Lankum  『False Lankum』

 

 

Label: Rough Trade

Release Date: 2023年3月24日



Review

 

アイルランド/ダブリンの四人組フォークグループ、Lankumは先週末4作目のフルアルバム『False Lankum』をリリースした。現代の音楽の主流のコンテクストから見ると、フォーク・ミュージックはポップネスやオルタナティヴロックと融合し、その原初的な音楽を核心に置くグループは年々少なくなってきているように思える。しかしながら、ダブリンの四人組はこのフォーク-つまり、民謡の源流を辿り、再びアイルランド地方の歴史性、そして文化性に脚光を当てようとしている。


バンドは、この4作目のアルバムを制作するに際して、かなり古いアイルランド民謡のアーカイブを丹念に調査し、そして実際の楽譜や歌詞を読み込み、それらを組み直している。このアルバムに収録されている曲の多くは、米国にもイングランドにも存在しえないアイルランド固有の音楽でもある。そして、アイルランド民謡が祭礼的な音楽として出発したという歴史的な事実を現代のアーティストとして再考するという意味が込められている。


例えば、オープニングトラック「Go Dig My Grave」は、そのタイトルの通り、葬儀における祭礼的な音楽として生み出された。そして、キリスト教のカソリックの葬儀の祭礼で演奏された宗教音楽やバラッドの幻影をランカムは辿っている。「Go Dig My Grave」は、ランカムのレイディ・ピートが1963年にアルバム『Jean Ritchie and Doc Watson at Folk City』に収録したジーン・リッチーの歌声からアルバムに収録されている特定のヴァージョンを発見したことに端を発する。この曲は、元々様々なバラッドのスタンザ(押韻構成のこと)として作曲された、いわゆる「浮遊詩」で構成されている曲の一つで、17世紀にそのルーツが求められる。

 

この曲は死者との交信といういくらか霊的な要素を備えており、ボーカルとアイルランドの民族楽器の融合は、悠久の歴史のロマンへの扉を開くかのようである。歴史家が古代の遺跡の探査にロマンチシズムを覚えるように、この曲には、アイルランドの歴史的なロマンと憧憬すら見出すことが出来る。そして複数の民族楽器の融合は、死靈へ祈りとも言いかえられ、曲の中盤から終盤にかけて独特な高揚感をもたらす。これはクラブミュージックともロック・ミュージックとも異なるフォーク・ミュージック特有の祈りに充ちた器楽的な抑揚が表現されている。

 

同じく、先行シングルとして公開された8曲目の「New York Trader」は、2021年一月に制作が開始された。

 

この曲はバンドがリングゼンド出身のルーク・チーヴァースから教わったという。この曲はまた19世紀にイギリスのブロードサイドに印刷された人気曲で、その後、20世紀ウィルトシャー、ノーフォーク、ノバスコシアでバージョンが集められた。渋さとダイナミックさを兼ね備えたバラードは、淡い哀愁に満ちており、舟歌としてのバラッドがどのようなものであるのかを再確認することが出来る。

 

アルバム発売前の最終シングルとしてリリースされた「New Castle」は、他の先行シングルと同様に17世紀のフォークミュージックを再考したものである。この曲については、The DeadliansのSeán Fitzgeraldから学びんだという。


このフォークバラッドは、『The English Dancing Master』1651年)という媒体に初めて掲載されたのが初出となる。一方、この曲の歌詞は、1620年に印刷された「The contented Couckould, Or a pleasant new Songe of a New-Castle man whose wife being gon from him,shewing how he came to London to her, and when he found her carried her backee again to New-Castle Towne」というタイトルのバラッドと何らかの関連があるかもしれないという。いくらか宗教的なバラッドとしてアクの強さすら感じられるフォーク・ミュージックの中にあって、最もハートフルで、聞きやすい曲として楽しむことが出来る。爽やかで自然味溢れるフォークソングは、バンドがアイルランドの名曲を発掘した瞬間とも言える。それらをランカムは、ノスタルジアたっぷりに、そして現代の音楽ファンにもわかりやすい形で土地の伝統性を伝えようとしている。それはアイルランド地方の自然や、その土地に暮らす人々への温かな讃歌とも称することが出来るかもしれない。

 

 

4作目のアルバム『False Lankum』では、古典音楽の一であるフーガ形式の3つの曲を取り巻くようにして、ロマンチックかつダイナミックなアイルランドのフォークバラッドの世界が飽くなき形で追求されている。あらためてアイルランド民謡の醍醐味に触れるのにうってつけの作品といえ、最終的に、本作の音楽はランカムのメンバーのこの土地の文化への類稀なる愛着という形で結実を果たす。上記に挙げた曲と合わせて、クライマックスを飾る「The Turn」には、これまでのランカムとはひと味異なるフォーク・バラッドの集大成を見出すことが出来るはずだ。

 

 

78/100

 

 

 Featured Track  「New Castle」

©Phoebe Fox

 

Hak Bakerのサポート・セットに続いて、Connie ConstanceはプロデューサーのKarma KidとBondaxのAdam Kayeとすぐにスタジオに向かいました。

 

この即席セッションの結果、ハイテンションなトラック "Kamikaze "が生まれ、Constanceはこう叫んだ。 "チック・イエス、チック・ノー、その中間はない/彼らは私にかわいく見えることを望み、私にきれいに見えることを望む"。

 

この曲「Kamikaze」は2022年のアルバム『Miss Power』に収録されましたが、本日、彼女はSleaford ModsのJason Williamsonをフィーチャーした新バージョンを公開しました。


この曲は、特にメディアの目に触れる女性が守るべき西洋的な美の基準について歌っているの。そして、私たちはいつも一緒にいるべきだという考えもある。エイミー・ワインハウスや、最近ではキャロライン・フラックについて、彼らが必要な時にケアされるのではなく、メディアによってどのように扱われたかを話しているんだ。


Sleafod Modsのフロントマン、Jason Williamsonは、この曲への貢献についてこう付け加えている。 

 

最初のコンセプトは、彼女の視点からの声を追加することだったのですが、家父長制を直接経験した者として自分を提示するのは不誠実だと思ったので、別の角度から、男性のカウンター、ゲートキーパーとして参加しました。この曲は素晴らしい曲です。


新バージョンの「Kamikaze」は以下からご視聴下さい。

 



 


イギリスの敏腕エレクトロニック・プロデューサー、CLARKが5月26日にThrottle Records発売される新作『Sus Dog』の最新シングル「Dismmisive」を公開しました。

 

このニューアルバムには、クリス・クラークの旧友であるトム・ヨークがエグゼクティブ・プロデューサーとして名を連ねています。

 

ファン待望の次作アルバム『Sus Dog』では、クラーク自身がボーカルに取り組んでいる。これまでクリス・クラークは、最近再発されたデビューアルバム『Body Riddle』、及び、テクノシーンきっての傑作『Turning Dragon』を始め、テクノ、ハウス、ゴア・トランス、オーケストラレーションを交えたモダン・クラシカルと、複数の変革期を通じて、ジャンルを問わず多彩なバリエーションを持つ作風に取り組んできたが、ボーカル・トラックへの取り組みは90年代からクラブシーンの最前線で活躍するプロデューサーにとって未曾有のチャレンジとなる。

 

これはクラークがトム・ヨークにボーカルの指導を仰いだ作品であるという。クラークによると、このアルバムはビーチ・ボーイズがレイヴレコードを作ったときの自分版であり、ヨークはこの新作の中で1曲で歌い、ベースを弾いているのだそう。すでに初期のトラック「Town Crank」「Clutch Pearlers」が発売されていますが、今回、3曲目のシングルが到着しました。

 

「Dismmisive」


ニュージーランド/オークランドのミュージックシーンの未来を担う四人組パワーポップバンド、The Beths(ザ・ベス)はNPRのTiny Desk Concertに出演し、さらに、2023年最初のシングル 「Watching The Credits」を発表しました。アルバムのジャケットでも魚のイラストでしたが、今回のシングルワークもやはり魚のイラスト。今後のバンドのモチーフとなっていきそうな予感もあり。


このニューシングルは、昨年9月に発売された『Expert In A Dying Field』以来となる音源です。アルバムのセッション中に録音されましたが、最新作には収録されなかったものだという。

 

さらに、新曲のリリースと同時に、NPRタイニーデスクコンサートの映像が到着した。バンドは最新アルバムの代表曲「Expert in a Dying Field」に加え、「Jump Rope Gazers」、「Out of Sight」、「When You Know You Know」の3曲を取り上げ、ライブパフォーマンスを行っている。

 

ぜひ下記よりチェックしてみて下さい。

 

 

「Watching The Credits」

 

 

 Tiny Desk Concert

 

 

©︎Jackie Lee Young


ロサンゼルスを拠点に活動するシンガーソングライター、Jess Williamson(ジェス・ウィリアムソン)は、6月9日にMexican Summerからリリースされる予定のアルバム『Time Ain't Accidental』を発表しました。


本日の発表では、リード・シングル「Hunter」とそれに付随するビデオが公開されています。


"もしあなたがゴーストになったことがあるなら、もしあなたが手に入らない人を追いかけたことがあるなら、もしあなたが完全な食事を必要とするときにパンくずを与えられたことがあるなら、「ハンター」はあなたのための歌です "とウィリアムソンは声明で説明している。


私は、別れに心を痛め、ロサンゼルスでデートの実験をしていた時期に書きました。あの時代は狼に放り出されたような気分だったが、そのおかげで自分自身と自分が本当に望んでいるものをよりはっきりと見ることができた。この曲は、本当の恋人たち、本物を探している人たちのためのアンセムなんだ。


昨年、ウィリアムソンはワクサハッチーのケイティ・クラッチフィールドとのコラボ盤『I Walked With You a Ways』をプレインズ名義でリリースした。彼女の最後のソロアルバムは2020年の『Sorceress』である。



「Hunter」

 



Jess Williamoson 『Time Ain’t Accidental』 

 


Label: Mexican Summer

ReleaseDate: 6月9日

 

Tracklist:


1. Time Ain’t Accidental
2. Hunter
3. Chasing Spirits
4. Tobacco Two Step
5. God in Everything
6. A Few Seasons
7. Topanga Two Step
8. Something’s In the Way
9. Stampede
10. I’d Come to Your Call
11. Roads




 果てしない草原と海の波、長いドライブとハイウェイの広がり、ダンス、煙、セックス、肉体的な欲望-ジェス・ウィリアムソンのニューアルバム『Time Ain't Accidental』の核となるイメージは、地上と肉欲に満ちている。

 

パンデミックの始まりにウィリアムソンとロサンゼルスの自宅を去ったロマンチックなパートナーや長年の音楽仲間との長い別れの後、このアルバムは、ウィリアムソンという人物とアーティストとしての地殻変動を告げる。



テキサス出身でロサンゼルスを拠点に活動するシンガー、ソングライター、マルチ・インストゥルメンタリストであるウィリアムソンにとって、大胆にも個人的な、しかし必然的な進化である『Time Ain't Accidental』は、象徴的な西部の風景、涙のビールアンセム、そして、完全に彼女自身のものとなるカントリーミュージックのモダンさを思い起こさせる。

 

このアルバムは、サウンド的にもテーマ的にも、何よりもウィリアムソンの声が前面に出ていて、そのクリスタルでアクロバティックな音域が中心となっています。リンダ・ロンドシュタットのミニマリスト化、ザ・チックスのインディーズ化、あるいはエミルー・ハリスがダニエル・ラノワと組んだ作品などを思い浮かべてほしい。大胆に、そして控えめに鳴り響くこのサウンドは、女性が初めて自分の人生と芸術に正面から、明白に、自分の言葉でぶつかっていく姿なのだ。



 昨年、ウィリアムソンとワクサハッチーのケイティ・クラッチフィールドは、プレインズ名義で『I Walked With You A Ways』をリリースした。女性としての自信と仲間意識、そしてストレートなカントリーバンガーとバラードでウィスキー片手に溢れるほどの絶賛を浴びたレコードです。過去にMexican Summerからリリースした『Cosmic Wink』(2018年)と『Sorceress』(2020年)の後、ウィリアムソンは新たな方向へシフトする準備が整っていると感じていました。幼少期に好きだったものを再確認し、プロセスをシンプルにし、友人と一緒に音楽を作ることが、ウィリアムソンにとって最良のステップであることが証明された。



2020年初頭、新たな疎遠に慣れ、自分の思考と隔離された状態で、ウィリアムソンは自宅で一人でストリップ・バックの単体シングル「Pictures of Flowers」を書き、録音した。この経験は、『Time Ain't Accidental』の土台となった。この曲の歌詞のテーマは、地上的で平易なもので、ドラムマシンをバックにしたウィリアムソンの声と、友人のメグ・ダフィー(ハンド・ハビッツ)による質感のあるギターが組み合わされている。

 

やがて、ウィリアムソンは、音楽的には自分一人でも十分に通用する、いや、それ以上の存在であることに気づいた。


Weyes Blood、Kevin Morby and Hamilton Leithauser、José Gonzálezとのツアーは、この新しい自己肯定感を強め、それまで演奏したことのない規模の部屋で彼女の声を響かせることができた。

 

 パンデミックの不安の中、ウィリアムソンはロサンゼルスでデートを始め、興奮、不安、失望に満ちたリアルな体験を中心にデモ曲を制作した。ドラムマシンは、iPhoneアプリという形で登場し、真のソロシンガー、ソングライターとして、誰の影響も受けずに自分の音を見つける女性として、新しい道を切り開く決意をする。それは孤独であり、しかし啓示に満ちた時代だったのだ。



その時のエッセンスは、最初の先行シングル”Hunter”の冒頭に集約されている。

 

「私は狼の群れに投げ込まれ、生で食べられた」とウィリアムソンは歌い、澄んだ瞳で、反対側に出てきたという決意を持っている。LAでの交際は波乱万丈だったが、この曲のサビやアルバムの根底にある感情、「私は本物を探すハンターなんだ」という真理を明らかにしたのだ。


このテーマは、他の曲にも見られる。鮮やかなトーチソング "Chasing Spirits "で、スティールギターの囁きとともに、「私たちの違いは、私がそれを歌うとき、本当にそれを意味すること」と歌っている。同じようなエネルギーが "God in Everything "で蘇り、ウィリアムソンは、デートや拒絶といった地上の現実を乗り越える方法として、超自然的なものに目を向けている。

 

"別れたばかりで、一人で監禁されているような状態は、私にとって本当に辛い時間だった "と彼女は回想している。

 

私が感謝しているのは、静寂と絶望に包まれた時期があったことで、内側に目を向け、自分よりも大きな力の中に安らぎを見出すことを余儀なくされた。



ウィリアムソンもアルバムのライナーノーツで、この不安と激動の時代に親友から送られたカール・ユングの言葉を紹介しています。それは次のような内容です。

 

今日に至るまで、神は、私の意志で激しく無謀な道を横切るすべてのもの、私の主観、計画、意図を狂わせ、私の人生のコースを良くも悪くも変えるすべてのものを指定する名前である。



 一人きりで探し続けること数カ月、ウィリアムソンはついに念願のリアルを手に入れる。まず、「プレーンズ」の構想が生まれ、その後、作曲やレコーディングのセッションが行われた。そして、南カリフォルニアの自宅と生まれ故郷のテキサスとの間を定期的にドライブしていたウィリアムソンは、ニューメキシコの砂漠のハイウェイで、捨てられて走っていた愛犬””ナナを発見して保護したのだった。


しかし、良い出来事は3度続くものである。彼女はすぐにテキサス州マーファの古い知り合いと新しい恋に落ちた。

 

それは、"Time Ain't Accidental "というタイトル曲の中でストレートに表現されている。"西テキサスで友人を訪ねていた時にお互い好きになったんだけど、その後LAに戻るために出て行ったんだ。"とウィリアムソンは説明する。

 

また会えるのか、いつ会えるのかわからなかったけど、愛に満ち溢れていて、そんな気持ちになったのはすごく久しぶりだった。この曲は、帰国したその日に書いたんだ。ホテルのプールバーでいちゃつき、ドライブに出かけ、甘い夜を過ごし、そして私は帰らなければならなかった。

 

ウィリアムソンは、デモ音源一式と新たな自信を携えて、ノースカロライナ州ダーラムにあるブラッド・クック(プレインズのプロデュースを担当)のもとへ向かった。

 

慣れ親しんだ環境は、深く個人的な内容を安んじて表現する環境を作り出した。ウィリアムソンは無意識のうちに自分の声を解き放つことに。曲ごとに2、3テイクで録音した。「自分の声が解放されたような気がする」と、ウィリアムソンは振り返る。クックは、ウィリアムソンに、デモ曲のためにプログラミングしたiPhoneアプリのドラムマシンのビートを残すように勧め、バンジョーやスティールギターと組み合わせて、古いものと新しいものを融合させたのである。

 

 ウィリアムソンは現在、テキサス州マーファとロサンゼルスを行き来している。伝統的なカントリーの楽器編成にデジタル・エフェクトやモダンなサウンドを加えた『Time Ain't Accidental』は、彼女が故郷と呼ぶ2つの全く異なる場所のエネルギーを明確に体現している。

 

アルバムのアートワークは、微妙に威嚇的でありながら、意識と強さがネオン色で、ウィリアムソンの言葉を借りれば、「超自然的な力が私たちの周りで作用しており、私たちが正しい時に正しい場所にいることを信じることができる」ということを表しています。



 『Time Ain't Accidental』は、本物の何かを探し求め、憧れることから生まれたむき出しの自信で注目されているが、ウィリアムソンは、彼女の道を阻む不思議な時の気まぐれも認識している(そして彼女はそれをタイトル曲で追悼している)。最終的に、これらの目に見えない力が、このシンガーを自分自身の中に引き戻した。このタイミングは、まさに偶然ではなかったのだ。

 

©︎Lydia Kitto

 

イギリスのネオソウル・デュオ、JUNGLEは、4枚目のフルレングス「VOLCANO」を8月11日にリリースすると発表しました。アルバムの発表に併せて最初のテースターとなる「Candle Flame」が公開されていますので、アートワーク、収録曲と併せて以下よりチェックしてみて下さい。

 

エリック・ザ・アーキテクトをフィーチャーした新曲「Candle Flame」をこのニュースと共に発表した二人は、「ジャングルとして、最新作の『Candle Flame』は信じられないほど誇りに思います」と述べている。

 

私たちは、個人的で親しみやすく、愛と人間関係の高揚と低落を、詩的で本物の方法で探求する曲を作りたかった。エリック・ザ・アーキテクトと一緒に仕事をするのは本当に楽しいことで、彼のユニークな視点と才能が、この曲にさらなる深みと豊かさを加えてくれました。

「Candle Flame」は、創造性、情熱、そしてファンの心に響く音楽を作るというコミットメントなど、私たちがバンドとして支持するすべてを表しています。この曲を皆さんに聴いていただくのが待ちきれません。"聴く人すべてに喜びとインスピレーションを与えてくれることを願っています。


「Candle Flame」

 

 

JUNGLE 『VOLCANO』

 

 

 

 

Label: Caiola Recordings(AWAL Recordings Ltd.)

 

Release Date: 2023年8月11日



Tracklist:
 
 
1. Us Against The World
2. Holding On
3. Candle Flame (Feat. Erick the Architect)
4. Dominoes
5. I’ve Been In Love (Feat. Channel Tres)
6. Back On 74
7. You Ain’t No Celebrity (Feat. Roots Manuva)
8. Coming Back
9. Don’t Play (Feat. Mood Talk)
10. Every Night
11. Problemz
12. Good At Breaking Hearts (Feat. JNR Williams & 33.3)
13. Palm Trees
14. Pretty Little Thing (Feat. Bas)


 


サンフランシスコの実験音楽家、ボーカリスト、Lucy Liyou(ルーシー・リヨウ)がニューアルバム『Dog Dreams』のリリースを発表しました。韓国の民俗オペラをテーマに置いた前作「Welfare/Practice」に続く新作アルバムは5月12日にAmerican Dreamsより発売されます。デジタルストリーミングのほか、ヴァイナルでも限定リリースされます。


タイトルは、韓国語の「개꿈」を直訳したもので、空想的な白昼夢から悪夢のような恐怖を意味し、常に無意味、非現実的、あるいは単に愚かであるという考えを示唆している。Lucy Liyouの2枚目のアルバムは、代わりに、ユング、フロイトのような夢分析および深層心理における興味を交え、なぜ、人は夢を見るのか、真面目な現実にはない眠りが何をもたらすのか、体が休まるときにのみ現れる忘れられた欲望は何なのかという疑問を真剣に受け止めている。


すべての夢がそうであるように、Dog Dreamsは個人的であると同時に共同的でもある。私たちの中で、特に奇妙な夢を見たとき、興奮しながら友人と共有したことがない人はいないでしょう。



このアルバムは、Liyouが自身の繰り返し見る夢に基づいて作曲・執筆したものですが、実はミュージシャンのNick Zanca(以前はMister Liesという別名で知られていました)と共同制作しており、最初は非同期に作業を行い、その後、ニューヨークのリッジウッドにあるZancaのスタジオで一緒にアルバムを完成させることになりました。



レコーディングの間、LiyouとZancaは即興で演奏し、Liyouの記憶から呼び起こされたイメージは、白昼夢や空想、束縛のない思索的な気まぐれにまで広がっていきました。2人の生き生きとした相乗効果に支えられ、最後の組曲は35分の緊張感ある音のクレッシェンドとなり、限りなく喚起されるように感じられます。


ドイツのマルクス主義哲学者、エルンスト・ブロッホが言うように、夢は目覚めた瞬間に終わるのではない。夢は目覚めた瞬間に終わるのではなく、覚醒した世界の下地に染み込み、未来の可能性をまだ意識していないことへの執拗な憧れの「残像」となる。つまり、この場合は潜在意識にわだかまる残響のような意味に転訛される。そして、それこそが「DOG DREAMS」の正体でもある。私たちの、言葉にならない、あるいは、言葉にならないけれども、もっと欲しいという内なる渇望にあえて音を付与しようとし、内的な継続的な対話からの余韻を記録として止めておこうというのです。


デビュー作『Welfare / Practice』(2022年)では、瑞々しく溶けたようなインストゥルメンタルと、堅苦しい音声合成が融合していたが、ここでは、アーティスト、夢想家、ロマンチストとしてのLiyou自身の声が、彼らの音楽の緻密な実験の質感を破り、まるで愛する人の強い抱擁が我々を宙空に保つように、現在という無数の中の一つの点に密接している瞬間を把捉することが出来る。


アルバムのタイトル曲である「Dog Dreams」は、リヨウの芸術的ビジョンにおける肉体の重要性と、その肉体に宿り、現実空間に繋ぎとめようとすることの難しさや覚束なさを明確に示しています。語り手は、友人に呼びかける前に、「どうして私を頼ってくれないの?/ 舌打ち、唇の開閉、神経質な歯ぎしりしか発声できず、自分が何を求めているのかがまだわからない」


ルーシー・リヨウが織り成す前衛的な音像は、同じく韓国系アメリカ人の詩人、キム・ミョンミが定義する歌詞と似ている。「自分の生きる韻律」-喜びと傷みを等しく体現しようとする歌、「最初と最後の舌の価値観」。


そして、キムの織りなす現代詩のように、リヨウの音楽もまた「下降、沈降、あらゆる方向への支流」の指標となり、すべては、未だ明瞭でないにもかかわらず嘆願する声と、痛ましい傷を労りながらも愛を求め続ける身体に溌剌としたエネルギーを注入する。


この意味で、『DOG DREAMS』は、ポストフェミニズムの小説家であるキャシー・アッカーが言うところの「不思議の空間」に到達するための「開口部」ともなりえるのだ。



Lucy Lyou 『Dog Dreams』



Label: American Dream

Release Date: 2023年5月12日


Tracklist:


1.Dog Dreams

2.April In Paris

3.Fold The Horse


 marine eyes  『Idyll』(Extended Edition)

 

 


 

Label: Stereoscenic

Release Date: 2023/3/27



andrewと私が「idyll」CDのリイシューについて話を始めたとき、これを完全な別アルバムにするつもりはなかった。しかし、私たちが追加で特別なものを作っていることはすぐに明らかになったので、私たちは続け、そうすることができて嬉しく思う。

この小さなプロジェクトに心を注いでくれた、レイシー、アンジェラ、フィービー、ルドヴィッグ、ジェームス、アンドリューに深く感謝します。また、彼女の素晴らしいアートワークを提供してくれたNevia Pavleticにも大感謝です!

そして、B面の「make amends」は、オリジナル・アルバムに収録される寸前で、共有されるタイミングを待っていたものです。

この曲のコレクションを楽しんで、あなた自身の安らぎの場所を見つける手助けになれば幸いです。

 

 

と、このリリースについてメッセージを添えたロサンゼルスのアンビエント・プロデューサー、Marine Eyesの昨日発売された最新作『Idyll』の拡張版は、我々が待ち望んでいた癒やし系のアンビエントの快作である。2021年にリリースされたオリジナル・バージョンに複数のリミックスを追加している。

 

Marine Eyesは、アンビエントのシークエンスにギターの録音を加え、心地よい音響空間をもたらしている。アーティストのテーマとしては、海と空を思わせる広々としたサウンドスケープが特徴となっている。オリジナル作と同じように、今回発売された拡張版も、ヒーリングミュージックとアンビエントの中間にあるような和らいだ抽象的な音楽を楽しむことが出来る。日頃私達は言葉が過剰な世の中に生きているが、現行の多くのインストゥルメンタリスト、及び、アンビエント・プロデューサーと同じように、この作品では言葉を極限まで薄れさせ、情感を大切にすることに焦点が絞られている。


タイトルトラック「Idyll」に象徴されるシンセサイザーのパッドを使用した奥行きのあるアブストラクトなアンビエンスは、それほど現行のアンビエントシーンにおいて特異な内容とはいえないが、過去のニューエイジのミュージックや、エンヤの全盛期のような清涼感溢れる雰囲気を醸し出す。それは具体的な事物を表現したいというのではなく、そこにある安らいだ空気感を単に大きな音のキャンバスへと落とし込んだとも言える。しかし、そのシンセパッドの連続性は、情報や刺激が過剰な現代社会に生きる人々の心にちょっとした空間や余白を設けるものである。

 

二曲目の「cloud collecting」以降のトラックで、アーティストが作り出すアンビエントは風景をどのようにして音響空間として描きだすかに焦点が絞られている。それは日本のアンビエントの創設者である吉村氏が生前語っていたように、 サウンドデザインの領域に属する内容である。Marine Eyesは、例えばカルフォルニアの青々とした空や、開放感溢れる海の風景を音のデザインという形で表現する。そして、現今の過剰な音の世界からリスナーを解き放とうと試みるのである。これは実際に、リスナーもまたこの音楽に相対した際に、都会のコンクリートジャングルや狭小なビルの部屋から魂を開放し、無限の空間へと導かれていくような感覚をおぼえるはずである。

 

サウンドデザインとしての性格の他に、Marine Eyesはホーム・レコーディングのギタリストとしての表情を併せ持つ。ギタリストとしての性質が反映されたのが「shortest day」である。アナログディレイを交えたシークエンスに繊細なインディーロック風のギターが重ねられる。それはアルバム・リーフのようなギターロックとエレクトロニックの中間点にある音楽性を探ろうと言うのである。それらは何かに夢中になっている時のように、リスナーがその核心に迫ろうとすると、すっと通りすぎていき、消えて跡形もなくなる。 続く「first rain」では、情景ががらりと変わり、雨の日の茫漠とした風景がアンビエントを通じて表現される。さながら、窓の外の木々が雨に烟り、視界一面が灰色の世界で満たされていくかのような実に淡い情感を、アーティストはヴォイスパッドを基調としたシークエンスとして表現し、その上に薄く重ねられたギターのフレーズがこれらの抽象性の高い音響空間を徐々に押し広げ、空間性を増幅させていく。まるでポストロックのように曖昧なフレーズの連続はきめ細やかな情感にあふれている。


続く、「roses all alone」はより抽象的な世界へと差し掛かる。アーティストは内面にある孤独にスポットライトを当てるが、ギターロックのミニマルなフレーズの合間に乗せられる器楽的なボーカルは現行の他のアーティストと同じように、ボーカルをアンビエンスとして処理し、陶然とした空間を導出する。しかし、これらはドリーム・ポップと同じように聞き手に甘美な感覚すら与え、うっとりとした空間に居定めることをしばらく促すのである。朝のうるわしい清涼感に満ち溢れたアンビエンスを表現した「on this fresh morning」の後につづく「pink moment」では、かつてのハロルド・バッドが制作したような安らいだアンビエント曲へと移行する。Marine Eyesは、それ以前の楽曲と同じように、ボーカルのサンプリングと短いギターロックのフレーズを交え、ただひたすら製作者自らが心地よいと感じるアンビエンスの世界を押し広げていく。タイトル曲「idyll」と同様に、ここではニューエイジとヒーリングミュージックが展開されるが、この奥行きと余白のある美しい音響性は聞き手に大きなリラックス感を与える。

 

続く「shortest day(reprise)」は3曲目の再構成となるが、ボーカルトラックだけはそのままで、シークエンスのみを組み替えた一曲であると思われる。しかし、ギターのフレーズを組み替え、ゆったりとしたフレーズに変更するだけで、3曲目とはまったくそのニュアンスを一変させるのである。3曲目に見られた至福感が抑制され、シンプルなアンビエント曲として昇華されている。オリジナル盤のエンディング曲に収録されている「you'll find me」も同様に、ギターロックとアンビエントやヒーリングミュージックと融合させた一曲である。シングルコイルのギターのフレーズは一貫してシンプルで繊細だが、この曲だけはベースを強調している。バックトラックの上に乗せられるボーカルは、他の曲と比べると、ポップネスを志向しているように思える。エンディングトラックにふさわしいダイナミックス性と、このアルバムのコンセプトである安らぎが最高潮に達する。ポストロックソングとしても解釈出来るようなコアなエンディングトラックとなっている。


それ以降に未発表曲「make abends」とともに収録されたリミックスバージョンは、そのほとんどが他のアーティストのリミックスとなっている。そして、オリジナルバージョンよりもギターロックの雰囲気が薄れ、アンビエントやアンビエント・ポップに近いリテイクとなっている。マスタートラックにリバーブ/ディレイで空間に奥行きを与え、そして自然味あふれる鳥のさえずりのサンプリング等を導入したことにより、原曲よりさらに癒やし溢れる空間性が提示されている。これらのアンビエントは、オリジナル盤の焼き増しをしようというのではなく、マスタリングの段階で高音部と低音部を強調することで、音楽そのものがドラマティックになっているのがわかる。オリジナル盤はギターロックに近いアプローチだったが、今回、複数のアーティストのリミックスにより、「Idyll」は新鮮味溢れる作品として生まれ変わることになった。

 

 90/100

 




アンビエントの名盤ガイドもあわせてお読みください:


アンビエントの名盤 黎明期から現代まで

 

©︎Steve Gullick

Graham CoxonとRose Elinor DougallからなるThe WAEVEが、セルフタイトルのデビューアルバムに4曲を追加したデジタルデラックスバージョンをリリースしました。ストリーミングはこちらから。


昨年ロンドンで録音され、James Ford (Arctic Monkeys, Florence + the Machine, Foals, Haim) がプロデュースしたセルフタイトルのデビューアルバムは、ブラーの創設メンバーであるGraham CoxonとPipettesの元メンバーでMark Ronson/Baxter DuryとのコラボレーターRose Elinor Dougallによる心の触れ合いを表現しています。


この『The WAEVE』の拡張版には、通常盤の全10曲に加え、「Standing Still」「Sure Feels Like Something」「On Your Knees, Baby」「Old Fashioned Morning」の4曲がボーナストラックとして収録されており、初めてデジタル配信されます。


バンドは現在UKツアー中で、今夜(3月27日)はロンドンのLafayetteで、明日はブライトンのChalkで公演を行う。

 

 


Yo La Tengoは、金曜日の夜にシカゴで行われた25曲の大規模なセットで、盟友とも言えるWilcoをステージに呼び、感慨深い共演を果たしました。

 

Yo La Tengoは、2月から3月にかけて17枚目のスタジオ・アルバム『This Stupid World』をサポートするワールド・ツアーのUSレグを終えたばかり。3月24日(金)夜にシカゴで行われた前哨戦のセットでは、Wilcoの「If Ever I Was A Child」のカバーを含む25曲のセットを披露しています。


現在、2022年の2枚組LP『Cruel Country』のリリース記念ツアー中のWilcoは、偶然にも同時期にシカゴで3回の特別公演(セットリストに繰り返される曲はない)を行い、Yo La Tengoのアンコールでステージに現れ、ファンを驚かせました。


コニーアイランド/キーストーン・パークで2009年という昔から一緒に演奏してきた2つのバンドは、一緒にカバーを演奏した。先週の4曲のアンコールでは、ビートルズの「She's A Woman」やボブ・ディランの「Love Minus Zero/No Limit」、ザ・ハートブレイカーズやフェアポート・コンベンションをカバーしています。アンコールの全貌は以下からご覧下さい。


©︎Ivanna Baranova


ロサンゼルスのギタリスト/シンガーソングライター、Hand Habitsが6曲入りの新作のリリースを発表しました。


EP『Sugar the Bruise』は、Fat Possumから6月16日にリリースされます。Hand Habitsは、ファースト・シングル "Something Wrong" も公開しています。以下よりお聴きください。


『Sugar the Bruise』は、Hand Habitsの2021年のアルバム『Fun House』に続く作品で、Luke Templeと共同プロデュースしています。『Fun House』のリリースと同年、Hand HabitsはSchool of Songで1ヶ月間のソングライティング・クラスを担当し、それが次のアルバムの材料となった。


「”Sugar the Bruise”では、心を無にして、遊び心に傾ける以外には何も考えていなかった」と、Hand HabitsのMeg Duffyはこのプロジェクトについての声明に書いている。「少し笑うこと、明るくすること、自分自身の経験から少し焦点をずらすこと」

 

「Something Wrong」




Hand Habits 『Sugar the Bruise』 EP
 
 
 
Label: Fat Possum

Release Date: 2023年6月16日



Tracklist:
 
1. Something Wrong
2. Gift of the Human Curse
3. Andy In Stereo
4. Private Life
5. The Book On How to Change Part 3
6. The Bust of Nefertiti



 



韓国ソウルのポストロック/シューゲイザーミュージシャン、Parannoulは、初のライブ・アルバムを先週末にリリースしました。このライブ音源には、ニューアルバム『After the Magic』をリリースする直前、1月14日にソウルの”KT&G Sangsang Madang Hongdae Live Hall”で開催されたフルコンサートが収録されています。



 

この日のライブは最初の5曲はソロ、残りのセットは生バンドで行われた。今回、Parannoulは9分の2022年シングル "Into the Endless Night" の46分バージョンを含む、フルバンド部分のライブアルバムをサプライズ公開した。


この日のライブのラインナップは、ボーカル/キーボードがParannoul、ベースは同じくソウルを拠点に活動する盟友的存在であるAsian Glow、ギターがYo、2ndギターがBrokenTeeth、ドラムが9SuK、トランペットがFin Fiorが担当して、「Into the Endless Night」を演奏した。

 

『After the Night』と名が冠されたこの作品は、アルバムと映像の両方でリリース。







 

 

 ポスト・ロックに関するレビューは断片的に記してきたものの、網羅的なディスクガイドについてはそれほど多くは取り上げてきませんでしたので、今回、改めてポスト・ロックの代表的なアーティストと決定盤を下記に取り上げていこうと思います。


選出に関しては現代的な音楽から見ても先鋭的なバンドの作品を中心にご紹介していきます。以前のタッチ・アンド・ゴー特集のレコメンド、日本のポストロック特集も是非合わせてご覧ください。

 

 では、ポスト・ロックというのは何なのか?? シンプルに説明しますと、その名の通り、ロックを先を行く音楽で、アバンギャルド・ロックとほぼ同意義といっても良いでしょう。ただ、これらは他のジャンルと同じく、マスロックをはじめ無数のサブジャンルに細分化されているため、相当なマニアでもなければ、その変遷を説明することは難しいので、ここでは割愛して大まかな概要のみを述べておきます。

 

 ポスト・ロックの音楽は大まかに3つに分けられます。一つは、轟音系と呼ばれるもので、MBVの轟音の次の時代に出てきた音楽です。これらは、オーケストラ音楽に近いダイナミックな編成がなされる場合もある。例えば、MOGWAI、シガー・ロス、MONOが該当する。2つ目はスティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスの現代音楽のミニマリズムを継承したロックで、Don Cabarello、God Speed You Black Emperror!が該当する。もうひとつは、ジャズの影響を受けたライブセッションの延長線上にあり、Toroise、Sea And Cakeが当てはまる。

 

 90年代前後に彗星のごとく登場したポスト・ロックの音楽は、70年代のパンクムーブメントがそうであったように、形骸化した音楽に対して新鮮なムードをもたらそうというミュージシャンの意図が込められていました。 これは穿った見方かもしれませんが、同年代のLAの産業ロックに対する反抗心もあったかもしれません。

 

 80年代〜90年代当初、ポストロックは米国で盛んになった後、海外にも広がっていき、アジアやヨーロッパでもインディーシーンを中心に盛り上がった。日本では、ToeやLITE、そしてAs Meias、台湾の高雄でもElephant Gymが台頭しています。その後、現在はジャズが盛んなイギリスにそのシーンの拠点を移し、特にロンドンを中心に前衛的なロック・ミュージックを志向するバンドが徐々に増えている。


 一例では、ロンドンのブラック・ミディやBC,NR、また、ドライ・クリーニングやキャロラインも明らかにポスト・ロックの範疇にある音楽に取り組んでいます。これは、ロンドン近辺の若者が普通に米国のアメリカーナやエモ、ポスト・ロックに親しんでいることの証明ともなっている。

 

 そして、当初のシカゴやルイヴィルのシーンを見るとわかるように、これらのロックの次の時代を象徴する新しい音楽というのは、必ずしもオーバーグラウンドのシーンから出発したとはかぎりません。

 

 当初は、アンダーグラウンドに属する小さなライブスペースから発生し、音楽ファンの間でその名が徐々に知られるようになった。例えば、Minor Threat〜Fugaziと同じように、それらのバンドはDIYのスタイルを図り、少人数規模のスタジオ・ライブを行うこともあったのです。

 

 もちろん、後のポストロックが有名になっても必ずしも先駆者のバンドが世界的な知名度を得るとは限らなかった。モグワイやシガー・ロスのような一般的な存在が出てくるのは最初の出発点から見ると、だいぶ後のこと。つまり、90年代のグランジも同様ですが、新しい音楽がアンダーグランドからオーバーグラウンドに引き上げられるのには、それ相応の時間を要するわけです。

 


 

God Speed You!  Black Emperor(Canada)

 



GY!BE(God Speed You! Black Emperor)は、カナダのポストロックシーンを象徴する偉大なバンドである。現在もメンバーを入れ替え、さらにストリングス奏者を増やして活動中。


バンド名は日本の暴走族の映画のタイトルに拠る。一般にいうポスト・ロックというジャンルの大まかな印象は、このバンドの音楽を通じて掴めるといっても過言ではない。ライヒのミニマリズムに根ざした曲の構成、チェロやヴァイオリンの導入、リバーブとディレイをかけた音響系のギターの音作り、映画のような会話やアンビエンスのサンプリングを導入し、物語調の音楽を紡ぎ出す。

 

GY!BEの楽曲は、ほとんどが10分を越えで、20分以上に及ぶ場合もある。大掛かりな曲がほとんどであるが、一曲の中に複数の小曲が収録され、それらの音のタペストリーが映写機のように連続していく。ライブではギタリストが椅子に座って演奏し、フィードバックを最大限に活用する。これまでのライブでは、ステージの背後にプロジェクターを設置し、映像と音楽を同期させるインスタレーション風のパフォーマンスを行っている。

 

米シカゴのクランキー・レコードから2000年発売された伝説的名盤『Lift Your Skinny Fists Like Antennas To Heaven』の発売当初は、海外メディアからレッド・ツェッペリンの音楽と比較される場合もあったという話。


「Storm」のミニマリズムも魅力ではあるが、実際のところ、このアルバムに収録されている「Static」、「Sleep」は『Led Zeppelin Ⅳ』に匹敵する凄さを体感出来る。1999年のJohn Peel  Sessionの伝説のライブはこちら



『Lift Your Skinny Fists Like Antennas To Heaven』 2000  Kranky

 


 

Mogwai (Scotland)

 


最近では、映画のサウンドトラックのリリースや、再発、回顧録などが中心となってしまい、ライブバンドとして第一線を退いてしまった感もあるモグワイであるが、以前、ディスクユニオンのスタッフのレビューではポスト・ロックというジャンルを紹介する上で必ず出てきた。それが上記のGY!BEとスコットランドのインディーロックシーンの象徴的な存在モグワイである。

 

97年の「Young Team」がNMEの年間ベストアルバムの七位に選出され、ニューライザーとして一躍注目を浴びだ後、2000年代を通して、世界的なロックバンドとして成長していった。日本の音楽シーンとも関わりがあり、ある作品にはENVYのボーカルが参加していることでも知られる。

 

モグワイの音楽がなぜポスト・ロックないしは新しいロックといわれたのかについては、アイルランドのMBVの轟音性をアンビエント的に解釈し、反復のディストーションギターのフレーズとリズムを通じて確信的に組み立てた功績が大きいといえるだろうか。また、よく言われる叙情性溢れる轟音ロックや、静と動を通じて繰り広げられる楽曲展開については、特にグラストンベリーやフジロックのような大型のロックフェスのコンサートとも親和性が高く、2000年代以降の音楽シーンの象徴的な存在となったのは何も不思議な話ではなかった。

 

反復フレーズを中心とするシンプルな轟音のギターロックは、初見のリスナーでも音楽の持つ世界に簡単に入り込むことが出来る。


今はなき日本の富士銀行をアートワークにあしらった「Young Team」、「Come On Die Young」を薦める方も少なくないと思われるが、ここでは、美麗なメロディーと轟音性が生かされた「The Hawk In Howling」を入門編として推薦したい。このアルバムに収録されている「I'm Jim Morrison,I’m Dead」、「Thank You Space Expert」は音響系のポスト・ロックの金字塔とも称するべき名曲である。なお、モグワイのスチュアート・ブレイスウェイトは現在、Silver Mossとして活動を行っている。

 

 

『The Hawk In Howling』 2008 Wall Of Sound Ltd.

 


 

Sigur Ros(Island)



現在来日公演中のビョークとともにアイスランドの象徴的な存在であり、またモグワイとともにポストロックの象徴的な存在であるヨンシー率いるシガー・ロス。1994年に結成、現在も活動中、昨年、『Art Of Mediation』をリリースしている。後の時代には、ステージでビョークと共演を果たしている。ライブではボーカルとともにヨンシーがバイオリンの弓を使用する場合もある。

 

シガー・ロスは、音響系と呼ばれるポスト・ロックのサブジャンルに属するバンドである。アンビエントや環境音楽とモグワイと同じように轟音性の強いロックを融合させ、90年代以降のロックシーンに革新性を与えた。それに加えて、フロントマン、ヨンシーのアイスランド語のボーカルを交えた音楽性は後の米国のExplosion In The Skyのようなバンドのお手本に。加えて、アイスランドの国土の気風の影響を受けた美麗なロックミュージックはそれ以前のU2の後の時代のロックミュージックとして多くのファンから受け入れられることになった。

 

その後、アイスランドにはヨハン・ヨハンソン、オーラブル・アーノルズとポスト・クラシカル/モダンクラシカルに属するミュージシャンが数多く出てきて、そして世界的な活躍をするようになった。そういった意味では、以前の記事でも書いたことなのだが、ビョーク、及びシガー・ロスはこれらの後続のミュージシャンの活躍への架け橋ともなった重要なアーティストなのである。音響系のポストロックとしてシガー・ロスは良盤に事欠かないが、お薦めとして、『agaetis byrjun』を挙げておく。この作品では、俗に言う音響系と呼ばれるアンビエントとロックの融合という革新的な音楽性の核心に迫ることが出来るはずである。

 

 

『Agaetis Byrjun』 1999 KRUNK

 

 




 

 

Rachel's (US)

 


ケンタッキー/ルイヴィルシーンでSlintとともにポスト・ロック/マスロックシーンの先駆的なグループ、Rachel's。現在はピアノ奏者としてモダンクラシカルシーンで活躍するレイチェル・グリムを中心に、Rodanのギタリスト、ジェイソン・ノーブルを擁する室内楽に近い編成のアート集団である。弦楽器とピアノを交えたバンドとして、91年からジェイソン・ノーブルが死去した2012年まで活動した。図書館のようなスペースでDIYの活動を行っていた。

 

それほど多作なアート集団ではないが、二十年間の活動の間にリリースされた作品はマニア向けではありながら、実験音楽として軒並み高いクオリティーを維持していた。活動開始から四年後に発表された95年のデビュー作『Handwrinting』は、カナダのGY!BEにも強い影響を及ぼしたと思われる。オーケストラにおけるミニマリズムとロックの融合の原型が「M.Dagurre」に見出せる。芸術家、エゴン・シーレを題材にした「Music For Egon Shiele』もオーケストラの室内楽として高いクオリティーを誇る。

 

彼らレイチェルズの入門編としては、2003年の最後の作品『System/Layers』をおすすめしたい。レイチェル・グリムスのピアノの演奏を中心に、ミニマリズムに触発された音楽性とジブリ音楽のような情感豊かな弦楽器のパッセージが劇的な融合を果たした傑作。全キャリアを通じて唯一のボーカルトラック「Last Things Last」を収録している。必ずしも、ロックの範疇にはないグループではありながら、後続のポストロックシーンに与えた影響は計り知れない。

 


『System/Layers』2003 Quartersticks  



 

Tortoise(US) 

 

 


いわゆるシカゴ音響派のくくりで語られることも多いトータス。現在のインディーズシーンで象徴的なミュージシャン、元Bastroのメンバー、ジョン・マッケンタイア、後に同地のジャズシーンの象徴的な存在になるジェフ・パーカーを中心に結成された。

 

ジャズを始め、様々な音楽が盛んなシカゴの気風を反映したアバンギャルドロックバンドである。 タイトルを冠したデビューアルバムではジャズを反映させた実験的なロックバンドとして台頭したが、続く96年の『Million Will Never Die』でシカゴ音響派と呼ばれるジャンルを確立。97年の「TNT」では時代に先んじてレコーディングにラップトップを導入し、ハードディスクレコーディング(Pro Tools)を採用し、 ユニークなサウンドを打ち出して成功を収めた。それまでバンドは演奏をテープに録音し、その後にデジタル・リマスターを施していた。

 

『TNT』はポストロックの先駆的なアルバムである。 ロックとコンピューターレコーディングの融合というのは現代的な録音技術としては一般的に親しまれる手法となったが、最初にこの音楽性にたどり着いたのは、RadioheadとTortoiseであった。現在も定期的にライブを開催しており、実際のライブセッションにおけるアンサンブルの超絶技法は、その場に居合わせたオーディエンスを圧倒する。レコーディングバンドとしてもライブバンドとしても超一流のグループである。PitchforkのMidwinter 2019での『TNT』のフルセットはトータスのキャリアにおいて伝説的なライブに数えられる。

 

 

『TNT』1998 Thrill Jockey

 


 

 

Battles(US)

 

 

ニューヨークのダンスロックバンド、Battlesは、Helmetのドラマー、ジョン・ステニアー、Don Caballeroのイアン・ウィリアムズを中心に結成。現在は脱退してしまったが、タイヨンダイ・ブラクストンが10年まで参加していた。またバンドは、7年、11年、16年にフジロックフェスティバルで来日公演を行っている。英国のダンスミュージックの名門、ワープ・レコーズと契約し、実験的なダンサンブルなポストロックバンドとしては当時、最大の成功を収めた。

 

知るかぎりにおいて、これだけシンバルの位置を高くするドラマーをいまだかつて見たことはない。シンバル(金物)の音の抜けを意識していると思われるが、実際のライブや映像を見ると、本当にびっくりする。


バトルズのポストロックバンドとしての最大の特徴は、変拍子を交えたテクニカルな構成力もさることながら、イアン・ウィリアムズが持ち込んだドン・キャバレロ時代のギターロックの革新性をダンサンブルなロックとして受け継いだことにある。デビューアルバム『Battles』はポストロックというジャンルにとどまらず、ロック・ミュージックの名盤に上げてもおかしくないような傑作である。

 

しかし、こういった以前には存在しなかった前衛的なサウンドが完成するまでに実に20年もの月日を費やしている。それ以前にメインメンバーの二人が90年代のUSアンダーグラウンドシーン、ドン・キャバレロやヘルメットのメンバーとして十分な実験を重ねた末に生み出されたものであり、この音は決して、一年や二年で考案されたものではない。特に、ドン・キャバレロのミニマリズムに根ざしたマスロックの要素がクラブミュージックのキャッチーさと組み合わさることで唯一無二の音楽が生み出されたのである。

 

 

『Mirrored』2007 Warp

 


 

toe(Japan)

 


海外でポストロックというジャンルが隆盛をきわめるにしたがい、2000年代の日本でもこのシーンに属するバンドが登場する。

 

日本の新宿を中心とするポスト・ハードコアのコンテクストから言うと、既にENVYがポストロックに近い作風を2003年の『Dead Sinking Story』で確立していたが、その後のジェネレーションがいよいよ登場するようになった。これらのシーンにあって、最初は3ndなるホーンセクションと変拍子を交えたアバンギャルドロックバンドが台頭、その後、パンク/ハードコアシーンで活躍していたBluebeard/There Is A Light That Never Goes Outのメンバーを中心に結成されたAs Meias,LITE、そしてtoeが 00年代のシーンを担う。最近、ロックダウン時に毎日新聞のインタビューに登場し、アーティストとしての提言を行っている。

 

toeの音楽に関して言えば、ミニマルの影響を交えたテクニカルで複雑な構成力を持つロック、いわゆるマス・ロックの典型例である。しかし、一方で、これらのマニア向けのコアな音楽性の中にも、エモーショナルな雰囲気と日本語のポップスの影響を交えたわかりやすい音楽性がtoeの最大の魅力。2000年代に国内のシーンで頭角を現したtoeは、その後、日本の全国区のロックバンドとなり、以後、LAでのライブを成功させ、その名を現地のシーンにとどめた。

 

オリジナル・アルバムとしては、2015年の『Hear You』を境にリリースが途絶えているtoeではあるものの、彼らの入門編としては代表曲「グッド・バイ」(シンガーソングライター、土岐麻子が参加したバージョンもあり)を収録した2009年の『For Long Tomorrow』がまず先に思い浮かぶ。

 

このアルバムに見られる変拍子に象徴されるテクニカルな構成力、及び、ポリリズムを交えた立体的なフレーズの組み上げ方は、日本のシーンに実験的なロックがもたらされた瞬間を刻印したと言えよう。また、LITEと同じく、邦楽ロックという観点から洋楽をどのように解釈するのかという点でも、バンドはこの作品にたどり着くまでかなりの試行錯誤を重ねた形跡もある。ライブバンドとしてのダイナミックな迫力と内省的なエモーションを兼ね備えた決定盤である。下記の「グッド・バイ」の映像はLAでのライブを収録。現地の観客の日本語の熱いシンガロングにも注目したい。

 

『For Long Tomorrow』 2009 Machupicchu Industries




Elepahnt Gymー大象體操 (Taiwan)



アジアのシーンにも波及したポスト・ロックのウェイブは、日本のみならず、台湾にも新しい風を吹き込むことになり、海に近い高雄からエレファント・ジム(大象體操)という象徴的な存在を輩出する。2012年結成と比較的新しい歴史を持つエレファント・ジムは、兄弟のKTChangとTellChang、ドラマーのChia-ChinTuにより構成されている。昨年、二年ぶりとなるフルレングス『Dreams』のリリース記念を兼ねてフジロックで来日公演を行っている。

 

近作で、エレファント・ジムはSF的な世界観を交えた近未来を思わせる実験的なロックに取り組んでいるが、当初、バンドは先行のポスト・ロックバンドと同様、ミニマル・ミュージックの影響を絡めたマス・ロックのバンドとしてミュージックシーンに登場している。実際のライブやライブを収録したAudio Treeシリーズのバージョンでは、KT Chanのタッピングをはじめとするテクニカルなベースの演奏を楽しむことが出来る。しかし、現時点での決定盤としては以前紹介しているとおり、2016年のEP『工作』が入門編として最適。マス・ロックの象徴的なミニマルのフレーズと、シティ・ポップに近い雰囲気を持つ中国語の柔らかいフレーズを交えたKT Chanのボーカルが合わさり、バランスの取れたポストロックサウンドが生み出されている。

 

また、バンドは、日本語歌詞でも歌い、来日時のライブではMCを日本語で行うこともあるのだとか。日本での活躍にも期待したい。

 

 

Elepant Gym 『Work (工作)』 2016 EP

 


 


Black Midi(UK)



以後の時代になると、ロンドンにもポスト・ロックのウェイブが押し寄せることに。昨年、最新作『Hellfire』を発売し、来日公演も行ったロンドンのアバンギャルドロック・バンド、ブラック・ミディはイギリスのアバンギャルドロック・バンドの中で強い存在感を放つ魅力的なグループである。デビュー当初はドイツのCANを始めとするクラウト・ロックの影響を絡めた前衛性の高い作風でロンドンのシーンに名乗りを上げる。最初の作品のリリース後、マーキュリー賞にもノミネートされ、受賞こそ叶わなかったがパフォーマンスを行っている。

 

現在は、サックス奏者を交えた四人組として活動しているが、キング・クリムゾンのプログレッシヴロックの要素とミュージカルのようなシアトリカルな要素が劇的に合致し、唯一無二の作風を昨年のサードアルバム『Hellfire」で打ち立てることになった。

 

ファースト、2nd、3rdと毎回、若干の音楽性の変更を交えた作品としてどれも違った魅力があることは明白であるが、このバンドの醍醐味を味わう上では現時点でバランスの取れた3rdアルバム『Hellfire』を入門編としておすすめしておきたい。前作の「John L」から引き継がれた音楽性は、このバンドの持つ超絶的な演奏技術により、無類の領域へと突入しつつあるようだ。このフリージャズの要素は、プログレッシヴ・ロックとスラッシュメタルの方向性へと突き進んでいき、3作目の「Welcome To Hell」で結実を果たす。また、二作目から受け継がれたミュージカル風の音楽やバラードもまたブラック・ミディの音楽の醍醐味のひとつ、つまり代名詞のような存在となっている。今後、これらの作風はどのように変化するのか今から楽しみで仕方がない。


 

 

「Hellfire」2022 Rough Trade





Black Country,New Road(UK)

 



こちらもロンドンのポストロックシーンを代表するブラック・カントリー、ニュー・ロード。メンバーのサイドプロジェクトには、Jockstrapがある。昨年、アイザック・ウッド参加の最後の作品となった 2ndアルバム『Ants From Up Here』をリリースし、またフジロックでも来日公演を行っている。

 

現在、バンドはフロントマンの脱退後、新編成でライブを開催しつつ、新曲を試奏しながら練り上げている。今後、どのような新作が登場するか、心待ちにしたい。ライブ盤としては先週末に発売された『Live at The Bush Hall』がファンの間で話題となり、バンドの代名詞的なリリースとなっている。

 

前時代のポストロックシーンの音楽性を踏襲し、ジャズの影響をセンスよく織り交ぜ、弦楽器を交えてライヒのミニマリズムを継承したロックサウンドは、ロンドンのシーンを活性化させた。ファーストアルバムのアートワークについても、インターネットの無料画像を活用し、それを印象的なアートワークとならしめた点についても、現代のティーネイジャー文化の気風をセンス良く反映させたといえる。BC,NRもブラック・ミディと同様に、最初のアルバムがマーキュリー賞にノミネートされ、一躍国内の大型新人として注目を浴びるに至った。

 

『Live at Bush Hall』 2023  Ninja Tune



 

ユニークなカバーソングを毎週のように公開しつづけるロバート・フリップ夫妻を尻目に、UKロックの伝説、The WhoのPete Townshend(ピート・タウンゼント)が30年ぶりのカントリー調の軽快なソロシングル「Can't Outrun the Truth」でカムバックを果たしている。

 

この曲は、タウンゼントのパートナーであるレイチェル・フラーがチャーリー・ペッパー名義で作曲・プロデュースしたアコースティックギター主体の曲で、この曲の収益はすべてティーンエイジ・キャンサー・トラストに寄付されることになっています。


「私たちは家を引っ越したばかりで、ピートは自分のスタジオでラリーのように幸せそうに毎日仕事をしていたんだけど、私は背中を丸めて、ただ壁を登っているだけで、クリエイティブな仕事ができなくて、明らかにどこにも行けなかったの」とレイチェルは言う。

 

そして、この時期が多くの人々にとってどれほど信じられないほど困難なものになるのか、本当に考え始めたんです。歌詞を書いて、ピアノの前に座って曲を書いて、ああ、本当にレコーディングしたいなと思った。それで、ピートにデモの録音を依頼したんだ。


ピートは、「レイチェルが演劇のプロジェクトでデモを作るのを何度か手伝ったことがある。彼女は本当に仕事が早いので、2週間スタジオに入ってこのプロジェクトに取り組もう、と言われても無理なんです。2時間後、あるいは1時間後には完成しているのですから、彼女と仕事をするのは簡単です。


「パンデミックの年は、チャリティ団体にとって最悪の時だった」と彼は続けます。

 

ティーンエイジ・キャンサー・トラストは、毎年アルバート・ホールで行われる一連のコンサートやその他さまざまなものから資金を得るために作られたのですが、それがすべてなくなってしまったのです。

ロックダウンから生まれた精神疾患に関するものですが、この特別なチャリティーのために、このような活動を行うことを思いつきました。もし、あなたの家族やティーンエイジャーが癌にかかり、治療を受けているときに、ロックダウンが起こり、見舞いに行くことも許されないというシナリオがあったとします。この曲には、全体的に痛切な思いが込められているんだ。

 

 


ノエル・ギャラガー率いるハイ・フライング・バーズは、待望のニュー・アルバムを数ヶ月後にリリースする予定ですが、この度、そのフル・アルバムから次のカットをリリースしました。


この新曲「Dead To The World」は、以前紹介した「Pretty Boy」「Easy Now」に続くシングル。6月2日にSour Mash Recordsから発売される新作アルバム『Council Skies』に収録されます。

 

この新曲についてノエル・ギャラガーは、「このアルバムの中で一番好きな曲だ」と語っています。「フィルムノワールのような雰囲気があるんだ。今までやったことのある曲とは違う。とてもメランコリックで、でもそれがいいんだよ。僕は双子座で、気分が高揚しているときと落ち込んでいるときがあるんだけど、その真ん中のどこかで出会って、それを音楽にするのがコツなんだ」


「Dead To The World」

 Mark de Clive-lowe, Shigeto, Melaine Charles

『Hotel San Claudio』

 



 

作曲家、ピアニスト、DJであり、ジャズ、ダンス、ヒップホップの架け橋として20年にわたり活躍してきたマーク・ド・クライヴ・ロウ(MdCL)が、ブルックリンを拠点にハイチ出身のジャズ・ヴォーカリスト兼アーティスト、メラニー・チャールズとデトロイトのドラマー/プロデューサー/DJ、シゲトとコラボしたアルバム、ホテル・サンクローディオが遂に登場する。ファラオ・サンダースの再解釈を含む3トラックセットのスピリチュアル・ジャズをライブ感あふれるビーツに変換し収録している。


メラニー・チャールズのデビューアルバム『Y'all Don't (Really) Care About Black Women』、MdCLが2022年にドワイト・トリブルとテオドロス・アヴェリーを迎えてリリースした最後のロングプレイヤー『フリーダム - ファロア・サンダースの音楽を祝う』に続き、3人の先鋭ミュージシャンは、9トラックの音の探求と即興によるジャズ、ヒップホップ、ソウルなハウスにわたる芸術の旅に参加することになった。


また、ファラオ・サンダースが最近亡くなったことを受け、偉大なマスターの3つの再解釈、「The Creator Has a Master Plan」(ここでは2つのバージョンがある)と「Love is Everywhere」は、彼のメッセージと精神をそのままにこの曲を再創造する方法として機能している。


マーク・ド・クライブ・ロウは、「ファラオ・サンダースが私たちに提供するものは、人間の状態を反映したものであり、私たちがなりうるすべての願望を包んでいる」と表現している。「サンダースの精神は、私たちがどのように、どのように創作するかを導く道標であると考えるからです」


イタリア/ウンブリアの首都ペルージャから東へ90分、なだらかな丘、アドリア海、絵のように美しいイタリアの田園風景を背景に、自然の中でくつろぎ、クラシックなデザインのホテルが、3年近くかけて実現した刺激的なコラボにより、一瞬にして我が家のようにアットホームな場所に生まれ変わった。


この旅は、2018年にアメリカのデトロイトで始まった。特別なデュオ・パフォーマンスと銘打たれ、コラボレーター/リミキサーMdCL(Nubya Garcia, Bugz In The Attic, Dwight Trible, Ge-Ology)が、デトロイト出身のザック・サギノーことShigeto(Andrés、Dabrye、Shlohmo)とともに地元の会場、モーターシティ・ワインを舞台にパフォーマンスを行うよう招待された。


2人は実際会ったことがなかったにもかかわらず、真剣なセッションが行われた。数ヶ月後、イタリアで、MotorCity Wineを組み込んだFat Fat Fat Festivalは、2019年のプログラムのオープニングにこの2人をフィーチャーすることに照準を合わせた。しかし、2人はパズルのピースが欠けていると感じていた。そこで登場したのが、"トリプル・スレット"ことメラニー・チャールズだ。


2018年10月にブルックリンで開催されたフェスティバルのポストショーで初めてつながり、その後、日本の加賀市で2週間のスタジオ・レジデンシーを行ったMdCLは、チャールズが完璧にコラボレーターとしてフィットすると確信したのだった。


Fat Fat Fatでのヘッドライン・セット(そして、その後、このニュー・アルバム)となる素材の執筆とリハーサルの間に、トリオは週の大半をぶらぶらして風を切り、イタリア料理/ワインと音楽のお気に入りを共有した。その中で、影響を受けたミュージシャンの一人が、サックスの巨人、宇宙の賢人でもあるファロア・サンダースだった。


トリオは、サンダースの30mに及ぶ名作「The Creator Has A Master Plan」と象徴的な「Love Is Everywhere」を2部構成で演奏し、ホテル・サン・クラウディオのスピリチュアルに焦点を当てたジャズの中心的な存在とした。


この曲には普遍性があり、美しくシンプルな2コードのメジャーハーモニーとマントラのようなテーマがある。さらに「この曲には、宗教的、精神的なものであろうとなかろうと、世代やイデオロギー、文化の違い、それらを超えて全ての人に届くような何かが込められている」とトリオは説明する。


さて、その数ヵ月後、ニューヨークの有名なジャズライブハウスNubluで行われたマーシャル・アレン監督によるサン・ラ・アーケストラのライブに続いて、Fat Fat Fatでのトリオのパフォーマンスを行った。(当日はミニ竜巻でほとんど中止になるも、会場はまさに熱狂的だったという)

 

翌日、3人はすぐにスタジオ入りし、前日の熱狂そのままにライブセッションの音をテープに収録する。シゲトのディラ風スラップ、メラニー・チャールズの巧みなライム、MdCLのサンプル・チョップなど、ヒップホップへの愛が感じられるパーフェクトなシングルである。


MdCLのアルバム『Heritage』で初めて披露された『Bushido』は、70年代のジャズ・フュージョンに重きを置いており、MdCLのシンセの衝動とドナルド・バード寄りのソウル・ジャズのプロダクションが、雰囲気と実験の境界を這うように展開している。MFTでは、Charlesのボーカルが、大きなリバーブとディレイで処理され、Hotel San Claudio全体に存在する、広大な天空のようにゆったりとした質感を与えているのがわかる。


トリオのケミストリーは、どんな形であれ、新境地を開拓することに長けており、その勢いは現在のところ衰え知らずである。LA、デトロイト、ニューヨーク、そして日本からイタリアを経由し、Hotel San Claudioは、今まさに世界に飛び立とうとしているのである。

 


Shigeto/Mark de Clive-lowe/Melaine Charles


Mark de Clive-lowe、Shigeto、Melaine Charlesから成るトリオは、コラボレーションという本質に迫り、そして、ミュージシャンの異なる性質が掛け合わるということがなんたるかを今作においてはっきりと示している。


昨年9月に亡くなった米国アーカンソー州のジャズの巨匠、ファラオ・サンダースに捧げられた『Hotel San Claudio』は、少なくとも単なるトリビュート・アルバム以上の価値を持つように思える。それは固定化し概念化したジャズシーンに対して新風を吹き込むとともに、音楽の新たな可能性の極限をトリオは探求しようというのだ。

 

『Hotel San Claudio』は、イタリアにあるホテルを主題に据えた作品である。もちろんタイトルから連想される優雅さは全体に見出すことが出来るが、なんと言っても、巨匠のもたらした音楽の革新性を次世代に受け継ごうというトリオの心意気が全面に漲ったパワフルな一作と呼べるだろう。

 

そもそも、ファラオ・サンダースはスピリチュアル・ジャズとしてのテーマを音楽性の中心に据えていた。マーク・デ・クリーヴ・ロウ(MdCL)、シゲト、メライン・チャールズの三者は、DJ、ドラマー、ヴォーカリスト/フルート奏者として、スピリチュアルな要素と、ジャズ、ソウル、ディープハウス、アフロ・カリビアン・ジャズ、 ヒップホップという幅広い視点を通じて、刺激的な作品を生み出すことになった。


最近、トリオは「Jazz Is Dead」というキャッチフレーズを掲げ、ライブ/レジデンスを定期的に開催している。ジャズは死すというのは真実ではあるまいが、少なくともトリオはジャズにあたらしい要素を加味し、フューチャー・ジャズ、ニュー・ジャズ、クロスオーバー・ジャズの時代を次へ、さらに次へと進めようとしている。

 

このアルバムはソウルの要素が強いジャズとして、また、ウンブリア州のホテルの名に由来することからもわかるように、難しいことを考えずにチルな作品としても楽しめる。ただ、クロスオーバーという概念に象徴されるほとんどの音楽がそうであるように、細分化された音楽の影響がところどころに見られる。そして、トリオの音楽的なルーツがなんの気兼ねもなく重なり合うことで、明るく開放的なエネルギーを形成しているのである。

 

マークによるスクエア・プッシャーの全盛期のような手がつけられない前衛的なサンプラーやシンセサイザーのフレーズ、シゲトのチョップを意識したビート、さらにアフロ・キューバン・ジャズの影響を踏まえたチャールズのフルート、そして、マイケル・ジャクソンのバンドとして参加したこともある彼女のヒップホップとソウルの系譜にあるパワフルなボーカル/ライムは実際のセッションを介してエネルギーをバチバチと言わせ、そしてジャズともソウルともつかない異質なスパークを形成し、リスナーに意外な驚きをもたらすのである。

 

ニューエイジ/スピリチュアル・ジャズの系譜にあるオープニング・トラック「The Creator Has A Master Plan」において、トリオはくつろいだ雰囲気に充ちた音の世界を綿密に構築する。フルート奏者のメライン・チャールズの雰囲気たっぷりの演奏により、物質的な世界とも精神的な世界ともつかない音響世界へ聞き手をいざなう。そのスピリチュアルな音響空間に、ソウルフルなチャールズのメロウかつソフトなボーカルが乗せられる。

 

続く、カリブ音楽の変則的なリズムを交えた#2「Strings」は、ラップ、ディープ・ハウス、ジャズの合間を行くようなナンバーだ。前曲とは異なり、このトラックをリードするのは、DJのMark de Clive-lowe(MdCL)である。彼の独創性の高いベースラインとリードシンセが魅惑的なアンビエンスを形成し、それに合わさるような形で、シゲトのジャズ風のドラミングがトラックに力強さを付与する。さらに、メライン・チャールズのソウルフルなボーカルが加わることで、三位一体の完璧なジャズ・ソウルが組み上げられ、また、その上に爽やかなライムが加わる。


聞き手は実際のセッションを通じ、どのように音が構造的に組み上げられていくのか、そして、シゲトのシャッフル・ビートを多用したスリリングなリズム構成が曲全体にどのような影響を及ぼしているのか、そのプロセスに触れることが出来ると思う。


「Strings」

 

 

これらの前半部の動的なエネルギーに満ちた展開を受けて訪れる3曲目「MFT」は一転して、チルアウトの雰囲気に充ちたムーディーなナンバーに移行する。


スピリチュアル・ジャズの要素を端々に散りばめ、メライン・チャールズのメロウで奥行きのあるボーカルは、時にはアフリカ民族音楽のようなエキゾチズムを交え、さらにアフロジャズ風のフルート、そして、それに対するディレイ/リバーブを組み合わせることで、最終的にミステリアスな楽曲として昇華される。特に、前二曲と比べると、チャールズの伸びやかなボーカルを堪能出来るが、時には、ニューエイジ風の精神世界を反映させたような異質な雰囲気に溢れている。


続く、「Bushido」はハイライトのひとつで、ニュージーランド出身の日系人であるMark de Clive-lowe(MdCL)のルーツを形成する一曲だ。


彼は、ヨナ抜き音階をシンセを通じてスケールを維持してフレーズを紡いでいく。和風なエキゾチズムは、スピリチュアル・ジャズの系譜にあるメラインのフルートとマーク・デ・クライヴ・ロウのオシレーターによるレトロかつアバンギャルドなリードシンセによって増幅される。前3曲に比べ、マークとチャールズのセッションの迫力がより鮮明となる。さらに静と動を兼ね備えたシゲトのパワフルなドラムがセッションをこの上なく刺激的なものにしている。特にトリオの持つアバンギャルド・ジャズのムードが最も力強く反映された一曲となっている。


インタリュードを引き継ぐ「Kanazawa」はもちろん言うまでもなく、日本の地名に因んでいる。アルバムの中で最もポピュラー要素が濃いナンバーであり、聞き手にやすらぎをもたらすこと請け合いだ。アルバムの前半部とは異なり、チャールズがセッションの主役となり、バックバンドを率いるかのような軽快さでリードする。ボーカルの合間に、チャールズはメロウなフルートを披露し、ポップなナンバーにアルバムのコンセプトであるリゾート地にいるようなリラックスした感覚を付与している。


さらに終盤に収録されているファラオ・サンダースのカバー「Love Is Everywhere」も沸き立つような雰囲気に満ち溢れたナンバーである。

 

フュージョン・ジャズ風のリズムに加え、ループ要素を込めたミニマルなフレーズとチャールズの快活なボーカルが劇的な融合を果たす。ジャズの巨匠ファラオ・サンダースが伝えようとした宇宙的な真実は、世界に平安をもたらすであろうことを証明している。また、ハスキーヴォイスを交え素晴らしいファルセットを披露するチャールズのボーカル、そして、マークのシンセの動的なエネルギーとシゲトのライブのような迫力を持つドラムの劇的な融合にも注目したい。

 

「Interlude(Degestivo)」は、5曲目の間奏曲の続きではなく、「The Creator Has A Master Plan」のテーマを変奏させたものと思われるが、それは別の意味が込められており、次の二曲目の連曲「The Creator Has A Master Plan Ⅱ」の呼び水ともなっている。


これらの構造的な性質を受け継いだ後の最終曲は、一曲目のスピリチュアルな雰囲気に回帰し、円環構造を形成する。この点は、実際に通しで聞いた時、サンダースの遺作の円環的な構造と彼の音楽的なテーマである神秘主義を思い起こさせ、全体に整合性があるような印象をもたらすはずだ。



84/100



Weekend Featured Track 「Kanazawa」


『Hotel San Claudio』はSoul Bank Musicより3月24日に発売。