「これらの曲は、8年以上も私の携帯電話に隠れていたものもある。私の家族、恋人たち、そして私自身について歌ったものです。リビングルームで一人でボイスメモアプリに録音したんだ。リラックスした感じが好き。これらの曲はマスタリングされたが、録音に編集は加えていない。私の芸術的なプロセスを垣間見ることができる親密な時間を楽しんで。ロザリー・ソレルズの'Up is a Nice Place to Be'とフェデリコ・ガルシア・ロルカの詩を歌詞にした'The Archers'以外はすべて私の曲です」
「私が死んだ後、私が持っているすべての愛を残せたらいいのに、と思う。そうすれば、私が作り出したすべての善意、すべての善良な愛を他の人々に輝かせることができるのだから・・・」彼女は、最新アルバム『The Land Is Inhospitable and So Are We』が、自分の死後もずっとその愛を照らし続けてくれることを願っている。このアルバムを聴くと、まさにそのように感じる。「この土地に取り憑いている愛のようだ。これは私にとって最もアメリカ的なアルバム」と、ミツキは7枚目のアルバムについて語っているが、その音楽は、私的な悲しみや痛ましい矛盾を抱えたアメリカなる国家を直視する深甚な行為であるかのように感じられる。
最新アルバム『The Land Is Inhospital and So Are We』を見るかぎり、上記の現代のライブにおけるマナーに関するコメントは、意外にも、重要な意味を帯びて来ることが分かる。ニューヨークの山間部に自生しているバラの名前にちなんだ前作アルバム『Laurel Hell』では、ライブを意識したダンス・ポップ/エレクトロ・ポップの音楽性を主体にしていたが、最新作では、驚くほど音楽性が様変わりしている。単体のアルバムとしてのクオリティーの高さを追求したことは勿論、ライブで静かに聴かせることを意識して制作された作品と定義付けられる。いわば多幸感や表向きの扇動性を徹底して削ぎ落として、純なるポピュラーミュージックの良さをとことん追求した作品である。これまで幾度も二人三脚で制作を行ってきたプロデューサー、そしてオーケストラとの合奏という形で録音された『The Land Is Inhospital and So Are W』は、厳密に言えばライブ・アルバムではないのだが、まるでスタジオで録音されたライヴ・レコーディングであるようなイメージに充ちている。すべての音は生きている。そして絶えず揺れ動いているのだ。
先行シングルとして公開された「Bug Like A Angel」のイントロは、アコースティック・ギターのコードにより始まる。しかし、その後に続くミツキのボーカルは、アンニュイなムードで歌われていて、そして、ソフトな印象をもたらす。そして、そのフレーズはゴスペル風のクワイアによって、印象深いものに変化する。まさにイントロから断続的に音楽がより深い領域へと徐々に入り込んでいく。ゴスペルのコーラスの箇所では華美な印象性をもたらす場合もあるが、メインボーカルは、一貫して落ち着いており、一切昂じるところはなく、徹底して素朴な感覚に浸されている。しかし、それにも関わらず、複数人のサブボーカルがメインボーカルの周りを取り巻くような形で歌われる、アフリカの民族音楽のグリオ(教会のゴスペルのルーツ)のスタイルを取り、曲の中盤から終わりにかけて、なだらかな旋律の起伏が設けられている。歌詞についても同様である。安直に感動させる言葉を避け、シンプルな言葉が紡がれるがゆえ、言葉の断片には人の心を揺さぶる何かが含まれている。この曲は、叙事詩的なアルバムの序章であるとともに、この数年間のシンガーソングライターとしての深化が留められている。
「Bug Like A Angel」
「Buffalo Replaced」ではアーティストのインディーロック・シンガーとしての意外な表情が伺える。表向きに歌われるフレーズはポピュラー音楽に属するが、一方、アコースティックギターのノイジーなプロダクションは、まるでグランジとポップの混合体であるように思える。そしてニヒリズムに根ざした感じのあるミツキのボーカルは、これらの重量感のあるギターラインとリズムにロック的な印象を付与している。ここには、不動のスターシンガーとみなされるようになろうとも、パンキッシュな魂を失うことのないアーティストの姿を垣間見ることが出来る。特にミニマルな構成を活かし、後半部では、スティーヴ・ライヒの『Music For 18 Musicians』の「Pulse」のパーカッシブな効果を活用し、独特なグルーヴを生み出す。これはモダンクラシカルとポップス、そしてインディーロックが画期的な融合を果たした瞬間でもある。
先日、頭にいきなり思い浮かんだ来た言葉があった。それは良いシンガーソングライターとはどういった存在であるのかについて、「生きて傷つきながらも、その傷ついた魂を剥き出しにしたまま走り続けるランナー」であるという考えだ。実際、それは誰にでも出来ることではないために、ことさら崇高な感覚を与える。そして、ギリシャ神話にも登場する女神とはかくなるものではないかとおもわせるものがある。「I Don't Like My Mind」は、まさにそういった形容がふさわしく、アーティストのμ'sのような性格がどの曲よりもわかりやすいかたちであらわれている。前の曲「Heaven」と同じように、カントリーを基調にした一曲であり、自己嫌悪が端的に歌われる。ペダル・スティールはアメリカの国土の雄大さと無限性を思わせる。そしてその嫌悪的な感覚の底には、わたしたちが見落としてしまいそうな得難いかたちの愛が潜んでいる。それはシンガーの力強いビブラート、つまり、すべての骨格を震わせて発せられる声のレガートが最大限に伸びた瞬間、自己嫌悪の裏に見えづらい形で隠れていた真の愛が発露する。愛とはひけらかすものではなく、いつもその裏側で、目に映らぬほどかすかに瞬くのだ。
「When Memories Snow」では、シンガーとしては珍しく、古典的なジャズ・ポップスに挑戦している。実際の年代は不明だが、これこそシナトラやピアフの時代への最大の敬愛が示された一曲である。ストリング、ホーン、ドラムとビック・バンド形式を取り、ミュージカルのような世界観を組み上げている。メロディーやリズムの親しみやすさはもちろん、ミツキのボーカルは稀にブロードウェイ・ミュージカルの舞台俳優のようにムードたっぷりに歌われることもあり、昨年、Father John Mistyが『Chloe and the Next 21th Century』で示したミュージカル調のポップスを踏襲している。
ミツキが今後、どのようなシンガーソングライターになっていくのか、それはわからないことだとしても、「My Love Mine All Mine」で、その青写真のようなものが示されているのではないか。ジャズの気風を反映したポップだが、この曲に溢れる甘美的な雰囲気は一体なんなのか。他のミツキの主要曲と同じように、中音域を波の満ち引きように行き来しながら、淡々とうたわれるバラード。もったいつけたようなメロディーの劇的な跳躍もなければ、リズムもシンプルで、音楽に詳しくない人にも、わかりやすく作られている。
この段階までで、すでに大名盤の要素が十分に示されているが、このアルバムの真の凄さは、むしろこの後に訪れるというのが率直な意見である。アルバムの序盤では封じていた印象もある憂鬱な印象を擁する「I'm Your Man」では、サッド・コアにも近いインディーズ・アーティストとしての一面を示す。これは大掛かりなしかけのある中で、そういったダイナミックな曲に共感を示すことができない人々への贈り物となっている。そして、この曲では、(前曲「Star」の三重県出身のアーティストが若い頃に影響を受けたという中島みゆきからの影響に加えて)次のクローズ曲とともに、日本の原初的な感覚が示される。それは、曲の後半で、犬の声のサンプリング、山を思わせる大地の息吹、そして虫の声、と多様な形を取って現れる。最初に聴いた時、曲調とそぐわない印象もあったが、二度目以降に聴いた時、最初の印象が面白いように覆された。おそらく日本的なフォークロアに対する親しみが示されているのではないか。
アルバムのクローズ「I Love Me After You」は、前作のシンセ・ポップ/ダンス・ポップの延長線上にあるトラックで、アーティストのナイチンゲールのような献身性が示されている。しかし、驚くべきことに、その表現性は、己が存在を披歴しようとしているわけではないにもかかわらず、弱くなりもしないし、曇ったものにもならない。いや、それどころか、歌手の奥ゆかしい神妙な表現性により、その存在感は他の曲よりもはるかに際立ち、輝かしく、迫力ある印象となっている。ぜひ、これらの叙事詩のような音楽がいかなる結末を迎えるのか、めいめいの感覚で体験してみていただきたい。そして、実際、この国土的な観念を集約した傑出したポピュラー・アルバムは、2023年度の代表的な作品と目されても何ら不思議はないのである。
100/100(Masterpiece)
「I Love Me After You」
Mitskiの新作アルバム『The Land Is Inhospital and So We Are」はDead Oceansより発売中です。日本国内では、Tower Record、HMV,Disc Unionにてご購入できます。
今週、金曜日に、スウェーデンのポップ・スターとイギリスのDJ/プロデューサーがタッグを組んだ「On My Love」は、無条件の愛で結ばれた大切な絆をテーマにしたクラブ向けのダンス・トラックで、この曲はザラ・ラーソンの妹であるハンナ・クリスティーナ・ラーソンをフィーチャーした絵のように美しいミュージック・ビデオとともに到着した。
ザラとゲッタは以前、2016年の「This One's for You」でコラボしており、この曲はフランスで開催されたUEFAユーロ2016の公式ソングである。
シカゴのシンガーソングライター/詩人、Jamila Woods(ジャミーラ・ウッズ)のニュー・アルバム『Water Made Us』のリリースまで残すところ1ヶ月となった。ジャミーラ・ウッズは「Tiny Garden」と 「Boomerang」に加えて、もうひとつの先行シングルを「Good News」を初公開した。この曲は、"The good news is we were happy once"(良い知らせは私たちはかつて幸せになったということだ)という意味が込められているとのこと。ニューシングルの試聴は以下から。
ジェミーラ・ウッズが説明するように、「このアルバムのタイトルは、歌詞の中にある "The good news is we were happy once / The good news is water always runs back where it came from / The good news is water made us "に由来している。「私にとっては、この曲は降伏の教訓であり、何度も何度も水から学ぶ教訓なのです」また、ジャミーラ・ウッズの現代詩は、どのような人生にも欠かさざる水をメタファーに配し、抽象的な概念を複数の視点から解きほぐそうとしている。
さて、『Hit Parade』は、ハンブルクとベルリンを経由して制作されたというが、その全般は個人的なスペースを重視して制作が行われた。DJ Kozeとのコラボレーションアルバムとロイシン・マーフィーは銘打っており、フロア・ミュージックの要素が強いダンス・ポップとして楽しめる。それらのダンサンブルなビートの中にソウルミュージックの要素も散りばめられていることもニンジャ・チューンらしいリリースだ。すでにクラブ・ビートの壮絶な嵐の予兆は、オープニング「What To Do」に顕著な形で見える。ここではネオ・ソウルとダンス・ポップを融合させ、アルバムをリードする。大人のダンス・ポップ/エレクトロ・ポップとしてこれ以上のオープニングはない。「CooCool」ではヒップホップの影響を交えて、スモーキーなソウルとしてアウトプットしている。その中にはディスコに対する憧憬も含まれている。ボーカル・ラインはジャクソンを思わせ、それがコーラスのヴィンテージ・ソウルの要素と劇的にマッチしている。
ロイシン・マーフィーは、このアルバムを通じて、様々な感情性を複雑な心の綾として織り交ぜようとしたと説明しているが、「Hurtz So Bad」ではハードコアなエレクトロに、ソウル/ファンクを融合させ、自らの傷ついた経験を歌おうとしている。クラブ・ミュージックに近いグルーヴィーなテンションが特徴のトラックであるが、マーフィーのボーカルから不思議と悲哀や哀愁が匂い立つ。UKベースラインのビートのトラックメイクも巧緻であることに疑いはないが、ロイシンの老獪なヴォーカルは、速めのBPMをバックに歌われているにも関わらず、スモーキーかつスロウなソウルの安定感がある。これらの渋さは、ひとりの人間としての人生経験が色濃く反映されているのだろうか。そこには社会性に対するニヒリズムも読み取ることが出来る。これらの感覚が合うかどうかは別として、ネオソウルとして見ると、聴き応え十分である。
「Spacetime」でのシュールなスニペットは続く「Crazy Ants Reprise」でも顕在である。ここでは真面目な性質とそれとは正反対にある戯けた性質という2つの局面がぎりぎりのところでせめぎ合っている。オートチューンを掛けたボーカルは、とりもなおさず、ロイシン・マーフィー、DJ Kozeのユニークな性質を表している。
1. Dreamer 2. Second Best 3. Haunted 4. Must Be Love 5. While You Were Sleeping 6. Lovesick 7. California and Me (feat. Philharmonia Orchestra) 8. Nocturne (Interlude) 9. Promise 10. From The Start 11. Misty 12. Serendipity 13. Letter To My 13 Year Old Self 14. Bewitched
アルバム『1989』は数え切れないほど私の人生を変えた。その私のバージョンが10月27日に発売されることを発表できて、興奮でいっぱいです」とスウィフトはツイッターに書いた。「正直言うと、この5曲のフロム・ザ・ヴォールトはクレイジーだから、今までで一番好きな再レコーディング。だって、『From The Vault』の5曲はとてもクレイジーだから。でも、長くはないよ!」
フジ・ロック 23'で来日公演を行ったウェイズ・ブラッド(Weyes Blood)は、昨年リリースされた最新あるバウ『And In The Darkness, Hearts Aglow』から「Hearts Aglow」の新しいビデオを公開した。サブ・ポップから発売された本作は、22年度のベスト・リストとしてもご紹介しています。
今週、月曜日にサプライズで発表された告知を受けて、シンガーソングライター、Mitski(ミツキ)が新作アルバムのリード・シングル 「Bug Like an Angel」をリリースした。
アルバムのリードシングル「Bug Like an Angel」は、ミツキの特徴的な歌声の下で、柔らかく鳴り響くギターがループする、スローで甘い曲で始まる。『BE THE COWBOY』以前の彼女を思い起こさせるように、この曲は脈打つようにコーラスが挿入され、瞑想的な曲にゴスペルのような深みのあるトーンを与えている。
ミツキは『The Land is Inhospitable』と『So Are We』の曲を、人生に深みを与える小さな瞬間から引き出しながら、何年もかけて一気呵成に書き上げたという。本作はボム・シェルターとサンセット・サウンド・スタジオでレコーディングされ、ドリュー・エリクソンが編曲・指揮したオーケストラに加え、ミツキが編曲した17人のフル・クワイアが参加。パトリック・ハイランドが共同でプロデュースし、モリコーネのスパゲッティ・ウエスタンのスコアからカーター・バーウェルの『ファーゴ』のサウンドトラックに到るまで、幅広いジャンルの音楽にインスピレーションを得ている。
『The Land Is Inhospitable and So Are We』は、Dead Oceansから9月15日にリリースされる予定だ。先行シングルとして「Bug Like An Angel」ミツキは本日、『Amateur
Mistake』と題したヨーロッパとイギリスでの一連のアコースティック・パフォーマンスを発表した。またミツキは、昨年のアルバム『Laurel
Hell』でビルボード・トップ・アルバム・チャートで初登場一位を獲得している。このアルバムはその週のベスト・アルバムとしてご紹介しています。
「Star」
「Heaven」
Mitski Tour Date:
10月7日(土) - スコットランド、エディンバラ - クイーンズ・ホール
10月9日(月) - イギリス、マンチェスター - アルバート・ホール
10月11日(水) - イギリス、ロンドン - ユニオン・チャペル
10月14日(土) - ドイツ、ベルリン - バビロン
10月16日(月) - オランダ、ユトレヒト - Tivoli / Vredenburg
10月20日(金) - フランス、パリ - ル・トリアノン
Mitski 『The Land Is Inhospitable and So Are We』
Label: Dead Oceans
Release: 2023/9/15
Tracklist:
1. Bug Like an Angel
2. Buffalo Replaced
3. Heaven
4. I Don’t Like My Mind
5. The Deal
6. When Memories Snow
7. My Love Mine All Mine 8. The Frost
Best Coastのメンバーとしても知られるBethany Cosentino(ベサニー・コセンティーノ)が、近日リリース予定のソロ・アルバムの4thシングル「Natural Disaster」を公開した。「For A Moment」、「Easy」、「It's Fine」がプレビューとして先行公開されている。アルバムは7月28日にConcordRecordsより発売される。