Pearl Jam  『Dark Matter』

 


 

Label: Republic/ Universal Music

Release: 2024/04/20

 

 

Review    


-シアトルの伝説の華麗なる復活-

 

 

90年代のグランジシーンを牽引した偉大なロックバンド、Pearl Jamの待望の新作アルバム『Dark Matter』のプロディースは、アンドリュー・ワットが手掛けている。ワットは、マイリー・サイラス、ポスト・マローン、そして、オジー・オズボーンの作品に関わった敏腕プロデューサーだ。バンドのギタリストのマイク・マクレディは、新作アルバムに関して、アンドリュー・ワットの貢献が大きかったと明かしている。「この一年、彼と一緒にスタジオにいた時、彼は僕らの尻を蹴り上げ、集中させ、そして矢継ぎ早に曲を演奏させた」とマクレディは語る。

 

「そして、アンドリューは、わたしたちにこんなふうに言った。”君たちはレコードを作るのに時間がかかるだろう? 今すぐこれを仕上げようじゃないか”って」また、マクレディは、この復活作についてパール・ジャムのデビュー当時のエネルギーが存在し、それはほかでもないアンドリューのお陰であると述べている。「このアルバムには最初の2作のアルバムのエネルギーがある。アンドリューは、わたしたちが長年そうしてきたように、ハードでメロディアスで思慮深いプレイができるよう、わたしたちを後押ししてくれた」と、マクレディは述べた上で、次のように補足している。「マット・キャメロンのドラミングに注目してほしい。このアルバムの音楽には、彼がサウンドガーデンでやっていたことと同じ魅力が込められているんだ」


実際、彼らの新作『Dark Matterのサウンドに耳を傾けてみると、『TEN』の時代のパワフルなハードロックやグランジの魅力が蘇っていることに気づく。そして同時に音楽性としてドラマティックな要素が加わり、ハリウッド映画のような大スペクタルのハードロックサウンドが構築されている。アルバムにはロック・ミュージックの普遍的な魅力があり、パール・ジャムはそれを彼らのスタイルで奏でる。バンドの唯一無二の強固なサウンドを組み上げているのだ。

 

アルバムのオープニング「Scared Of Fear」にはドゥームサウンドや映画「インディペンデンス・デイ」を思わせるアンビエント風のイントロに続いて、乾いた質感を持つロックンロールサウンドが繰り広げられる。エディ・ヴェーダーのボーカルにはデビュー当時の勢いがあり、熟練のバンドマンとしてのプライドがある。そして、そこにはサウンドガーデンのクリス・コーネルのような哀愁、フー・ファイターズのデイヴ・グロールを思わせるパワフルさが加わった。まさにアルバムの一曲目でパール・ジャムは”グランジとは何か?”というその核心の概念を示す。確かにこの曲には、現代の世界の社会情勢にまつわるメッセージも含まれているのかもしれないが、パール・ジャムはその現状に対し、勇敢に立ち向かうことを示唆するのである。


以後、バンドはグランジにとどまらず、USハードロックの醍醐味を再訪する。「React, Respond」ではドラムのダイナミクスの強調やクランチなギター、分厚いグルーブを作り出すベースライン、ヴェーダーのワイルドな空気感のあるボーカルと、このバンドの持ち味が遺憾なく発揮されている。そこにあらためてハードロックの持つパワフルなサウンドを蘇らせる。これらのサウンドには一点の曇りもない。いや、それどころか、パールジャムが現在進行系のバンドであることを象徴付ける。もちろん彼らの最大の魅力であるシアトルサウンドを通してだ。


パール・ジャムのロックは必ずしもラウド性だけに焦点が置かれているわけではない。これはクリス・コーネル率いるサウンドガーデンと同様である。続く「Wreckage」では、フォーク/カントリーを中心とする現代のオルタナティヴサウンドに呼応する形で、ロックサウンドを展開させる。この曲には、CSN&Yのような回顧的なフォーク・ミュージックが織り交ぜられている。それのみならず、Guided By Voicesのようなオルタナティヴロックの前夜の80年代後半のサウンドがスタイリッシュに展開される。背後のフォークロックのサウンドに呼応する形で歌われるエディー・ヴェーダーのボーカルには普遍的なロックを伝えようという意図も感じられる。この曲にはオルタネイトな要素もありながら、80年代のスタンダードなハードロックサウンドのニュアンスもある。ロックソングのスタンダードな魅力を堪能することが出来るはずだ。

 

 

 

メタリカのラーズ・ウィリッヒのプレイを思わせるキャメロンのダイナミックなタム回しで始まる「Dark Matter」はパール・ジャムのサウンドがロックにとどまらず、ヘヴィメタルの要素が併存していることを象徴付けている。タイトル曲で、パールジャムは「TEN」の時代のハードロッキングなサウンドを蘇らせ、アンドリュー・ワットのプロデュースの助力を借り、そこにモダンな印象を付け加える。90年代の彼らのジャンプアップするようなギターサウンドはもちろん、それを支えるマット・キャメロンのドラムが絶妙な均衡を取り、シンセサイザーのアレンジを交え、エディ・ヴェーダーは”最もワイルドなロックソングとは何か?”を探求する。ここには90年代のミクスチャーロックの要素もあり、ホワイト・ゾンビを思わせる横乗りのサウンドが貫かれている。ロック・ミュージックのダンサンブルな要素を探求しているといえる。


アルバムの中盤ではこのバンドの最大の魅力ともいえる緩急のあるサウンドが際立っている。例えば、「Won't Tell」ではグランジのジャンルのバラードの要素を再提示し、それをやはりモダンな印象を持つサウンドに組み替えている。この曲には80年代のメタル・バラードの泣きの要素と共鳴するエモーションが含まれている。さらに続く「Upper Hand」では、エレクトロニックの要素を追加し、ヴェーダーの哀愁のあるボーカルを介し、王道のスタジアムロックソングを書いている。あらためてこのバンドが、フー・ファイターズと全くおなじように、スノビズムにかぶれるのではなく、大衆に支持されるロックナンバーを重視してきたことがうかがえる。続く「Wait For Steve」は、90年代のパール・ジャムの作風と盟友であるクリス・コーネルのソングライティング性を継承し、それらを親しみやすいロックソングとして昇華させている。


もうひとつ、『Dark Matter』のリスニングの際に抑えておくべき点を上げるとするなら、ストーナーとグランジの中間にあるオルタネイトなロックを、このアルバムの中でパール・ジャムは探求していることに尽きるだろう。「Running」は、Nivanaが登場する以前のグランジの最盛期のサウンドを思わせる。また、Melvins、Kyuss、Fu Manchu、最初期のQOTSAのようなストーナーのラウド性が含まれている。全体的なサウンドは、クリス・ノヴォセリックのプレイを思わせる分厚さと疾走感のあるベースラインを中心に構成される。それらをグリーン・デイのようなダイナミックなロックサウンドに昇華させているのは本当に見事であり、ほとんど離れ業とも言える。このあたりにもアンドリュー・ワットの敏腕プロデュースの成果が見受けられる。

 

パール・ジャムの90年代のサウンドの魅力はヘヴィーさにあったのは事実だが、もう一つ忘れてはならない点がある。それは「Something Special」に見出される叙情性と、アメリカーナの要素で、パールジャムの場合はメタリカの96年の『Road』のように、バーボンやウイスキーに代表されるアウトサイダーの雰囲気にある。この曲ではあらためてフォークやカントリーの要素を通じて、それらがワイルドな風味を持つアメリカン・ロックとしてアウトプットされる。 

 

特に叙情性という要素に関しては、続く「Got To Give」にも明瞭に感じられる。この曲では、ワイルドな雰囲気を込め、パールジャムらしいハードロックなバラードが展開される。そして、後者のアメリカーナ、フォークバラードという要素はアルバムのクライマックスに登場する。

 

本作のクローズ曲「Setting Sun」が果たしてサウンドガーデンのボーカルであるクリス・コーネルに因んだものなのかは定かではない。しかし、少なくとも、この曲が「Black Hole Sun」のレクイエムの意味を持つ曲であったとしても不思議ではない。パール・ジャムのアルバムに最初に触れたのは多分、2000年代だったと思う。もちろん、それは、Green River,Mother Love Bone,そしてMelvinsと共にあったのだ。あれから長い時間が流れたけれど、今、考えると、このバンドの音楽に親しんでいたことに、ある種の愉悦を覚えている。素晴らしいロックアルバム。

 


92/100

 

Best Track- 「Scared To Fear」


 

Peral Jamの『Dark Matter』は日本国内ではユニバーサル・ミュージックより発売中です。公式ストアはこちらから。



シカゴのエモコアバンド、Into It. Over It. は新作アルバム『Interesting Decisions: Into It. Over It. Songs 』を発表した。2007年にエヴァン・ワイスを中心に結成され、エモ/インディーロックバンドとして日本でも根強い人気を誇る。昨年、バンドは大阪と東京で来日公演を行った。

 

このアンソロジーには、彼らがスプリットや単発リリースで発表した曲に加え、3曲の新曲を収録している。発表と合わせてシングル「Bandelier」を含む三作のシングルがリリースされた。以下からチェックしてみよう。


「'Bandelier'はニューメキシコにあるバンドリエ国立州立公園を訪れたことを歌っている」エヴァン・ワイスは声明の中で述べている。

 

「失われた古代文明の中をハイキングできる。かつて人々の住居だった岩の中を這うことができるんだ。風と水によって削られた空間は、何千年もの間、この土地に住む先住民の住居として生き続けてきた。それは美しい。歩いたり探検したりするいたるところで、気配を感じられた」

 

「私たちはマイホームを購入して間もなく、ここで新しい年を迎えた。私たちがいなくなった後、どんな人たちが私たちの家を通るのだろうと考えていた。私たちのことをどう思うか? 私たちの存在を感じるだろうか? そう思ううちに時間はどんどん過ぎていった」

 

ニューアルバムについて、エヴァン・ワイスは次のように説明している。


「フィギュアの作曲とリリースを終えて、アダムと私はIOIの現在のラインナップ(私、アダム、ジョー・ジョージ、マット・フランク)を固めることができた」

 

「ケミストリー、信頼、創造性は、これまでのどのラインナップでもこれほど自然でポジティブなものはなかったんだ。自分とドラマーだけでなく、グループでクリエイティブなプロセスがどのように機能するかを確かめるには、今がベストなタイミングじゃないかと考えていた。フィギュアの作曲セッションで書き留めたアイデアや断片から曲を作り始めたんだ。1曲が2曲になり、2曲が4曲になった。やがて私たちのプロセスはダイヤル式になっていった」


「アダムと私はIOIとのクリエイティブな関係を定義していたけれど、マットとジョーは、IOIの作曲にはなかったスタイルと視点を音楽にもたらしてくれた。これらのレコーディングで、私たちがどれだけ楽しんでいるか分かってもらえると思う。それぞれのテイストが曲に反映されているのが。そして私たち全員が実験しているのがね。自分らしくアイディアを試す。IIOIの寿命が尽きようとする今の時点で、作家としてミュージシャンとして自分たちをプッシュし続けながら、最も純粋な自分たちでいることほど、クリエイティブで楽しいことはないと思うんだ」

 

 

 

 

『Interesting Decisions: Into It. Over It. Songs』 (2020 – 2023) 



Label:  Storm Chasers LTD/Big Scary Monsters

Release: 2024年5月3日

 

 

Tracklist:


1. A Trip Around The Sun

2. My Goddamn Subconscious

3. The Focus. The Compass. The Contract In Hand.

4. Akron, OH

5. The Car’s Still Running Out Front

6. Home Is The Gift

7. New Addictions

8. The Designated Place At The Designated Time

9. Miyajima, JP

10. The Captain Setting Course From Where We Met

11. Bandelier


 

トロントのマデリン・リンクによるバンドプロジェクト、PACKSは今年1月に『Melt The Honey』をFire Talkからリリースし、昨年の『Crispy Crunchy Nothing』からソングライターとしてもバンドとしても大きな飛躍を遂げた。90年代のインディー・ロック・ムーブメントに敬意を表し、彼女独自のゆるいサウンドを維持し、彼女の音楽に新たな情熱、効率性、独創性を吹き込んだ。Guided By VoicesのようなUSオルタナのバンドから影響を受けているという。


今週、PACKSはAudiotreeライブ・パフォーマンスに出演した。最新作のMeat Puppetsを彷彿とさせるゆるいインディーロックソングは必聴だ。バンドは、今回のAudiotreeの進行役を務めたPsalm Oneとのインタビューで、ツアーでの経験、リンクの音楽的背景、お気に入りのホラー映画について話している。この音源はストリーミングでも配信されている。詳細はこちら

 


 「Paige Machine」ー Audio Tree Live


 



イギリスのノイズ・ロックの先駆者である”The Telescopes”は、Fuzz Club Recordsから2曲収録のニューシングル「Strange Waves」をリリースした。ソニック・ユースのプロトパンクを彷彿とさせる音源だ。主要なストリーミングでは一曲が配信、Bandcamp限定で2曲が配信されている。


『Strange Waves」は、バンドの初期の作品にあった歪んだガレージ・ロック・サウンドへの回帰を示す。一方、フリップサイドの「The Speaking Stones」は、The Telescopesの最も大胆な作品のひとつ。

 

ドローンとノイズを融合させながら14分半弱を記録したこの曲は、今なお妥協を許さないバンドの比類なきサウンドを記録している。何十年も前、スティーヴンの作品に不可欠で形成的な影響を与えたのは、スーサイドと13th Floor Elevatorsとの出会いで、ニューシングルが示すように、それらの不気味なロックンロール性は、今日でも彼の音楽に遍在するエナジーでもある。

 

ギタリスト/ボーカリストのスティーブン・ロウリーという比類なき原動力を中心に、ザ・テレスコープスは1988年に最初のリリース(ループとのスプリット・フレキシー盤「Forever Close Your Eyes」)を出して以来、たえず進化を続けている。

 

ローリーのアイデアを補完するミュージシャンの顔ぶれは常に変化し続けており、ザ・テレスコープスは立ち止まる暇も休む暇もない。バンドは今年2月に同レーベルからフルレングス『The Growing Eyes Become Strings』をリリースし、センセーショナルなインパクトを与えている。

 



 

 

ロンドンを拠点に活動する シンガーソングライター、マルチインストゥルメンタリスト、プロデューサー、Alfie Templeman(アルフィー・テンプルマン)が、6月にリリースを控える最新アルバム『Radiosoul』より3曲目となる先行シングル「Hello Lonely」をリリースした。先行公開された「Eyes Wide Shut」「Radiosoul」に続く三作目のシングル。MVと配信リンクを下記よりチェックしてみよう。

 

ーーこの曲は、コロナ禍、そしてコロナが明けてからもみんなが抱えたあの混乱の様子を捉えていると思います。


みんなが『これからどうなるの?』と考えた時期です。いつも社交性の面で少し苦手と感じていて、時々SNSやツアーで苦労することがあります。1年に100回もステージに上がり、さまざまな人と会話を続けることがエネルギーを必要とするからです。仕事と家庭の生活がまったく異なる場合、静寂はかなり耳障りで非常に強烈に感じられます。「ハロー・ロンリー」は、それらの耳障りで大きな”静寂の瞬間”を乗り越え、自分の正気を確認することについて表現した曲です。  ーー Alfie Templeman


 

NMEやBBC Radioなど、楽曲をリリースするたび、さまざまなメディアから称賛を集めるアルフィー・テンプルマン。今回の楽曲は仕事とプライベートを両立することの難しさをテーマに、自身が抱える苦悩や葛藤をストレートかつ独特な視点で歌っている。



しかしサウンド面は内省的な内容と相反して、アルフィーの楽曲の中でも一際目立つダンサブルな1曲に。これまでにリリースした2曲「Eyes Wide Shut」、「Radiosoul」とのサウンドの一貫性を保ちつつも、苦悩や葛藤を吹き飛ばしてしまうほどの勢いや疾走感を感じさせるトラックに仕上がった。


プリンスからミネアポリス・サウンドを、トーキング・ヘッズからはポスト・パンクの精神を、そしてテーム・インパラが持つサイケデリック性とスティーヴ・レイシーに代表されるオルタナティブR&Bサウンドを、アルフィーがもつ奇跡的なバランス感覚で混ぜ合わせ、他にはない正真正銘の”アルフィー・サウンド”を確立。



6月のアルバムリリースに向かって、リリースする度に音楽家としてのさまざまな表情を見せるアルフィーの進化の過程を見逃すな!



「Hello Lonely」-Best New Tracks

 

 

 

Alfie Templeman(アルフィー・テンプルマン) 「Hello Lonely (ハロー・ロンリー)」 ーNew Single



レーベル:ASTERI ENTERTAINMENT

形態:ストリーミング&ダウンロード

配信リンク: https://asteri.lnk.to/ATHelloLonely

 

 

Alfie Templeman:

 

イングランド、ベッドフォードシャー出身のシンガーソングライター / マルチインストゥルメンタリスト / プロデューサー。 8歳の時にRushのライブに魅せられ、曲づくりを始める。ドラム、ギター、キーボード、マンドリン、ハーモニカなど10個以上の楽器を独学で習得。2018年にEP『Like an Animal』でデビュー。

 

2022年には1st フルアルバム『Mellow Moon』をリリース。全世界でのストリーミング数は現在累計3億回を超える。UKのインディーポップ・シーンの新星としてBBCラジオ、サンデー・タイムズ、The ObserverやVOGUE UK(ヴォーグ イギリス版)などからも注目を集める。

 Weekly Music Feature ‐ Demian Dorelli 

 


ロンドン出身で、ケンブリッジ大学出身のDemian Dorelliは、音楽と足並みを揃えて人生を歩んできた。


主にクラシックで音楽の素地を形成したデミアン・ドレリは、その後もジャズ・ミュージックやエレクトロニック・ミュージックへのアプローチを止めることなく、その制作経験を豊富にしていった。


彼はこれまでに、パシフィコ(2019年のアルバム『Bastasse il Cielo』から引用された曲「Canzone Fragile」)において、アラン・クラーク(Dire Straits)、シモーネ・パチェ(Blonde Redhead)といった名だたるアーティストとコラボレーションしている。


デミアン・ドレリはまた、ポンデローザ・ミュージック&アートから『Nick Drake's PINK MOON, a Journey on Piano』を発表している。このアルバムは、ピーター・ガブリエルのリアルワールド・スタジオでティム・オリバーと共にレコーディングされ、ドレリがピアノを弾きながら故ニック・ドレイクに敬意を表し、過去と現在の間で彼との対話を行う11曲で構成されている。


前作『My Window』はドレリのサイン入り2枚目のアルバムで、ポンデローザ・ミュージック・レコードからリリースされた。彼の長年の友人であるアルベルト・ファブリス(ルドヴィコ・エイナウディの長年の音楽協力者・プロデューサー、ドレッリの「ニックス・ドレイク ピンクムーン」というデビュー作品の時にすでにコントロール・ルームにいた)がプロデュースを手掛けた。


イタリアのレーベルのパンデローサは、このアルバムについて、「イタリア人ファッション写真家とイギリス人バレエダンサーの間に生まれたもう一人のドレッリ(わが国のクルーナー、ジョニーの人気と肩を並べることを望んでいる)は、非常に高いオリジナリティを持つピアノソロアルバムを作るという難題に成功している」と説明する。


デミアン・ドレリのピアノ音楽は、現在のポスト・クラシカルシーンの音楽とも共通点があるが、ピアノの演奏や作品から醸し出される気品については、Ludovico Einaudi、Max Richter,Hans Gunter Otte、John Adamsの作品を彷彿とさせる。デミアン・ドレリの紡ぎ出す旋律は、軽やかさと清々しさが混在する。まるで未知の扉を開き、開放的な世界へリスナーを導くかのようだ。


現代音楽のミニマリズムのコンポーザーとしての表情を持ちながらも、その範疇に収まらないのびのびとした創造性は、軽やかなタッチのピアノの演奏と、みずみずしい旋律の凛とした連なり、そして、それを支える低音部の迫力を通じて、聞き手にわかりやすい形で伝わってくる。


本日(4月19日)、ピアノ(デミアン・ドレリ)、チェロ(キャロライン・デール)、フレンチ・ホルン(エリサ・ジョヴァングランディ)のための長編作品を収録した、これまでの作風とは異なる3枚目のレコードが発売される。「A Romance of Many Dimensions(多次元のロマンス)」は、エドウィン・A・アボットによる1884年の小説「Flatland(平地)」の要素を刺激として取り入れつつ、タペストリー空間を自在に旅する7部のパートのエモーショナルな作品に仕上がっている。

 


 

『A Romance of So Many Dimensions』‐ Ponderosa Music Recordings Sri


 

 

英国のピアニスト/作曲家であるデミアン・ドレリは『My Window』において内的な世界と外的な世界をピアノの流麗な演奏を介し表現した。前作はモダンクラシックやミニマルミュージックの系譜に属する作品であったが、三作目のアルバムは必ずしも反復的なエクリチュールにとどまらず、モチーフを変奏させながら、発展性のあるコンポジションの技法が取り入れられている。

 

今回、ロンドンを拠点に活動するデミアン・ドレリは、デイヴィッド・ギルモア、ピーター・ガブリエル、オアシス、U2の作品にも参加している英国人チェリスト、キャロライン・デール、そして、イタリア人のフレンチ・ホルン演奏家で、カイロ・シンフォニー・オーケストラとの共演を行っているエリサ・ジョヴァングランディが参加し、壮大な世界観を持つ室内楽を提供する。

 

 

 

本作はデミアン・ドレリのピアノ・ソロを中心に組み上げられる。その中に、対旋律やフーガのような意味合いを持つフレンチ・ホルン、チェロのレガート、スタッカート、トレモロが多角的に導入される。表向きには、上記の二つのオーケストラ楽器が紹介されているのみであるが、終盤の収録曲には、ウッドベース(コントラバス)の演奏が入り、ジャズに近いニュアンスをもたらす場合もある。もちろん、ドレリの場合は、クラシックにとどまらず、ジャズやエレクトロニックといった幅広い音楽性に触発を受けていることからもわかるとおり、音楽の多彩性、及び、引き出しの多さが三作目のアルバムの重要なポイントを形成している。そして、このアルバムでは、涼やかな印象を持つピアノのモチーフを元に、アルペジオに近似する速いジャズ風のパッセージのバリエーションを通じて、ルドヴィコ・エイナウディを彷彿とさせるシネマティックな趣向を持つクラシックミュージックを作り上げる。考え方によっては、デミアン・ドレリのピアノソロが建築の礎石を築き、その次に二人の演奏家が建築に装飾を施していく。

 

前作に比べると、明らかに何かが変わったことがわかる。オープニングを飾る「Houses」はイントロの早めのピアノのパッセージの後、ドレリは華麗なモチーフの変奏を繰り返しながら、楽曲をスムーズに展開させていく。

 

ドレリのピアノは、安らかな気風を設けて、癒やしの質感を持つ緻密な楽節を作り上げる。楽曲の構成としては、米国の現代音楽家、アダムズの系譜にあるミニマリズムであるが、必ずしもドレリの場合は、”反復”という作曲技法が最重視されるわけではない。古典音楽の著名な作曲家がそうだったように、細かな変奏を繰り返しながら、休符をはさんで''間''を設け、チェリストの感覚的なレガートの演奏を織り交ぜ、贅沢な音の時の流れをリスナーに提供しようと試みる。これは、ジョン・アダムズが自分自身の音楽性や作風について、「ミニマリズムに飽きたミニマリスト」と表現したように、この音楽の次なるステップが示されているといえるかもしれない。 

 

 

 「Houses」

 

 

 

例えば、マックス・リヒター、ルドヴィコ・エイナウディ、オーラヴル・アルナルズ、アイディス・イーヴェンセン、昨年死去した坂本龍一、(Room 40のローレンス・イングリッシュとコラボレーションしている)小瀬村さんにしても同様であるが、近年の現代音楽家は音楽という表現を内輪向けにするのを良しとせず、クラシック音楽にポピュラリティをもたらそうと考えているらしい。クラシックをコンサートホールだけで演奏される限定的な音楽と捉えず、一般的なポピュラーミュージックの形で開放している。これは例えば、権威的な音楽家から軽薄とみなされる場合もあるにせよ、時代の変遷を考えると、当然の摂理といえ、クラシックに詳しくないリスナーに音の扉を開く意味がある。デミアン・ドレリの音楽についても同様で、彼の音楽はポピュラーやジャズのリスナーに対し、クラシックの扉を開く可能性を秘めているのだ。

 

デミアン・ドレリの音楽には、ドビュッシー以降の色彩的な和音の影響があり、朝の太陽の光のような清々しさがある。音楽に深みを与えているのが、キャロラインのチェロ、そして、エリサのフレンチ・ホルンの情感を生かした巧みな演奏である。特に、二曲目の「Theory Of Three」はマックス・リヒターの楽曲性を思わせ、曲の終わりに、ソロ・ピアノの演奏を止め、チェロとフレンチ・ホルンの演奏をフィーチャーすることで、一瞬の音の閃きを逃すことはない。

 

「Universal Color BB」はマックス・リヒターの系譜に位置する曲で、 ドビュッシーの「La cathédrale engloutie - 沈める寺」の縦構造の和音にジャズの和声法を付加している。これらの重厚かつ色彩的な和音を微妙に変化させながら、安らいだ音楽空間を作りだす。しかし、イントロではミニマリズムに属すると思われた曲風は中盤において、チェロとフレンチホルンの演奏、アラビア音楽のスケールを織り交ぜたジャズピアノのパッセージによって、ストーリー性のある音楽へと変遷を辿ってゆく。


この曲のエキゾチック・ジャズの影響も音楽的な魅力となっているのは明らかだが、特に、ホルンの芳醇な音の響きには目が覚めるような感覚があり、その合間のドレリのピアノは落ち着きと安らぎをもたらし、ルチアーノ・ベリオを思わせる現代音楽の範疇にあるピアノのパッセージ、フレドリック・ショパンやフランツ・リストのような音階の駆け上がりを通じて、現代音楽とロマン派の作風の中間に位置するアンビバレントな領域に差し掛かる。曲の最後では、Ketil Bjornstadが最高傑作『River』で表現したような音の流れーーウェイブを表現する。ここでは、音楽の深層にある異なる領域が立ち上ってくる神秘的な瞬間を捉えられる。

 

 

「Universal Color BB」

 

 

 

続く「Stranger from Spaceland」を聴いて、フランツ・リストの『Anees de pelerinage: Premiere anee: Suisse‐ 巡礼の年 スイス』に収録されている「Au Lac de Wallenstadt‐ ワレンシュタットの湖で」を思い浮かべたとしても不思議ではない。ただ、デミアン・ドレリの場合は、それを簡素化し、マックス・リヒターの系譜にあるミニマリズム構造に置き換える。ただ、単なる和音構造のミニマリズムで終わらない点にデミアンの音楽の魅力がある。ジャズピアノの即興的な遊びの要素を取り入れ、構成に水のような流れをもたらし、映画音楽のサントラに象徴される視覚性に富む音楽的な効果を促す。途中、やや激したパッセージに向かう瞬間もあるが、クライマックスでは、ジャズの和声法を交え、基本的なカデンツァを用い、落ち着いた終止形を作り上げる。 

 

「A Vision」はミニマリズムの要素をベースに、ジャズのライブセッションの醍醐味を付け加えている。短いパッセージを元にして、フレンチホルンが前面に登場したり、チェロが現れたりと、現代的なロンドンのロックに近い新しいミニマルミュージックの形を緻密に作りあげていく。反復的な構造を持ちながら、細部にわたって精妙な工芸品のように作り込まれているため、じっと聞き入らせる何かがある。これは例えば、Gondwanaのレーベルオーナーであるマシュー・ハルソールのモダン・ジャズに近い雰囲気がある。上記のジャズとクラシックとポピュラーの融合性は、古典音楽に近寄りがたさを感じるリスナーにとって最上の入り口となりえる。

 

 

 

その他にもこのアルバムではタイトルに象徴されるように多次元的な音楽とロマンスの気風が込められている。「The King’s Eyes」は現代的な葬送曲/レクイエムのような意義を持ち、例えば英国のエリザベス女王の葬送に見受けられる由緒ある葬送のための音楽と仮定づけたとしてもそれほど違和感はない。また、この曲に英国の古典文学の主題が最もわかりやすく反映されているとも考えられる。エリサ・ジョヴァングランディによるフレンチホルンの演奏は、Kid Downesがシンセで古楽のオルガンの音響性を追求したのと同じく、音楽本来の崇高な音響性をどこかに留めている。特に、フレンチホルンの神妙なソロの後に繰り広げられるドレリのピアノとデールのチェロは、さながら二つで一つの楽器の音響性を作るかのように合致している。これらの複数の方向からの音のハーモニクスは、音楽そのものが持つ奥深い領域に繋がっている。

 

前作では簡素なミニマリストのピアノ演奏家としての性質が押し出されていたが、三作目のアルバムは映画音楽さながらにドラマティックな雰囲気のある音楽が繰り広げられる。とくにクローズ「Thoughtland」は神秘主義的な音楽であり、モダンクラシックをジャズやエレクトロニックという複数のジャンルへ開放させる。イントロの和風のピアノのアルペジオの立ち上がりから、ベートーヴェンの後期のピアノソナタ、モダンジャズによく見受けられる単旋律のユニゾンによる強調、そして、ジャズの即興演奏に触発されたアルペジオ……、どこを見ても、どれをとっても''一級品''というよりほかない。その上、本曲は、ミニマリズムの最大の弊害である音楽の発展性を停滞させることはほぼなく、音階の運びが驚くほど伸びやかで、開放的で、創造性を維持している。ソロピアノの緻密な音階の連続は、”次にどの音がやってくるか”を明瞭に予期しているかのように、スムーズに次の楽節に移行してゆく。音楽そのものもまた、平面的になることはほとんどなく、次の楽節に移行する際に、多次元的な構造性を作り上げている。


クローズ「Thoughtland」では、古楽やイタリアン・バロックに加え、ドイツ/オーストリアの古典派やロマン派、以降のフォーレからラヴェル、プーランク、メシアンまで続くフランスの近代和声、作曲家が親しむジャズ、ポピュラー、エレクトロニックという多数のエクリチュールを用い、開放感のある音楽に昇華させる。


デミアンの手腕は真に見事である。もちろん、その中には、今回の録音に参加した、二人の傑出したコラボレーター、キャロライン・デール、それから、エリサ・ジョヴァングランディの多大なる貢献が含まれていることは言うまでもない。特に、抽象的なピアノの音像とジャズのパッセージ、フレンチホルンが生み出すハーモニーの美しさは、現代のモダンクラシックの最高峰に位置づけられる。アルバムのクライマックスで、音楽が物質的な場所を離れ、別次元に切り替わる瞬間がハイライトとなる。"モダンクラシックのニュースタンダード"の登場の予感。

 

 

 

 

100/100(Masterpiece)

 


Demian Dorelli(デミアン・ドレリ)の『Romance of The So Many Dimensions(ロマンス・オブ・ザ・ソーメニー・デメンションズ)』はPonderosa Music Recordingsから本日発売。楽曲のストリーミング/ご視聴、海外のヴァイナル盤の購入はこちらより

 


Best Track-「Thoughtland」

 


ロンドンの押しも押されぬポスト・パンクの重鎮、IDLESは今年初めに5枚目のアルバム「TANGK」をリリースして以来、世界ツアーしたりと、多忙な日々を送っている。今回、バンドはアルバム・カット「POP POP POP」のヴィジュアライザーを公開した。


この曲についてヴォーカルのジョー・タルボットは、「子供を持つことの素晴らしさと、子供を持つことがどれだけ幸運なことかを理解することを歌った曲だ。子供を持つということは、親と子供を失うというサイクルを意味する」と説明している。


「失ったものがあるからこそ、親であることの背後にある感謝の気持ちや重みがとても大きい。おかげでより良い親になれたとか、より絆が深まったとまでは言わない。でも、私にとっては、失ったもののおかげで、以前よりもつながりが深まったと思う。彼女の喜びを見ることで、私は喜びの感覚を学んだ。それは素晴らしいことだと思う。そして力強い。とても感謝している」


ジョー・タルボットがヘッドウェアを身につけ、ワイルドな風景を横断する「POP POP POP」のビデオは以下よりチェック。ニューアルバム「TANGK」のレビューはこちらからお読み下さい。



「POP POP POP」

 


ニューヨークのオルトロックの新星、Been Steller(ビーン・ステラ)は、デビューアルバム『Scream From New York, NY』からニューシングル「Sweet」をリリースした。このシングルは、先行カット「Passing Judgment」と「All in One」に続く。以下よりチェックしてみてください。


「ヴォーカルのサム・スローカムは声明の中で、「私たちは皆、シンプルなヴァースに興味をそそられました」と語る。


「音楽に歌詞を委ね、曲の自然な感じから来るものを考えすぎないようにしたんだ。最初に浮かんだセリフのひとつは、"何を言っていいかわからないときに話す "というもの。親しい間柄では、最も純粋な瞬間は語る必要がないはずだと思う。そして人生全般において、最も重要で人々をひとつにするようなことは、たとえあったとしても、多くの言葉を正当化すべきではない。言葉は時に気持ちを複雑にするものだから」


Been Stellerのニューアルバム『Scream From New York, NY』はDirty  Hitから6月14日に発売されます。


「Sweet」


アイルランドの5人組ロックバンド、フォンテインズD.C.がニューアルバム『Romance』を発表した。『Romance』はXL Recordingsから8月23日にリリースされる予定で、Partisanからの移籍第一作となる。

 

バンドはアルバムのリードシングル「スターバースター」を配信した。「Starburster」のビデオはオーブ・ペリーが監督を務めた。アルバムのトラックリストとジャケットアートワークは以下の通り。


『Romance』はバンドにとって4枚目のアルバムで、2022年の『Skinty Fia』(UKとアイルランドのアルバム・チャートで1位を獲得)、2020年のグラミー賞ノミネート作『A Hero's Death』、2019年のマーキュリー賞ノミネート作『Dogrel』に続く作品となる。本作で彼らは初めてプロデューサーのジェームス・フォードと仕事をすることになる。


バンドはダブリンで結成されたが、現在はロンドンを拠点に活動しており、グリアン・チャッテン(ヴォーカル)、カルロス・オコネル(ギター)、コナー・カーリー(ギター)、コナー・ディーガン(ベース)、トム・コル(ドラム)が参加している。アークティック・モンキーズのメンバーとして、アメリカとメキシコをツアーしている間に、ニュー・アルバムのアイデアが生まれ始めた。その後、メンバーはしばらく別々の道を歩んでいたが、北ロンドンのスタジオで3週間のプリプロダクションを行い、パリ近郊のシャトーで1ヶ月のレコーディングを行った。


プレスリリースの中で、コナー・ディーガンはアルバムタイトルについて次のように語っている。

 

「私たちは常に理想主義とロマンスを抱いてきた。アルバムごとに、ドグレルと同じようにアイルランドというレンズを通して、その観察から遠ざかっていく。セカンド・アルバムはその離隔について、そしてサード・アルバムはディアスポラのなかに取り残されたアイルランドらしさについてだ。今、私たちはロマンチックであるために他に何があるのか、どこに目を向けている」


グリアン・チャッテンは、このアルバムのテーマを1988年の大友克洋監督の名作アニメ映画『AKIRA』と関連付けている。プレスリリースによれば、この映画では、「登場人物の周囲には技術的劣化と政治的腐敗の渦があるにもかかわらず、愛の炎が燃え上がる」のだという。


「"世界の終わりに恋に落ちる "ということに魅了された。このアルバムは、その小さな炎を守ることをテーマにしている。ハルマゲドンが大きく迫れば迫るほど、それはより貴重なものになるはずなんだ」


カルロス・オコネルはこう付け加えた。「このアルバムは、現実の世界と心の中の世界、どちらがファンタジーなのかを決めるためのものだ。どちらがより現実を表しているか。それは僕らにとってほとんどスピリチュアルなことなんだよ」

 

 

 「Starburster」



Fountaines D.C 『Romance』



Label: XL Recordings

Release: 2024/08/23


 Tracklist:


1. Romance

2. Starburster

3. Here’s the Thing

4. Desire

5. In the Modern World

6. Bug

7. Motorcycle Boy

8. Sundowner

9. Horseness is the Whatness

10. Death Kink

11. Favourite

METZ 『Up On Gravity Hill』 

 

 

 Label: Sub Pop

 Release: 2024/04/12

 

 

 Review

 

Metzは2012年のセルフタイトルで名物的なパンクバンドとしてカナダのシーンに登場した。サブ・ポップの古株といえ、ガレージロック、オルトロック、ポストパンク等をごった煮にしたサウンドで多くのリスナーを魅了してきた。『Up On The Gravity Hill』はデラックスアルバムを発表したからとはいえ、依然としてバンドが創造性を失ったわけではないことを表している。

 

シューゲイズ風の轟音ギターを絡めたオープニング「No Reservation/ Loves Comes Crashing」を聴けば分かる通り、本作は近未来のテイストを持つオルタナティブロックサウンドが展開される。

 

ボーカルのフレーズにはエモーショナルな雰囲気が漂い、バンドの年代としては珍しくエバーグリーンな空気感を作り出すことに成功している。その中に、UKの現行のポスト・パンクに類するオルタナネイトなスケール、ノイズ、不協和音が縦横無尽に散りばめられる。もちろん、バンドがそういったサウンドを志向していないのは瞭然であるが、抽象的なギターのフレージングと合わせて、オルト・ロックの無限のサイケデリアに誘う。少なくともこのオープニングは、本作のリスニングに際して、相応に良いイメージを与えるものと思われる。

 

同じく、エモとまではいかないけれども、「Entwined(Street Light Buzz)」においてオルタナティヴの源流を形作るカレッジロックやグランジの魅力を再訪し、上記のオープナーと同じように、トライトーンを用いたスケール、ノイズ、協和音の中に織り交ぜられる不協和音という形で痛快なインディーロックを展開させる。また、Nirvanaの「Love Buzz」のクリス・ノヴォセリックに対するオマージュが含まれていて、それはオーバードライブを掛けたベースラインという形で、この曲にパンチとフックをもたらす。上記の2曲は、道標のないオルタナの無限の砂漠に迷い込んだリスナーにとってオアシスのような意味を持つ。また、この曲には、わずかにメタリックな香りが漂い、それは80年代後半のグランジロックがヘヴィメタルの後に始まった音楽であることを思い出させる。Mother Love Bone、Green Riverあたりが好きなリスナーにとってはストライクとなるだろう。


グランジサウンドに舵をとったかと思えば、ジョン・ライドン擁するP.I.Lのような70年代後半のニューウェイブサウンドが繰り広げられる場合もある。「Superior Mirage」は、P.I.LやDEVO、Talking Headsが実践したように、テクノサウンドとパンクサウンドの融合というポストパンクの原点に立ち帰っている。問題は、IDLESのような圧倒的な説得力があるわけではなく、サウンドがやや曇りがちになっている。「Would Tight」では、パール・ジャムを思わせるUSロックとグランジの融合に重点を置いているが、この曲もセルフタイトルアルバムのような精細感に乏しい。数時間放置した炭酸の抜けたコーラのような感じで、ちょっとだけ物足りなさを覚えてしまう。

 

ただ、METZのメンバーが新しいカタチの''ポスト・オルト''とも称すべき実験的なサウンドをアルバムで追求していることは注目しておくべきだろう。例えば「Never Still Again」ではギターサウンドの核心にポイントを置き、変則的なチューニングを交えながら、オルタナティヴに新風を吹き込もうと試みる。アルバムのクローズ「Light Your Way Home」ではカナダのミュージックシーンを象徴づけるポストシューゲイズサウンドに挑む。これらはMetzによる、Softcult、Bodywashといったカナダのミュージックシーンの新星に捧げられたさり気ないリスペクトなのかもしれない。




75/100

 

 

「No Reservation/ Loves Comes Crashing」

 



オハイオの伝説的なインディーロックバンド、Guided By Voices(ガイド・バイ・ヴォイセズ)の、特にここ数年の活動については多作という言葉では表現しきれないものがある。バンドは今回、40枚目のアルバムを発表した。意外なことに、2024年にリリースする唯一のアルバムになるという。


GBVの新作アルバム『Strut of Kings』は6月28日にRockathon Records / GBV Inc.からリリースされる。2023年の『Nowhere to Go but Up』、『Welshpool Frillies』、『La La Land』に続く。

 

このアルバムは「Serene King」でプレビューされている。アルバムのトラックリストも公表された。


フロントマン/ボーカリストのロバート・ポラードは、Stereogumに対して次のように説明している。「僕は集中力のないアルバムが好きなんだけど、このアルバムはより集中しているように思える。構成がまとまっているんだ。僕が好きなロックのジャンルのバランスもいい。素敵なパワーポップの曲もあれば、かなりクレイジーな曲もある。ヘビーとライトのバランスもいい」



「Serene King」

 

 

・カレッジロック特集:


College Rock Essencial Guide  オルタナティヴロックを形作るラジオカルチャー カレッジロックとは??  



 

Guided By Voices 『Strut of Kings』


Label: / GBV Inc.

Release: 2024/06/28


Tracklist:


1. Show Me the Castle

2. Dear Onion

3. This Will Go On

4. Fictional Environment Dream

5. Olympus Cock in Radiana

6. Caveman Running Naked

7. Timing Voice

8. Bit of a Crunch

9. Serene King

10. Bicycle Garden


キング・ハンナは、近日発売予定のアルバム『Big Swimmer』の新曲「Davey Says」を発表した。シャロン・ヴァン・エッテン(Sharon Van Etten)をフィーチャーした先にリリースされたタイトル曲に続く。バンドのクレイグ・ウィトルが監督したミュージック・ビデオは以下より。


"Davey Says "は、90年代のアメリカン・インディ・ガレージ・ロックへの頌歌です」とヴォーカルのハンナ・メリックは声明で語っている。

 

「私たちはこの曲を、アルバムの中で騒々しく、ファジーで、軽快な瞬間にしたかった。冒頭の "パーティーの前に会おう、一人で歩きたくない "という歌詞は、90年代のアメリカの古典的なイメージ、青春のノスタルジーとロマンス、未来が目の前に広がっている暖かな夏の夜更けのイメージに対する私たちの試み」


King Hannahによるニューアルバム『Big Swimmer』はCity Slangから5月31日にリリースされる。オルタナティヴロック好きは要チェック。

 


「Davey Says」


 



ジャック・アントノフ率いるBleachers(ブリーチャーズ)が昨夜(4月16日)、ジミー・キンメル・ライブに登場、セルフタイトルのデビューアルバムから「Tiny Moves」を披露した。この曲は先行シングルとしても配信された。先日、ブリーチャーズは、コーチェラ・フェスティバルに出演し、その際にテイラー・スウィフトがスペシャルゲストとしてステージで共演を果たした。

 

ジャック・アントノフは、テイラー・スウィフトの作品のプロデューサーとして知られ、ヒット作請負人とも言える。アントノフは、米国の深夜番組の中で、ジミー・キメルとのインタビューに応じ、コーチェラでのプレイ、プロデュース業、男性との付き合い方などについて語った。


Bleachersのセルフタイトルアルバムは先月、ロンドンのDirty Hitからリリースされたばかりだ。バンドは以前、スティーヴン・コルベア主演のThe Late Showで「Alma Mater」を、Fallonで「Modern Girl」を披露した。ブルーチャーズは今年のサマーソニックで来日公演を行う。

 


 

©Emily Cross


Lomaが3枚目のアルバム『How Will I Live Without A Body?2020年の『Don't Shy Away』に続くこの作品は、Sub Popから6月28日にリリースされる。Lomaはエミリー・クロス、ダン・ドゥジンスキー、ジョナサン・マイバーグによるトリオ。

 

アルバムのファーストシングル「How It Starts」は、エミリーが監督・出演したビデオとともに本日公開された。また、リサ・クラインによるアルバム・ジャケットとトラックリストは以下を参照のこと。


ニュー・アルバムを制作するため、バンドはイギリスの小さな石造りの家で再集結した。「重いコートを着て小さな電気ラジエーターを囲んで座っていると、私たちはお互いにどれだけ会いたかったか、そして一緒にいること自体が貴重なことだと気づいたのです」とマイブルグは回想する。


「”How Will I Live Without A Body?"は、ローリー・アンダーソンに触発され、彼女の作品のトレーニングを受けたAIと仕事をするチャンスを与えられた。マイバーグが2枚の写真を送ると、アンダーソンのAIが2つの詩を返信してきた。私たちはこれらの詩の断片を『How It Starts』と『Affinity』に使用しました」と彼は説明した。

 

「AIのセリフのひとつ、"身体なしでどうやって生きていくのか?"がアルバムの名前にぴったりだと気づいたんだ」

 

 

 「How It Starts」




Loma 『How Will I Live Without A Body?』



Label: Sub Pop

Release: 2024/06/28


Tracklist:


1. Please, Come In

2. Arrhythmia

3. Unbraiding

4. I Swallowed a Stone

5. How It Starts

6. Dark Trio

7. A Steady Mind

8. Pink Sky


LAのシンガーソングライター、Hana Vu(ハナ・ヴー)は、次作『Romanticism』からの新曲「22」を発表した。「Care」「Hammer」に続く新曲です。以下よりチェックしてみてください。


「若いということは、初めて経験することがたくさんある。でも、いろいろなことを経験するにつれて、そういうことに鈍感になってしまう」

 

「私はかなり賢くなっていると感じている。けれど、決して熱狂的で希望に満ちているわけではない。『22』は、悲しみや思い出、そして、22歳であることに麻痺していたことを歌っています。でも、今、私は23歳で、この曲をみんなに披露する頃には、たぶん24歳になっているはず」


Hana Vuによる新作アルバム『Romanticism』は、Ghostly Internationalから5月3日にリリースされる。

 


「22」

 


バンドの復活の次のプロジェクトとして、Blink-182のトム・デロンゲはエレクトリック・ギターと心を広げるという2つの情熱を組み合わせ、フェンダー社との新しいシグネチャーモデルをギターマニアに提供する。


ブリンク182の創設メンバーで、U.F.O.の研究者でもあるデロンゲは、セイモア・ダンカンSH-5ピックアップを搭載したオフセットのセミホロウ・ギター、''トム・デロンゲ・スターキャスター''を発表した。


トム・デロンゲは製品開発にあたって、1970年代にリリースされたスターキャスターにいくつかの変更を加え、ブリンク182の2023年発表の9枚目のスタジオ・アルバム『ワン・モア・タイム』を引っ提げた世界ツアーで、この新作ギターのロードテストを行った。結果はバッチリだったようだ。


「このギターが大好きだよ。最高にクールなギター。まず、スターキャスターという名前、これが一番重要なこと。宇宙に行って、心を広げてくれるのさ」とデロンゲは声明の中でコメントしている。


「エレクトロニクスをスリム化し、70年代のヘッドストックを追加して重量を丸くし、マット・フィニッシュとブラックのハードウェアを選んだ。このギターは、プレイヤーとしての僕の進化を示すと同時に、僕がどこから来て、何を目指しているのかという特徴も持っているんだよ」


トム・デロンゲのスターキャスターは4色のラインナップが用意されている。価格は1,199.99米ドルとのこと。


このクールな新しいギターの全貌とデモは、以下のフェンダー社の公式ビデオでご覧ください。