップを聴いて育った第2世代ともいうべきミュージシャンによって受け継がれていく。ビースティ・ボーイズ、トリッキー、ベックといった90年代のミュージックシーンの象徴的な存在はもちろん、ダンス・ミュージックシーンでも、ケミカル・ブラザーズ、プロディジーといったグループがサンプリングの手法を用いた。定かではないが、ゴリラズもおそらく、それらのグループに入っても違和感がないように思える。


その後、サンプリングという考えは、電子音楽に対するテクノロジーの一貫として、以後の世代に受け継がれていくことになった。現在では、インディーロックやオルタナティヴロックで、このサンプリングの手法を用いるケースが多い。例えば、それらをコラージュのように組み合わせ、別の音楽として再構築するというのが、現在のサンプリングの考えである。代表的な事例が、Alex Gであったり、Far Caspianという優れたソロミュージシャンである。彼らの素晴らしさは、元ある表現性を踏まえた上で、それを全然別のニュアンスを持つ音楽として昇華することにある。それはオルトロックという範疇に、新しい表現性をもたらしたと考えることができる。

 

もちろん、サンプリングのやり方というのも重要で、なんでもかんでもやって良いというわけにはいかないだろう。どの程度、原曲やその楽曲を制作したアーティストに敬意を示しているのか、もし、単なるネタとして原曲を捉えているとなれば、これはちょっと問題である。影響を受けることは仕方ないが、他のものに触れないでも、優れた音楽を生み出すことができるかもしれない。

 

現代のミュージシャンは、そもそも、広汎に音楽を聞きすぎている、という印象を受ける。なぜなら、ダイアナ・ロス、マイケル・ジャクスン、プリンスの時代には、音楽の総数はもっと少なく、音楽の影響も限定的だったと推測される。しかし、上記のミュージシャンが現在のミュージシャンに劣っているとは到底思えない。従って、そのことを照らし合わせてみれば、現代のミュージシャンは、他の音楽を厳しく選り分けて聞くべきかもしれない、というのが私見である。 


私自身は、サンプリングという技法を用いることに賛成したいが、それはミュージシャンの美学を元にし、条件的かつ限定的に使用されるべきと考えている。厳密に言えば、サンプルの素材を「なぜ、そこで引用する必要があるのか?」を明示しなければいけないと思う。次いで、そのサプリングではなく、「他のサンプリングでも代替できる」という場合、理想的なものとは言いがたい。サンプリングは、そうでなければいけない素材を最適な場所で使用せねばならないという、限定的な音楽形式ということを把握した上で、クリエイティビティを誰よりもクールに発揮すべきである。 以上の考察を踏まえて、サンプリング音楽の更なる発展に期待したい。



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ADIDASとRUN-DMC ヒップホップファッションの原点

 

©︎Tajette O'Halloran

グレース・カミングスは、ATO/[PIAS]から4月5日にリリースされるニューアルバム『Ramona』を発表した。2022年の『Storm Queen』に続くこのアルバムは、プロデューサーのジョナサン・ウィルソンと共にトパンガ・キャニオンでレコーディングされた。ファースト・シングル「On and On」は、ジェイムズ・ゴーター監督によるビデオとともに本日リリースされる。ラモーナのジャケット・アートワークとトラックリストは以下を参照のこと。


『Ramona』には、ハープ奏者のメアリー・ラティモアとストリングス・アレンジャー/マルチ・インストゥルメンタリストのドリュー・エリクソン(ウェイズ・ブラッド、ミツキ、ラナ・デル・レイ)が参加している。「カミングスは声明の中で、「私はこのアルバムで、可能な限り大きく、ドラマチックで、様々な色を見せてくれるような作品にしたいと思った。「ジョナサンを始めとするミュージシャンたちは、とても素晴らしく、考え抜かれたアプローチをしてくれる。


「人生で起こっていることを処理する唯一の方法は、それを書くことなの。だからこのアルバムは深く個人的なものなの。でも、このアルバムを聴いて、自分のために書かれた曲だと感じてもらえたら嬉しいわ。ある意味、そうなのだから。深く個人的なものが、様々な人たちと共有できるものへと進化していくのを見ていると、この世界で孤独を感じることが少なくなるの」




Grace Cummings 『Ramona』



Labcl: ATO/ PIAS

Label: 2024/04/05

Tracklist:


1. Something Going ‘Round

2. On And On

3. I’m Getting Married To The War

4. Love And The Canyon

5. Work Today(and Tomorrow)

6. Everybody’s Somebody

7. Common Man

8. Without You

9. Ramona

10. A Precious Thing

11. Help Is On Its Way

12. On And On (Radio Edit)

 


マタドール・レコードが、伝説的なテキサスのバンド、バットホール・サーファーズの主要カタログ・タイトルの再発を発表。すべてのレコードは、グループの監修のもとリマスターされている。


今回、このシリーズの最初の3作品「Psychic...Powerless...Another Man's Sac」、「Rembrandt Pussyhorse」、「PCPPEP」のリマスター・オーディオがストリーミング・サービスで聴けるようになり、3月22日にはレコードも発売される。


プレオーダーはこちらから。また、ゲイル・ブテンスキーが1980年代に撮影したバンドの貴重な写真を使用した「Butthole Surfer」の新しいビデオも見ることができる。さらなるタイトルは秋にリリースされる予定。


バットホール・サーファーズは1981年、ヴォーカルのギビー・ヘインズとギタリストのポール・リアリーによって結成された。1983年にドラマーのキング・コフィーが加入。彼らは、さまざまなレコーディング・セッションやツアーに参加しながら、バンドの3人の不動のメンバーであり続けた。のちにサーファーズは信じがたいメジャーデビューを果たし、知る人ぞ知るバンドとなった。



 


通称「TRENDS」は、レーベルからご提供いただいたリリース情報を元に、J-POPの注目のシングルをジャンルレスに紹介するというコーナーです。今月のリリースは、ポスト・ロック、ラップ、ワールド・ミュージック、インディーフォークまで全部揃っています。ぜひぜひ、お好みの音楽を下記より探してみてください。

 

 

No Buses 「Them Us You Me」


ローリング・ストーン誌(フランス)でも紹介されたことがあるオルタナティヴロックバンド、No Buses。


先週末、公開された「Them Us You Me」は、LITEを彷彿とさせるポスト・ロック/マスロックを基調とし、しなやかなアンサンブルに乗せられる繊細かつエモーショナルなボーカルの妙が光る。


現行の洋楽のトレンドを意識したループサウンド、熱狂性を帯びるギターライン、センス抜群のベースライン、細かなリズムを刻む心地よいパーカッション等、No Busesの魅力が余すところなく凝縮されたナンバー。

 

「Them Us You Me」

 

 

 配信リンク:

 https://ssm.lnk.to/ThemUsYouMe

 

 

South Penguin 「business」

 


 

South Penguinは上記のNo Busesよりも実験音楽の性質が強いポストロック/プログレッシブロックバンド。1月16日に公開された「business」はエレファントジムが好きなリスナーにとってストライクとなるナンバーとなりそうだ。

 

ギターラインを中心として緻密なアンサンブルが敷かれ、エレファントジムと同じく、ファンク色の強いベースラインがバンドの重要なファクターだ。表向きには、アーバンなサウンドスタイルが主な印象となっているが、等身大の歌詞を歌うボーカルに関してはなんとなく親近感が持てるのではないか。


たた、そのなかには彼らの音楽愛が凝視されている。ジャーマンテクノを髣髴とさせる実験的なシンセ、ワールドミュージックのパーカッション等、コンポジションの枠組みの中に、多彩な工夫を凝らし、唯一無二のオリジナル・サウンドを築き上げている。バンドがペンギン・カフェ・オーケストラに影響を受けているのかどうかは不明。

 

 「business」

 

 

配信リンク:

https://southpenguin.lnk.to/business 

 

 

Yeye 「はひふへほ」

 

 

 

Yeyeは、樋口なつこのソロ・プロジェクト。滋賀県出身で、京都とメルボルンの2拠点で活動しているという。世界市民としての意識は実際の音楽にも力強く反映されている。

 

ニューシングル「はひふへほ」は、小野リサの音楽性の延長線上にあり、ボサノヴァやブラジル音楽を彷彿とさせる。オーガニックでリラックスした日本語ボーカルが癒やしをもたらす。和らいだアコースティックギター、グロッケンシュピールのような金管楽器がちょっと可愛らしい雰囲気を生み出す。


歌については、日本語の言葉のもつユニークさ、響きの独自性を追求しているように感じられる。聞き方によっては、細野晴臣の「トロピカルダンディー」の頃の懐かしいサウンドを彷彿とさせる。ジャケットで笑いをとりに来ている。

 

「はひふへほ」 

 

 

配信リンク:

https://ssm.lnk.to/Hahifuheho

 

 

JJJ 「Kids Return」

 


JJJは、Daichi Yamamotoと共同制作を行っているビートメイカー。トラックメイカーとしてセンス抜群であることはもちろん、ラッパーとしても巧みなフロウを披露する。


先週末、発売されたニューシングル「Kids Return」はビンテージ・ソウルをサンプリングとして処理し、スタイリッシュなたラップを披露している。


デ・ラ・ソウルのサンプリングのテクニックを受け継いだトラックメイクにJJJのラップがゆるやかに乗せられる。フロウに関してはOMSBに近い感じだが、ロンドンのロイル・カーナーのように、シンプルな表現を重要視しているように思える。アートワーク、ミュージックビデオはなんか切ない。

 

 「Kids Return」

 

 

 配信リンク:

 https://ssm.lnk.to/KidsReturn

 

 

安部勇磨 「I'm Falling For You」


 

安部勇磨は、シンガー/ギタリストとして非凡なセンスを感じさせる。ローファイな音作りを得意とする「日本のマック・デマルコ」とも称するべきミュージシャンである。

 

1月26日にリリースされた「I’m falling for you」は、海に囲まれた南の島をイメージし、70〜80年代の夏のCM映像を見ながら制作された1曲。


昔ながらの映画のような質感と艶やかなリゾートの雰囲気に合う爽快で情熱的なメロディーが特徴的。ヨットロックや歌謡曲を組みわせ、それをインディーフォーク風にアレンジしたナンバー。要注目のアーティスト。


 

「I'm Falling For You」

 

 

 

配信リンク:

https://virginmusic.lnk.to/Imfalling_pre 

 




前回のJ-POP Trendsはこちらからチェック。


 



 

元オアシスのシンガー、リアム・ギャラガーと元ストーン・ローゼズのギタリスト、ジョン・スクワイアが新曲「Just Another Rainbow」(MV)のため、最近タッグを組んだばかりだが、2人は続いてデビューアルバム『Liam Gallagher John Squire』を正式に発表し、続いてセカンドシングル 「Mars to Liverpool」を公開した。ミュージシャンのリバプール愛が凝縮されたナンバーである。


リアム・ギャラガーは、先日、ガーディアン誌にニューアルバムの手応えについて、「”リボルバー”以来の傑作」と打ち明けたばかりだが、プレスリリースでアルバムについてこう語っている。 「アルバムを聴いてもらうのが待ちきれないよ。ストーン・ローゼズやオアシスやその手のバンドが好きな人たちは、きっと気に入ってくれると思う。スピリチュアルで、重要なのさ」


グレッグ・カースティンは、ロサンゼルスでの3週間のセッションで新作をプロデュースし、ベースも弾いている。ジョーイ・ワロンカーがドラムを叩いている。ワロンカーはライブでもバンドと一緒にドラムを叩き、ベースにはバリ・カドガン(リトル・バリー、ポール・ウェラー)が参加する。


16歳のギャラガーは、1989年にストーン・ローゼズの "人生を変えた "ギグを目撃した。ギャラガーとスクワイアが出会ったのは、オアシスが1994年にリリースしたデビュー・アルバム『Definitely Maybe』をレコーディングしていた時だった。ストーン・ローゼズと出会ったのはその4年後であった。『Liam Gallagher John Squire』はワーナーから3月1日にリリースされる。

 



「Mars to Liverpool」

 

 


リバプール出身のロック・バンド、The Zutonsは3年前に再結成し、伝説的アーティストでシックの共同創設者であるナイル・ロジャースのプロデュースによるニューアルバムをレコーディングする意向を発表した。


アルバム『The Big Decider』はICEPOPから4月26日にリリースされる予定で、バンドはリードシングル「Creeping on the Dancefloor」を公開した。バンドの今後のUKツアー日程も発表された。


ズートンズは、デイヴ・マッケイブ(ギター、リード・ヴォーカル)、アビ・ハーディング(サックス、ヴォーカル)、ショーン・ペイン(ドラムス、ヴォーカル)の3人組。


フロントマンのデイヴ・マッケイブはプレスリリースでこのシングルについてこう語っている。

 

アビがこの家に引っ越してきて、僕ら全員が自分たちの小さなバブルの中で一緒に暮らしていた時、僕らはロックダウンされている間に "Creeping on the Dancefloor "を書いた。

 

でも、みんな家に閉じこもっていて、私は携帯電話でメロディといくつかの歌詞を歌ってた。完成したらすぐにまた聴きたくなるような曲のひとつで、それはいつもいい兆候なんだ。


バンドはこのアルバムをアビーロード・スタジオでレコーディングし、ロジャースだけでなく、オリジナル・プロデューサーのイアン・ブルーディーとも仕事をした。


マッケイブは続いて、2人のプロデューサーとのレコーディングについて次のように語っている。

 

ナイル・ロジャースとの仕事は素晴らしい経験で、レコードを作る前に感じたことのない自信を与えてくれた。彼はとてものんびりした人で、聞き上手だよ。『Disappear』という曲では、ズートンズの旅についてスポークン・ワードで書いたんだ。

 

 「Creeping on the Dancefloor」



The Zutons 『The Big Decider』

 



 



The Zutons UK Tour Dates:


Fri 12 Apr – Marble Factory, Bristol, UK

Sat 13 Apr – New Century Hall, Manchester, UK

Sun 14 Apr – Wylam Brewery, Newcastle, UK

Tue 16 Apr – XOYO, Birmingham, UK

Wed 17 Apr – Leadmill, Sheffield, UK

Thu 18 Apr – SWG3 TV Studio, Glasgow, UK

Sun 21 Apr – Engine Rooms, Southampton, UK

Mon 22 Apr – Chalk, Brighton, UK

Wed 24 Apr – Pryzm, Kingston, UK - SOLD OUT

Thu 25 Apr – O2 Academy, Oxford, UK

Fri 26 Apr – Olympia, Liverpool, UK

Sat 27 Apr - Pryzm, Kingston, UK

 


Fabiana Palladino(ファビアナ・パラディーノ)は、Paul Institute/XLRecordingsから4月5日にリリースされるセルフタイトルのデビューアルバムを発表した。ファビアーナ・パラディーノはプリンス以来の天才といわれ、ジャイ・ポール、ジェシー・ウェア等から熱烈なラブコールを受ける。リーク的な音源のリリースの手法を図ってきた個性的なシンガーである。

 

10曲入りのこの新作アルバムには、ジャイ・ポール、ロブ・ムース、ドラマーのスティーヴ・フェローネ、そしてパラディーノの父と兄であるベーシストのピノとロッコ・パラディーノが参加している。新曲「Stay With Me Through the Night」がリードシングルとして公開された。


アルバムについて、パラディーノは声明の中で次のように述べている。


このアルバムの中心的なテーマは孤独です。誰かとのつながりを求めている曲であれ、孤独を受け入れようとしている曲であれ、それは私自身に帰ってくる傾向がある。全体的にかなり内省的なアルバムだと思う。曲は、自分自身をより深く掘り下げようとすること、自分の本当の気持ちを探求すること、そしてそれが他者との関係にどう関係し、どう影響するかを歌っていることが多い。


「Stay With Me Through The Night」は、このアルバムのために最初に書いた曲だ。この曲は、2年近く曲を書いていなかった厄介な時期の終わりに、ちょっとした洪水のように出てきたもので、どこでどうやって書いたのかほとんど覚えていないが、自分にとって重要な曲になることはわかっていた。結局、アルバムの中心的な曲になった。この曲には、アルバムの他の部分のフィーリングや感情が凝縮されているし、音楽的にも、古いものと新しいものが融合している。

 

 

 「Stay With Me Through the Night」


後日掲載されたアルバムレビューはこちらからお読み下さい。


Fabiana Palladino 『Fabiana Palladino』


Label:  XL Recordings

Release: 2024/04/05


Tracklist:


1. Closer

2. Can You Look In The Mirror?

3. I Can’t Dream Anymore

4. Give Me A Sign

5. I Care

6. Stay With Me Through The Night

7. Shoulda

8. Deeper

9. In The Fire

10. Forever

 

 

Pre-order:

 

https://fabianapalladino.ffm.to/fpalbum 

 The Smile  『Wall Of Eyes』

 


 

Label: XL Recordings

Release: 2024/01/26



Review 


終わりなきスマイルの音楽の旅


パンデミックのロックダウンの時期に結成されたトム・ヨーク、ジョニー・グリーンウッド、トム・スキナーによるThe Smileは、デビュー作『A Light For Attracting Attenstion』で多くのメディアから称賛を得た。

 

レディオヘッドの主要な二人のメンバーに加え、サンズ・オブ・ケメットのメンバーとして、ジャズドラムのテクニックを研鑽してきたスキナーは、バンドに新鮮な気風をもたらした。1stアルバムでは、現在のイギリスのロックシーンで隆盛をきわめるポストパンク・サウンドを基調とし、トム・ヨークの『OK Computer』や『Kid A』の時期から受け継がれる蠱惑的なソングライティングや特異なスケールが重要なポイントを形成していた。いわば、レディオヘッドとしては、限界に達しつつあったアンサンブルとしての熱狂を呼び戻そうというのが最初のアルバムの狙いでもあった。

 

続くセカンド・アルバムは、表向きには、1stアルバムの延長線上にあるサウンドである。しかし、さらにダイナミックなロックを追い求めようとしている。オックスフォードとアビーロード・スタジオで録音がなされ、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラをレコーディングに招聘した。


オーケストラの参加の影響は、ビートルズの「I Am The Walrus」に代表されるフィル・スペクターによるバロックポップの前衛性、ラナ・デル・レイが最新アルバム『Did You Know〜?』で示した映画音楽とポップネスのドラマティックな融合、そして、変拍子を多用したスキナーのジャズドラム、ヨークが持つ特異なソングライティング、グリーンウッドの繊細さとダイナミックス性を併せ持つギターの化学反応という、3つの点に集約されている。全8曲というきわめてコンパクトな構成ではありながら、多角的な視点から彼らの理想とするロックサウンドが追求されていることが分かる。

 

このアルバムを解題する上で、XL Recordingsのレーベルの沿革というのが影響を及ぼしていることは付記しておくべきだろう。このレーベルはレディオヘッドの最盛期を支えたことはファンであればご存知のことかもしれない。しかし、当初は、ロンドンの”Ninja Tune”のように、ダンス・ミュージックを主体とするレーベルとして発足し、90年代頃からロック・ミュージックも手掛けるようになった経緯がある。

 

最近、Burialの7インチのリリースを予定しているが、当初はダンスミュージックのコアなリリースを専門とするレーベルだった。そのことが何らかの影響を及ぼしたのか、『Wall Of Eyes』は、全体的にダブの編集プロダクションが敷かれている。リー・スクラッチ・ペリーのようなサイケデリックなダブなのか、リントン・クウェシ・ジョンソンのような英国の古典的なダブの影響なのか、それとも、傍流的なクラウト・ロックのCANや、ホルガー・シューカイの影響があるのかまでは明言出来ない。


しかし、アルバムのレコーディングの編集には、ダブのリバーブとディレイの超強力なエフェクトが施されている。実際、それは、トム・ヨークの複雑なボーカル・ループという形で複数の収録曲や、シンガーのソングライティングの重要なポイントを形成し、サイケデリックな雰囲気を生み出す。


タイトル曲では、ダブやトリップ・ホップのアンニュイな雰囲気を受け継いで、アコースティックギターの裏拍を強調したワールド・ミュージックの影響を交え、ザ・スマイルの新しいサウンドを提示している。移調を織り交ぜながらスケールの基音を絶えず入れ替え、お馴染みのヨークの亡霊的な雰囲気を持つボーカルが空間を抽象的に揺れ動く。これは、アコースティックギターとオーケストラのティンパニーの響きを意識したドラムの組わせによる、「オックスフォード・サウンド」とも称すべき未知のワールドミュージックと言えそうだ。

 

それはまた、トム・ヨークの繊細な感覚の揺れ動きを的確に表しており、不安な領域にあるかと思えば、その次には安らいだ領域を彷徨う。これらの色彩的なスケールの進行に気品とダイナミックスを添えているのが、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラによるゴージャスなストリングスだ。そのなかにダブステップの影響を織り交ぜ、「面妖」とも称すべき空気感を作り出している。アウトロには、Battlesの前身であるピッツバーグのポスト・ロックバンド、Don Caballeroの「The Peter Chris Jazz」のアナログ・ディレイを配した前衛的なサウンドプロダクションの影響が伺えるが、このタイトル曲では、比較的マイルドな音楽的な手法が選ばれている。無明の意識の大海の上を揺らめき、あてどなく漂流していくかのような神秘的なオープニングだ。

 

 

『KID A』で、レディオヘッドはおろか、彼らの無数のファンの時計の針は止まったままであったように思える。しかし、ヨークはおそらく、「Teleharmonic」を通じて「Idioteque」の時代で止まっていたエレクトロニックとロックの融合というモチーフを次の時代に進めることを決断したのだろう。


この曲を発表したことにより、以前の時代の作品の評価が相対的に下がる可能性もある。しかし、過去を脱却し、未来の音楽へと、彼らは歩みを進めようとしている。このことは再三再四言っているが、長い時を経て同じようなことをしたとしても、それはまったく同じ内容にはなりえない。そのことを理解した上で、James Blakeの初期から現在に掛けてのネオソウルやエレクトロニック、Burialのグライム、ダブステップの変則的なリズムやビートの影響、ワールド・ミュージックの個性的なパーカッションの要素を取り入れ、静かであるが、聴き応えのある楽曲を提供している。一度聴いただけではその内奥を捉えることが叶わない、無限の螺旋階段を最下部にむかって歩いていくかのような一曲。その先に何があるのか、それは誰にもわからない。


『Wall Of Eyes』は、ポストロックの影響が他の音楽の要素とせめぎ合うようにして混在している。3曲目「Read The Room」のイントロでは、グリーンウッドのギターが個性的な印象を擁する。

 

バロック音楽とエジプト音楽のスケールを組みわせ、Blonde Redheadの「Misery Is A Butterfly」の時期の作風を思わせる古典音楽とロックの融合に挑む。しかし、最初のモチーフに続いて、「OK Computer」の収録曲に象徴される内省的なサウンドが続くと、その印象がガラリと変化する。スキナーの卓越したドラムプレイが曲の中盤にスリリングな影響を及ぼす。そして終盤でも、ポスト・ロックに対するオマージュが示される。Slintの「Spiderland」に見受けられる荒削りな音作りが、移調を散りばめた進行と合致し、魅力的な展開を作り上げている。


それに加えて、再度、ドン・キャバレロやバトルズのミニマリズムを基調としたマス・ロックが目眩く様に展開される。これらの音楽は、同じ場所をぐるぐる回っているようなシュールな錯覚を覚えさせる。それと同様に、ポスト・ロック/マス・ロックの影響を交えた曲が後に続き、「Under Our Pillows」でも、ブロンド・レッドヘッドの「Futurism vs. Passeism Pt.2」に見受けられるように、バロック音楽のスケールをペンタトニックに織り交ぜようとしている。

 

上記の2曲はロックバンドとしての音楽的な蓄積が現れたと言えるが、少し模倣的であると共に凝りすぎているという難点があるかもしれない。もう少しだけ明快でシンプルなサウンド、ライブセッションの楽しみを追求しても面白かったのではないだろうか。

 

ただ、「Friend Of A Friend」に関しては、ポップ/ロックの歴史的な名曲であり、ザ・スマイルの代名詞的なトラックとなる可能性が高い。トム・クルーズ主演の映画「Mission Impossible」のテーマ曲と同様に、5/8(3/8 + 2/8)という複合的なリズムを主体とし、The Driftersの「Stand By Me」を思わせる、リラックスした感じのウッドベース風のベースラインが曲のモチーフとなっている。

 

5/8のイントロダクションの4拍目からボーカルがスムーズに入り、その後、楽節の繰り返しの繋ぎ目とサビの前で、ワルツのような三拍子が二回続き、これがサビの導入部のような役割を果たす。そして、6/8(3/8+3/8)というリズムで構成されるサビの終わりの部分でも、リズムにおいて仕掛けが凝らされ、最初のイントロに、なぜ3拍の休符が設けられていたのか、その理由が明らかとなる。

 

その中で、さまざまな表現方法が織り交ぜられている。旧来のレディオヘッド時代から引き継がれるトム・ヨークの本心をぼかしたような詩の面白さ、ボーカルの微細なニュアンスの変容がディレイやダビングと結びつき、また、スポークンワードのサンプリングとの掛け合い、オーケストラの演奏をフィーチャーしたフィル・スペクター風のチェンバーポップが結び付けられ、最終的には、ビートルズの「I Am The Walrus」の影響下にある、蠱惑的なロックサウンドが組み上げられていく。分けても、終盤に収録されている「Bending Hectic」と同様に、ロンドンコンテンポラリーオーケストラの演奏の素晴らしさが際立っている。アウトロでは、トム・ヨーク流のシュールな歌詞がストリングスの和音のカデンツァに溶け込んでいくかのようである。

 

 

「Friend Of A Friend」 

 

 

「I Quit」でも、「Kid A」のIDMとロックの融合に焦点が絞られているらしく、二曲目のダンスミュージックと前曲のリズム的な面白さをかけあわせている。本作の中では最もインスト曲の性質が強く、主要なミニマル・ミュージックの要素は、デビュー作の内省的なサウンド、ストリングスの美麗さと合わさり、ダイナミックな変遷を辿る。表向きにはオーケストラの印象が際立つが、グリーンウッドのギターサウンドの革新性が、実は重要なポイント。従来から実験的なサウンドを追求してきたジョニー・グリーンウッドの真骨頂となるプロダクションである。そして、控えめなインスト寄りの音楽性が、本作のもう一つのハイライトの伏線となっている。

 

「Bending Hectic」は、モントリオール・ジャズ・フェスティバルで最初に演奏された曲で、アルバムのハイライトである。英国のメディア、NMEの言葉を借りるなら、「ロックの進化が示された」といえる。

 

それと同時にロックミュージックのセンセーショナルな一側面を示している。繊細なアルペジオを基調としたポスト・ロックの静謐なサウンドが続き、その後、「Friend Of A Firend」と同じようにスペクターが得意としていたストリングスのトーンの変容を織り交ぜた前衛的なサウンドへと変遷を辿る。曲の終盤では、70年代のジミ・ヘンドリックスのハードロックサウンドに立ち返り、ヨークの狂気すれすれのボーカルのループ・エフェクトを通じて、ダイナミックなクライマックスを迎える。しかし、曲の最後がトニカ(終止形)で終了していないことからも分かる通り、アルバムには、クラシック音楽のコーダのような役割を持つトラックが追加収録されている。

 

1stアルバム『A Light For Attraction』で示唆されたヨークの新しい形のバラード「You Know Me?」は、ジェイムス・ブレイクの楽曲のようにセンシティヴだ。飛行機を乗るのはもちろん、自動車に乗るのも厭わしく考えていた90年代から00年代のトム・ヨークの音楽観の重要な核心を形成する閉塞的な雰囲気も醸し出される。しかしそのメロディーには美的な感覚が潜んでいる。

 

クローズ曲では、「Fake Plastic Tree」、「Black Star」に象徴されるヨークのソングライティングの特色である「繊細なプリズムのような輝き」が微かに甦っている。それはいわば、暗鬱さや閉塞感という表向きの印象の先にある、ソングライターとしての最も美しい純粋な感覚の結晶である。最後に本曲が収録されていることは、旧来のファンにとどまらず、ザ・スマイルの音楽を新しく知ろうとするリスナーにとっても、ささやかな楽しみのひとつになるに違いない。

 


86/100




Featured Track「Bending Hectic」







トム・ヨークがイタリアの映画監督ダニエレ・ルケッティによる新作『CONFIDENZA(コンフィデンツァ)』の音楽を担当

 

ジャスティン・ティンバーレイクが6年ぶりのアルバム『Everything I Thought It Was』を発表しました。


2018年の『Man of the Woods』に続くこのアルバムは、RCAから3月15日にリリースされます。


リード・シングル「Selfish」は、ブラッドリー・J・カルダーが監督したビデオとともに本日公開。ティンバーレイク、ルイス・ベル、ヘンリー・ウォルター、セロン・マキエル・トーマス、エイミー・アレンが作曲し、ティンバーレイク、ベル、サーカットがプロデュースしました。以下よりチェックしてみよう。


Apple Music 1でのZane Loweとのインタビューで、ティンバーレイクは「信じられないほど正直な瞬間があると思う」と述べてています。


ティンバーレイクは、ダコタ・ジョンソンが司会を務める今週の『サタデー・ナイト・ライブ』に出演する予定。そして、"いや、このアルバムは僕にとって違う意味で特別なんだ "って思ったんだ」とティンバーレイクはザーン・ロウに語った。「でも、スケッチのひとつやふたつに引っ張りだこにならないとも思えない。当然のことだよ。僕はそのためにここにいる。いつだって楽しいよ。SNLは私にとって、どんな立場でも。司会は5回やったけど、出演したのは何回目かわからないよ」





 

 

2022年10月にリリースしたEP「Space Cowboy」、翌年5月にリリースしたどんぐりずとの「DOBINESS」で注目を集めるatiffとhyunis1000によるデュオ、Neibiss。神戸が生んだラップ界のニューライザーだ。


デュオは2023年7月のシングル「SURF'S UP」をリリース、8月に、「BOSSA TIME」、12月に、「FLASH」をリリースした。Neibissは、これら3曲を含む12曲収録のアルバムの完成を発表した。全トラックを手掛けたのは、Neibissのratiff。ミックスとマスタリングは、特能直也が担当した。アートワークはwackwack。さらに、Campanellaもゲストで参加している。


アルバムは、「Daydream Maker」と銘打たれたドリーミーなイントロで始まる。2曲目の「FAMILY RESTAURANT」はオープニングにふさわしいアッパーなラップで、ファミレスをテーマにしている。

 

3曲目の「Take It Easy」は、スロウテンポなレゲエ・トラックであり、歌詞は日常をラップしている。4曲目の「SURF'S UP」は、アルバムのリードシングルで、 2023年夏に発表された。MVも制作されており、「いい波が来てる」という予感を感じさせるサイケなサマーチューンだ。


5曲目「BUBBLE FACTORY」は、遊び心満載のフリースタイルで制作された楽曲だ。6曲目の「FLASH」は夜にぴったりなジャングル・トラップ。8曲目は次の9曲目の導入となるインタリュード。「BOSSA TIME」を再構築し、90年代のオールドスクールのブレイクビーツに変化させている。 

 

「BOSSA TIME」は軽快なボサノヴァギターとブラジル音楽を雰囲気を感じさせるユニークなブレイクビーツに、日常を綴ったラップが融合した楽園のようなチューン。10曲目「dig up dig down」はレトロゲームを思わせるトラックに「DIG」をテーマに縁取ったラップソング。11曲目「4 Season」にはCampanellaをフィーチャー、四季をテーマにしている。最後を飾るのは「lookinf 4u」。Neibissの初のラブソングで、アルバムの中でも幅広い層に聴いてほしい。

 

Neibissの活動における充実感は言わずもがな、各々のソロ活動にも注目が高まっている中、リリースされるアルバムだ。リリース後、全国でリリースパーティーも開催予定である。2024年、さらなる盛り上がりが予想される。全国のラップファンは、2月14日のアルバムの到着を期待せよ。



Neibiss  『Daydream Maker』ーNew Album



Neibiss「Daydream Marker」
2024.02.14 Release | NSP011
Released by SPACE SHOWER MUSIC

 

Pre-add/Pre-save:


https://neibiss.lnk.to/DaydreamMarker 

 

Tracklist:



1. Daydream Marker
2. FAMILY RESTAURANT
3. Take It Easy
4. SURF'S UP
5. BUBBLE FACTORY
6. FLASH
7. Soulful World
8. BOSSA TIME (interlude)
9. BOSSA TIME
10. dig up dig down
11. 4 season feat. Campanella
12. Looking 4u



Neibiss「4 season feat. Campanella」-Single

 
2024.01.31 Release | NSP010
Released by SPACE SHOWER MUSIC

 

Pre-add/Pre-save:


https://neibiss.lnk.to/DaydreamMarker

 

 

Neibiss:

ビートメイカー/DJ/ラッパーのratiff(ラティフ)とラッパーのhyunis1000(ヒョンイズセン)の二人組。共に2000年生まれ、兵庫県神戸市出身。Nerd Space Program。
2018年に結成、2020年01月「Heaven」でデビュー。


2022年10月にtofubeats、パソコン音楽クラブ、E.O.Uが参加したEP「Space Cowboy」をリリース。11月には、Campanellaとパソコン音楽クラブを迎え、WWWにてリリース・パーティー「Neibiss Space Cowboy Release Party」を行った。


2023年5月17日にどんぐりずと「DOMBIESS」をリリース。二組が出演するMVも公開され、話題となっている。


また、自らの所属するクルーNerd Space Programでの活動やソロとしてのリリースも活発に行うなどあらゆるカルチャーを巻き込み注目を集めている。2024年2月14日アルバム「Daydream Marker」をリリース。

 

Campanella: Rapper (MdM)


1987年愛知県生まれ。 音楽と言葉を変幻自在に操るRapper。2011年、RCSLUM RECORDINGSのV.A.『the method』 に参加。その後、C.O.S.A.とのユニットであるコサパネルラ名義の作品、 フリーミックステープ、CAMPANELLA&TOSHI MAMUSHI名義の作品などを立て続けにリリース。


2014年、ファースト・アルバム『vivid』をリリースし脚光を浴びる。2016年、セカンド・アルバム『PEASTA』をリリース。


2017年、中納良恵(EGO-WRAPPIN’)とのコラボ楽曲『PELNOD』、2019年に坂本龍一の楽曲”ZURE”をサンプリングした楽曲『Douglas fir』をシングルカット。2020年、サード・アルバム 『AMULUE』をリリース。


2021年、KID FRESINOを客演に迎えた『Puedo』、2022年には鎮座DOPENESSを客演に迎えた『RAGA』をシングルカット。2023年12月、最新EP『Mi Yama』をリリースし高い評価を得た。 

Selah Broderick & Peter Broderick





セラ・プロデリックの静謐なスポークンワード、ピーター・ブロデリックがもたらす真善美


 ある日、セラ・ブロデリックが、彼女の息子でミュージシャン兼作曲家のピーター・ブロデリックに、「詩を音楽にするのを手伝ってくれない?」と頼んだとき、ピーターは即座に「イエス」と答えた。ピーター・ブロデリックは、セラの美しく傷つきやすい言葉を聴くと、母のこのアルバムの制作を手伝うことに専念したのだ。


『Moon in the Monastery』を構成する8曲は、以後、2、3年かけてゆっくりと着実に作られた。ピーター・ブロデリックの膨大な楽器コレクションと、マルチ・インストゥルメンタリストとしての長年の経験(ヴァイオリン、ピアノ、パーカッションなど)を生かし、ブロデリック親子は試行錯誤のプロセスに着手し、それぞれの詩にふさわしい音楽の音色を辛抱強く探し求めた。


時には、ピーターが母親からフルートを吹いているところを録音してもらい、それをサンプリングの素材にすることもあった。例えば、オープニング曲『The Deer』は、オレゴンの田舎町の丘に日が沈むある晩、野生の鹿との神秘的な出会いを語る彼女の完璧な背景として、サンプリングされ、操作され、彫刻されたセラのフルートだけで構成されている。



ヒーリング・アートに30年以上携わってきたセラの詩は、彼女の職業生活の自然で個人的な延長線上にある。ヨガ、理学療法、マッサージ、ホスピスなど、さまざまな分野で経験を積んだセラは、自身の内面を癒す旅を続けながら、人々の癒しを助けることに人生の多くを捧げてきた。


彼女の文章は、極めて個人的なものから普遍的で親しみやすいものまで、時にはひとつのフレーズで表現される。彼女のペンは、感傷的というより探究心を感じさせる方法で、人間の経験の核心を掘り下げる。


アルバムの中盤、「Faith」という曲の中で彼女はこう言っている。「信仰...それは私の心をとらえ、刻み込み/そして溶けてなくなる/私がその瞬間ごとにそれを更新し続けることを求めそうになる/私がそれを手放し、再びそれを見つけたとき、おそらくそれは深まるのだろうか?」


7曲のスポークン・ワード・トラックの制作を終えたセラとピーターは、アルバムの最後を締めくくる瞑想的なサウンドスケープを作り上げた。


アルバムの8曲目、最後のトラックであるタイトル曲『Moon in the Monastery』は、セラの魅惑的なフルート演奏を再び際立たせ、前の7曲の内容を沈めるための穏やかで夢のような空間を提供している。



Selah Broderick & Peter Broderick 『Moon in the Monastery』/ Self Release




 オレゴン州の現代音楽家、ピーター・ブロデリックはこれまで、ロンドンの''Erased Tapes''から良質な音楽をリリースし続けて来た。ピアノによるささやかなポスト・クラシカルをはじめ、くつろいだボーカルトラック、フランスのオーケストラとのコラボレーションを行うなど、その作風は多岐に渡る。ブロデリックの作風は、アンビエント、コンテンポラリー・クラシカル、インディーフォーク、というように1つのジャンルに規定されることはほとんどない。

 

ニューアルバム『Moon in the Monasteryー修道院の月』は、40分ほどのコンパクトな作品にまとめ上げられている。その内訳は、7つのスポークンワードを基調とするバリエーションと、最後に収録されている20分の静謐で瞑想的な響きを持つ超大なエンディングで構成されている。


記憶に新しいのは、昨年、ピーター・ブロデリックはフランスのオーケストラ、"Ensemble O"と協力し、アーサー・ラッセルのスコアの再構成に取り組んでいる。本作の再構成の目論見というのは、米国のチェロ奏者/現代音楽の作曲家の隠れた魅力に脚光を当てることであったが、と同時に従来のブロデリックのリリースの中でも最も大掛かりな音楽的な試みとなった。

 

なおかつ、他のミュージシャンやバンドと同じように、1つの経験が別の作品の重要なインスピレーションになる場合がある。実際、このアルバムは、前作の『Give It To The Sky』と制作時期が重なっており、制作を併行して行ったことが、音楽そのものに何らかの働きかけをしたと推測できる。


とくに、ブロデリックは、2分、3分ほどのミニマル・ミュージックを制作してきたのだったが、この数年では、より映画のスコアのように壮大なスケールを持つ作曲も行っている。前作で「ヴァリエーション」の形式に挑戦したことに加え、「Tower Of Meaning X」では、15:31の楽曲制作に取り組んでいる。つまり、変奏曲と長いランタイムを持つ曲をどのようにして自らの持つイマジネーションを駆使して組み上げていくのか、そのヒントはすでに前作で示されていたのだった。

 

もうひとつ、ピーター・ブロデリックといえば、クラシックのポピュラー版ともいえるポスト・クラシカルというジャンルに新たな風を呼び込んだことで知られている。とくに、彼が以前発表した「Eyes Closed And Traveling」では、教会の尖塔などが持つ高い天井、及び、広い空間のアンビエンスを作風に取り入れ、Max Richterに代表されるピアノによるミニマル・ミュージックに前衛的な音楽性をもたらすことに成功した。これはまた、ロンドンのレーベル”Erased Tapes”の重要な音楽的なプロダクションとなり、ゴシック様式の教会等の建築構造が持つ特殊なアンビエンスを活用したプロダクションは実際、以降のロンドンのボーカルアートを得意とする日本人の音楽家、Hatis Noitの『Aura』(Reviewを読む)というアルバムで最終的な形となった。

 

『Moon in the Monastery』は、彼の母親との共作であり、瞑想的なセラのスポークンワード、フルートの演奏をもとにして、ピーター・ブロデリックがそれらの音楽的な表現と適合させるように、アンビエント風のシークエンスやパーカッション、ピアノ、バイオリンの演奏を巧みに織り交ぜている。アルバムのプロダクションの基幹をなすのは、セラ・ブロデリックの声とフルートの演奏である。ピーターは、それらを補佐するような形でアンビエント、ミニマル音楽、アフロ・ジャズ、ニュージャズ、エクゾチック・ジャズ、ニューエイジ、民族音楽というようにおどろくほど多種多様な音楽性を散りばめている。例えれば、それは舞台芸術のようでもあり、暗転した舞台に主役が登場し、その主役の語りとともに、その場を演出する音楽が流れていく。主役は一歩たりとも舞台中央から動くことはないが、しかし、まわりを取り巻く音楽によって、着実にその物語は変化し、そして流れていき、別の異なるシーンを呼び覚ます。

 

主役は、セラ・ブロデリックの声であり、そして彼女の紡ぐ物語にあることは疑いを入れる余地がないけれど、セラのナラティヴな試みは、飽くまで音楽の端緒にすぎず、ピーターはそれらの物語を発展させるプロデューサーのごとき役割を果たしている。


プレスリリースで説明されている通り、セラは、「オレゴンの田舎町の丘に日が沈むある晩、野生の鹿との神秘的な出会い」というシーンを、スポークンワードという形で紡ぐ。声のトーンは一定であり、昂じることもなければ、打ち沈むこともない。ある意味では、語られるものに対してきわめて従属的な役割を担いながら、言葉の持つ力によって、一連の物語を淡々と紡いでいくのだ。


シャーウッド・アンダソンの『ワインズバーグ・オハイオ』の米国の良き時代への懐古的なロマンチズムなのか、それとも、『ベルリン 天使の詩』で知られるペーター・ハントケの『反復』における旧ユーゴスラビア時代のスロヴェニアの感覚的な回想の手法に基づくスポークンワードなのか、はたまた、アーノルト・シェーンベルクの「グレの歌」の原始的なミュージカルにも似た前衛性なのか。いずれにしても、それは語られる対象物に関しての多大なる敬意が含まれ、それはまた、自己という得難い存在と相対する様々な現象に対する深い尊崇の念が抱かれていることに気がつく。

 

当初、セラ・ブロデリックは、オレゴンの、のどかな町並み、自然の景物が持つ神秘、動物との出会いといったものに意識を向けるが、それらの言葉の流れは、必ずしも、現象的な事物に即した詩にとどまることはない。日が、一日、そしてまた、一日と過ぎていくごとに、外的な現象に即しながら、内面の感覚が徐々に変化していく様子を「詩」という形で、克明にとどめている。


セラ・ブロデリックの内的な観察は真実である。それは、自然や事実に即しているともいうべきか、自分の感情に逆らわず、いつも忠実であるべく試みる。彼女は明るい正の感覚から、それとは正反対に、目をそむけたくなるような内面の負の感覚の微細な揺れ動きを、言葉としてアウトプットする。


その感覚は驚くほど明晰であり、感情を言葉にした記録のようであり、それとともに、現代詩やラップのような意味を帯びる瞬間もある。内的な感情が、刻一刻と変遷していく様子がスポークンワードから如実に伝わってくる。そして、それらの言葉、物語、感情の記録を引き立て芸術的な高みに引き上げているのが、他でもない、彼女の息子のピーター・ブロデリックである。彼は、アンビエントを基調とするシンセのシークエンスを母の声の背後に配置し、それらの枠組みを念入りに作り上げた上で、巧みなフルートの演奏を変幻自在に散りばめている。サンプリングの手法が取り入れられているのか、それとも、リアルタイムのレコーディングがおこなわれているのかまでは定かではないが、言葉と音楽は驚くほどスムーズに、緩やかに過ぎ去っていく。

 

ピーター・ブロデリックの作風としてはきわめて珍しいことであるが、アルバムの序盤の収録曲「I Am」では、民族音楽の影響が反映されている。


一例としては、''Gondwana Records''を主催するマンチェスターのトランペット奏者、Matthew Halsall(マシュー・ハルソール)が最新アルバム『An Ever Changing View』において示した、民族音楽とジャズの融合を、最終的にIDM(エレクトロニック)と結びつけた試みに近いものがある。


アフリカのカリンバの打楽器の色彩的な音階を散りばめることにより、当初、オレゴンの丘で始まったと思われる舞台がすぐさま立ち消えて、それとは全然別の見知らぬ土地に移ろい変わったような錯覚を覚える。


そして、カリンバの打楽器的な音響効果を与えることにより、セラ・ブロデリックのスポークンワードは、力強さと説得力を帯びる。それは、ニューエイジやヒーリングの範疇にある音楽手法とも取れるだろうし、ニュージャズやエキゾチック・ジャズの延長線上にある新しい試みであるとも解せる。 

 

 

 

少なくとも、ジャンルの中に収めるという考えはおろか、クロスオーバーという考えすら制作者の念頭にないように思えるが、それこそが本作の音楽を面白くしている要因でもある。その他にも旧来のブロデリックが得意とするアンビエントの手法は、序盤の収録曲で、コンテンポラリー・クラシック/ポスト・クラシカルという制作者のもうひとつの主要な音楽性と合致している。


ピーター・ブロデリックは、バイオリンのサンプリング/プリセットを元にして、縦方向でもなく、横方向でもない、斜めの方向の音符を重層的に散りばめながら、イタリアのバロックや中世ヨーロッパの宗教音楽をはじめとする「祈りの音楽」に頻々に見受けられる「敬虔な響き」を探求しようとしている。上記のヨーロッパの教会音楽は、押し並べて、演奏者の上に「崇高な神を置く」という考えに基づいているが、不思議なことに、「Mother」において、セラ・ブロデリックの語りの上を行くように、ヴァイオリンの響きがカウンターポイントの流れを緻密に構築しているのである。


同じように、Matthew Halsall(マシュー・ハルソール)が最新作で示したようなアフロジャズとオーガニックな響きを持つIDMの融合は、続く「Faith」にも見出すことができる。ここではセラのトランペットのような芳醇な響きを持つフルートの演奏、ジャズ的な音楽の影響を与えるスポークンワード、シンセのプリセットによるバイオリンのレガート、さらに、奥行きを感じさせるくつろいだアンビエントのシークエンスという、複合的な要素が綿密に折り重なることで、モダン・ラップのようなスタイリッシュな響きを持ち合わせることもある。


シンセのシークエンスが徐々にフルートの演奏を引き立てるかのように、雰囲気や空気感を巧みに演出し、次いで、最終的にはセラ・ブロデリックの伸びやかなフルートの演奏が音像の向こうに、ぼうっと浮かび上がてくる。アフロ・ジャズを基調とした彼女の演奏が神妙でミステリアスな響きを持つことは言うまでもないが、どころか、アウトロにかけて現実的な空間とは異なる何かしら神秘的な領域がその向こうからおぼろげに立ち上ってくるような感覚すらある。

 

アルバムの序盤は温和な響きを持つ音楽が主要な作風となっているが、中盤ではそれとは対象的に、Jan Garbarek(ヤン・ガルバレク)の名曲「Rites」を思わせるような独特なテンションを持つ音楽が展開される。

 

続く「Cut」では、映画音楽のオリジナルスコアの手法を用い、緊張感のある独特なアンビエンスを呼び覚ます。イントロのセンテンスが放たれるやいなや、空間の雰囲気はダークな緊迫感を帯びる。それは形而上の内的な痛みをひとつの起点にし、スポークンワードが流れていくごとに、自らの得がたい心の痛みの源泉へと迫ろうという、フロイト、ユング的な心理学上の試みとも解せる。それらはピーターによるノイズ、ドローン的なアルバムの序盤の収録曲とは全く対蹠的に、内的な歪みや亀裂、軋轢を表したかのような鋭いシークエンスによって強調される。 

 

Tim Hecker(ティム・ヘッカー)が『No Highs』(Reviewを読む)で示した「ダーク・ドローン」とも称すべき音楽の流れの上をセラ・ブロデリックの声が宙を舞い、その着地点を見失うかのように、どこかに跡形もなく消え果てる。そして、それらのドローンによる持続音が最も緊張感を帯びた瞬間、突如そのノイズは立ち消えてしまい、無音の空白の空間が出現する。そして、急転直下の曲展開は、続く「静寂」の導入部分、イントロダクション代わりとなっている。


「Silence」では、対象的に、神秘的なサウンドスケープが立ち上る。アンビエントの範疇にある曲であるが、セラの声は、旧来のアンビエントの最も前衛的な側面を表し、なおかつこの音楽の源泉に迫ろうとしている。2つの方向からのアプローチによる音楽がそのもの以上の崇高さがあり、心に潤いや癒やしをもたらす瞬間すらあるのは、セラ・ブロデリックの詩が自然に対する敬意に充ちていて、また、その中には感謝の念が余すところなく示されているからである。


続く「True Voice」では、精妙な感覚が立ち上り、声の表現を介して、その感覚がしばらく維持される。ピーター・ブロデリックの旧来のミニマリズムに根ざしたピアノの倍音を生かした演奏が曲の表情や印象を美麗にしている。これは『Das Bach Der Klange』において、現代音楽家のHerbert Henck(ヘルベルト・ヘンク)がもたらしたミニマル・ピアノの影響下にある演奏法ーー短い楽節の反復による倍音の強化ーーの範疇にある音楽手法と言えるかもしれない。


20分以上に及ぶ、アルバムのクローズ曲「Moon in the Monasteryー修道院の月」は、ニューエイジ/アンビエントの延長線上にある音楽的な手法が用いられている。一見すると、この曲は、さほど前衛的な試みではないように思える。しかし、ブロデリックは、パーカションの倍音の響きの前衛性を追求することで、終曲を単なる贋造物ではない、唯一無二の作風たらしめている。


その内側に、チベット、中近東の祈りが込められていることは、チベット・ボウル等の特殊な打楽器が取り入れられることを見れば瞭然である。なおかつ、クローズ曲は、ドローン・アンビエントの範疇にある、現代音楽/実験音楽としての最新の試みがなされていると推察される。しかし、その響きの中には真心があり、豊かな感情性が含まれている。取りも直さずそれは、音楽に対する畏敬なのであり、自然や文化全般、自らを取り巻く万物に対する敬意にほかならない。これらの他の事物に対する畏れの念は、最終的には、感謝や愛という、人間が持ちうる最高の美へと転化される。

 

音楽とは、そもそも内的な感情の表出にほかならないが、驚くべきことに、これらは先週紹介したPACKSとほとんど同じように、「平均的な空間以上の場所」に聞き手を導く力を具えている。抽象的なアンビエント、フルート、スポークンワード、鳥の声、ベル/パーカッションの倍音、微分音が重層的に連なる中、タイトルが示す通り、幻想的な情景がどこからともなく立ち上がってくる。その幻惑の先には、音楽そのものが持つ、最も神秘的で崇高な瞬間がもたらされる。それは一貫して、教会のミサの賛美歌のパイプ・オルガンのような響きを持つ、20分に及ぶ通奏低音と持続音の神聖な響きにより導かれる。極限まで引き伸ばされる重厚な持続音は、最終的に、単なる幻想や幻惑の領域を超越し、やがて「真善美」と呼ばれる宇宙の調和に到達する。

 

 



95/100






Selah Broderick & Peter Broderick 『Moon in the Monastery』は自主制作盤として発売中です。アルバムのご購入はこちら




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昨年11月、ラナ・デル・レイ、ザ・1975、ニック・ケイヴ、パフューム・ジーニアス、ブリーチャーズ、フローレンス・ウェルチ、ビーバドビーらが、Apple TV+で放送予定のシリーズ『The New Look』のサウンドトラックのために、20世紀初期から中期の楽曲のカバーをレコーディングしたことが報じられた。ブリーチャーズのジャック・アントノフがプロデュースとキュレーションを担当したサウンドトラックの全トラックリストが公開された。以下よりご覧下さい。


サウンドトラックからのファースト・シングル、フローレンス+ザ・マシーンの「White Cliffs of Dover」は1月31日(水)にリリースされる。


トッド・A・ケスラーによって制作された『The New Look』は、クリスチャン・ディオール役をベン・メンデルソーン、ココ・シャネル役をジュリエット・ビノシュが演じる歴史ドラマ。2024年2月14日にストリーミングサービスで初放送される。



The New Look (Apple TV+ Original Series Soundtrack)




1. Florence + The Machine – ‘White Cliffs Of Dover’

2. The 1975 – ‘Now Is The Hour’

3. Lana Del Rey – ‘Blue Skies’

4. Perfume Genius – ‘What A Difference A Day Makes’

5. Nick Cave – ‘La Vie En Rose’

6. Beabadoobee – ‘It’s Only A Paper Moon’

7. Joy Oladokun – ‘I Wished Upon The Moon’

8. Bartees Strange – ‘You Always Hurt The One You Love’

9. Sam Dew – ‘I Cover The Waterfront’

10. Bleachers – ‘Almost Like Being In Love’